Act4-10 真っ先にすることは?
本日五話目です。
観光地に来て真っ先にすることと言えば、ですね。
ベルジュの街にはすんなりと入ることができた。
本来街に入るには、それなりの手続きが必要なのだけど、今回は完全にスルーとなっていた。なんでかって? プライドさんがいるからに決まっているじゃないですか。
なにせこの国の王さまだよ? しかもレアのように町娘風に変装もせず、王としての貫禄を見せつけているもの。そんなプライドさんだからなのかな。街に入るのに別の意味でちょっぴり苦労したよ。
「おや、獅子王陛下。別嬪さんばかり連れて、いかがなさりましたかな?」
そう言ったのは検閲に並んでいた商人さんのひとりだ。きちんと敬語ではあるのだけど、明らかに馴れ馴れしすぎる。普通国王に向かってそんなことをすれば鞭打ちで済めば御の字なのだけど──。
「バァカ、勘違いするんじゃない。全員こっちの嬢ちゃんの嫁さんだよ。あとちっこい子は娘さんだな」
「おや、そうですか。ようやく陛下にも春が訪れたと思ったのですが」
「なにを抜かしやがる。結婚は人生の墓場だと言ったのはどこのどいつだ?」
「そう言われると反論できませんな。なにせ事実墓場ですゆえ。いくら稼いでも、女房に渡して小遣いをくれるという程度ですからなぁ」
やれやれと肩を竦めながら商人さんが笑っていた。そんな商人さんの言葉に周りで並んでいた人も口々に笑っていた。
「だから俺様は一生結婚をしないと決めている! 女を抱きたくなれば遊妓でも呼べばすむからな」
がはははとプライドさんが豪快に笑っている。そんなプライドさんの笑い声に皆さん苦笑していた。
「やれやれ、それではガイアスさまが草葉の陰で泣かれておるでしょうなぁ」
「たしかにガイアスさまのお言葉であれば、陛下もお聞きになるでしょうに」
「その当のガイアスさまも。おいたわしいですなぁ」
みなさんは口々に「ガイアス」という人の名前を口にしている。どうやらプライドさんを諫められる立場の人であったみたいだけど、口調からしてもうお亡くなりになっているようだ。
「バカ野郎、俺に女遊びを教えたのは、ほかならぬガイアス爺だぞ? あの爺さんのおかげでだな」
「ですが、その分独身貴族を楽しんでおられるではないですか?」
「む。それはそうだが」
「ならばガイアスさまを悪く言われるのは筋違いではないですかな?」
「悪口を言ったつもりはないぞ? ただ事実をだな」
「ならば我らも事実を言ったまでのことですぞ、陛下」
プライドさんに言いたいことを言ってみなさんは笑っている。そんなみなさんにプライドさんもたじだじのようだ。
なんて言うのかな。王さまとその国民ではなく、このあたり一帯を収めている親分さんと住人の皆さんって言えばいいのかな?
それだけプライドさんが王さまとしては気さくすぎる人ってことなのかもしれないね。
レアも気さくに接してはいたけれど、あくまでも蛇王エンヴィーとしてではなく、レアとしてだったからね。
でもプライドさんは「獅子王プライド」のままで接している。そういうところもこの人は豪快だね。
まるで暗殺とかは気にしていないと言っているみたいなものだもの。それどころか、暗殺したければして来いと言っているみたいに感じられるね。
ただ暗殺をしかけたところで、この人を暗殺できる暗殺者とか存在するのかな? どう考えても無理な気がしてならないんだけど。
「ったく、おまえらなぁ。少しは俺様を敬うってことを知らんのか? こう見えても俺様はだな」
「知っておりますぞ、「獅子王プライド」陛下でしょうに」
「知っているなら、少しは敬えよ!?」
「敬っているではないですか」
「どこがだ!」
プライドさんが叫ぶと堰を切ったように誰もが笑いだす。
それは検閲を担当していた兵士さんたちも同じだった。
なんというか、プライドさんってば愛されているね。
レアも意外と無茶をやらかしていたけれど、それでも国民に愛されていたし、レアもまた国民を愛している。
プライドさんもレアと同じなんだろうね。
国を愛し、その国に住まう民を愛する。その愛ゆえに国からも、民からも愛される王。エルヴァニア王とは雲泥の差だね。
でもそんなプライドさんに反旗を翻しているんだよな、「蒼炎の獅子」は。そもそもなんでプライドさんに反旗を翻すなんてことをしているんだろう?
プライドさんがよっぽど悪いことをしていて、生きるか死ぬかの瀬戸際に常に立たされている生活を送るのを余儀なくされているというのであれば、まだ理解できるんだ。
でもプライドさんはそういうことをするタイプには見えないんだよなぁ。むしろ民がそんな生活を余儀なくしているのを見たら、私財を投げ売ってでも、民を救おうとしそうなタイプだもの。
そんなプライドさんになんで反旗を翻そうとしたんだろう? 「蒼獅」とかいう爺さんは。その辺の裏がわかれば、この国を二分化するかもしれない反乱を鎮圧できそうな気がするんだけどなぁ。
「とにかく、客人がいるんだ。おまえらの相手をしている暇はねえんだよ!」
「はいはい、わかっておりますよ」
「くっそ。絶対にわかっていないな、おまえら!?」
プライドさんが悔し気に表情を歪ませるけれど、みなさんおかしそうに笑っているだけだった。
プライドさんはふんと鼻息を鳴らすと足を踏み鳴らして街の中に入って行った。プライドさんの後を追いかけるようにして、俺たちも街中に入って行った。
ベルジュの街の中はなんというか、和風テイストだった。
というか、東洋チックな街中と言えばいいのかな?
至るところに温泉旅館があり、旅館の前には和服にちょっと中華風なテイストを取り入れた服を身に着けた人たちが客引きを行っている。
目当ては旅人や観光客だ。なにせ道行く人の半数近くがベルジュの街の住人とは明らかに違う服装をしているもの。そのおかげでかえって判別がつきやすくなっていた。
「さぁさぁ、うちの旅館は自慢の露天風呂だよ! 日帰り入浴でもいいよ! 入浴料はひとりたったの銀貨一枚だ!」
「そこいく旦那さん、うちの旅館はどうでしょう? 当旅館は「鬼の王国」名産ウープのフルコースが食べられますよ?」
「なにを言ってやがる! 料理も風呂もよくて当然だろうが。その点、うちの旅館の目玉は朝日を望める絶景さ! 部屋の中で日の出を拝めるのはベルジュの街広しと言えど、うちの旅館だけだよ!」
客引きさんたちがそれぞれの旅館を道行く旅人にアピールしている。
いわばアピール合戦がどこの旅館でも行われている。
中にはそれぞれの旅館を罵倒する声も聞こえて来るけれど、それも踏まえて活気のある街のようだ。
「うわぁ。すごいですね」
「ふふふ、そうだろう、そうだろう。「獅子の王国」でもベルジュの街ほど活気のある街はそうそうないからな。その分いろいろと面倒事も起こりやすい街だが、俺様は嫌いじゃない」
ベルジュの街を眺めつつ、プライドさんはどこか楽しそうに笑っている。遊園地に来た子供みたいに、雰囲気から楽しんでいるみたいだ。もっともそれはプライドさんだけではないんですけどね?
「ほら、見てごらん、シリウスちゃん。温泉卵だよ」
「おんせんたまご?」
「うん。温泉で卵をゆでたものなんだ。普通のゆで卵とは一味違うの。ってわけで、すみませーん、ふたつください!」
「わぅわぅ!」
希望が温泉卵の売店へと突撃をかましていく。その腕の中にはシリウスも当然のようにいた。
「ふむふむ、美肌水ですか。温泉成分、なるほど」
「なかなかによさそうですね、お師匠様」
「ええ、これを以て「旦那さま」をメロメロに」
「それは私の役目ですよ!?」
レアとアルトリアは温泉の成分を使った美肌用のオイルを眺めている。ふたりとも目がわりと怖いデス。
「へぇ、温泉まんじゅうっていうんですかぁ。温泉で蒸すんですね。ちょっとおひとつ試食しても? あ、はい、ありがとうございます」
プーレは温泉まんじゅうを試食させてもらっている。さすがはスイーツ担当。目新しいスイーツには目がないね。
「がははは、嬢ちゃんの嫁さんたちはそれぞれに面白いな」
プライドさんは豪快に笑っている。うん、たしかに面白いよ。
面白いのだけど、どうしてこうもみんな団体行動が苦手なんでしょうね。
カレンちゃん、不思議でなりません。
一緒に街の中に入ったはずなのに、少し目を離しただけで個人行動をしているもの。本当にびっくりだよ。
「まぁ、しばらくは好きにさせてやればいいさ」
「そうですね」
「なわけで俺と一緒に茶でも飲もうや。そこにおすすめの茶屋があるからな」
プライドさんが目配せをしたのは、希望たち全員を眺めていられる位置にある茶屋さんだった。
「プライドさんって甘いものも好きなんですか?」
「おう、辛いものの次に好きだぞ。親父、いつもの団子を十本頼む」
プライドさんは茶屋の席に座りながら、ご亭主さんに注文していた。ご亭主さんも毎度と言って笑っている。完全に常連ですね。
プライドさんに続いて俺も茶屋の席に座り、適当に注文をしながら、希望たちの買い物が終わるのを待つことにした。
ちなみに全員の買い物が終わったのはそれから一時間後になってしまったのは、言わないでおこうかな?
真っ先にお土産を買うですね。
実際はお土産は後の方がいいんですけど、まぁ、アイテムボックスがある世界だから問題はないかなと。
続きは二十時になります。




