Act3-21 ペットは飼い主に似ると言いますが、それは部下と上司の間でも同じなんですね(Byカレン
本日七話目です。
またもや変態さんなお話です。
「来ちゃいました、「旦那さま」」
エンヴィーさんもといレアさんがニコニコと笑いながら、俺の背中に重量感たっぷりなブツを押し付けている。
重量感たっぷりなのに、背中で柔らかく圧し潰れるそれの感触はなんとも言えない。
希望を以てしても負けたと言わしめるブツが、俺の背中にこれでもかと押し付けられています。
「れ、レアさん!? なにをして」
首だけで振り返ってレアさんを見やる。レアさんは満足そうに笑っている。というか、幸せそうなのは気のせいですかね?
「なにをしてって、「旦那さま」をお誘いしております。この場はノゾミちゃんに任せて、ふたりっきりになれる場所へ行きましょう? 「旦那さま」の大好きなご奉仕、レアがいたしますから」
「ふやぁ!?」
ふぅと耳に息を吹きかけられて、変な声が出てしまう。
慌てて口元を押さえるもすでに時遅し。
変態どもがなぜかまた自然と同一化したかのように澄み切った顔をしている。
目もどこか清々しい。ちょっと待て。なにで? なにでそんな反応をしたんだ、あんたら!?
「男勝りの女子のふやぁ。我らにはとってはご褒美でござる」
「右に同じく」
「もう一度言っていただきたく候」
「意味わかんねえよ!?」
なぜに俺の変な声でそんな反応ができるのか、本気で解せないんですけど!?
というか女ならなんでもいいのか、あんたら!?
マジで変態かよ!? そもそもなんで武士言葉を話し始めた!? あんたらの出身どこだよ!?
「ふふふ、たしかにいまの「旦那さま」のふやぁはかわいかったです。ちょっと興奮しちゃうくらいに」
レアさんが耳元で呼吸を荒げていた。あんたもか! こんな変態どものノリに合わせなくていいんだよ! もっと普通に振る舞ってよ、普通に!
「ご亭主殿、代わってくだされ!」
「巨乳美女をふたりも抱え込むというのは、ルール違反でござる!」
「むしろ巨乳美女ふたりだからでござるか!?」
やいのやいのと叫び出すお客さん方。
言っている意味がわからない。
そもそも俺の嫁は希望とアルトリアであって、エンヴィーさんは含まれていないの!
エンヴィーさんはこの場を引っ掻き回すためだけにこういう発言をしているんだから、本気にするんじゃない!
「「旦那さま」、ひどいです。昨日の夜、「もうダメ」とか「もう許して」って何度も言ったのに、「いい声で啼くじゃないか。興奮するぜ」とか「口は素直じゃないが、体は素直みたいだぜ?」とか言って私とノゾミちゃんを交互にかわいがってくださったのに」
「丼でござるか!?」
よよよとしなだれかかるエンヴィーさんに、お客さん方が再び騒ぎ出す。
というか丼ってなんだ、丼って。なに丼だよ!
そもそも俺がいつそんなことを言いましたかね!?
言った記憶が皆無なんですけど!?
そもそもセリフがとんでもなく小物臭がするからやめていただきたいんですけど!?
「いや、そこを突っ込むの? 香恋」
希望が呆れながら、調理を続けている。
話に加わりつつ調理の手を止めないとか、さすがは希望だね。
この場における唯一の癒しですよ。さすがは我が嫁です。
「突っ込む? なにをどこに突っ込むでござりますか!?」
癒しを受けた直後にまた意味のわからないことを言われてしまう。
いやわかるよ? 言いたいことはわかっていますよ?
ただ深く考えるのが苦痛なだけです。
もう本当に黙ってくれないかな、この人たち。
「もう黙って、本当にお願い」
「そのお願いは聞けないでござりますな」
「右に同じく」
「言わずにはいられぬで候」
お客さん方は俺の懇願をあっさりと切り捨ててくださいました。
どうせそう言われると思ったよ。どうせそんな反応だと思いましたよ!
「おいたわしいです。これはやはりレアの体を使って、「旦那さま」をお癒ししないといけませんね」
ふぅともう一度耳に息を吹きかけられてしまう。
とっさに口元を押さえたから、今度は変な声を出さずにすんだ。
すんだのだけど、お客さん方の空気読めよという視線がびしびしと突き刺さってきます。
空気読めと言われてもだね。恥ずかしい目に遭うのは俺なんですけどね!?
「あの、うちの人をあんまりからかわないでくれませんか? その人、わりと精神的に脆いから」
希望がそう言って助け舟を出してくれた。
ああ、やっぱり希望だね。
希望こそが俺の嫁です。
アルトリアだったら、たぶん助けてはくれないもの。
きっとエンヴィーさんに噛みつくだけで、俺のフォローはしてくれないはずだもの。
いやわかっているよ? それがアルトリアだってことくらいは。
ヤンデレでかつカミツキガメクラスに(物理的に)噛みつく系のヒロインだってことはわかっているよ?
それでもさ、「旦那さま」と言う相手の手助けくらいはしようと思うのが普通なんじゃないのかな?
この場にいない人に言っても仕方がないと思うけどね?
そんなアルトリアに比べて希望ったら、まじ嫁の鑑です。
もう希望以外になにもいらないって言いたくなるくらいに、俺のことを考えてくれています。
ああ、やはり持つべきものは幼なじみな嫁ですね。
それでいて美人でかつスタイル抜群と来たもんだ。うん、俺って勝ち組ですね。
「まぁ、勝ち組云々はいいとしてですよ? 昨日の夜、レアお姉さまになにをしたのか、教えていただきましょうか? 小娘ちゃん?」
ぞくりと背筋が震えた。体が動かない。まるで俺の体ではなくなったかのように俺自身の意思に沿って動いてくれない。
なにがあった? なぜこうなった?
そんなことを考えつつも、俺の体は俺の意思を無視して動いていく。そうして振り返った先には──。
「話を聞かせてもらいましょうか? 小娘ちゃん、いや、「旦那さま」さん?」
満面の笑みを浮かべたククルさんが立っていました。さぁーと血の気が引く音がはっきりと聞こえたよ。
なぜここにとは言わない。だって俺と希望が使っている屋台は、というかいま俺たちがいるのはククルさんのところの冒険者ギルド前の広場だもの。ちなみに屋台もギルドのものだ。
ククルさんが言うには、一年に一回ある誕生祭の際にギルドで使う屋台らしい。
普段は使わずに倉庫の奥で埃を被っているだけだから、好きに使ってもいいと言われていたものだ。
加えてギルドのまえの広場を使っていたのも、ククルさんの許可を得ていた。
「うちのギルドはお茶と茶菓子しか出しませんからね。一応は日によって内容を変えてはいますが、飽き飽きとしている子たちもいるんですよ。そういう子たちはお金を持っていますから、その子たちをターゲットにするのは悪くないと思いますよ?」
屋台を始める際にククルさんはそう言っていた。
たしかに長年冒険者をしている人たちはわりとお金を持っていることが多い。
あくまでもある一定のランクを超えた人はだけど。
万年EやDランク程度の人はいつもかつかつだけど、Cランク以上の人はわりと金を持っている。そんな人たちをターゲットにする。悪くないと思ったよ。
でもこうしてある一定のランク以上の人たちをターゲットにしたことをいま本気で後悔していた。
そう、俺たちが相手をしているお客さん方というのは、ククルさんのところの冒険者のみなさんだった。なかには世話になった人もいるんだけど、例外なく変態さんだった。
ペットと飼い主ではないけれど、ギルドマスターとそのギルドの冒険者はわりと似通った性癖になってしまうのかもしれない。
「いま失礼なことを考えませんでした? 小娘ちゃん?」
ククルさんが笑う。威圧感が半端ないです。背筋が寒くて仕方がないよ。
「ククル、ダメですよ? 「旦那さま」は私のものです。いくらあなたがかわいくても、「旦那さま」は譲れませんよ?」
エンヴィーさんはそんなずれたことを言ってくれる。
ククルさんはそういう目で俺を見ていないと思うんですけどね?
言っても無駄だとは思うけど。そう無駄だとは思いますけどね?
「ふふふ、ククルは好きな子ほど虐めたがる子ですから。でもダメです。「旦那さま」を虐めるのは私だけです。その分ベッドの上では私を虐めていいですからね、「旦那さま」」
ふぅと三度耳に息を吹きかけられてしまう。
まさか三度目もあるとは思っていなかったから、再び「ふやぁ」と叫んでしまった。
「ふやぁ来ましたぞぉぉぉ!」
変態どもの歓喜の叫びが響き渡った。もうやだ、この国。もうおうち帰りたい。
「香恋ってば、本当に好かれちゃうよねぇ」
的外れなことを希望が言ってくれた。
誰が好かれているとか言う間もなく、歓喜の雄たけびをあげる変態どもに俺は囲まれ、なぜか胴上げをされてしまう。
本当に意味がわからない。ああ、うん。やっぱり日本に帰りたいよ。少なくともこの変態どもがいないからね。
「帰りたいなぁ」
宙を舞いながら、俺は心の底からしみじみとそう思わずにはいられなかった。
トップであるククルさんもわりかし変態ですが、その所属の冒険者も変態。
……蛇の王国の冒険者にはまともなのはいないのか。
続きは十八時になります。




