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Act3-54 発見、ソウルフード!

 恒例の二話更新です。

 まずは一話目です。

 日本人が異世界に転移したら欲しがるものと言えば、ですね。

ムガルさんとの料理勝負を受けることになったために、屋台を当分続けることになってしまった。


 というのも勝負のための新作の試作品作りにはちょうどいい環境だった。


 ……試作品のためのモニターをお客さん相手にするのは失礼極まりないけれど、あれだけ派手にやったからなのか、お客さん方はみんな一様に頷いてくれたんだ。


「ムガル氏の店は高い、まずい、遅いの三拍子が揃っておりますからなぁ。それでもここら一帯には彼の店しかないからこそ、通っていたというだけのことですし」


「うむ。あんな食事では魔物とはまともに戦えぬで候」


「ご亭主殿の屋台が期間限定とはわかっておりますが、それでもいままで楽しませてもらった恩を返さずにはおられぬよ」


 例の変態どもが真っ先に協力を申し出てくれた。


 変態ではあるけれど、なかなかに男前なことを言ってくれたよ。


 今後はもう少しだけサービスでもしようかな。


 だが希望に触れるのだけは許さん。あとシリウスにちょっかいを出すのもな。


 そう言うと、変態どもは「ケチ」と言ってくれたが、そんなものは知らん。嫁と娘は俺が守るのだよ。


 まぁ、そうして変態どもが協力してくれることになると、あとはもうネズミ算式に増えてくれた。


 というか常連さんのほとんどが協力を申し出てくれた。そのうえいままでここら一帯で飲食店をしていたという人たちもまた協力してくれた。


「ムガルさんの手だとは決めつけることはできないが、状況的にあの人が怪しいことには変わりない。なにせここら一帯での飲食店はあの人の店だけなのだから」


 そう言ったのは、俺たちの前にこの場所で商売していた屋台のご亭主さんだった。


 焼き鳥のような串焼きの屋台を営んでいたそうなんだけど、開業して間もなく、嫌がらせを受けるようになり、最終的にはメイン食材である鶏肉の価格が高騰してしまい、まともに商売できなくなってしまったそうだった。


 しかも高騰していたのは、ご亭主さんが使っていた鶏肉だけ。それもご亭主さんが店を閉めるとすぐに元の値段に戻ったそうだ。


 それだけであれば運が悪かったとしか言いようがないのだけど、なんでも同時期にムガルさんの店では鶏肉をふんだんに使ったコース料理が提供されていたそうだ。


 それもあからさまに安すぎる値段でね。なんでも日頃の感謝を込めての赤字覚悟の値段だという触れこみだった。


「たまたま鶏肉を仕入れすぎてしまっていたからだとあの人は言っていたが、どう考えても言い訳だよ。とはいえお客さんへの日頃の感謝なのだからと言われてしまえば、こっちだってなにも言えないさ。お客さんあっての商売だからね。売り上げは大事だが、そのためにはお客さんから愛される店でなければならない。だからこそあの人の言い分は間違ってはいない。いないんだが、あそこまで露骨に潰しにかかられるとどうにもならなかったよ。聞けば似たような目に遭った人もいるし、そこまで露骨ではなかったが、徐々に締め付けられるようにして追い込まれていったという人もいる。そのすべてにムガルさんが関わっているとなれば、あなたに手を貸すのは当然のことさ」


 ご亭主さんの言葉に賛同する人が十数人はいた。


 プライドだけは超一流とは思ったけれど、どうやら人を陥れることに関してもムガルさんは超一流のようだ。


 露骨にやるときと手間をかけて徐々に追い込む方法でやるときがあるみたいだけど、そういうことに手間をかけるのであれば、自分の店の料理に手間をかけろと言いたいものだよ。


 希望も同じ意見なのか、あの人には絶対に負けないと言ってくれた。


「お互いに生きるためだから、多少の妨害は仕方がないかもしれないけれど、やることが汚すぎるよ。あんな人には絶対に負けたくない」


 希望は闘志を燃やしながら言ってくれた。


「ですね。ここは私とノゾミが協力して、あの料理人を打ち破り──」


「アルトリアは試食だけでいいからね」

「なぜ!?」


 アルトリアもやる気を出していたみたいだけど、アルトリアが関わると勝てる勝負も勝てなくなりそうだから、希望はあっさりとアルトリアと協力することを拒否してしまう。


 アルトリアはどうしてとかなんでと何度も言っていたけれど、ゴンさんに引きずられながら、あっさりとキッチンから出されてしまった。


 まぁ、適材適所っていうのは人それぞれだからとだけ言っておきますかね。


 とにかく決戦の日のための試作の日々はそうして始まった。メイン食材がマバであるのは、大量の在庫を少しでも消費するためなのは明らか。そういうところはレアらしい。


 加えて勝者がレアと一夜を過ごす権利を得るというのもね。


 合法的に俺とそういうことをするために、あえてその条件を呑んだというのも明らか。こうしてみると、ムガルさんだけではなく俺までもレアの掌の上で踊らされている。


 もっともムガルさんの場合はそれに気づいていない。レアを俺から取り戻すということしか考えていないみたいだからね。


 ぶっちゃけ直情的すぎないかなと思わなくもないが、まぁそういう人がいないわけではないから、別に問題ではない。


 問題なのはだ。なにを以てムガルさんとの決戦に臨むかだ。マバを使った新作料理。


「蛇の王国」では専ら、煮込みが多いみたいだけど、ただ煮込むと言ってもやり方はさまざま。そういう意味であれば、従来とは少し違う方法でも十分に新作と言えなくもない。


 ただそれだとつまらないんだよね。従来とはちょっと違うやり方をするだけで新作とか。停滞するにもほどがある。


 となれば煮込み以外の方法を選ばなきゃいけないわけなのだけど、それが難しい。というか俺と希望にとっては選択肢が多くなりすぎるんだよね。


 なにせ煮込み、焼き物、揚げ物と、とにかく幅が広すぎるんだ。


 そのなかでこれだと思うものを選ぶ。うん、難問だぜ。


 とりあえず、店で出しているのは除外するとしても、それでも選択肢は多すぎた。


 目新しく、わりと簡単にできて、なおかつ美味いものとなると、選択肢は狭まるけれど、それでもかなり多い。


それもそれぞれの調理法でいくつもあるのだから、試作をするにも大変だった。


 だけど、最終的にはある食材を入手したことで、決まったよ。


 なにかって? 日本人のソウルフードですよ。そう、米です!


 鳥の串焼き屋台のご亭主さんこと、ケイリィさんが教えてくれたんだ。


 ケイリィさんの故郷はここ「蛇の王国」だけど、同じ「蛇の王国」でも、ケイリィさんの出身地域でしか食べられない穀物があるとね。


 その穀物は爪先くらいの大きさだけど、豊作であれば、何百キロと収穫でき、他の穀物と違ってそう簡単には腐らないし、酒の材料にもなる。なおかつ大抵のものには合う。独特の風味があるけれど、好きな人にはたまらないらしい。


 ケイリィさんの話を聞いて、俺は真っ先に米が浮かんだ。適当な紙に米の絵をスケッチして、ケイリィさんに見せると──。


「おぉ、リィスだ! これだよ、私が言っているのは」


 ケイリィさんは大喜びしていた。なんでもケイリィさんの故郷は、「エンヴィー」からはだいぶ離れた田舎らしく、漁業ではなく農業が基本らしい。


 川はあっても海がない内陸地で、海を見たのは「エンヴィー」に出てきてからが初めてだったそうだ。


 国土の大半が海に面している「蛇の王国」でも、海に面していない土地がない訳じゃない。そのあたりは日本と似ている。


 話を聞く限りだと、ケイリィさんの故郷は魚沼とかの米所によく似た気候のようだ。要は米の栽培に適した地域みたいだった。


 この世界に来て数ヶ月、ずっと食べたかった米が食べられるとあれば、迷うことなくゴンさんに頼み、ケイリィさんの故郷に連れて行って貰った。


 結果、新米と古米を合わせて百五十キロほど買って帰って来た。


 自分でもバカじゃない? と思うくらいに買ってしまったけど、後悔はしていない。


 日本人のソウルフードを異世界で目にして、黙っていられようか。この機を逃せば、次はいつ手に入るのかもわからないというのに。


 それに、新米は決闘用のとっておきだ。試作は古米で行うから、多ければ多いほど問題はない。


 ついでに定期的にうちのギルドに卸してもらえるように契約もしてきたし。


 あちらさんも外貨を定期的に獲得できるからと歓んで応じてくれました。


 え? 勝手に話を詰めたら、ミーリンさんに怒られる? 


 そんなのは、そのときになってから考えればいいのだよ!


 定期的に米を食べられるのであれば、すべては小事さ!


 勝手に話を詰めたからと怒られるフラグは立っていない、はず。めいびー。


 とにかく米を入手したことで、こちらが出す料理は決まったよ。


 そう、カツカレーです!


 マバの揚げ物が結構美味しかったし、どうせならとカツカレーにしたのさ。それにカツカレーは縁起がいいし。勝負にカツ! ってね。


 ただカツカレーではちょっと面白味がなかったので、方向性が決まってからはあれやこれやとアレンジをする日々を過ごし、ついに決闘の朝を迎えることになったんだ。

 華麗にミーリンさんに怒れるフラグを踏みつけたカレンでした。

 そして日本人のソウルフードと言ったらお米でしょう。異論は認めない←きっぱり

 続きは二十時になります。

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