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Act4-11 天空○○

 本日六話目です。

 希望たちが思い思いの買い物を終え、ようやく今日の宿泊する宿へと向かった。


 なんでもプライドさんがオススメする温泉旅館なんだそうで、わりと穴場になっているらしい。


 いわゆる「知る人ぞ知る」っていう旅館になっていて、観光客や旅人さんたちでも、この街をよく知っている人以外は泊まらない宿だそうだ。


「おかげでいつも空いていてな。早い時間にチェックインできれば、夕食を堪能できるのさ。いまであれば、間違いなく夕食付だな」


 がはははとプライドさんは笑っていた。


 豪快に笑いながらも、その表情は実に楽しそうだ。


 宿の夕食を思い浮かべているのか、それとも温泉に入るのが楽しみなのかは判断がつかないけれど、プライドさんなりに楽しもうとしているのがよくわかる。俺自身温泉も料理も楽しみだ。


「プライドさん、プライドさん」


「ん?」


「夕食に肉は?」


 そう、それが一番大事だ。俺が肉と言うと、隣で希望がため息を吐いた。本当にお肉ばっかりと頭を抱えている。が希望と手を繋いでいるシリウスは目をきらきらと輝かせている。うむうむ、シリウスは話がわかるね。やっぱり食事は肉ですよ、肉! 希望はそのことがわかっていないのです!


「ふふふ、出るに決まっているだろうに。なにせその宿は「鬼の王国」名産であるウープを、しかも極上のウープのみを仕入れているんだ。そんじょそこらの旅館で出るウープとはものが違う」


「ウープって?」


「うん? ああ、嬢ちゃんは知らないのか。そうだな。こめかみあたりから横ににょきっと出た角と全身をもこもことした毛皮で覆った魔物だな。ただずいぶんと大人しい魔物でな。本当に魔物と言っていいのかわからんくらいに温厚なんだ。魔物っていうのは基本的に他者には攻撃的になるものなんだが、ウープは例外的に他者を襲うことはしない。それどころか人と共存共栄する道を選んだ唯一の魔物と言われている」


「角にもこもことした毛皮」


「羊みたいだね」


「うん」


 俺と希望はそれぞれに同じ生物、いや羊を思い浮かべていた。


 こめかみあたりから横ににょきっと出た角はともかくとして、もこもことした毛皮で全身を覆っていると言うのは、どう考えも羊の特徴だった。


 それでいて温厚と来れば、羊しか思い浮かばないよ。かわいい羊さんが飛び跳ねている光景が俺の脳裏に浮かび上がる。希望も同じものを──。


「羊かぁ。調理したことないなぁ」


 ……訂正します。この根っからの料理人にはそんなかわいらしい光景なんざ考えておりませんね。すでに食材というイメージしか持っていないよ!


「わぅわぅ、プライドさん」


「うん? なんだ小さい嬢ちゃん?」


「ウープって美味しいの?」


「そうだなぁ。好き嫌いはあって当然だが、好きな人には堪らなく美味く感じられるな。少なくとも俺様は好きだぜ。マモンのところに行くとごちそうしてくれるので、たらふく食べている」


「マモン?」


「おう、俺と同じ「七王」のひとりさ。詳しいことはレアママに聞くといい」


「わぅ、ありがとう」


「いやいや気にするな」


 プライドさんは穏やかに笑いながら、シリウスの頭を撫でている。意外なことにシリウスを撫でる手つきはとても優しいものだった。


 プライドさんって子供好きなのかな? シリウスに話しかけられるたびに、屈んで目線をできるだけ合わせるようにしてくれているし。


 それでもプライドさんの方が圧倒的に背が高いんだけどね。


 でも、屈んだことでだいぶ身長差が埋まったからなのかな、威圧感が和らいでいる。意識的に笑っているというのもあるのだろうけれど、いつもの豪快な笑い方とは違い、その笑顔はとても優しかった。


「プライドさん、プライドさん」


「うん?」


「かたぐるま!」


 シリウスってば、なんておねだりを! いくら優しい人でもこの国の王様ですよ!?


 希望とアルトリアが慌てて、わかままを言わないのと言い含めている。


 でも、シリウスは「や」の一点張りです。どうしてもプライドさんに肩車をしてほしいみたいだね。


 だけど、プライドさんはなにも言わずに立ち上がると、シリウスに向かって腕を伸ばしていく。


 その行動にただならぬものを感じたのか、アルトリアがいままで以上に慌てて──。


「も、申し訳ありません、獅子王陛下! 娘の不手際は私の身ひとつでどうか!」


 泣きながらプライドさんにすがりついた。


 だけど、プライドさんはアルトリアの言葉に答えず、シリウスに腕を伸ばし、そして──。


「ほら、小さい嬢ちゃん」


「わぅ?」


「よしよし、では行くぞ、それ!」


 でも、プライドさんの手を掴んだシリウスを上空に向かって、投げ飛ばした──って、あんた! 人の娘になにをしてっ!?


「い、嫌ぁぁぁ! シリウスちゃん!」


 アルトリアが泣き叫びながら、シリウスに向かって駆けようとした。がそれよりも早くプライドさんがシリウスの真下に移動して──。


「うむ! どうだ、小さい嬢ちゃん! これぞ「獅子の王国」流天空肩車だ!」


 ──なんてことを大声で言い放ちながら、上空に投げ飛ばしたシリウスを見事に肩でキャッチしてくれました。


 ……えっとカレンちゃん、ちょっと意味がわからない。


 泣き叫んでいたアルトリアがポカーンとしている。


 というか、レア以外の全員がポカーンとしているね。


 レアだけは笑っている。笑いながらこめかみに青筋を浮かべている。


「がははは、どうだった、小さい嬢ちゃん?」


「わぅわぅ! お空の上、すごくきれいだったの! いつもはゴンさんの背中に乗らないと無理なのに、いまはわたしひとりでお空の上にいたの!」


「おぉ、そうか、そうか! そいつはよかったな! 小さい嬢ちゃんは、立派な戦士になれるぞ! なにせ、泣かなかったからな!」


「そーなの?」


「おぅ! 獅子王さまのお墨付きだ!」


 がははは、と笑うプライドさん。シリウスも嬉しそうなのだけど──。


「プライドさん?」


「なんだ?」


「説明プリーズ」


 状況をまるで理解できない。そもそもなぜにシリウスを投げ飛ばしたのかがよくわからん。


 なにか不穏な単語を言っていた気がするけれど、きっと気のせいだよね?


「獅子の王国」流だかなんだか言っていたけれど、気のせいだよね?


「獅子の王国」では、あれがスタンダードな肩車だとか嘘でしょう?


 あれじゃあ、ただの虐待だよ! 下手したら子供が死ぬわ! 死ななくても、トラウマ負うわ! シリウスが精神的にタフだからいいものの、普通は泣き叫ぶっての!


 しかも泣き叫ばなかったことを誉めるとかあり得ないでしょうに! なんなん? 「獅子の王国」って修羅の国かなにかなの?


「説明が必要か? 見ればわかるだろうに」


「わからないから聞いているのですよ!?」


「そうか。意外と察しが悪いな、嬢ちゃんは」


 不思議そうにプライドさんは言う。まるであたりまえのことを理解されないと言っているみたいだね。


 でもね? 理解してもらえていないのは、俺の方だよ!


「あれは天空肩車と言ってな。子供の適正を見分けるためにやるのさ。泣き叫ぶ子は文官向き。小さい嬢ちゃんみたく笑っている子は戦士向きという具合でな。その子が将来戦士と文官のどちらに向いているのかを調べるためにだな」


「なにそのスパルタ教育」


 獅子は千尋の谷に我が子を突き落とすというけれど、この国では天空高く投げ飛ばすのかよ。


 なに、この国。訳がわからないよ。


「その点、小さい嬢ちゃんは戦士向きだぞ。さすがは嬢ちゃんの娘だな!」


 がははは、とシリウスに肩車をしながら豪快に笑うプライドさん。そんなプライドさんの真似をしているのか、シリウスもがははは、と笑っている。


 やめなさい、シリウス。そのおじさんの真似だけはやめなさい!


 でも、そんな俺の祈りも届かず、シリウスはプライドさんの肩に乗りながらがははは、と笑っている。プライドさんも期限良さそうに笑っていた。


「うむ。では次はどの程度の戦士になれるのかを試す、超高速天空肩車を」


「わぅ! ドンと来いなの!」


「やめてぇ!?」


 アルトリアだけではなく、希望と俺、そしてプーレまでもが叫んでいた。そりゃあかわいい娘の適性を知るのは大事だけど、そんなスパルタなやり方で調べる適性なんて知りたくないよ!


 しかし俺たちの願いはまるっと無視されて、結局シリウスは超高速天空肩車どころか、最終試練である超高速超回転天空肩車捻りプラスを受けた。


 シリウスはすべての試練で嬉しそうに笑っていた。その結果シリウスは超一流の戦士になれるというプライドさんのお墨付きをいただくことになったんだ。

 ○○の中に入るのは肩車でした。

 二日目の更新はこれにて終了です。

 続きは今夜十二時の三日目です。

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