Act3-ex-2 「魔」の誓い
またまた遅くなってしまいました。
仕事納めが昨日だったから、反動でゆっくりしすぎてしまった←汗
とにかくです。さっそくUpします。
もうどれくらいぶりだろうか。
少しの間、「エンヴィー」を離れることはあった。
たいていはあの男の要請を聞いて、出向いてやったまでのことであり、そのときは「エンヴィー」を少しの間留守にするとしか考えていなかった。
でも今回は完全に離れると決めていた。
とはいえ、捨てるわけではない。あの街は、あの国は私の生まれ故郷なのだから。捨てられるわけがなかった。
それでも当分は帰れそうにはない。
コアルスには、お母さまには次帰ってきた時には、笑って帰ってこいと言われてしまっているから、次は笑って帰ってくるつもりではあるけれど、それがいつになるのかはわからない。たぶん長い旅になる。
「旦那さま」はこれから世界中を回ることになる。
そのとき、「魔大陸」が無事であるかどうかはわからない。
そしてそれは「蛇の王国」ひいては「エンヴィー」とて例外ではないだろうから。
荒れ果てる可能性がある生まれ故郷を背にするのは、かなり憚れる。
けれどそれでも私はこの胸の想いに殉じたい。
愛する人の心が傷つくことがわかっていて、放っておくことなどできるわけがなかった。
献身的にその身を支えたところで、私が一番になれるとは限らない。
それでもこの胸の愛は本物だった。
もう遠くから見守るだけの愛なんてごめんだ。
これからはすぐそばで見守っていて差し上げたい。あの人は、彼女はそれほどの人だった。
あの人を守ってあげるためにも、いくらかの気がかりがある。
具体的に言えばふたつほど。
すぐに危害を加えられるわけではないが、どちらも尻尾を掴ませてはくれない以上、いましばらくは傍観者としてあるしかない。
ただ片方は、あの人を守るために行動しているように思える。
あの人を守ってくれるのであれば、敵対視するつもりはないが、あまりにも異質すぎて、どうすればいいのかがわからない。
その異質さを見事に隠しきっているのだから、私がひそかに警戒するのも無理はない。
もう片方は確実に敵だ。あの人への危害しか感じられない。
こちらの尻尾を掴む方が先決かもしれない。
もっとも尻尾を掴んでも、背後には「あれ」がいるはずだから、下手に突っつくと思わぬ火傷を負いかねない。今回の雑魚トカゲの件も、おそらくは「あれ」の手によるものだろう。
だからこそ「流」属性しか見せなかった。
「その先へと至った力」は見せずに済んだ。思ったよりもあの竜は弱かったのが、僥倖だった。
「あれ」は私の性格をよく知っている。
だからこそ、あの竜を捨て駒にしたのだろう。
おそらくは、当初の予定では「旦那さま」を狙わせるはずだったのだろう。
あの竜は私にとっては雑魚でしかなかった。
しかし「旦那さま」では、まだ手に余る。
だからこそ最初は「旦那さま」に手傷を負わせて、私を怒らせるつもりだったのだろう。
そうして本気になった私の力を見るつもりだったはずだ。
実に「あれ」らしいことだ。
油断も隙もあったものじゃない。迂闊なことはできない。
でも、それは「あれ」も同じはず。
だからこそ手駒を送ってきた。本気になれば始末できなくはない。
ただし、最初の一撃で殺せればだ。殺せなければ、かなりてこずることになる。
恐らくは負けることはないと思うが、実際はわからない。
それくらいに「あれ」の手駒は強いようだ。少なくとも雑魚トカゲを瞬殺できる程度にはだ。
「旦那さま」は英雄へと至る人。作られた英雄ではなく、真の英雄へと至るにたるお方だ。
ただ、初代と二代目と同じで、自分のことには無頓着すぎるのが困るが、そういうところも私には好ましい。
初代と二代目とは違い、今回こそは守らなければならない。初代と二代目を守れなかった分まで「旦那さま」を守ってあげたい。
「じゃあ、君の名前はレアでどうだい?」
「レアって呼んでもいいですか?」
甦る声は、初代と二代目のもの。
初代の頃はまだ子供だったので、そう呼ぶしかなかっただろうが、二代目はまさか初代と同じ名で呼ぶことを選ぶとは思っていなかった。
そんなふたりに心惹かれた。しかし初代と二代目には届くことはなかった。
でも、「旦那さま」には届くかもしれない。いや届かせたい。
そのうえで守る。守ってみせる。
それだけが生き永らえてきた自分ができる唯一無二の「旦那さま」へと捧げる愛の形。
この身は六つの魔を操る、讃えられし六のひとつ。研鑽を続けてきたのはこのときのために。
「頑張らないとね」
誰に言うわけでもなく、去り行く潮風へと私は誓いを立てた。
これにて第三章はおしまいです。
次回より第四章になります。その第四章は今夜十二時からです。




