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Act0-30 エンヴィー先生による特別講義

PV1800突破しました。

いつもありがとうございます!

「え?」


 俺とエンヴィーさん、揃って同じような反応をしていた。なにせ轟音と暴風が生じたんだ。俺は付与魔法なんて使っていなかったし、エンヴィーさんも使ってはいなかった。つまりは素の力で正拳突きを放った。それだけだった。それだけのはずなのに、狙いを定めていた木がへし折れた。音を立てて、木が倒れた。正拳突きを放ったときのような轟音ではなかった。それでもかなりの音だった。その音を聞きながら俺は呆然となった。


「……へ?」


 目を何度も瞬かせながら、いましがた起きたことが理解できなかった。それはエンヴィーさんも同じだったようで、驚いた顔をしていた。が、俺ほどではなく、すぐに復帰してくれた。


「か、カレンちゃん。いまの動きをもう一度お願いします」


「え? あ、はい。えっと」


 目の前で起きたことが信じられないまま、俺はもう一度正拳突きを放った。今度は一回目に狙った木の隣に、一メートルほど離れた場所にある木を目印にした。加減は一回目と同じく、八割くらいの力で放った。また轟音と暴風が生じ、一回目同様に木はへし折れ、音を立てて倒れた。そんなつもりはなかったが、自然破壊になってしまっていた。が、そんなことを考えている余裕は、そのときの俺にはなく、目を瞬かせるくらいしかできないでいた。エンヴィーさんもまた驚いている。が、俺よりも復帰は早かった。


「……もしかしたら、カレンちゃんは身体能力がかなり向上しているのかもしれませんね」


「身体能力が向上、ですか?」


 自分でやったことではあるけれど、二本の木を、十メートルほど離れた場所にある木を、拳圧だけでへし折ったんだ。魔法もなしでそれを為したということは、身体能力が超人クラスに上がってしまっているということだろう。


 そういえば、この保養施設の入口の扉は、あの重厚そうな扉はあっさりと開いたので、見掛け倒しだと思っていたけれど、もしかしたらあの時点ですでに。


 いや毅兄貴のコレクションを納めたロッカーキーを投げ飛ばしたとき、ロッカーキーが地面に落ちる音はしなかったような。ちゃんと確認していなかったけれど、もしかしたら、扉を開けるときではなく、ロッカーキーを投げた時点で、すでに俺の身体能力は爆上がりしていたのだろうか。


 でも、ラースさんを殴ったときは全力だったのにも関わらず、ラースさんは平然としていた。まぁ、あれはラースさんが規格外だったからなのかもしれない。が、少なくとも舞台上から正拳突きを放っただけで、離れた場所にある木が、へし折れていることを考えれば、俺の身体能力が超人並みに上がっていることは、容易に想像できた。


「ええ。もともと異世界人は、この世界の者と比べると、特殊な能力を持ってこちらに来ることが多いのです。「天」の力を含めて、六属性すべての適性があるというのは、いままでになく強力な能力ではありますが、それが自身単体のみの属性付与だけというのは、さすがにありえないとは思っていました」


 たしかに「天」の力と言う最強レベルの能力に加えて、六属性すべての適性があるというのは、チートレベルではある。けれどその適性もせいぜい付与魔法程度というのは、さすがにありえない。まぁ中にはいるのだろうけれど、そんなのは多分ごく少数だろう。エンヴィーさんの口ぶりからして、それは窺えた。


「ですが、いまの動きを見て、確信しました。カレンちゃんが、属性付与しか使えないのは、その身体能力の向上も踏まえてのものなのでしょう。そう捉えれば、いまくらいがちょうどいいバランスなのかもしれません。しかし、これはこれで困りましたね」


 エンヴィーさんは、頭を抱えていた。身体能力の向上。異世界転移もののお約束のひとつが、俺にも適用されるのは純粋に嬉しいことだった。けれどエンヴィーさんの反応からすると、そこまで単純な話ではなかった。


「もしかして、これも隠さないと?」


「もしかしなくても、ですね。まぁ、「天」の力ほどではないですが、これもまたあまり広く知られない方が、やりやすいですね。やっぱりこれも利用されかねないものですし」


「……ですよね」


「天」の力ほどではないが、超人的な身体能力の持ち主なんて、どこの国も欲しがるだろうな。うん、普通に考えていなかった。なんだって俺に与えられる能力は、使い勝手が悪い、ピーキーなものばかりなのだろうか。神さま。この世界で言うならば、母神スカイストさまは、いいご性格をなさっているようだ。


「もっとも、やりようによりますがね。カレンちゃんのすべての能力は、ギルドにも話せないものですが、少なくとも格闘術に関する素養はあるみたいですし、自分限定ではありますが、付与魔法も使えることはたしかです。となれば、あとは脚色ですね」


 エンヴィーさんはとんでもないことを言い出した。脚色。要はでっちあげだ。普通の脚色はないことをあるようにすることだけど、俺の場合は、あることをないようにするという意味になるが。それしか方法がないのは認めるけれど、王さまがそういうことをしていいのだろうか。国際問題に発展しそうだった。


「国際問題に発展することはありませんよ。なにせ、「聖大陸」側は、「魔大陸」側に強く出られません」


 エンヴィーさんが言うには、「聖大陸」は食料の総生産量がかなり低いようだ。なかには、高い国もあるようだけど、そんなのはごく一部であり、ほとんどの国は、「魔大陸」からの輸入に頼っているそうだ。肥沃な大地である「魔大陸」は一次生産者がかなり多く、国どころか、「魔大陸」全体で食糧が余っているのが現状であり、その食糧を「聖大陸」に輸出し、代わりに「聖大陸」からは、魔石と呼ばれるエネルギー源を輸入している。


 つまりは持ち持たれつの関係ではあるのだが、「聖大陸」とは違い、「魔大陸」側は魔石が輸入できなくても、持ち前の魔力でどうにかすることはできるそうだ。それでも限界はあるようだが、「聖大陸」とは違い、死活問題ではない。ゆえに「聖大陸」は、「魔大陸」の意向に逆らうことができないでいるらしい。無理もない。へそを曲げられ、輸出を止められてしまえば、それで「聖大陸」のたいていの国は詰んでしまう。


 ただ「魔大陸」側もできれば、そういうことはしたくないので、横暴な態度を取ることはないようだ。あくまでも相手の出方によって、輸出の量を加減する程度らしい。輸入するものが、死活問題ではないからこそできる芸当だった。


 しかし「聖大陸」側も甘んじて受け入れるわけにはいかないらしい。だっていまのままでは、飼い主とペットという関係に近いのだから。自分たちは人間であり、愛玩動物ではないという意識があるからこそ、「聖大陸」側は、「七王討伐」を掲げた勇者を送り込むんだそうだ。すべては自分たちの誇りを取り戻すために、というのは建前で、「七王討伐」を成し遂げられれば、肥沃な「魔大陸」を手に入れられると同意義だった。そうすれば、巨万の富が手に入るからというのが、実情らしい。どっちが人間で魔族なのか、わかったもんじゃない。


 普通魔族がいる世界っていうのは、魔族の方がより欲望に忠実だと思うのだけど、どうやらこの世界では、人間の方がより欲望に忠実に生きているようだ。まぁ、欲望に忠実なのも人間らしいと言えば、そうなのかもしれないけれど、少なくとも俺の周りにいた人たちは、「聖大陸」側よりかは、もっと誠実な気がする。これもまた世界間での違いなのだろうか。


 ただ、それにしてもひとつ気になることはあった。


「しかし、「七王討伐」とか、すごいことを堂々と言いますよね」


 普通に考えれば、そんな大それたことを掲げた時点で輸出を止められてしまうような気もする。こういうのはあえて伏せてやると思う。


「「七王討伐」は「魔大陸」側でも容認していることですので」


「容認ですか? なんでまた」


「ええ。なにせ、ここ数千年間で、一度の例外を除き、「聖大陸」の勇者が、「七王」を討伐したことはないのです。返り討ちにする場合もありますが、それ以前に「魔大陸」にさえたどり着けない勇者も多いんですよ」


「たどり着けない? 勇者が?」


「そうですね。そこもちょっと教えておきましょうか」


 そうして試しの時間だったはずなのに、エンヴィー先生による特別講義が再開した。

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