Act4‐16 新参者まで抜かれてたまるものですか!(Byアルトリア
本日五話目です。
今年ももう八時間を切りましたね。
サブタイの時点で、どうなるのかがおわかりになるかと←笑
二人っきりの家族風呂。
俺はプーレに抱き着かれながら、抱いてほしいと頼まれてしまっている。……うん、改めて考えてみると意味がわからないね。
どうして俺みたいなちんちくりんに抱かれたがるのかがよくわからん。でもそれを言ってもプーレはアルトリアみたく言い訳は聞きたくないです、とか言うんだろうね。言い訳じゃなく、本当に意味がわかっていないだけなんだけど、たぶんプーレは聞いてくれないだろうなぁ。
というか、その、いまのプーレってば裸なわけです。俺はバスタオルを巻かせてもらっている。こう見えて結構体が傷だらけだからね。あんまり傷だらけな体は、プーレには刺激が強すぎるかなと思ったのだけど、いまはバスタオルを巻いといてよかったと本気で思うね。
なにせバスタオルのおかげでプーレと素肌で密着せずにいられているもの。これがもしバスタオルもなしだったら、たぶん理性が飛んでいたと思う。
具体的には手を出していたと思う。もっと言えばプーレを抱いていたと思う。レアを抱いてからかな。どうにも歯止めが時折利かなくなりそうなことが多いんだ。
抱くのは希望だけでいいと思っているくせに、こうして抱き着いてくるプーレのぬくもりを感じていると、無性に欲しくなってしまう。プーレ自身を抱きたいと思ってしまうんだ。
その感情はまさに荒れ狂う濁流みたいで、理性という堤防を一瞬で飲み込んでしまう。それでもいまはまだ自分を抑えこんでいられている。
けれどこのままずっと抑え込むことはできそうにはない。というかしたくない。プーレの涙に濡れた瞳を見ていると、この瞳をとろとろに溶かしてやりたいって思ってしまうんだ。湯とは違う火照りで、のぼせさせてあげたいって思ってしまう。自分でも信じられないくらいに凶暴な感情が俺を包み込んでいく。
「……意味をわかって言っている?」
腕の中にいるプーレを見つめる。プーレは体をびくりと震わせていた。怖いとは思うよ。むしろ怖がって当然だ。
でもそんなプーレの姿でさえも、いまの俺にはスパイスみたいなものだ。プーレという「女」を彩る極上のスパイスでしかない。
「聞いている?」
顎をくいっと上げて、じっとプーレの目を見つめる。プーレは恥ずかしそうに顔を背けた。無理もない仕草ではあるけれど、許す気はない。
「顔を逸らしていいって言った?」
壁があれば壁ドンになったのかな。とにかく壁ドンの要領で俺はプーレを浴槽の縁においやった。プーレの頬に赤みがさす。
「俺はいつプーレに顔を逸らしていいって言ったかって聞いているんだよ?」
すっと目を細めながらプーレを見つめる。プーレは、なにか言おうと口を開くもすぐに閉ざしてしまう。自分でもなにを言えばいいのかがわからないみたいだ。無理もないかな。俺も自分でなにを言っているのかさっぱりわからないもの。
というか、なにこのドエスキャラ? だからと言ってドエムキャラってわけでもないのだけど、この攻め攻めな姿勢はどうかとカレンちゃんは思うわけなんですが。
「答えて、プーレ」
「……はい、プーレは勝手なことをしてしまったのです」
「勝手なこと?」
「はい。「旦那さま」から質問されているのに、答えることなく顔を逸らしました。それはとても悪いことだとプーレは思うのです」
「へぇ? じゃあプーレは悪い子ってことかな?」
「は、はいなのです」
「そんな悪い子がシリウスの「まま」にふさわしいと思う?」
「そ、それは」
プーレが口ごもってしまう。まずいなぁ。口ごもる姿さえもかわいらしく感じられてしまう。というか我慢するのが難しくなってきたよ。
「悪い子にはオシオキが必要だよね?」
にやりと口元を歪めて笑い掛ける。なに言っているの、俺って思ったけれど、プーレがなにやら期待のこもったまなざしを向けてくださっています。ちょ、ちょっと待って! ウェイト! ウェイトですよ、俺!? なにをやらかそうとしていますか!?
いやわかるよ? わかるけれど、そればっかりはダメでしょうに! プーレには惚れられているっぽいですけどね!? それでもこんな場所でプーレを抱くとかダメでしょう!? せ、せめてベッドか布団にですね。
「……プーレは悪い子ですから。「旦那さま」のお気の召すままに」
ちょっと、プーレさん!? あなたもなにを言っていますか!? もう本当に待とうよ! というか俺の理性ぶっ飛びすぎでしょうに!? 普段の俺からは想像もできないおバカなことを抜かしているんですけど!?
これもぜんぶプーレがかわいすぎるからいけないと思うんだよね! 腕の中で震える姿とか子犬かって言いたくなるもんよ!
同じ嫁でもすぐに噛みついてくる、カミツキガメみたいなアルトリアとは雲泥の差ですね。アルトリアもさ、プーレみたいにもうちょっとかわいげがですね。
「へぇ。じゃあ、この場で抱いてもいいのかな?」
くすくすと笑いながら、プーレに顔を近づける。プーレは「あ」とか細い声をあげると、ゆっくりとまぶたを下していく。あー、これはダメだ。うん、我慢できそうにないね。というか、プーレがめちゃくちゃかわいすぎて理性的にヤバい。
「声、出さないようにな」
「はい」
プーレが静かに頷いた。そんなプーレの唇を奪おうと──。
「なぁにをしているのかなぁ~?」
したところで背筋がぞくりと震えあがりました。振り返るとそこには血の瞳を浮かべるアルトリアが立っていました。
「あ、アルトリア。なんで」
「なんでだろうねぇ~?」
くすくすと笑うアルトリア。その足取りはまさに幽鬼のようで、めちゃくちゃコワイデス。
「ノゾミ、お師匠さまの次は新参者ねぇ~。順番がおかしいよねぇ~? そこはさぁ、正妻である私に真っ先にすることであって、正妻の私を無視するのはどうかと思うんだよねぇ~」
「ま、待って! これは違う! 話を聞いてほしい! 相互理解は大切だと思うんだよ! だから少し、そう、ほんの少しでいいから話を」
「問答無用だよぉ~?」
「デスヨネェ~」
わかっていたよ。わかっていましたよ。アルトリアが話を聞いてくれないであろうことはさ! それでも少しは。そう少しくらいは夢を見させてください!
そんな俺の願いとは裏腹にアルトリアは叫んだ。
「「旦那さま」の浮気者ぉぉぉーっ!」
叫びながら突貫してくるアルトリア。そんなアルトリアに俺は喚くことしかできなかった。あー、せっかくの風呂が血の池地獄みたいに。そう思っていた。が──。
「アルトリアさん!」
不意にプーレが立ち上がった。そして俺とアルトリアの間に立ちはだかった。
「新参者がぁ。なにかなぁ?」
「いまは私と「旦那さま」の時間なのです。邪魔をしないでください」
「あ?」
アルトリアのこめかみに青筋が追加される。あ、あのプーレさん? あまりアルトリアを挑発するのは──。
「「旦那さま」は黙っていてくださいなのです!」
「……はい、ごめんなさい」
振り返ったらプーレのこめかみにも青筋が浮かんでおります。どうやらプーレも頭に来ているみたいだね。というかさっきまでの受け受しい姿とは別人なんですけど!?
「新参者風情が、「旦那さま」に命令するとか、何様のつもりかなぁ~?」
アルトリアのこめかみに青筋が再び追加される。そんなアルトリアに向かってプーレは言った。
「「旦那さま」のお嫁様ですが?」
「あ? なに言っているの、おまえ?」
「それはこっちのセリフですが?」
言葉と言葉のキャッチボール。会話というものは通常そう言われるものだ。けれどこのふたりの会話はキャッチボールではなく──。
「ねぇ、身の程知らずの新参者ぉ」
「なんですか? 先輩気取りさん」
「おまえさぁ。私にケンカを売っているよねぇ?」
「ええ、もちろん。「旦那さま」に抱いていただけそうになったのを邪魔されたのですから、当然でしょうに」
「あ? おまえなんかを「旦那さま」が抱くわけがないでしょうに」
「あなたが来なければ、抱いていただけていましたよ? あーあ、もうちょっと遅かったら証拠が見せられたんですけどねぇ?」
「調子に乗るなよぉ? 新参者!」
「黙りなさい、先輩気取り!」
アルトリアとプーレの場合は、まさしくノーガードでの殴り合いだった。お互いに顔が怖いデス。
「……うちの嫁ってなんで怒るとみんなこんなに怖いんだ」
怒ったら誰もが怖いけどさ。怖いけどさ!? それでも限度があるとカレンちゃんは思うんですけど!?
「私の方が胸は大きいんだぞぉ!?」
「ちょっとくらいの差で威張らないでください!」
「ちょっとじゃない! たくさんだぁ!」
「たくさんっていうのは、レアさまやノゾミさんの胸のことを言うんですよぉ!」
ふたりは言い争っていた。でもその内容は小学生の喧嘩みたいだった。歳が近すぎるからこそ、こうなっているのかもしれないね。
「正妻である私に口答えをするなぁ!」
「正妻は、ノゾミさんかレアさまでしょう! すぐばれる嘘をつくのはみっともないですよ!」
「嘘じゃないもん! 本当のことだもの!」
ふたりの言い争いは止めらない。止まることのないやり取りを眺めつつ、俺は家族風呂にひとり浸かり続けることしかできずにいた。結局ふたりの言い争いが終わったのは、希望とシリウスが戻ってきたからだった。
続きは二十時になります。
今年ももう終わりですねぇ~←しみじみ




