Act3-40 夕日に濡れて その三
すっかりと遅くなってしまいました←汗
おかしいな。もっと早く更新する予定だったのに←汗
今日はレアさん視点です。
言ってしまった。
でもこれで楽になれる。この子には申し訳ないことではあるけれど、これでようやく終わることができる。もう知人や友人を見送っていくのはこりごりだった。
「七王」になってから、見送ることしかしてこなかった。
親しくなった人も優秀な部下も。みんな見送ってきた。
止まった時の中でただ見送ることしかできなかった。
子供を産みたくなるような相手といままで出会わなかったのは僥倖だった。
もし出会っていれば、子供を産んでいたら、私はその子を見送ることになっていただろう。子を見送る。考えただけでぞっとする。
だから出会わなかったのは僥倖だった。
でもなぜ? なぜ最後の最後に出会ってしまったのだろう? この子にどうして出会ってしまったのだろうか?
あまりにも「彼女」に似たこの子に。私の心を奪ったふたり目であった「彼女」にどうしてこの子は似ているのだろうか?
似ていなければこんなにも苦しむことはなかった。
似てさえいなければ、そっくりでさえなければ、私はこんなにも苦しまなかったのに。どうしてあなたは似ているのだろうか?
どうして「彼女」に、エレンに似ているの?
エレンに似てさえいなければ、こんなにも苦しむことはなかった。だけど似ているからこそ、私はあなたに恋をした。
エレンへの恋心はどれだけ募らせても届くことはない。
彼女の心に住んでいるのは、あの男なのだから。だから私の恋は届かない。
だからこそ届くかもしれないこの子に、カレンちゃんに恋をしてしまっている。
申し訳ないことだとは思う。それでもダメだった。
一度点いてしまった炎は消えてくれない。
たとえこの子が私以外の人を愛していても、炎は消えずにいる。
それどころか、恋の炎は私をまるで思ってもいなかった方へと押しやってくれた。
モーレの死。私が定めた計画によっての死。それをこの子は知った。いやこの子に教えてしまった。
王になるための試練。体よく言えばそういうこと。しかし実際はただの嫉妬だ。
カレンちゃんに近づくモーレが気に食わなかった。
私はカレンちゃんと一緒にはいられないのに、どうしてあの子はそばにいられるのか。
ずるいと思った。羨ましかった。自分からそうけしかけたのにひどい嫉妬だった。
だからこそ計画を実行に移すことにした。移してしまった。
それがカレンちゃんの心にどれだけの傷を負わせるのかをわかったうえで、私は実行させてしまった。
ひどい女だ。こんな女なんて死んで当然だろう。殺されて当然だ。
でもできるのであれば、カレンちゃんの手で死にたい。この子の手でこの首を刎ねてほしい。
どうあっても届かない想いであるのであれば、死をこの子の手で与えてほしい。そうすればきっと私は素直に死ぬことができるだろうから。
それにこれで彼女を王にしてあげられる。私が死ねば、「七王」に空席ができる。その空席にこの子が座れるように手配している。
私の後を継げるように。なんの混乱もなく次代の王が統治できるようにしてある。だから私が死に、カレンちゃんが次の蛇王として即位するのは、なんの問題もない。
ここに来たのだって、最期にきれいな景色の中で死にたかったから。カレンちゃんと一緒にきれいな景色を見ていたかったから。
今日のすべてはこのときのため。いや今日だけじゃない。いままでのすべてもこのときのためだけにあった。
でも今日のデートは楽しかったな。カレンちゃんと隣り合って歩いていただけだった。
買い食いをしたり、お昼を食べたり、何気ないことを話したり。それだけのことしかしていないのに、いままで生きてきた空虚な日々よりもはるかに価値のある時間を過ごすことができた。
すべてカレンちゃんがいたからだ。
だからこそお礼をしないといけない。報酬を渡さなければらない。
この首を捧げること。それが私なりの、この子への最大にして最高の報酬だと私は思う。だから──。
「私を殺して、カレンちゃん」
目の前にいる愛しい人に私は精いっぱいの笑顔を浮かべた。
でも返ってきた言葉は──。
「嫌だ!」
思ってもみないものだった。いや想像はしていたと言ってもいい。
なにせこの子は優しい子だ。優しすぎる子だ。そんな子だからこそ、私を殺せと言われても頷けるわけもない。
それでも殺してほしかった。死なせてほしかった。永遠の生はもういい。もうたくさんだ。
「……カレンちゃんは私が好き?」
「好き、だよ」
「そう。なら殺して」
「意味がわからないよ!」
カレンちゃんが叫んだ。突拍子もないとこの子は思っているかもしれない。
傍から聞けば私だってそう思う。でもこれは決して突拍子もないことじゃない。
だって私が好きであれば、殺してくれる。そう思うからこそ言っているのだから。なにせ死は──。
「私にとって死というものはね、救いなの」
「救い?」
カレンちゃんの目は涙で滲んでいた。
あまりにも純粋すぎる涙。私がとうの昔に流せなくなった類の涙。その涙をこの子は流している。
きれいだと思う。美しいとさえ思ってしまう。それでも言わなきゃいけない。
それが私の果たすべき贖罪であり、私が為さなければならない、この子のためにできる唯一のことだから。
「私は長い時を生きてきた。気が遠くなるどころか、記憶が擦り切れてしまうくらいの日々をずっと生きてきた。その間に何人と知り合い、何人を見送ってきたのか。もう自分でも数えきれないくらいに。それくらいに私は生きて、見送ってきた。この間産まれたと思った赤子が気づけば大人になり、子供を儲け年老いて、そして死ぬ。それを何度も何度も見てきた。あまりにも時の流れは速かった。私の時は止まり続けても、ほかの人たちの時は容赦なく流れ、私を追い越していく。まるで呪いのようだと何度思ったかもわからない」
「呪い」
「ええ、呪いね。みずから死を選ぼうとしても、立場や地位が、そして刻まれた呪いが私を救ってしまう。私は生きたくない。これ以上誰かの死をみとっていくなんて、もうたくさん。だからお願い。私を好きと言ってくれるならば。私を想ってくれているのであれば、私を殺して。この首を切り落とし、あなたが代りにこの国を」
「嫌だ!」
カレンちゃんはまた拒絶をした。どうしてわかってくれないのかな?
いやわかってくれていると思う。私がもう生きるのに疲れてしまっていることを、この子はきっとわかっている。
わかったうえでこの子は言っている。生きてほしい、と。もっと一緒にいてほしい、と叫んでいる。
どんなに残酷な答えなのかをわかったうえでの言葉。
私の想いを踏みにじったうえでの言葉であるのかを理解してなお、この子はみずからの気持ちを押し付けて来る。
なんて傲慢なのだろう。
でもその傲慢さがとても心地よく、そして愛おしい。本当にすっかりと絆されてしまっているものだ。
それでもこの子への想いは少しも色あせない。
むしろ執着心を、こんな化け物にも向けてくれることが嬉しくて堪らなかった。
それこそ、それこそこの場で襲われてもいいくらいに。押し倒されて、無理やり抱かれたとしてもいいと思うくらいに。この子が愛おしかった。
でもこの子はそれをしない。だってこの子が抱きたいのはひとりだけ。
私など目に入っていないだろうから。それでも私を生かそうとしてくれている。その心がただ──。
「俺はまだレアさんを抱いていないから、死んじゃダメだ!」
……えっと、おかしいな。いま聞き間違いかな?
なんだかとんでもないことをカレンちゃんが言ったような。
というか、正気かな? えっと正気じゃないよね、カレンちゃん?
「えっと?」
「だ、だからまだレアさんを抱いていないから、死なないでって言っているの!」
顔を真っ赤にしてカレンちゃんはまた言った。
思わず言葉を失ったのは、仕方がないと思うんだよね。
まぁ、嬉しいけど。嬉しいんだけど、これはどうしたらいいのか、お姉さんにはわからないなぁ。
読み終ったあと、というか、最後のセリフで「カレンちゃんさん、なに言っているの!?」と誰もが思うでしょうね。まぁ、それが香恋なので←苦笑
明日こそ十六時更新です。




