Act0-34 冒険者になりました
今日で三十日目となりました。
なので、今日は特別更新です。
具体的には、あと二回更新する予定です。
時間は、八時といつも通りの十六時を予定しています。頑張ります←げっそり
「カレンさんってば、付与魔法に関しては、もう教えることはないどころか、逆にいろいろと教えてほしいくらいの成長ぶりでしたよ」
と、クリスティナさんがからかい半分で、話に割り込んできたけれど、それでも概ね楽しむことができたのは事実だった。アルゴさんたちも、時折話に入りながらも、この一週間での出来事を、俺は話し続けていた。そしてその話も終わり、気づけば、コアルスさんが用意してくれていた紅茶は、とっくに尽きて、ティーポットを二回交換することになった。
最初この世界に来たときは、こんな話ができるほどに、充実した日々を送れるとは思っていなかった。だが、お遊び気分はここまでだろう。なにせここから、いや、今日からが本番なんだ。
「カレンちゃんが、楽しく過ごせることができたのは、喜ばしいことですね。でも、楽しいだけなのは、残念ですけど、今日までですね」
エンヴィーさんの表情が変わった。それまで笑顔だったのが、いまはとても真剣だった。ただ口の周りに、クッキーのかすを付けていると、どうにもシリアス具合が半減してしまうので、どうにかしてほしいものだ。私室に招かれた全員が同じことを思っていたのだろう。誰もがどうにも集中できていなさそうな顔をしている。見かねたコアルスさんが、エンヴィーさんの口元をナプキンで拭っていた。幼稚園児か、と言いそうになったけれど、ギャップ萌えってことにしておこうか。
「……とにかく、こうして無事にカレンちゃんが、「蛇の王国」に着いた以上、カレンちゃんには早速冒険者として、行動してもらうことになります。コアルス」
「はい。カレンちゃんさま、こちらをどうぞ」
咳払いをし、エンヴィーさんが、コアルスさんに目配せをすると、コアルスさんは胸元から丸まった羊皮紙を取り出し、その羊皮紙を差し出してくれた。差し出されたそれを受け取り、広げると、羊皮紙には、この世界の言語でなにか書かれていた。
この一週間で、クラウディウスさんに字を教えてもらっていたから、多少は読めるのだけど、まだ読めない字の方が多かった。それでもどうにか読める部分だけを読んでいく。
「えっと、カレン・ズッキー、E級冒険者として認める? ……誰だ、カレン・ズッキーって」
俺は鈴木香恋であって、カレン・ズッキーじゃない。なんだよ、ズッキーって。歯が痛んでいるみたいだから、やめてほしい。でも、羊皮紙ってことは、たぶん正式な書類なんだろうな。
ということは、俺は冒険者ギルドの中では、カレン・ズッキーとして活動しないといけないということだろうか。ペンネームやリングネームでもあるまいし、なんでそんな名前を名乗らなきゃならんのだろうか。
「それは、私の方でつけさせてもらいました。異世界人と気づかれるのは、それはそれでまずいですからね。異世界人であれば、特殊な能力があるというのは、この世界では常識ですので。それを避けるための偽名です」
「偽名ですか。にしても、もっと別の偽名もあったような」
「あるには、ありましたが、カレン・モーエが有力でしたね。実際モーエにする予定でしたけれど、コアルスが、人の名前で遊ぶなと言うので、ズッキーに変えたんです」
コアルスさん、グッジョブ。無言でコアルスさんに向かって、親指を立てる。コアルスさんも無言で親指を立て返してくれた。エンヴィーさんは好きだけど、こうして時折やらかすのはどうにかしてほしいものだ。俺のことを考えての行動であるのはわかるけれど、それでももうちょい良識というものを持っていただきたい。
「まぁ、とにかく、明かせる範囲での紹介状ですと、Eランク冒険者にするのが、精一杯でした。素性と能力を明かせれば、一気にBランク以上はできたんですけど、隠さないといけないものが多かったので」
「いや、これで十分ですよ。Eランクでも、それなりの冒険者ってことでしょうし」
「まぁ、駆け出しを卒業し、一人前になったって程度ですが」
「それで大丈夫です。むしろ、それ以上の高ランクは、かえって面倒ですし」
「そうですか。ただEランクだと、金貨十枚を稼ぐのは、かなり大変ですよ?」
「承知の上です。だって俺は星金貨一千枚を稼ぐのが、目標なんだ。どう考えても、Eランクでひと月金貨十枚を稼ぐよりも、星金貨一千枚を稼ぐ方が、はるかに大変だ。ならこれくらいの障害を乗り越えて当然です。じゃなければ、星金貨一千枚を稼ぐなんて、夢のまた夢ですからね」
俺の目標は、金貨を一か月で十枚稼ぐことじゃない。それはただの通過点でしかない。俺が目指すのは、星金貨一千枚だ。そのためには、まず金貨十枚を稼がなければならない。でも星金貨一千枚に比べたら、金貨十枚なんて物の数じゃない。いわば、乗り越えて当然の障害だった。いや障害と言うことすらおこがましい。
「ふふふ、カレンちゃんのそういうところが、私は好きですよ。たしかに「Eランクじゃ金貨十枚なんて稼げるわけがないじゃないですか」なんて弱音を言う者が、星金貨一千枚を稼ぐことなんて、できるわけがないですものね。いいでしょう。カレンちゃん。いえ、冒険者カレン・ズッキー。あなたには、これより一か月で金貨十枚を稼いでいただきます。どんな手段でも構いません。ただ冒険者として、恥ずかしくない方法で、ぜひ到達してください」
冒険者として恥ずかしくない。それは誰かを脅したり、盗みを働いたりなどの犯罪に手を染めるな、ということだろう。異世界転移もののラノベでは、冒険者がそういう罪を犯せば、基本的に罰則を受けるか、最悪は資格のはく奪もある、という設定のものが多いけれど、それはこの異世界でも同じなのだろう。
考えてみれば、冒険者というものは、国に認められたギルドに登録した人のことだ。国に認められたギルドというのは、要は国営みたいなもの。つまりは公務員のようなものだろう。地球で言えば、ギルドは警察のようなものかもしれない。そしてその警察に所属するということは、冒険者はお巡りさんみたいな感じなのかもしれない。そのお巡りさんが、犯罪をやらかせば、罰せられる。取り締まる側が犯罪者でしたなんて、笑えたものじゃないのだから。
もっともお巡りさんよりかは、給料はいいだろうけれど。どんな職業にしろ、末端の人はあまり給料がよくないのは、どの世界でも共通したことだ。高給取りは、いつも上層の一部の人間だけ。そして俺はその高給取りになる、のではなく、その高給取りを使う側に回る。むろん、ただ見ているだけじゃなく、俺も現場に出るつもりだ。人を使うのは、慣れていないというのもあるけれど、それ以上に指を咥えて見ているだけじゃ、俺自身の力で稼いだなんて言えたものじゃないのだから。だから俺はどんなに地位を得たとしても、現場に出続ける予定だ。俺が元の世界に帰る、その日まで、ずっと。
でもそれは、金貨十枚を稼げたら、の話だ。まだようやくスタートラインに立ったというだけのこと。いや、スタートラインにすら、まだ立てていない。あくまでも立つための資格を得ようとしているというだけのことだ。
「ある限りの力で」
「よろしい。頑張ってください、カレン・ズッキー。あなたに母神スカイストの大いなる加護があらんことを」
エンヴィーさんは、笑顔を作った。その笑顔はいつもの笑顔と同じものだった。期待されている。たとえ、それがエンヴィーさんにとって、いや「七王」さんたちにとっては、暇つぶしに近いものだったとしても、たしかにいまこの時俺は期待を受けている。その期待に応えたい。お膳立てをここまでしてもらって、なにもできなかったじゃ、話にならないし、俺がそもそも嫌だった。
だから頑張る。手札は少しだけ増えた。その少しの手札でなにができるのか、いまはまだわからない。わからないけれど、この手札で俺はこの異世界で生きていく。すべては元の世界に帰るために。友達や常連さんや、家族にまた会うために。俺の本当の戦いに至るための、試しとなる戦いはいま始まった。




