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Act3-64 「流」

 本日八話目です。

 雑魚トカゲさん戦が決着です。

 ……チートキャラがいると、戦闘ってやっぱり簡単になっちゃいますね←しみじみ

 レアが作り出した水球は、まっすぐに雑魚トカゲさんへと向かって行く。


 水の初級魔法である「水球」によく似ている。


 でも大きさは段違いだし、込められている魔力もまた。


 だけど、それだけじゃ雑魚トカゲさんに通用するとは思えない。


 雑魚トカゲさんは、マバの最上位種。マバ同様に海のなかで棲息しているはず。つまり常に水に触れている。


 そんな雑魚トカゲさんに、上位属性とはいえ、水系の攻撃が通用するものなのかな?


 雑魚トカゲさんだって、水属性を使えるだろうし、いくらなんでも、水属性に水属性をぶつけても意味はない気がするのだけど──。


「「水球」ごときで我に攻撃が通ると──」


 雑魚トカゲさんは、レアの放った巨大な水球を真っ正面から受け止め──。


「がぁっ!?」


 胸元周辺の鱗を砕け散らせた。


 いまなにが起こったんだ? 雑魚トカゲさんは、「水球」程度は効かないと豪語していた。仮に俺が「水球」を放っても、雑魚トカゲさんにダメージは通らなかったと思う。


 でも、レアの「水球」はダメージが通るどころか、着弾した胸元周辺の鱗を砕いてしまった。


 魔力の差もあるだろうけれど、たぶんレアの「水球」が、レアの言う水の上位属性であるからなんだ。


 だからこそ雑魚トカゲさんの鱗を砕けたんだ。


 とんでもない威力だ。たしかに「嵐」の力と遜色ない。


「レア、いまのが」


「ええ、いまのが水とともに在りし者が辿り着きし力。水の上位属性「流」です」


 上位属性「流」か。たしかに水系統の上位って感じがする名前だね。


 しかし「流」か。ちょっと抽象的な感じがする名称だった。


 でも抽象的な名称であっても、威力は本物だ。


 雑魚トカゲさんの鱗を、硬そうな鱗さえも砕いてしまうほどの威力があるんだ。


 見ためは水の初級魔法の「水球」とよく似ている。


 けれど大きさも威力も段違いだ。おそらくはあれも「流」属性にとっては初級のものなんだろうね。


 完全に「水球」の上位互換版としか思えないもの。


「舞え、「流水球」」


 レアが腕を振るうと、あの巨大な「水球」が現れた。それも無数にだ。


 一発であの威力だ。無数に放たれればどうなるかなんて考えるまでもない。


 雑魚トカゲさんの表情が恐怖に彩られていく。


 数舜後の自分が辿る道をはっきりと理解してしまったんだと思う。


 格が違いすぎる。雑魚トカゲさんは文字通り、レアの前ではただの雑魚でしかなかった。


「そう怖がるなよ、雑魚トカゲ。これでお前を殺すことはしない」


 だがレアは笑いながら、そんなことを言い放った。殺さないってどういうことなのかな。


 いや別に雑魚トカゲさんを殺したいわけじゃない。雑魚トカゲさんにもいろいろと事情はあるわけだろうからね。


 でもそれを言えば、誰にだって事情のひとつやふたつは存在するわけなんだから、雑魚トカゲさんを優遇するのはどうかなと思うんだけど。


 というか、レアは少し前までさっさと死ねと雑魚トカゲさんに言っていたじゃんか。なのに急に掌返しとか、あまりにもレアらしくないような──。


「これだけの数の「流水球」で殺してしまったら、「旦那さま」に捧げる肉がなくなってしまうだろうが。「旦那さま」にはできるかぎり、最高の状態で食べていただきたいから、こんな手当たり次第な攻撃で誰が殺してやるものか」


 ……うん。とってもレアらしいことでした。


 いやわかるよ? 「流水球」で倒したら、雑魚トカゲさんの体がボロボロになるってことはさ。そんなボロボロの状態じゃまとも素材は剥ぎ取れないし、肉だっていいとは言えない状態になるってことはさ。


 ただね? それを本人の前で言うのはいかがなものかと、カレンちゃんは思うわけなんですけど? さすがにかわいそうな気がするよ。というか、もう少し雑魚トカゲさんにも優しさをですね。


「ダメです。あれは「旦那さま」の滋養強壮のための食材ですもの」


「……ソウデスカ」


 敵どころか、もはや食材としか見られていない雑魚トカゲさん。


 お顔を見れば完全に涙目です。


 あんなにもど派手な登場をしたのに、下手をすればラスボス的な登場シーンだったというのに、現実は非情ですね。


「ところで滋養強壮のためってどういうことですか?」


「このあとベッドでかわいがってくださるという約束ですよ」


「え?」


 ちょっと待って? 意味がわからないんだけど? というかさ、いつそんな約束を俺はしたかな? 記憶にないよ?


「とぼけちゃダメですよ? ムガルとの決闘の勝者の特典には、その際に使ったレシピを公表し、その使用料を得られるということと、私と一夜を過ごす権利を得られるというのがあったじゃないですか」


 レアが頬を染めている。どうやら俺と過ごす一夜を想像してくれているみたいなのだけど、正直なことを言います。忘れていました。


 というかムガルさんをぶっ飛ばすことしか考えていなかったからね! 特に今朝あたりからはさ! だから勝者の特典のひとつを完全に忘れておりましたよ。


 いまさらなしってことはできないんだろうなぁ。


 だってレアってば、明らかに期待しているもの。


 レアも嫁とはいえ、抱くのは希望だけでいいと言いたいところなんだけど、ここは空の上です。


 そしてレアの体の半分は大蛇化しています。逃げ場などあるでしょうか? 答え。あるわけがない。


 仮に地上に降りてから、全速力で逃げ出したとしても、一瞬追い付かれるのが目に見えていますよ。……俺ってば、いつのまに詰んでいたの?


 やっぱりレアは恐ろしい人だよ。でもそんなレアが俺は好きなんだよねぇ。困ったものさ。


「……一緒にベッドで寝るだけっていうのは」


「却下です」


「デスヨネ~」


 どうあっても俺を性的に食べようとしているみたいだ。逃げ道が塞がれている以上、どうしようもない。


「……お手柔らかに」


「ふふふ、憶えておきますね」


 ぺろりと唇を舐めるレア。唇を舐めるなんて普通のことなんだけど、レアがするだけでなんともエロスです。


 俺搾りつくされてしまうのかな。ちょっぴり、いや、めっちゃコワイデス。


「き、貴様らぁ、我を無視して」


「虫けらに無視された気分はどうだ? ああ、違うか。貴様こそが虫けらか。ただ虫けらは虫けらでも「旦那さま」のお役に立てる虫けらになれたな。誇れよ、雑魚トカゲ」


 レアが口角を上げて笑っている。


 うん、笑っている。笑っているんだけど、これほどまでに笑顔というものが攻撃的なものだということを証明するものもそうそうないよね。


 雑魚トカゲさんも、もうなにも言わなければいいのに。


 なにか言うたびにレアからの口撃を受けては涙目になっているもん。立場は完全にいじめっ子といじめられっ子のそれです。


「さぁ、それではそろそろ食材になる時間だ」


 レアが指を鳴らした。無数の「流水球」がひとつに集い、形を変えていく。


 球体から細長い棒状、いや巨体な水の蛇にと姿を変えていく。


 それは以前見たレアの魔法である「炎蛇」に酷似している。


 でも「炎蛇」とはまるで違う。込められた魔力も、その魔力ゆえの圧倒的な威力も。なにもかもが異なっていた。


「喰らえ、「蛇水流」」


 レアが腕を振りかぶる。雑魚トカゲさんは逃げようとしたが、それよりも早くレアは腕を振り抜いた。


 水の蛇はまるでみずからの意思を持つかのように、咆哮をあげながら雑魚トカゲさんへと迫る。


 迫りくる水の蛇に雑魚トカゲさんはなすすべもなく、首から上を食いちぎられていった。


 残るのは首を失った胴体だけだった。その胴体も首を失ったことで、空を舞っていた魔力が消えたのか、徐々に落下していき──。


「って落下したらヤバいじゃんか!?」


 下は海だけど、あれだけの質量のものが、空高くから落ちてきたとすれば、その被害がどれほどのものになるのかなんて考えたくもないよ。


 最低でも城を超えるくらいの高さの津波が押し寄せて来るだろうし。下手をしたら、それこそ「エンヴィー」のすべてが飲み込まれて──。


「問題ありませんよ、「旦那さま」」


 レアは笑いながら、手を動かした。


 すると大きな水の柱がいくつも海面から立ち上ってくる。


 立ち上った柱は雑魚トカゲさんの体を支えた。雑魚トカゲさんの巨体を支えながら、水の柱はゆっくりと下降していく。


「これで津波の心配はありません。ああ、ついでです。血抜きをしておきましょうか」


 レアが再び手を動かすと、雑魚トカゲさんの体の向きが変わった。まるで吊り下げられているかのように、首から上が逆さになっていく。


 大量の血液が海にへと落ちていく。ぶっちゃけそれでも津波が起きそうだなと思ったけれど、レアが腕を振るうと血の受け皿になるように水の柱の途中が平らな板状となって、雑魚トカゲさんの血を受けとめていた。


「下に着くころには、血抜きは終わっていますよ」


 ニコニコと笑うレア。うん、実際に言っていたけれど、本当に食材としか見ていなかったんだね。


「雑魚トカゲさん、哀れすぎる」


「そうおっしゃるのであれば、ちゃんと名前を言ってあげればよろしいかと」


「名前? えっと、あれ?」


 雑魚トカゲさんの名前を思い出そうとしても、出てこない。


 雑魚トカゲっていうネーミングがぴったりすぎて忘れてしまったよ。申し訳ないとは思うけれど、運が悪すぎだね、あの人。


「雑魚トカゲのことは忘れましょう。ふふふ、今夜が楽しみですね、「旦那さま」」


 レアがばっさりと切り捨ててしまった。


 ああ、うん。本当に哀れだよ。ぶっちゃけなにをしに登場したのかさえもわからなかった。


「供養として美味しく食べるとしようかな」


 もうそれくらいしか、あの人のためにできることはなかった。供養でもなんでもない? 細かいことはいいんだよ。


「ええ、たくさん召し上がってください、「旦那さま」」


 レアがふふふと笑っている。その笑顔はやっぱりレアらしい笑顔だった。

 雑魚トカゲさんがご退場なさいました。

 続きは二十時になります。

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