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Act3-20 お客さんならぬ、変態さんいらっしゃい?

 本日六話目です。

 サブタイトルの通り、変態さんがががが

 希望の特技。


 最初言われたときは、なんのことやらと思ったけれど──。


「ふんふふ~ん」


 鼻唄混じりに希望が調理をしている。身に付けているのは、エプロン。


 まぁ、エプロンというよりもエプロンドレスかな? 


 モーレが着ていたのと同じデザインだ。


 色は青を元にところどころに白が入っていて清楚な感じだ。


 ただ、うん。圧倒的すぎですね、はい。


「よっと」


 希望が冷水で締めていたビッククラブさんの身の一部を取り上げる。


 そこそこの量があるからかな、少し勢いがつき──。


 たゆん。そんな擬音が脳裏で響きました。なにがとは言わない。あえてどこの部分とは。


「ゴクリ」


 どこからともなく、喉が鳴る音がした。


 少なくとも俺ではないね。


「そろそろかな?」


 希望はことことと音を立てている鍋をおたまで一掻きしてから、中身のスープを掬って味見用の小皿に注ぎ、そっと口に運ぶ。


 瑞々しい唇がやけに艶かしいです、はい。



「……うん。これでよし」


 希望が満足げに笑う。はにかむような笑顔です。


 胸がキュンキュンするね。


「……あかん」


 ぱしりと口元を押さえた。


 押さえないと変な顔になってしまうからね。

 

 希望にそんな顔は見せられないよ。


 でも、それは俺だけではないようだ。


「……ヤバい」


「……かわいい」


「付き合ってほ、げふっ!?」


 ん、んん~? 


 気のせいかなぁ~? 


 気のせいだよなぁ~? 


 変な声が聞こえたよぉ~?


 とりあえず声の聞こえた方に軽く肘打ちでもしますかね?


 うん、なにもないけどね? 手応えはあったけど、そこには誰もいないよね? 


 うん、いないよね?


 にっこりと笑いつつ、周囲を見回す。


 さっと顔を逸らされてしまう。特にこれと言ってなにもしていないのにおかしいな?


 まぁいいや。おや? なんか眠っている人がいますね~? いやだなぁ~、昼間から酔っぱらいですか?


 ここは宿屋じゃないんだけどなぁ~。


「お客さん? ここは宿屋じゃありませんよ?」


 眠っているお客さんの体を軽く揺さぶると、目を覚ましてくれました。


「こ、ここは?」


「寝ぼけているんですか? ここは屋台ですよ?」


「屋台? あぁ、そっか。ノゾミちゃんのかわいさにやられてしまったんだっけ」


 起こしてみたが、まだこのお客さんは寝ぼけているみたいだ。


 希望がかわいいのは同意するが、馴れ馴れしく呼ぶとかやめてくれません? 希望は俺の女なんですけど?


「お客さん、ダメですよ? 彼女はすでに一児の母ですから」


 はっきりきっぱりと教えてあげると、お客さん方がざわつき始めた。


 まぁ、希望のかわいさにやられてきた客ばかりだろうから無理も──。


「なるほど!」


「だからこその色気か!」


「ヤバい、興奮する!」


 ……うん。さすがにそれは予想外ですたい。


 一児の母=人妻(内縁)と教えたというのに、まさか興奮されるとは思わなかったぜ。


 というか、なぜに興奮するよ? 意味わかんないし。


「えっと?」


「なぜ、わからん!?」


「いいか! あの若さで人妻だぞ!? しかもあのスタイルだ! きっと旦那は毎晩、くぅ~、羨ましい!」


「昼間はあんな天使だけど、夜はきっと旦那の趣味に染まっているのさ!」


「その結果があの若さで母親なのさ!」


「お子さんの前だときっといいお母さんだけど、旦那の前では」


 そう言って、お客さん方の動きがぴたりと止まった。何事だと思ったけれど、すぐに──。

「ふぅ」


「あぁ」


「いい」


 落ち着いた顔をしてくれた。


 なんというか、俗世から解き放たれ、自然と一体化しているというか。


 いわゆる賢者モードのような? 


 ってまさか。いや、まさか、それはねぇ?


「……えっと、お客さん方? なぜそんな満ち足りた顔を?」


「我々はいま真理にたどり着いたのだよ」


 お客さん方は満ち足りた顔をしている。なにがあったのやら。


 ……いや深く突っ込むのはやめましょうか。考えたくない。


 というか、屋台で賢者化すんなや! いやそれ以前にさ!


「うちの嫁で変な妄想を──」


「はい、ビッククラブのしゃぶしゃぶです」


 賢者化したお客さん(変態ども)の相手をしていると、調理を終えた希望が笑顔を浮かべて作っていた一皿を置いた。


 お皿の上には冷水で締めたビッククラブの身、ビッククラブの殻とマバの骨から取った出汁で作った特製のスープ、そして特製のつけタレが盛られていた。


 いわゆるカニしゃぶって奴ですね。


 個人的にはカニよりも、牛とか豚のしゃぶしゃぶの方がいいけれど、ビッククラブさんたちという過剰在庫とは違い、俺のアイテムボックスには牛や豚は入っていないので却下されました。


「肉ばっかりはダメだよ。ちゃんと魚介類も食べないと」


 希望は肉がいいと言う俺の意見をそう言って切り捨てると、過剰在庫だったビッククラブさんたちと、この国で過剰在庫となっているマバを使ったしゃぶしゃぶを試作してくれましたよ。


 その後何度か試作した結果、完成したのがいま置かれたビッククラブのしゃぶしゃぶだった。


 ビッククラブのしゃぶしゃぶは、希望曰く自慢の一品だった。


 どれくらいの自慢なのかは、希望が浮かべる笑顔を見ればわかるよ。


 いわゆるドヤ顔をしながら、胸を張っているもの。


 そんな希望にぽっと頬を染めるお客さん方。


 真理から戻ってきたみたいだが、あまり近づいてほしくないな。


 というか、希望で変な妄想をするな!


 だが相手は腐ってもお客さんだ。下手なことを言ったら、クレームになってしまう。


 クレームはできるだけ避けたい。


 なので頬を染めるお客さん方(変態ども)に対してなにも言わずに、希望が出した一品を口に運ぶさまを見守っていると──


「う、うまい」


 目を見開きながら、言葉を忘れてお客さん方のひとりが次々にしゃぶしゃぶを食べていく。


 その光景を見て後ろで並んでいる方々は羨ましそうに見ていた。


「美味そうだなぁ」


「ああ、本当に美味そうだ」


「うん、すごいボリュームだしな」


「ああ、それでいて美しい」


 並ぶ方々がぼんやりとしている。


 口にしている内容は、料理に対してなのか、それとも希望に対してなのかがいまいちわかりません。


 どちらとも取れるコメントなんだもの。


 まぁ、前者ふたりはいいとしても、後者ふたり? 


 この子は俺の女だから変な目で見ないでくれませんかね? 


 というか希望の一部分をじっと見るんじゃない! あれは俺のなの!


「はぁい。料理人を見るのではなく、ちゃんとメニューを見てくださいねぇ~?」


 並ぶ方々にメニュー表を渡していく。


 特にボリュームだなんだのと言っていたふたりには、念入りに言ってあげた。


 するとそのお二方は体をびくっと震わせていた。


 いやふたりだけじゃなく、並んでいる人たちのほとんどが体をびくっと震わせましたね。


 おいおい、あんたらが美味そうだのなんだのと言っていたのは料理じゃなく、希望に対してか! 


 誰が喰わせてやるもんか! 


 希望を食べていいのは俺だけなの! 


 希望を「大人」にするのは俺の役目なんだよ!


「こら、香恋! お客さんを睨まないの!」


 おたまで俺を指しながら、希望が怒鳴った。


 睨んでないよ? 希望が誰の女なのかをこの身の程知らずさんたちに教えようとしているだけでして──。


「そんなことをしなくても、私はあんたのものなんだから、気にしなくてもいいじゃん」


 希望が呆れた。呆れられちまったぜ。いやぁ、参ったなぁ。ちらり。


「ま、まさか、旦那ってこの子なのか?」


 ざわざわとさっきとは違う理由で騒がれていく。ふ、ばれちまったのであれば仕方がないね。


「ええ、希望は私の嫁ですので。色目を使わないでくださいね? あとセクハラをするなよ?」


 威圧込みの笑顔を浮かべると、お客さん方は一斉に敬礼をしてくれたよ。


 創作物だとこういうときには、おまえを倒してその女を手に入れてやるとかいう頭の沸いた人が出てきそうなものだけど、現実にはそういう人は現れないものだね。


 まぁ、NTRはされるのもするのも嫌いだから、そういう展開はノーサンキューです。


 そもそも希望を奪おうものなら、本気でぶっ飛ばすけどね? 


 でもここにはそんな気骨のある人はいないみたいだ。よかった、よかった。


「むぅ、ダメですよ? カレンちゃんのお嫁さんの座は私のものですから」


 不満げな声とともに背中にとんでもない重量のブツが押し付けられていく。


 恐る恐ると振り返ると──。


「来ちゃいました、「旦那さま」」


 普段の清楚なのにエロいドレスではなく、普通の町娘風な服を身に着けたエンヴィーさん、いやレアさんが立っておられていました。

 こんな変態どもはさすがにいないと思いますけど、まぁ、創作ってことでひとつ。

 続きは十六時になります。

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