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Act3-35 レアさんの笑顔

 

 プクレを食べてすぐだったけど、お昼ごはんを食べることにした。


 普段よりも少しだけ早めのお昼だけど、ご飯と甘いものは別腹だからなんの問題もない。


 ……嘘です。いくらなんでもプクレを食べた後にお昼は結構きついです。


 逆であれば問題はないのだけど、スイーツを食べた後に食事っていうのはちょっと厳しいかな?


 ただまぁ一度言った手前、いまさら食事をしに行かないという選択肢はなかったね。


 たとえお昼を食べに行くというのがただの建て前であっても、一度言った以上は実行しないとどうにも落ち着かなかった。こういうところが融通が利かないってことなのかもしれない。


 まぁ、そんなことはどうでもよかった。


 大事なのは、レアさんとのデートを楽しむことです。


 ……もうね、カレンちゃん、割り切りました。


 希望相手ではないけれど、これはデートだと思うことにしたのです。そしてデートであれば楽しまなきゃ損だとね。


 それにさ。こうしてデートを経験しておけば、後々希望と本番のデートをするときにきれいにエスコートできるからね。


 そのための経験をさせてもらっていると思えば、特に問題はなかった。むしろ問題なんてあるはずがなかった。


 それでも希望本人に言えることではありませんけどね? 


 そりゃ希望は俺のことを誰よりも理解してくれて、俺の意思を尊重してくれる。とてもよくできた嫁さんです。


 だからと言って、決してヤキモチを妬かないわけじゃない。


 というか、ああ見えて結構ヤキモチ妬きさんなんだよね、希望ってば。


 そういうところが俺にとっては堪らなくかわいいんだけどね。


 ただそれを本人のまえで言うと、下手なツンデレを見せてくれる。


 嬉しくないんだけどとか言って、耳まで真っ赤にしてくれるんだよね。


 いやぁ、ツンデレ時の希望はめちゃくちゃかわいくて、日本にいた頃も何度か理性がプッツンしそうに──。


「「旦那さま」、ダメですよ?」


 レアさんがちょっぴりドスの利いた声を出してくれた。


 あくまでもちょっぴりです。思いっきりドスが利いているわけじゃない。あくまでもちょっぴりだ。


 そのちょっぴりだけでも体がびくんと震えてしまったけれど、それでもちょっぴりであることには変わりない。うん、ちょっぴりだけ怖かった。それだけははっきりと言えますね、はい。


「いまは私とデートしているんですから、ほかの子のことを考えたら嫌です」


 レアさんが頬を含まらせてくれる。美人さんって本当に得だと思うよ。


 こういう子供っぽい仕草をしても似合っている、というか見苦しくないもの。


 俺がやったら、確実に見苦しいだけだろうけれど、レアさんほどの美人さんになると見られるどころか、見惚れてしまいそうになるから、困ったものだぜ。


 こんな場面を希望やアルトリアに見られたどうなっていたことやら。特にアルトリアだったら、確実に──。


「きゅーけつされちゃうね、ぱぱ上」


 シリウスが俺の言いたいことを言ってくださいました。


 お昼寝から起きたばかりだというのに、ずばりと現実を言ってくださいましたよ。


 さすがはまいどーたー。素敵すぎる観察眼ですね。


 アルトリアがするであろうことは、うん、間違ってはいないね。


 アルトリアがいまの俺を見たら、確実に吸血されてしまう。


 ただでさえ、今日はすでに致死量ぎりぎりまで吸われているというのに、これ以上吸われたら確実に死ねる。


 おかげでまだ体がふらついているもの。


 これで血を吸われてしまったら、まず間違いなく死ぬね。


 エレーンがいればどうにか、ってあれ?


 そう言えば、エレーンはいつになったら「エンヴィー」に来るのかな?


 着き次第連絡するって話だったのに、いまだに連絡が来ていない。


 ということはまだ着いていないってことなのかな? 


 でもさすがにそろそろ一週間くらいは経つのだから、いくらなんでもまだエンヴィーに着いていないというのはさすがに考えづらい。


 となるとエレーンはいまいったいなにをして──。


「むぅ。また私以外の子のことを考えていますね? 考えちゃダメって言ったばかりなのに」


 レアさんが機嫌悪そうに頬を膨らます。完全にヤキモチです。


 ごちそうさまでした。なんて本人のまえで言えるわけがないので、とりあえずごまかそうかな。


「いや、別にそういうわけでは」


 嘘だけどね。嘘を吐いていますけど、どうにか信じてもらおうとした。


 でも俺はレアさんを甘く見すぎていたようだね。


「嘘ですね?」


 思わずどきりとしたよ。


 なんでバレたかな、と。露骨に目を逸らしたわけじゃなかったんだけどな。


 だというのに気づかれてしまった。いったいなんで気づかれたんだろう。ちょっと思いつかないな。


「なんでそう思うんですか?」


「わかりますよ。お慕いしている人のことであれば、簡単にね」


 レアさんは含み笑いをして俺を見つめてくれた。


 冗談だとは思うのだけど、本当にどこまで冗談なのかがわからない。


 希望が言うには本気だって話なのだけど、俺にとってレアさんは憧れの人、いや憧れの人すぎてかえってそういう対象には見られない。


 本人を前にして言えることではないよ? 


 でも実際憧れの印象が強すぎてそういう対象にはどうしても見ることができない人だった。


 そう、そのはずなのだけど──。


「な、なにを言っているんですか」


 俺は完全に慌てていた。


 慌てるを通り越して挙動不審だよ。


 これでどの面下げてそういう対象には見ていないって言えるんだか。


 我ながら少し恥ずかしい。


 でもこれはレアさんが不意打ちをするからであって、俺の本心というわけではないよ? 


 ほ、本当ダモン!


「ふふふ、かわいい。食べちゃいたいくらいにかわいい。……これから先なにがあっても、そのままのあなたでいてね? カレンちゃん」


 レアさんは俺の反応を見て楽しんでいたけど、急に悲しそうに表情を歪ませた。


 それがどういうことなのか、いまいちわからない。


 そもそも悲しむような要素はいまなにもない。


 なのになんで悲しそうにしているのかな。


 わからない。レアさんがどうしてそんな反応をするのかが俺にはわからない。


「レアさん?」


「お腹も減りましたし、そろそろ行きましょう。お姉さんが奢ってあげます。なにが食べたいですか?」


 困惑する俺を置いて、レアさんはにこやかに笑っていた。


 さっきのレアさんはすべて幻だというかのように。


 ただにこやかに笑っている。


 笑顔という仮面ですべてを覆い隠している。


 覆い隠す仮面を剥ぐことは俺にはできない。


 だってレアさんの顏に書いてあるんだもの。


 これには触れるな、って。まだ触れちゃいけないって。


 そう書かれているのがはっきりと見えるんだ。


 だから触れられない。


 触れたらきっと俺は後悔するだろうから。


 なにせわざわざレアさんが忠告してくれているんだ。


 その忠告を無視すればどうなるかくらいは、なんとなく理解できている。


 だから触れない。でもいつまでも触れないというわけにはいかなかった。


「わぅ、わたしお肉がいい!」


 そんな空気をあえて読まなかったのか、それとも単純に天然さんなのかな、シリウスはお昼に食べたいものをリクエストしてくれたよ。


 うん、間違ってはいないね。


 レアさんが食べたいものを聞いて、それに答えたのだから間違ってはいないよ? 


 たださ、いまそれを言うのはどうかと思うんだよね、シリウスちゃんや。



 わかっているよ? それがうちの子の魅力であることはさ。


 ただもうちょっと場の雰囲気を読むとかしてほしいな、とぱぱ上は思うわけですよ。


 言っても意味がないってことはわかっていますけどね!?


「そうね。じゃあお肉にしましょうか。ちょうどいいお店が近くにあるから」


「本当、レアまま!?」


 シリウスが目を輝かせて尻尾をふりふりと振っている。


 くっそ、めちゃくちゃかわいいんですけど!? 


 おのれ、シリウス。さすがはまいどーだーだ。


「うん、本当だよ」


「わぅわぅ、レアまま大好き!」


 抱っこされたまま、レアさんの胸に顔をぐりぐりと押し付けるシリウス。


 こら、そんな羨ましいことをするんじゃない! って違う! 落ち着け、俺。


「では、行きましょう、「旦那さま」」


 片手でシリウスを抱っこしながら、レアさんが手を差し伸べてくれた。


 差し伸べられた手を俺は掴んだ。その手は思った以上に小さく、そして頼りない。


 でもとても温かかった。まるでレアさんを象徴しているかのように思えてならなかった。

 レアさんが希望をすごい勢いで食っていきますね。

 でも交代はないよ? ないったらないの! めいびー←ヲイ

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