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Act3-42 傷だらけのあなたに想いを込めて その二

 カレンちゃんさん、言っちゃいました。

 内容がちょっとアレなのでご注意をば。

 いままで俺はレアさんの体に傷があるところなんて見たこともなかった。


 だってレアさんの体はいつもきれいだった。


 傷ひとつない、真っ白な素肌。触れることさえも躊躇ってしまいそうなほどにきれいすぎる体。


 その体を見て劣情を一度も抱かなかったとは言えないし、言わない。


 レアさんの体はとてもきれいだった。


 同じ女である俺から見ても、レアさんはなにからなにまでがきれいだった。


 そうきれいだった。きれいだったはずなのに──。


「この傷はどうしたの?」


 バスロープの下には大小さまざまな傷が刻み込まれていた。


 特に胸元の火傷や腹部の刺し傷がひどい。


 一緒にお風呂にも入ったことがあるけれど、こんな傷はなかった。


 なのになんでいま傷があるんだろうか。


 最近負った傷じゃない。それこそククルさんの腕の傷のように、痕になってしまっている刻み込まれた傷だ。


 触れてもたぶん痛みはない。それでも触るのに躊躇しそうになる傷だった。


「この傷はなんなの?」


 記憶の中のレアさんの体とはまるで違っていた。


 いままで見てきたレアさんの体がまるで夢か幻のように思えてしまう。


 いやもしかしたら、いまこうして見ているレアさんの体こそが夢なのかもしれない。


 本当のレアさんの体は、こんなにも傷だらけではない。


 そもそもこうしてレアさんを押し倒していること自体が、夢か幻みたいだよ。だからこれもきっと──。


「……お腹に見える傷は処女を奪われたとき、痛みで泣きじゃくっているときに「ぴぃぴぃ喚くな」とお腹をナイフで抉られてできた。お腹の血と破瓜の血が入り交じったのを「あれ」は嬉しそうに飲んでいたなぁ」


「え?」


「脇腹の傷は半日以上続けて輪姦されたときに何度も蹴られてできた傷。さっさと交代させろよ、と言われたことを憶えているよ。蹴られても私は穴という穴を男のあれで塞がれていて、なにも言うことができなかったね」


「なにを」


「胸元の傷は犯されそうになって抵抗したことで「躾」だと言われて、火の魔法で焼かれたよ。火傷で苦しむ私を見て「あれ」は楽しそうに笑っていた。抵抗するからこうなるんだって。「いい子」でいればこんなことはしないって下卑た顔で笑っていたよ」


 レアさんがなにを言っているのかがわからなかった。


 いやわかるよ。わかっているけれど、その内容はとてもではないけれど、信じられないことだった。


 だってそれじゃ、それじゃあまるでレアさんは慰み者だったって言っているようなものじゃないか。


 強姦や輪姦を受けることがあたり前だったと言っているようなものじゃないか。


 そんなの信じられないよ。だってレアさんは、レアさんは強い人だから。そんなことをされるわけが──。


「……カレンちゃんよりも小さい頃の話だからね。さすがにシリウスちゃんよりかはお姉さんだったけれど、そうだね、七、八歳くらいだったかな?」


 七、八歳くらい。日本で言えば、まだ小学校低学年だ。


 誰がどう見ても子供としか思えない年齢。そんな年齢の頃に性の捌け口をさせられていた。


 たしかにそれくらいの年齢であれば、レアさんだって弱かったかもしれない。大の男には敵わなかったかもしれない。


 それでも信じられない。レアさんがそんなひどい目を受けていたことがあったなんて信じられるわけがない。


 だってそんなことをいままで一度だって言われたことなんか──。


「言えるわけないよ。だって言ったら嫌われちゃうもの。男たちの慰み者だったことがあるなんて言ったら、カレンちゃんに嫌われちゃうもの。だから言わなかっただけ。そして隠していた。この傷が見えないように、きれいな体であるように見えるように魔法を使っていた。きれいな体じゃないと、カレンちゃんはきっと私を抱きたいと思ってくれないだろうからね」


 あははは、と力なくレアさんが笑っていた。


 笑っているはずなのに泣いているようにしか見えなかった。


 実際泣いているんだと思う。レアさんの笑顔はいつもよりも弱々しかった。


 それこそいままで見たこともないくらいに、レアさんは弱々しく笑っていた。


「ごめんね。カレンちゃんが私に憧れていることはわかっていた。だから壊したくなかった。あなたの夢を壊したくなくて、穢れている女だって知ってほしくなくて、だから騙していた。最低だよね。「旦那さま」と言う相手に、隠し事をしていた。穢れていることを黙っていたんだ。そうじゃなかったら、カレンちゃんが離れていくと思ったから。だから騙していたの。本当にごめんなさい」


 レアさんはまぶたを閉じていた。目じりからは涙がこぼれていく。嘘泣きじゃない。本物の涙がこぼれていく。


 謝らないで。謝らないでよ。


 レアさんが悪いわけじゃない。あなたが謝ることじゃない! 


 悪いのはレアさんにひどいことをした奴らであって、レアさんが悪いわけじゃないんだ! 


 なのになんで謝るんだよ。どうして自分を穢れているとか言うんだよ! 


 レアさんは穢れてなんかいない! 


 レアさんはとてもきれいだよ。


 誰もが見惚れてしまうくらいにきれいだもん!


 言いたいことは山ほどあるのに、言葉になってくれない。


 伝えたいことがあるのに伝えられない。それが悔しかった。悔しくて堪らない。なのに──。


「ごめんね。こんな穢れた女があなたを好きになって。本当にごめんね、カレンちゃん」


 泣きながら笑うレアさん。見たくない。いつものように笑ってよ。そんなレアさんを見たくないよ。


「ごめんねぇ、カレンちゃん」


 なにも言えなくなってしまっただろう。


 レアさんは泣きじゃくっていた。


 まるで小さい子供みたいに。


 傷つけられ泣いている子供みたいに。


 レアさんは泣いてしまっていた。


 そんなレアさんを俺は放っておくことなんてできなかった。


 なによりも聞きたくなかった。レアさんがレアさん自身を卑下する言葉を聞きたくなかったんだ。だから俺は──。


「もう、いい」


「カレン、ちゃ──んっ」


 レアさんの唇を奪う。さっきはレアさんからだった。


 でも今度は俺自身から奪う。でもレアさんのように主導権を奪わせはしない。


 だって奪われてしまったら、また聞かされることになる。


 レアさんがレアさん自身を卑下する言葉を聞かされることになるんだ。そんなのはもうごめんだよ。


 だから唇を塞いだ。息継ぎすることさえ許さない。


 レアさんの体を強く抱きしめながら、レアさんの舌を絡めとる。


 レアさんは泣きながら応じてくれた。


 酸素が足りなくなっていく。


 それでも構わなかった。目の前がちかちかしても続けていく。


 それでも限界は訪れた。


 どちらからでもなく唇を離すと、お互いに肩を大きく上気させていた。


 口の周りはお互いの唾液で濡れている。唾液は少しだけ甘かった。


「カレン、ちゃん。なんで?」


「「旦那さま」」でしょう?」


「え?」


「レアさんは、ううん、レアはこれから俺を「旦那さま」って呼んで。もうちゃん付けは許さないから」


「なにを言って」


 レアさんは頬を染めつつも困惑していた。


 嬉しさもあるけれど、それ以上に困惑しているみたいだった。まぁ、そりゃ無理もないよね。


 俺自身困惑しているところはあるもの。


 でも困惑以上に言わなきゃいけないって想いがあった。そう言わなきゃいけないんだ。


「わからない? レアを俺の嫁にするって言ったの!」


 言ってしまったぜ。アルトリアに知られたら確実に致死量ギリギリまでの吸血コースだわな、これ。


 希望であればどうだろうな。


 俺の背中を押してくれた希望なら許してくれるのかな? 


 それとも怒るのかな? 


 それとも悲しむのかな?


 ああ、ダメだ。胸が痛いよ。希望を裏切っているみたいで胸がひどく痛い。


 でもダメだ。俺はレアさんをこのままにしておけないよ。


 俺はこの人をこのままにはしておけない。


 たとえ希望を裏切ることになっても、傷つけることになったとしても、この人を放ってはおけない。


 後先考えずに踏み込もう。なにがあっても笑い続ければいい。なにもかもを抱えて笑ってやる。


 決めたよ、俺は誰も諦めない。


 俺はみんな幸せにする。この人だって救ってみせる。


 どんな重い荷物だって抱え込んでやる。


 だからこれはけじめ。いや誓いのためだ。


 絶対に逃げずに幸せにするっていう誓いだった──。


「だ」


「だ?」


「だ、抱いてもいいですか!?」


 ……俺のヘタレぇぇぇーっ! 


 そこはいいですかじゃなくて、慶次のように「抱くぞ」って言うべきでしょうがぁぁぁーっ! 


 なぜに聞くよ!? 断定しろよ、断定! だからヘタレなんだよ! このヘタレ虫!


 ああ、もうあきませんわ、これ。絶対レアさんも呆れて──。


「……御心のままに、「旦那さま」」


「ほぇ?」


 いまなんて言われたのかな?


 みこころのままに? 


 巫女ころのままに? 


 巫女がころさんのままにってことですかい? ころさんって誰よ。


 ……うん。また現実逃避をしてしまったよ。


「巫女ころのままに」ではなく、「御心のままに」だよ。


 えっと、ということはどういうことですかい? 


 カレンちゃん、ちょっとわからないな。


 もっと抵抗と言いますか、話を聞いてくれないと思っていたのだけど、想定外にあっさりです。


 これは予想していなかったよ。俺ってば詰めが甘いね。


「えっと、レアさん?」


「レアと呼び捨ててください。レアはこのときを以てあなたのものになります」


 レアさんは笑っている。泣きながら笑っている。さっきとは涙の種類が違う。


 嬉しくて泣いているのがわかるよ。


「あの、レアさん」


「……レアです。そうお呼びください、私の「旦那さま」」


 レアさんが俺の背中に腕を伸ばし、優しく抱き寄せてきた。


 レアさんのぬくもり。石鹸と香水に混じったレアさん自身の香り。


 それらを感じながら俺は──。


「レア」


 想いを込めながらレアさんを、いやレアを呼んだ。


 レアははい、と穏やかに、それでいて幸せそうに応えてくれた。

 久しぶりの修羅場案件です。

 まぁ、ククルさんとか、アルトリアがヤバいことに←しみじみ

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