Act3-51 一夜明けて
一夜明けてのお話しになります。
初々しいのが少しでも出ていればいいな。まぁ、とある人がそういう空気さえもぶっ壊してくれますけども←汗
今日も元気に屋台の仕事だ。
いつものようにレアとシリウスと一緒に呼び込みをする。
レアはいつものように、セクハラをかましてくるけれど、いつもとは違い──。
「頑張ったら、ご寵愛をいただけますか、「旦那さま」」
頬を染めながら、時折しなだれかかられたからね。
いつもは完全にレアが攻め攻めであるのに、今日ばかりは時折「女の顔」と言いますか、熱のこもった視線を投げ掛けてくれている。
思わず、ごくりと喉を鳴らさずにはいられなかったよ。
それくらいに今日のレアは色っぽい。まぁ単純に対抗意識を燃やしてくれているんだろうね。なにせ──。
「あ」
「あ」
「……」
「……」
うん、仕事仕事。仕事をしないとですね。時間は有限だからね!
顔を「同時に」反らしながら、仕事を再開する。
「むむむ、あの初々しい反応。もしや」
「うむ。それ以外になかろうて」
「ややや、まさかいままでなかったとは、意外でござった」
「まぁ、年若いゆえ当然でござろうよ」
「であるな。今日は祝いよ! ご亭主殿の卒業祝いよ!」
うははははと変態どもが叫んでいる。変態だけど、さすがはCランク冒険者なだけはあるみたいだ。凄まじい洞察力だ。ただ、うん──。
「俺は女だっつーの!」
なんでみんな「卒業」とか言うのかな!? 俺には物体Xはねえよ! だから「卒業」なんて言わないから!
「でも、昨日は「オタノシミ」でしたよね? ノゾミちゃんと」
レアが余計なことを言ってくれた。いや間違ってはいない。間違ってはいないよ!?
たださ、俺には筆的な物体Xはないわけでして──。
「でも、したんでしょう?」
ニヤリとレアが笑っている。……黙秘権。黙秘権を行使する! いまなにかを言っても、そういう風にしか取られないもん! だからここは──。
「朝にノゾミままとお風呂に入ったら、首とか胸とかに「虫刺され」がいっぱいあったの。ノゾミままは、ぱぱ上虫に刺されたと言っていたの」
シリウスちゃぁぁぁーん!? なんで君は余計なことを言うのかなぁ!?
というか、虫ってなによ!? 誰が虫だよ!? ぱぱ上虫って俺のことかい!?
た、たしかに「虫刺され」と言うべきことは致しましたよ!?
でも、それは決して虫になろうとしたわけではなくてですね。
「ノゾミに先を越されるなんて。正妻は私なのにぃ! お代わりください!」
アルトリアがテーブルのひとつを占領して、やけ食いをしている。すでに積まれた皿は二十を超えているのだけど、誰もなにも言わない。
みんなあえて見ないふりをして、食事や仕事をしている。
俺もあえてなにも言わない。というか、いまのアルトリアに声をかけたら、食われそうな気がしてならないもの。
というかまず間違いなく、「ノゾミにしたのであれば、私にもしてください!」とか言って、流れるように押し倒してくるに決まっているもの。
触らぬ神に祟りなし。転じて、声を掛けぬアルトリアに押し倒されないだよ。
いま声をかけようものならば、確実にR指定待ったなしになるに決まっているもん。
なのであえてカレンちゃんは話しかけません。もっとアルトリアが落ち着いてからですね──。
「「旦那さま」! お酌してください! おーしゃーく!」
ダンダンダンとテーブルを叩くアルトリア。いやお酌と言われても、君酒飲んでいないよね?
というか十四歳は酒を飲んでいい年齢じゃないでしょうに。お酒は成人してからですね。
「ノゾミと一緒に「オトナ」になった「旦那さま」は言うことが違いますねぇ」
舌打ちをするようにアルトリアがジョッキを掲げて一気飲みをしていく。
っていつのまに酒を頼んだの? そもそも誰だよ、アルトリアに酒を提供したのは!
十四歳相手に酒なんて出すなよ!
場合によっては酒類の販売が数年間停止になるよ?
最悪の場合はその損害を提供した従業員に賠償させられるうえに、犯罪歴のおまけつきだぜ?
そうなったら確実に人生詰むよ?
まぁ、それはあくまでも提供された側の未成年がなにかしらのことをやらかさない限りは、ってここは日本じゃないから問題ない、のかな? よくわからん。
でも日本ではなかったとしても、いまのアルトリアを見ていると、なにかしらのことをやらかしそうな雰囲気ばりばりです。
というか、飲むな! 勢いよく酒を飲むなよ!?
並々と注がれていたビールっぽい酒を一気に飲み干していくアルトリア。
やけ食いの次はやけ酒ってか? シリウスの教育に悪いから勘弁してくれませんかね? まま上さんや。
「いいからぁ~、アルトリアの相手をするのぉ~!」
ジョッキをテーブルに叩きつけながら、俺を指名するアルトリア。
いや、あの、俺は仕事中なんですけど? そもそも君も仕事をしないといけないはずなんですが?
だからこそメイド服を着ているはずなのに、なぜに堂々とサボタージュしているんですか、あなたは?
「仕事なんてどうでもいいのぉ! いいからアルトリアと子作りするの!」
いきなりの爆弾発言をしてくれるアルトリア。
その言葉にお客さんたちやメイド軍団のお姉さん方が一斉に噴きました。
そりゃ、まぁ噴くよね? 俺だって噴いたもの。
というかいきなりなにを言い出すかな、アルトリアは!?
なぜに子作りですか!? そもそも俺には種まきができる機能はないんだよ!
なんでみんなわかってくれないんだ!? なんでみんなして俺を男扱いするんだよ!
こんな面の男がどこにいるって言うんだよ!? 俺は正真正銘女だっての!
「そー言って、「旦那さま」は言い訳ばっかり! ノゾミとは子作りしたくせに、アルトリアとはできないって言うのかぁ!」
アルトリアが話を聞いてくれない。
えっとジョッキを一気飲みとはいえ、ビールですよね? ビールってそんなに酒精が強いわけではないはずなんですけど。
だというのにビールを一気飲みして完全に酔っぱらっているアルトリアさん。もうなにを言っても聞いてくれそうにないね。
「……まま上」
ほら、シリウスだって呆れている。
さすがにいまのアルトリアにはシリウスでもドン引きのようだよ。
これで本人には記憶がなかったっていうオチなんだろうし、やっていられないね。
「もー、来ないならアルトリアから襲ってあげるんだからぁ!」
「へ?」
アルトリアが立ちあがり、ずんずんと足を鳴らして近づいてくる。
あ、あれ? これヤバくね? 目が明らかに据わっているんですけど!?
「うへへへぇ~、「旦那さま」とぉ、子作りなのぉ~。ひっく」
笑いながら近づいてくるアルトリアさん。
言っていることがおかしい。というか暴走していますよね!?
いまのアルトリアは、少し前までのレアと同じだ。
明らかに拗らせて暴走している。そしてその矛先は俺です。
胃が痛くなるぜ。って冷静に考えている場合じゃない!
「ま、待って。落ち着こう、アルトリア!」
アルトリアが近づくにつれて、後ろに下がる。
だが俺が下がるとアルトリアは二歩前に出て来る。
この調子だと確実に追い込まれてしまう。どうにかしないと。
「アルトリアはぁ~、落ち着いているよぉ~? 「旦那さま」の子種をいっぱい貰おうとしているだけだもん、ひっく」
「俺にそんなものを生成する機能はないよ!?」
「嘘だ!」
アルトリアが真顔で叫んだ。君はどこのナタ女さんですか!? って違う!
嘘もなにも俺は女なんだから、そんな機能はないって何度言えばわかってくれるんだ、このお嫁さまは!
「ノゾミには注ぎ込んだくせにぃ!」
「そんなことはしてないっつーの! というかできるものを持ち合わせてねえよ!?」
なんなの、本当に! どうして「エンヴィー」に戻ってきてからは、毎日のように物体Xの持ち合わせをしていないと叫ばにゃならんのだよ!?
どうしてみんな俺が物体Xを装備していると思っているんだよ!? 胸か!? 胸がないからか、こんちくしょう!
「アルトリア。そろそろいい加減にしてよ。香恋が困っているじゃんか」
「むぅ、現れたなぁ、ノゾミ! その乳で「旦那さま」を誘惑してぇ~、半分よこせぇ!」
「いや、半分よこせと言われても、あげられるものであればあげたいんだけど」
暴走するアルトリアを止めるべく、希望が立ち上がってくれたのだけど、アルトリアは相変わらず暴走してくれている。
胸なんてあげられるわけがないだろうに。おかげで希望が困ってしまっているよ。もうどうしたらいいんだよ、これ。
「あ、あの、そこの男勝りの少女、さん?」
うん? なんか声が聞こえてきたな。
声の聞こえた方を見ると、そこにはなぜか俺に宣戦布告をしてきた料理人のムガルさんが立っていた。
アルトリアの暴走が止まらなかった←汗
ちなみに作中に出てきた酒類販売の云々ですが、極端な話ではありますけど、実際にないわけではありません。
実際、そうやって潰れた店とかもあるわけですから。
詳しく書くと長くなりすぎるので割愛しますが、お酒やたばこはちゃんと年齢制限を守りましょうね。




