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Act3-32 独白

 

 変わった子だ。


 この子は本当に変わっている。


 私の思惑など、とっくに気づいてもなお私とともにあろうとしてくれている。本当に変わった子だ。


 でもそんなこの子が誰よりも愛おしくなっていた。


 年下にもほどがあるとは思う。


 子や孫どころではない。


 玄孫さえも超えている。


 それくらいに生きてきた時間が違っている。


 男勝りなかわいい少女。


 スズキカレン。


「彼女」によく似た少女。


「彼女」との繋がりはわからない。


 もしかしたら生まれ変わりなのかもしれないと何度思ったことだろうか。


 初めて見たときは、目を疑った。


 生まれ変わりだとしか思えないほどに、「彼女」とよく似ていた。


 おそらくはゴンも同じことを思ったはずだ。


 あまりにも亡き主に似た姿に、あの優しきドラゴンロードは心を動かされたはずだ。


 だからこそ当代の主である竜王にみずから願い出たのだろう。


 どうか彼女の護衛をさせてほしい、と。彼の方はなにも言わずに頷いたと聞いている。


 それがどういう感情によるものなのかは、私にもわからない。


「彼女」の血に濡れた手で、この子のためになにを為そうとしているのだろうか。


 私にはわからない。


 彼の方がなにを考えているのかも。


「彼女」を心に住まわせた彼の方が、いや、あの男がなにを考えているのか、まるでわからない。


 それだけあの男は自分の心を閉ざしてしまっている。


 閉ざすだけのものを背負わされ続けてきたうえでのことだった。


 ある意味では当然のことだったとは思う。


 あの男が浮かべる笑顔の下には、空虚さだけがあることを、「私たち」は知っている。けれどほかの誰もが知りえない。


 それだけあの男はみずからの感情を封じていた。


「彼女」の血に塗れたことをいまでも思い出していることを、「私たち」は知っている。


 知っているが知らない。知らないけれど知っている。


 竜王ラース。


「英雄を屠りし魔王」がどんな思いでいままでを生きてきたのかを。


 そしてこの子の姿を見たとき、目には映らぬ涙を流していたことを。


「私たち」は知らず、だが知っている。


 知りながらも、私は私の思惑のままに動いていた。


 為すべきことは、愚か者への断罪。そしてこの子への支援。


 できることであれば、この手でこの子を幸せにしたい。


 誰の目にも触れず、誰とも触れ合うことのない場所へと閉じこめ、私だけのものにしたい。


 私だけの「女」にしてあげたいし、私自身この子の「女」になりたくて仕方がなかった。


 だってそれがこの子にとっての最良だから。


 それ以上の幸福をこの子はこの世界で掴むことはない。掴められないようにされているのだから。


 思えば、この子は哀れな子だ。母を想い、慕っている。


 けれどその思慕が届くことはない。


 母親にとって、この子は「舞台装置」でしかない。


 それも使い古された「ガラクタ」の代りとして迎え入れられた新しい「舞台装置」でしかなかった。


 たとえどんな言葉や思いで飾り立てようとも、現実は変わらない。


 母親にとってのこの子はただの「道具」でしかない。


 哀れだった。哀れで愚かで、でもとても優しい子。そんなこの子が私には堪らなく愛おしい。


 けれどその運命から断ち切ってあげることが私にはできない。


 私もまたこの子の母親にとっては「舞台装置」にしか過ぎない。


「異物」となったものを排除するための「切り札」のひとつ。


 それが私。いや、「私たち」だった。


 おかげで生きていたくもない日々を無用に過ごすことになってしまった。


 王なんて仕事はしたくもなかった。


 だがそうしないと民草が困る。


 王のいない国になってしまったのは私のせいなのだから。


 だからこそ責任は果たさなければならない。


 そうして「私たち」は王となり、いまままでを過ごしてきた。


 でもそれもそろそろ終わりかもしれない。


「異物」が動き出した。「異物」の強大さは私たちが誰よりも知っている。


 もしかしたら逆に排除されるのは「私たち」になるのかもしれない。


 それだけ「異物」の力は計り知れない。


「魔王」に最も近き存在であるあの男でさえも敵わないかもしれない。


 世間では人と言う枠組みの中では、「私たち」に敵う者はいないと言われている。


 たしかに間違いではない。


 凡百がどれだけ並び立とうとも、腕の一振りですべてが終わる。


 いや終わらせることができてしまう。それは「異物」もまたわかっていることだ。


 しかしそれでもなお「異物」は動き出した。


 なにが狙いなのかはわかっている。あれの狙いは昔からたったひとつだ。


 そのせいでこの子は「異物」に狙われてしまっている。


 でもそのことをこの子は知らない。


 知らないままでいるのが一番いいとは思う。


 伝えない方がいいとは思う。


 伝えず、なにも知らないままがこの子にはとっては幸せなのかもしれない。


 だがそれでもいつかは知ることになる。


 この世界のすべてを。


 崩壊への道を辿りつつあるこの世界の真実を。


 この子はいずれ知ることになる。


 そして真実を知ったとき、この子はきっと母親の思惑通りに動いてしまう。


 愛する者を置いて、自ら死地へと赴いてしまうだろう。


 なんだかんだと言いつつも、この子は優しい子だ。


 誰かを傷付けることだって本当はしたくないはずだ。


 けれど傷付けなければならない。


 傷付けなければ、いや相手を食い殺すつもりでなければ、この世界で生き残ることなどできないのだから。


 それでもなおこの子は手を差し伸べるのだろう。


 あの日、あのとき、「彼」や「彼女」がしてくれたように。


 でも「彼」も「彼女」も優しすぎた。


 だからこそ、残酷なこの世界に食い物とされてしまった。


 自分が恋をしたふたりはもういない。


 だからこそこの子だけは守ってあげたい。


 いや守らなければならない。


 それがなにもできなったふたりへのせめてもの償いであり、最後の恋のためなのだから。


「レアさん、レアさん?」


 声が聞こえる。隣から聞こえる声。


 見れば最後の恋の相手が、カレンが立っていた。


 あまりにも年下すぎる相手。コアルスにはそう言われてしまっていた。


 それでも想わずにはいられない。「作られた英雄」だったふたりとよく似たこの子を。


 ふたりとは違い、本物の「英雄」となりうるであろうこの子を、愛せずにはいられない。


「なんですか? 「旦那さま」」


 くすりと笑いながら、カレンを見やる。


 自分の心の中を見せるわけにはいかない。自分の心を知られるわけにはいかない。


 いつものように。そう、いつものように笑顔という仮面で覆い尽くせ。


 醜き心を。「大罪」で覆われたこの心を覆い隠せ。でなければ、この子まで私は汚して──。


「ちゃんと笑ってよ」


「え?」


「そんな繕った笑顔は嫌だよ、俺。レアさんのレアさんらしい笑顔を見ていたいもん」


 頬を膨らませながら、カレンが言う。


 思わぬ言葉に声が出なくなってしまう。


 ああ、この子には敵わないかもしれない。


 閨であればまだしも、こんな場所で何食わぬ言葉で敵わないと思わされてしまうなんて。


 ああ、どうして私は「英雄」という存在にこうも弱いのか。


 いや、「英雄」に弱いのではなく、弱い相手がすべて「英雄」だったということなのか。


 どちらにせよ、私はこの子には勝てそうになかった。


「ふふふ、これは参りましたね」


「むぅ、やっぱり繕っていたんだ? レアさんがデートとか言っていたくせに、自分から笑顔を浮かべないとかダメだと思うよ?」


「それはごめんなさい。でも私にもいろいろとありまして」


「いろいろって?」


「今夜どうやって「旦那さま」をご誘惑すればいいかなとか。下着姿と産まれたままの姿、もしくはバスロープだけを纏ったままがいいのかと考えていましたから」


「そ、そういうことをこういう場で言わないでよ!」


 カレンが顔を赤くする。とてもかわいらしい。まるで果実のように顔を赤くする姿もまた愛おしい。


「では、閨でだけお話するとしましょうか。まぁ閨では「旦那さま」は私の上でケダモノのように腰を」


「だーかーら! そういうことを言わないでってば!」


 カレンが両手を突きあげながら叫ぶ。その姿もまた愛おしい。


 だからこそ守りたい。守ってあげたい。そう思わずにはいられない。


「ふふふ、承知いたしました。「旦那さま」」


 くすくすと笑いつつ、カレンの頬に口づけを落とす。


 いまだけは、そう、いまだけはなにも知らないでいてほしい。


 幸せな夢の中にいてほしい。現実という悪夢が牙を剥くそのときまで、健やかに過ごしてほしい。


 そう願わずにはいられない。たとえ悪夢の一端が私であったとしても。


 それでも幸せであってほしいと願わずにはいられなかった。

 以上レアさんの独白でした。

 しかし、本当にレアさんのヒロイン化が止まらない←汗

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