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Act3-30 レアさんのためにできること

 本日は二話更新の日です。

 なのでさっそく一話目です。

 いつもよりも長めですが、できればお付き合いをば←汗

 希望とレアさんの不毛な争いはどうにか終わってくれた。


 というか、営業時間になってお客さんが並び始めたから、やめざるをえなかったんだけど。


 でもそれまでの間、俺の羞恥心はごりごりと削れていましたけどね?


 なにせ希望もレアさんもなぜかそれぞれに知っている俺のことで、言い合いをしてくれたからね。


「香恋は泣き顔がすごくかわいいんですよ!? 普段は男の子みたいな性格なくせして、泣くと女の子になっちゃうんだから!」


「そんなのは知っています! お姉さんが少し意地悪しちゃうだけで涙目になってオネダリしてくれますからね! ならあなたは知っていますか!? 「カレン」は添い寝をしてあげるとまずは胸を触ることに!」


「幼なじみでお嫁さんだから当然知っているもん! 胸を揉んだあとに胸に顔を埋めるように抱き着いてくれるもん! 顔を埋めながら、嬉しそうに笑ってくれることも知っているし!」


「むむむ、やりますね、生娘ちゃん。ですがそれならこれは──!」


「タレ乳おばさんこそ! だけど──!」


 ふたりは誰も得をしない俺情報を延々と言い合ってくれたよ。


 なかには俺も知らなかったことも含まれていましたけどね? 


 というか添い寝をしていると胸を触るとか初耳なんですけど? 


 え、なにそれ、実際に俺やっているの?


 というか、希望はともかくとしてなぜレアさんがそのことも知って、って、あー「星の小人亭」でかな? 


 って待って。あのときたしかレアさんってば、全裸だったような。


 ということは、俺は産まれたままのレアさんの胸に触って、自ら胸に飛び込んでいった、と?


 ……いかん、希望に知られたら殺されてしまう。


 完全に浮気認定されてしまうよ。


 そもそもこの状況をアルトリアに知られでもしたら、確実に吸血鬼モードになって──。


「くすくす、そんなことをしていたんだぁ~?」


 体が硬直した。見るな。振り返るな。振り返ったら死ぬ。


 でも悲しいことに俺の体は自動的に振り返っていた。そしてそこにいたのは──。


「お師匠様にも手を出していたんだねぇ~? 浮気は甲斐性とか言うけれど、ちょっといただけないかなぁ~?」


 吸血鬼モードになったアルトリアだった。


 いったいいつのまに帰ってきたんだろう? 


 そんなことを考えていると、アルトリアがきらりと光る犬歯を覗かせた。


「ま、待って! これは違う、違うんだ!」


 必死に誤解であることを説明しようとした。


 そもそもレアさんの場合は、アルトリアと知り合う前だからノーカンだし、希望は俺の嫁だから別にそういうことをしたとしてもなんの問題も──。


「問答無用だよ?」


 アルトリアが笑った。そして──。


「「旦那さま」の浮気者ぉぉぉーっ!」


 アルトリアが叫びながら俺の首筋に思いっきり噛みついてくれました。


 その後俺がどうなったのかなんて言うまでもありません。


 今日も元気に(吸血的な意味で)捕食されました。


 おかげで俺は営業開始した時点でダウンです。


 アルトリアってば、なんで毎回致死量ギリギリまで吸血しますかね!?

 

 そのうち死ぬよ? 俺死んじゃうよ? 一歩間違えたら死ぬからね?


 なのになぜに毎回致死量ギリギリなんでしょうね? 本当に勘弁してよ。


 まぁ、そのおかげで──。


「大丈夫、香恋?」


「だいじょばな~い」


「……こんな幸せそうな大丈夫じゃないって初めて聞くよ」


 希望が膝枕をしてくれているからね。


 希望はコック長であるはずなんだけど、アルトリアがやらかしてくれたおかげで、俺を膝枕するという役目をレアさんから仰せつかったからね。


 てっきりいままでの流れだと、俺を膝枕する役目を争うのかなと思っていたけれど、まさかの希望指名をレアさんがしてくれるとは。


 ふだんは、のんびりお姉さんだけど、やはりレアさんはレアさんだ。俺がひそかに憧れていたお姉さんだよ。


 最近はねじがぶっ飛んでいるけど、それでもあの人が俺の憧れた女性であることには変わらない。


 レアさんが蛇王エンヴィーとしてではなく、町娘のレアとして街に繰り出すのは、食いしん坊としてではなく、王として市勢を見たいからなんだと思う。


 ただ王として街に降りても本当の姿は見えない。


 王には見せないように隠されてしまうから。


 だからこそ「レア」という仮面を被っている。


「レア」と「蛇王エンヴィー」はほぼ別人だ。……最近は「レア」の部分が強くなっているけど。


 とにかく、レアさんとエンヴィーさんとでは、ほぼ別人だ。


 レアさんは朗らかで優しいお姉さんだ。やや痴女っぽいけど。


 エンヴィーさんだと優しいけど、本質的には冷酷だった。俺はまだその冷酷さを間近では見ていない。


 ただ片鱗は見ていた。今回の屋台の件だって、普通に考えれば俺たちが稼ぐ必要はない。


 なにせ、俺たちにとっては「蛇の王国」の事情なんざどうでもいいことだもの。


 はっきりと言えば他人事でしかない。俺たちが必死に頑張る必要はないんだ。義理はあっても義務はないってこと。


 ただ今回は希望に働く経験と労働の喜びを教えるにはちょうどいいから、屋台という形を取っているけど、別に屋台で稼がなきゃいけないわけでもない。


 そもそも俺たちはあくまでもククルさんに言われたから考えを述べただけだ。アイディアを思いつけと命じられたわけじゃない。


 だからこんな屋台なんて本来はしなくても問題はないんだ。


 ただ乗り掛かった船だからやっているだけのこと。


 でも、いつの間にかやらなければならない状況になっていた。


 それはたぶんレアさんがそういう方へと誘導をしたから。


 いつの間にかにやらなければならない状況に持ち込まれる。


 いったいいつから、こうなったのか。いやどこから仕込まれていたのか。それさえも読みきれない。


 そしてわざわざムガルさんの店の前に屋台を持ってこさせたのは、たぶん合法的にムガルさんを潰すためなんだと思う。


 ムガルさんはどこか決定的なところで、レアさんの怒りを買ってしまったんだ。それも一切の挽回のチャンスも与えさせないほどの深い怒りを。


 本当に恐ろしい人だよ。


 ふだん浮かべている笑顔の下で、なにを考えているかもわからない。


 もしかしたら、俺にちょっかいを出しているのも、ムガルさんを挑発するためなのかな。


 わからない。レアさんがどこまで考えているのか、俺にはわからない。


 でも、わかることもある。というか知っている。


 レアさんは、いや、レアさんだけじゃなく、エンヴィーさんとしてもか。あの人は弱い人なんだ。


「ごめんなさい」


 添い寝をされた日、たまたま夜中に目覚めたとき、あの人は泣きながら謝っていた。


 悪い夢を見ていたのだと思う。何度も何度もあの人は誰かに謝っていた。


 わずかに聞こえたのは「お姉さん」という言葉だった。


 誰のことなのかはわからなかった。


 起こすわけにもいかなくて、俺にできたのはただ謝り続けるレアさんを見つめ続けることだけだった。

 

 そうして謝り続けた最後に、あの人が謝ったのはほかならぬ俺にだった。


「ごめんね、カレンちゃん」


 それがなにに対してなのかはわからなかった。


 レアさんはなぜ謝っていたんだろう? 俺に謝る必要があることってなんだろう?


 思いつくことはある。いま思えば、いまならあれが明らかにおかしいってことはわかる。


 モーレのことだ。レアさんは警備の穴を教え、街から抜けだす方法を教えてくれた。それは追われているモーレを間接的に助けようとしてくれたということだって俺は思っていた。


 でも、あれは本当に助けようとしてくれていたのかな?


 あの日、レアさんは大通りをまっすぐに進んで、正門から出られると言っていた。でも、正門から逃げられるとは言っていなかった。


 会いに行けとは言っても、一緒に逃げろとは言っていなかった。


 まるであの人の目的は最初からモーレを町の外に出すことだったみたいに思える。


 考えすぎだとは思う。でももしモーレの死までもがレアさんの計算の内だったとすれば? 


 そのための刺客がベルセリオスさんだったとしたら? 


 そもそもなぜベルセリオスさんはあのとき、あの場所にいた? 


 たまたま通りかかっただけなのか? 


 あれっきり会っていない人ではあるけれど、あんな夜中に街道にたまたまひとりでいたというのは、明らかにおかしいことだった。


 あのときは、いろんな助言やいま使っているアイテムボックスをくれたり、モーレを送るための魔法を教えてくれたりしてくれた。


 たまたま居合わせた人が、めちゃくちゃ強い人だった。その可能性はどれくらい天文学的な数字になるんだろう? 


 これがお話であれば、俺が日本にいた頃よく読んでいたネット小説のサイトの一大ジャンルである「異世界転移ないし異世界転生」物であれば、可能性はあったと思うよ。


 助けが欲しいときに最高の助っ人が登場する。「異世界」物ではなくても、古今東西のお話にはわりとつきものだからね。


 でも現実的に考えた場合、あまりにもありえなさすぎる。


 いっそのこと、モーレを殺すためにレアさん、いやエンヴィーさんが差し向けた刺客だったとした方がまだ説得力がある。


 ただベルセリオスさんは、エンヴィーさんの依頼を達成はできなかった。モーレはシリウスの「はは上」に殺されてしまったからだ。


 その責任を取らされて、ベルセリオスさんはもしかしたらすでにエンヴィーさんによって処刑されている可能性だってある。


 レアさんならともかく、エンヴィーさんならやりかねないと思う。話を聞く限りは、蛇王エンヴィーという人はそれほどまでに冷酷な女性だった。


 でも冷酷だからと言って、心までもが冷たいわけじゃない。


 冷酷なふりをしているだけってこともある。


 そしてエンヴィー、いや、レアさんはたぶんふりをしているだけなんだと思う。


 だからこそ泣いていた。泣きながら謝っていた。


 それはきっといままであの人が切り捨ててきた人たちすべてに対して、あの人は謝り続けていた。


 そんな夜をあの人はいったいどれくらい乗り越えてきたんだろうか?


 一度起きてしまったら眠れなくなる夜をあの人はどれだけ一人で過ごしてきたんだろうか? 


 俺には想像することしかできない。その想像をしただけでも俺は震えあがってしまう。


 それくらいにあの人が過ごしてきた日々は過酷なものなんだと思う。


 少なくとも俺にはできない。そんな日々をあの人はどれくらい──。


「レアさんのこと、考えているでしょう?」


 どきりとした。見上げると希望は笑っていた。その笑顔はとても優しい。


「……別に」


「ごまかさなくてもいいよ。私やアルトリアとはまた別で、レアさんもあんたにとっては大切な人なんでしょう?」


 大切な人。たしかにレアさんは大切な人だ。


 でも希望ともアルトリアとも違っている。


 どう言えばいいのかな。俺にとってあの人は──。


「無理をしてほしくないな、って思っている」


「うん」


「俺が知っているレアさんとみんなが語るエンヴィーさんはまるで別人だよ。でも俺は知っている。あの人は冷酷であろうとして、みずから傷ついてしまっている。だから無理をしてほしくない」


「そう」


「俺はレアさんに笑っていてほしい。希望やアルトリアとはまた別だけど、あの人にも笑っていてほしい。無理をしておっかない仮面をつけないでほしい。優しい笑顔を浮かべていてほしいんだ」


「そっか」


 希望は撫でるように髪に触れながら話を聞いてくれた。


 言った内容は浮気と取られても仕方がないことなのに、希望は怒ってはいなかった。むしろ嬉しそうに笑ってくれている。


「私は香恋なら助けてあげられると思う。香恋だからこそレアさんの闇を払ってあげられるんじゃないかな。だってレアさんったら本気で香恋のことを狙っているし」


「いや、あれはきっと」


「ううん。あれはレアさんの本音だよ。いろいろと考えていることはあるだろうけれど、香恋に対してのことは、香恋への気持ちを語っているときのあの人の目は、私とアルトリアと同じ目をしているもの」


「希望やアルトリアと?」


「うん。香恋には、向けられている香恋にはわからないと思うけれど、私やアルトリアにはわかるよ。ああ、私たちと同じなんだなぁって。そう思うもの」


 希望は穏やかに語っていた。レアさんの話のはずなのに、希望から告白されているようで、なんかむず痒い。でもそうか。希望とアルトリアと同じ、か。


「……ねぇ、希望」


「うん、わかっている。しばらくはレアさんと一緒にいてあげて。その間アルトリアは私が抑えておくよ。あんな風に」


 くすりと希望が笑った。その視線の先には──。


「アルトリアさん! またですか!?」


「ご、ごめんなさい! メイド長!」


「あなたはいったい何枚お皿を割れば気がすむのですか!? お皿一枚といっても、決してタダではないんですよ!?」


「そ、それは重々承知していまして」


「わかっているなら、もっと気をつけなさい!」


「は、はいぃ!」


 アルトリアが希望の補佐をしているメイド長さんに怒られていた。


 レアさんによって希望の代りにキッチンへ入ることになったアルトリアだけど、希望とは違って家事が壊滅的なこともあり、キッチンからはメイド長さんの怒号が響きっぱなしだ。


 数えているだけでもすでに十数枚は皿を割っていた。安物のお皿とはいえ、経費がかさんでいきますね、はい。


 ちなみにアルトリアもメイド服です。


 本人曰くメイド姿のシリウスを見て理性がぶっ飛んだそうで、自分もメイドをしたいと言い出してくれたよ。


 なのでアルトリアもヨーロピアンスタイルなメイドさんになっています。


 白髪に赤目のメイドさんとは。これはこれでなかなかなのだけど──。


「つ、次こそはちゃんとして」


 アルトリアがなにやら気合を入れた、そのとき。


 たまたま積まれていたお皿へと振り上げていた腕が当たってしまう。


 そして当然のように皿はバランスを崩し、地面へと向かって倒れ、そして──。


 パリィーンという甲高い音が響き渡った。


「ア・ル・ト・リ・ア・さ・ん? 私が言っていたことを聞いていましたか?」


「ご、ごめんなさぁーい!」


 メイド長さんの怒号とアルトリアの悲鳴じみた謝罪の声が響き渡った。


「……まぁあんな感じでどうにか抑えておくからさ、香恋はレアさんを助けてあげてね」


 顔を引きつらせながら笑う希望。


 いろいろと前途多難ではあるけれど、アルトリアを引き受けてくれるのであれば、俺はレアさんのために動くことができる。


 なにができるのかはわからないけれど、少なくとも俺だからこそできることはあるはずだ。


「なにができるかはわからないけれど、精いっぱい頑張ってみるよ」


「うん。頑張ってね、私の」


 大好きな旦那さん。


 髪をかき上げられ、額にキスされた。


 希望は笑っている。でも俺は笑いどころじゃない。


 顔に血が集まっていくのを感じながら、希望にここまでしてもらったのだから、踏ん張らなきゃいけない。

 

 レアさんのためになにができるのか。俺は考えていった。

 続きは二十時になります。

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