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Act3-29 続・正妻戦争?

 レアさんと希望が俺を取り合って口喧嘩を始めてしまった。


 まるでアルトリアとのやりとりを見ているみたいだったね。


 レアさんってわりとアルトリアと似ているのかもしれない。いわゆるヤンデレ系なのかもしれない。


 というか、言動がわりとアルトリアと通ずるところがあるんだもの。


 いわばアルトリアの未来の姿のようなものなのかもしれないね、レアさんってば。


 ということはこのままずっと希望とアルトリアは喧嘩をし続けるってことなんだろうね。


 なにせアルトリアの未来形とも言えるレアさんと喧嘩をしてしまうんだもの。


 希望とアルトリアがこのまま歳を重ねてもきっと同じ結果になるんだろうな。そんなことをぼんやりと考えていた、そんなときだった。


「そこの男勝りの少女!」


 おそらくはこの騒動の発端であろうひょろっとしたおじさん、えっとムガルさん? がなぜか俺を指差してきた。


 人のことを指差しちゃダメって教わらなかったのかな? というか誰が男勝りの少女だよ? 俺はそんな男勝りで……いや、男勝りか。十分すぎるくらいに。


 普通の女の子は子供の頃から喧嘩で男の子とやり合って勝ちはしない。


 それどころか男の子と混ざって遊びもしないよね。


 それを考えると、俺って昔から男勝りだったんだろうね。


 というか一人称が「俺」な時点で男勝りかね。とりあえず、確認はしておこうかな。


「えっと?」


 俺のことですかと自ら指を指す。ムガルさんは憤慨気味に頷き言った。


「決闘を申し込む!」


 ……なにゆえ? うん、なにゆえにこの人は俺に決闘を申し込んできたんだろうか? 


 だって俺とムガルさんって争い合う理由ってなくない? 


 そもそも俺この人のことほとんど知らないんですけど? 


 ひょろっとしているくらいしか俺にはこの人に対する情報がないんですけど? 


 というかこの人なにしに来たのかな? お腹でも空いているの? 


「えっと、ムガルさんでいいんですか?」


「そう、私は料理人ムガルだ!」


 胸を張ってムガルさんは言った。


 ああ、そっか料理人さんか。ん~。ますます決闘する意味がわからない。


 なんで俺なのよ? 俺は別に料理人ってわけじゃないんですけど? 


 できてもせいぜい肉をうまく焼くくらいで、希望が作るような料理は一切できませんけど? 


 なのになんで料理人さんが俺と決闘したがるのよ? 


 いや決闘を申し込もうとする意図はわかるよ? 


 たぶん希望の屋台がムガルさんのお店の経営状況を逼迫してしまっているんだろうね。



 その窮地を打破するために、決闘を申し込んでいるんだと思う。


 でもさ、それなら俺ではなく希望に対して宣戦布告しない? 


 なんで料理人でもない俺に宣戦布告をしてくるのよ、この人。宣戦布告をする相手を間違えているでしょうよ。


「えっと、なぜ俺、じゃなく私に?」


 暗に俺は料理人ではないですよと言ってみたのだけど、ムガルさんの答えは変わらなかった。


「貴様ではないと意味がないのだ!」


 レアさんをちらりと見やってからムガルさんは言い切った。


 その行動を見て察しがつきました。でも本当かどうかはわからないから、レッツ実験。


「レアさん、レアさん」


「なんですか、カレンちゃん?」


「ん~、ハグ」


 レアさんを手招きしてから、思い切って抱き着いてみました。


 おおぅ、思った以上の圧倒的なブツの感触が。


 というか顔がブツに埋まってしまったよ。


 これはなかなか。じゃなくて、ムガルさんの反応は──。


「き、貴様、なにをして」


 ムガルさんはぷるぷると震えていた。


 どうやらおかんむりのようだ。


 でもこれではっきりとしたよ。


 この人レアさんに惚れているね? 


 でもレアさんはどうにも俺にご執心だから、ジェラシーを抱いたというところかな? 


 でレアさんにいいところを見せるために、俺をコテンパンにしたいってところかな? 


 まぁジェラシーを抱かれても問題はないというか、別に構わないけれど、ちょっと姑息すぎない? 


 俺明らかに料理人じゃないじゃん。調理なんて一切していないっていうのに、それでも決闘を申し込むとか、自分の有利なフィールドで戦おうとしすぎでしょうよ。


 まぁ決闘なんざ、どっちかが有利なフィールドでするものだから、間違ってはいないんだろうけどさ。


 ただ明らかに素人同然の俺なんかと料理人であるムガルさんとでは実力の差がありすぎる気がするんだよね。


 なのに決闘。姑息すぎるにもほどがあるでしょうよ。


 この人料理人としてのプライドがないんですかね? 


 でもまぁこっちにも希望というとびっきりの料理人がいるから問題は──。


「……香恋ってば浮気かな?」


 背筋がぞくりと震えあがった。


 恐る恐ると振り返ると、そこには眉間にしわを寄せてにこやかに笑うまいわいふが立っていました。


 ……怒らせちゃったみたいですね、はい。


 いや、まぁたしかに。たしかにね? 


 レアさんに抱き着きましたよ? 


 でもさ、それは浮気をするためではなく、あくまでも実験なのですよ。


 そう実験のためにレアさんに抱き着いたというだけのことなのです。


 そうそれ以外には決して意図はないのです。本当ダヨ? 


 レアさんの圧倒的すぎるブツの感触が知りたかったってわけじゃないです。


 本当にただ実験のためであって。


 ってそういえば、なぜかレアさんが静かなような──。


「……もうダメです。お姉さん我慢できません」


 急にがしりと両肩を掴まれてしまった。


 誰に? そんなのひとりしかいねえ。


 だが、まさか。そうまさかそんなわけが。


 恐る恐ると顔をあげると満面の笑みを浮かべたレアさんがおられました。


 レアさんの手は俺の両肩を掴んでいる。


 デンジャー。そんな言葉が脳裏をよぎった。


「れ、レアさん?」


 顔が引きつっているのを感じながら、声をかけると、レアさんの笑顔に陰影がさした。


「ダメじゃない、「カレン」」


 ちゃん付けではなく、呼び捨て。


 その時点で明らかにヤバい。


 ヤバいのだけど、両肩を掴まれている以上、俺にできることはなにもなかった。


「レ、レアさん?」


「違うでしょう? 「お姉さま」って教えたじゃない。何度も、ね?」


 にっこりと笑いつつ、目を細めていくレアさん。背筋が震えるどころの話じゃない。


 全身が震えました。ヤバい。明らかにヤバい。というか、く・わ・れ・る!


「待って! 待ってください、レアさん!?」


 レアさんの両手を掴む。どうにか離してもらおうとしたのだけど、すでに時遅しだった。


「捕らえよ」


 レアさんがぽつりと呟いたと同時に、俺の両手に青色の鎖が巻き付いた。


 え? なにこれ? 手を動かそうとしても、なぜかびくともしません。


 って待った!? この状況でそうなったら止められないじゃんか!?


「ふふふ、「カレン」がいけないのよ? お姉さまを本気にさせたあなたが悪いの。だから──」


 この場で散らせてあげるから、いい声で啼いてね。


 肩を上気させながらレアさんが言い切った。


 ヤバい。これはヤバいですよ!? 


 でもどんなに慌てようとも、すでにレアさんの掌の上にいる以上、俺にできることなんて──。


「ちょっと待った! 香恋を好き勝手にさせないんだから!」


 希望が俺とレアさんの間に立ちふさがった。


 とたんレアさんが忌々しそうに舌打ちをする。


 ちょ、ちょっとレアさんってば、舌打ちとかあなたのキャラじゃないですよ!?


「生娘ちゃんが。どうしても私の邪魔をしたいようですね?」


「うちの旦那さんに手を出すなって言っているの!」


「略奪愛っていうのを知っていますか?」


「あなたがそれをするって言うんですか? おばさん」


「……本当にいい度胸ですね、生娘ちゃん」


「こっちのセリフですよ、たれ乳おばさん」


 眉間にしわを寄せながら、睨み合うレアさんと希望。ムガルさんとか完全に蚊帳の外じゃん。


 ほら、ムガルさん、傷ついた顔をしているよ。体をぷるぷると震わせて涙目になっているし。このままだと──。


「お、憶えていろよ、男勝りの少女!」


 俺を指差してから、ムガルさんは向かいにあった料理店へと飛び込んでいく。


 ヤカラさんが親分とか言いながら、その後を追っていく。


 なんというかテンプレですね。どこまでテンプレなんだろう、あの人。


「いいから邪魔をしないで、生娘ちゃん!」


「人の旦那に手を出さないでよ、おばさん!」


 ムガルさんが泣きながら逃げて行ったのを希望もレアさんも気づかないまま、相変らずにらみ合いを続けている。


「……なんでこうなったし?」


 なぜこうなったのか、まるでわからないまま、俺は希望とレアさんの言い争いを聞き続けることしかできなかった。


 その後、レアさんはどうにか俺の拘束を解いてくれたけれど、ますます俺の中の憧れのお姉さん像が崩壊してしまったことは言うまでもないよね。

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