表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/2073

Act0-31 「魔大陸」と「聖大陸」の関係

「第一に、勇者と言えども、強者とは限りません」


「勇者なのに?」


「ええ、勇者なのにです」


 はっきりと言い切られた言葉に、俺の思考は止まった。意味がわからなかった。勇者っていうのは、基本的にめちゃくちゃ強い人というイメージが俺にはあった。RPGだと、いろんな職業を経験して、最終的にたどり着けるというイメージだ。つまり勇者になるということは、歴戦の強者ということ。その強者のはずである勇者が、強くない。うん、やっぱり意味がわからない。もしかしたら、自称勇者ということなのだろうか。


「自称勇者ですか?」


「いえ、れっきとした勇者です。「天王剣クロノス」に選ばれたからこそ勇者と名乗れますから」


「クロノス?」


「エルヴァニアにある選定の剣のことです。その剣を抜けた者が、当代の勇者となる習わしがあるのです」


「へぇ。でも、その選定の剣を抜けたのに、弱いんですか?」


「どういうわけか、勇者の質は年々劣化していましたので。当代、勇ちゃんさんは例外ですが」


 自称勇者ではなく、れっきとした勇者が弱い。やっぱりいまいち事情が呑み込めない。勇者の質が劣化しているというのは、代によってはありえるだろう。けれど、劣化し続けているというのは、どうにも頷けない。そもそも劣化し続けている時点で、選定の剣を抜くことはできないはずだ。それが選定の剣を抜けている。しかしその勇者は代を重ねるごとに劣化していく。反対であれば、まだ理解できるけれど、劣化となるとどうにも事情が呑み込めなかった。


「そのあたりの事情は、私にもわかりません。勇ちゃんさんも、よくわからないようですし。どちらにせよ、「七王」たちにとって、勇者というのは、遊び相手みたいなものです。どんな勇者であろうとも、「七王」には敵わない。それがこの世界の事実です。なので、「七王」にとって、「七王討伐」を掲げる勇者というものは、「いまから遊びに行くから待っていて」と言われているようなものでしかないのです。そんな遊び相手を提供してくれるのですから、逆に「魔大陸」側は「聖大陸」に感謝していますよ。ゆえの容認ですね」


 なんて言えばいいのかわからない内容だった。


 つまりは圧倒的な力量差があるからこそ、「聖大陸」側がなにをしても、「魔大陸」側にはなんとも思わないということか。「聖大陸」側が必死に攻撃を仕掛けても、「魔大陸」側にとっては、子供がじゃれついているようにしか思えないのだろう。


 そりゃあ、「七王討伐」を容認もする。できるわけがない、と最初からわかっているからこその容認なのだろう。傲慢とも言える態度ではあるが、その傲慢さが仇になることはない。むしろ代を重ねるごとに、相手の質が下がっていくのだから、どんなに気を引き締めても、傲慢な態度になってしまうだろう。逆に、かえって相手を気遣ってしまうことにもなるだろうな。勇者にとっても、「聖大陸」側にとっても、屈辱的なことではあるだろうが、その事実を覆すことはできないでいる。


「……容認もしますね、それは」


「怒らないんですね、カレンちゃんは」


「怒る?」


「いま私が言ったのは、人間を小ばかにするようなことです。もっと言えば、人間の尊厳を踏みにじることです。同じ人間であるあなたであれば、怒るのも当然かと思いますよ?」


 言われたことは尤もだった。エンヴィーさんが語ったことは事実だが、それは人間という生き物の尊厳を踏みにじるようなものだ。それもひとりではなく、大勢の人間の尊厳をだ。普通は、悲憤に駆られる。でも、俺はそうならなかった。


「怒ったところで、どうにもなりませんからね。それに見知った相手がそういう扱いをされているのであれば怒りますけど、相手は顔も名前も知らない相手です。そんな相手の分まで怒る気なんてありませんよ」


 ひどいことを言っているとは自覚しているけれど、顔も名前も知らない相手がどうなろうと俺の知ったことじゃない。目の前でそういうことをされていれば、さすがに止めようとは思う。でも俺の目の前でそういうことは起きていない。なら俺が怒る必要はない。それに、俺の感覚が言うと、ひどいのは「聖大陸」側のように思えた。


「人間の尊厳を守ろうとしている、と言えば聞こえはいいんでしょうが、俺には「聖大陸」のしていることの方が間違いだと思う。あくまでも異世界人の俺が、無責任な立場の者が言うことでしかないんですが」


 俺には「聖大陸」側のしていることの方が、よっぽど問題のように見える。死活問題であることはわかった。「聖大陸」と「魔大陸」の関係が、飼い主とペットとさほど変わらないこともわかった。だからと言って、すぐに武力で解決しようとするのはどうなんだろうか。たとえ、「七王」にとっては、子供がじゃれついているとしか思えないことであっても、武力闘争で現状を変えようとするのはどうかと思う。


 地球の歴史で顧みても、武力闘争の結果、現政府を打倒し、新政府になる場合はある。その場合、たいていは打倒される政府よりも、新政府の方がましだった。それを感覚でわかっているからこそ、民衆は新政府側に加担する。逆に加担しない者は、現政府から富を与えられている。その富を奪われかねないのだから、加担するわけがない。下手に加担して、新政府側が敗れれば、それこそ目も当てられなくなってしまう。ゆえに武力闘争は血みどろの結果になることが多い。勝っても負けても、被害は甚大なものになってしまう。


 この異世界では、勇者にすべてを押し付けているみたいだけど、やっていることは、地球の闘争となんら変わらない。むしろ自分たちではなにもせず、勇者になにもかもを押し付けている分だけ、悪質だと言える。地球の、質よりも量が物を言う戦争と比べて、こっちの戦争がその真逆であろうことから、勇者に押し付けるのは仕方がないことなのかもしれない。


 でもどんなに仕方がないことであっても、話し合いもせずに、武力で全部を片付けようとする、その姿勢が俺は気に食わないし、いまのところ俺は、「聖大陸」の王さまたちよりも、「七王」さんたちの方が好きだった。その好きな人たちに迷惑をかけている時点で、「聖大陸」側に味方しようとは思えなかった。たとえ「七王」さんたちの考えが、人間という種の尊厳を踏みにじっているようなことであったとしても、俺は「聖大陸」側の勝手な理屈を、受け入れることはできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ