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Act4-13 裸の付き合い

 本日二話目です。

 

「こちらが皆様にお泊りいただくお部屋になります」


 女将さんみずから案内してくれたのは、かなり大きな部屋だった。


「円空の間」と書かれていたけれど、どうやら一部屋ではなく、ちゃんと個人個人の部屋があるみたいだった。


 えっと、これどう考えてもお高い部屋ですよね? 宿泊代って必要経費として落とせないかな? 無理だろうなぁ。


「わぅ! 広いの!」


 シリウスはぴこぴこと耳を動かしながら、尻尾をいつものようにフルスロットルで振っている。


 最近尻尾にリボンを結うようになったので、当然尻尾をフルスロットルすれば、リボンもまたパタパタと動いていく。それさえもかわいらしいのだから。まったく娘は最高だぜ!


「「クロノス」みたいに広いですねぇ」


 アルトリアはちょっと顔を引きつらせていた。


 あー、たぶん頭の中で宿泊代の見積もりを出しているんだろうね。


 うん、気持ちはわかる。実際俺も見積もりを出そうとして、途中でやめた。


 どう考えても金貨十枚程度じゃすまないよね、ここ。


「あ、ここにも簡易キッチンがあるね。女将さん、ここって自分たちで料理を?」


「はい。ご希望であれば、食材をお分けいたしますよ。できましたら、当館自慢の料理に舌鼓を打っていただきたいですが、そこはまぁお客様のご事情もありますので」


 希望が目を輝かせながら尋ねると、女将さんは苦笑いしていた。どうやら希望がとんでもなく調理好きだというのが、いまの会話だけでもわかったみたいだね。


「なるほど。じゃあ、そうだな。明日の朝は私が作りたいです」


「畏まりました。では、ご要望の食材がございましたら、夕食の際にお申し付けいただければ、明日の朝にお届けいたしますので」


「ありがとうございます。あ、そうだ。なら女将さんも一緒に食べません?」


「お言葉はありがたいのですが、手前などがお招きいただくわけには」


「そうですか、残念だなぁ」


「ふふふ、次に機会がございましたら、そのときにでも」


「そうですね。そのときには、ぜひ」


「ええ、お招きいただきますね」


 ニコニコと笑いながら女将さんは社交辞令を言っている。


 でもやっちまったね。うちの嫁にそんなことを言ったら、それはもう社交辞令にはならないのよね。


 希望のことだから次は確実に女将さんの分まで用意するだろうね。


 女将さんもまさか本気にするとは思っていないだろうけどね。そこはまぁ運が悪かったと思っていただくしかないですかね。


「ちなみにお外に例のお風呂がございますよ? 「あれ」はそちらの棚の二番目にございますので、ご自由にお使いくださいませ」


 にやりと笑って女将さんが耳打ちをしてくれる。だからね。俺には物体Xはないのよ! 「あれ」を使うことなんてございません!


 どうしてみんな俺が旦那だと知ると、すぐに物体Xを俺に装着させたがるんですかね!? 意味が分からないよ!


「使わないので」


「エチケットは大事でございますよ?」


 女将さんは真顔で言ってくれました。うん、エチケットは大事ですね? でもね? 俺にはそれはついていないの! あと何度言えばみんなわかってくれますかね!? 本当に誰か教えてよ!


「当館自慢の露天風呂はお部屋を出て、あちらの廊下を曲がっていただければありますので。ではではごゆっくり」


 女将さんは部屋の外に出ると、手をつきお辞儀をして立ち去って行った。まるで嵐が去って行った気分だね。


「よし、それじゃ行くよ、シリウスちゃん」


「わぅわぅ! りょーかいなの、ノゾミまま!」


 希望がシリウスを抱きかかえると、シリウスは敬礼をしていた。


 うん、どっちもかわいいね。たださ、どっちも顔に温泉とでかでかと書くのはやめていただけませんかね? どこまで温泉好きなのよ、ふたりとも。


「ふむ。ではアルトリアちゃん、私たちも行きましょうか。どうやらここは露天風呂だけではなく、美肌の湯もあるようですので」


「それはたっぷりと浸からないとダメですね、お師匠様」


 レアもアルトリアと一緒に温泉に行くみたいだね。


 ただ希望とシリウスとはまた別の温泉に浸かりに行くみたいだ。


 たださ、レアもアルトリアもきれいな肌をしているんだから、別に美肌とか気にしなくてもいいんじゃねと俺は思うんだけど。


「ええ。きれいになった体で、ちらり」


 レアが熱視線を俺に向けてくれる。いや、たしかに。たしかにレアとはそういう関係ですよ? 


 でもなにも今日も寝ようとは。あー、ダメだ。あの目は「今夜はたっぷりとかわいがってください」という目だよ。


 できたら希望とそういうことをしたいんですけど。って言っても無駄だろうなぁ。


「む。お師匠様。今日は私が旦那さまにご賞味いただくのです。そう、今日こそは! 今日こそは正妻たるゆえんを!」


 レアと同じように熱視線を送ってくれるアルトリア。ただレアとは違い、実際に目が燃えているね。めらめらと燃える炎がはっきりと見えます。


「ダメよ? 今日は私が旦那さまにかわいがっていただくの。その際、たっぷりと「旦那さま」の子種を受けとめて──」


「それは私の役目だと」


「黙りなさい、生娘ちゃん。あなたでは、「旦那さま」を満足させることは適いませんよ?」


「そ、そんなことはやってみなければわからないでしょう!?」


「いいえ? わかりますよ。あなたでは「旦那さま」を満足させるまえに、ひとりで勝手に」


「そ、そんなことありません! 必ずや「旦那さま」にご満足を!」


「生娘風情が言うじゃないですか。ですが、そんな大口を叩くのは、「旦那さま」に夜伽の相手をしろと言われてからになさいね? ふふふ」


 余裕たっぷりに笑うレア。そんなレアに悔しそうに歯ぎしりをするアルトリア。


 シリウスの教育に悪いことを言うのは本当にやめていただきたいです。言っても無駄だろうけどね!?


「こ、こうなれば、お師匠様以上の美肌になり、「旦那さま」の御心を奪うのみです! となれば早速」


「では、お先にアルトリアちゃん」


「あ、あー!? ずるいですよ、お師匠様ぁ! ま、待って。待ってくださーい!」


 アルトリアが決意を新たにしている間にレアがそそくさと部屋を出て行く。


 アルトリアが慌ててレアの後を追いかけていく。廊下は走っちゃいけないはずなのだけど、って言っても無駄かね。


「それじゃ私たちも行ってくるね、香恋」


「ぱぱ上、また後でね!」


 希望もシリウスを連れて、露天風呂へと向かってしまう。


 レアたちとは違い、こっちはとても穏やかに部屋を出て行く。


 ただ温泉、温泉と口ずさむのはいかがなものかと思いますけどね? かわいいからいいけどね。


 そうしてあっという間に四人がいなくなり、残るのは俺とプーレだけになった。


 奇しくもみんなそれぞれに温泉に浸かりに行ってしまっている。


 こうなると俺も温泉に浸かりに行くべきなんだろうけれど──。


「プーレはどうする?」


「わ、私はみなさんが帰ってからで」


「却下」


「え?」


「ちょうど三組に分かれる形になっているんだからさ、プーレは俺と一緒の組ね。とはいえ、みんなが一気にいなくなっちゃっているからなぁ。とりあえず外にあるっていう家族風呂に入ろうよ」


「え、え? だ、「旦那さま」とですか!?」


「嫌なのか?」


「い、嫌じゃありません! ただ、その、私はみなさんとは違ってきれいでもないし、スタイルもそんなには」


「そんなのは気にしていないよ。プーレにはプーレなりの良さがあるよ。具体的にはまだわからないけれど。でもそういうのは裸の付き合いをしてわかると思うんだ」


「は、裸」


 プーレの顏が真っ赤に染まる。


 あー、言い方を間違えたかな? でも間違ってはいないんだよね。


 一緒に風呂に入るってことはお互いに裸になるってことだもの。


 ……プーレは少し勘違いしているみたいだけど。


 これもすべてはレアとアルトリアのせいだね。まったくあの色ボケ嫁たちは。


 まぁ、そういうところも好ましいと感じている時点で俺も人のことをとやかく言える筋合いではないんですけどね?


「とにかく、一緒に風呂入ってくれないか?」


 プーレをじっと見つめて言うと、プーレはいくらか悩んだ後、わかりましたと小声で頷いてくれた。

 プーレとお風呂にはいることになりました。

 続きは八時になります。

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