Act0-29 魔法が使えない代りに?
「すっげぇ。いまのもインスピレーション次第なんですか?」
「大まかに言えば、ですね。さすがにインスピレーションだけでは、あれは無理ですが、修練を重ねて行けば、いずれはカレンちゃんにもできるでしょうね」
「それも適性があれば、の話ですよね?」
「そうですね。でもカレンちゃんは、「天」の力が使えますから、たぶんほかの属性にもそれなりに適性があるかと思います。特に火と水の力は人間、魔族関係なく、大多数が扱えますから」
「身近な属性だからですか?」
「ええ。火と水は人間も魔族も身近にあるものですからね。その分イメージもしやすいから、自然と適性を持つ人も多いのでしょうね」
六属性のうち、火と水はわりと身近にある存在だった。水は生き物がいるのに欠かせないものであるし、火は調理や灯りに使われる。たしかに身近にあるがゆえに、イメージもしやすい。その分、適性する人も多くなるのだろう。ある意味六属性のうちの基本であるのが、火と水と言えるのかもしれない。
「じゃあ、俺も最低でも火と水のどっちかは使えるかもしれないですね」
「もしくは両方使える可能性もありますね。とりあえずは、火から試していきましょう。まずは「火よ」と口にしてみてください」
エンヴィーさんに言われた通り、「火よ」と呟くと、掌に火の塊が現れた。あまりにも一瞬で現れるものだから、ある意味感慨はない。けれど、魔法が使えたという時点で感動が押し寄せて来る。
「う、うぉー、俺にも魔法が」
「あー、それは魔法じゃないですよ?」
「え?」
「あくまでも適性があるかどうかの試しですので、魔法ではないのです。ただ、うん、素地はちゃんとあるみたいですし、火の適性は問題ないでしょう」
「少なくとも光と火は大丈夫ってことですよね?」
「ええ。では、次は水で」
「はい、わかりました」
このときには俺はもうノリノリだった。魔法ではないと言われても、掌に火の塊が現れたんだ。トリックではなく、実際に俺がなにもないところから、火の塊を出すことができた。それだけで俺のテンションは爆上がりだった。そのノリで、水の適性もあるかどうかを試すと、掌から水が溢れ出ていく。問題はないようだった。
「では、次々と行きましょうか」
「はい!」
力強く頷きながら、俺は次々にほかの属性を試していく。風は目に見える形ではなかったけれど、掌を頭の横に持って行くと、風は吹いていないのにも拘わらず、髪が靡いた。土はどこからともなく、石やら土やらが掌の上で積み重なっていったので、不思議な光景だった。闇は掌から黒い棒みたいなものが屹立したから、ちょっと驚いた。黒い霧とか、そういうものかなと思っていたので、完全に不意打ちだった。光は当然問題なく、闇とは違い、きらきらとした柱のようなものが現れた。きれいだなぁと呟いてしまった。
「光は当然ですが、他の六属性にも適性があるとは、いい意味で誤算でした」
エンヴィーさんは満足げに頷いていた。そう、そこまでは問題なかった。だが、そこから先が大問題だった。なにせ適性はあるものの、俺は一切の魔法が使えなかった。あくまでも自分の手足や武器に付与するという意味であれば、使えるのだけど、その属性を攻撃やら防御に使うという意図では、一切扱えなかった。
「適性はあるのに、魔法が使えないなんて、初めてですね」
あまりにもな光景にエンヴィーさんは驚いていた。だが、俺はそれ以上に困っていた。というか、落胆していた。
「俺、魔法使えないのか」
ショックだった。適性はあるのに、魔法が使えないとか、どういう嫌がらせだと思った。使える魔法は属性付与だけ。しかも俺だけにしか使えないと来ている。せっかく魔法が使えても、それじゃ意味がない。もっとこう派手というか、効果的な魔法がよかった。エンヴィーさんの炎蛇みたいな魔法を使いたかった。
「ま、まぁ、一応魔法は使えるみたいなので、紹介状は書けますよ?」
「書けても、大したものじゃないんでしょう?」
「えっと、それは」
あからさまに濁された。無理もない。実際濁す以外どうしようもないのだから。まだ他人にも付与できるのであれば、補助魔法の使い手みたいな立ち位置にはなれただろう。けれど俺は他人に付与はできない。できるのは自分に対してだけだった。
背も小さく、力もない。ちんちくりんな女が、自分だけにしか使えない付与魔法でどうやってこの世界を生き抜いていけというのだろうか。そもそもそんな主人公なんて聞いたこともない。絶望が俺を包み込んでいく。
「……あー、どうせなら一心さんクラスに強ければなぁ」
自分だけにしか属性付与ができなくても、一心さんであれば、問題はなかっただろう。あの人の実力で、属性付与できれば、鬼に金棒だろう。でも、しょせん俺はちんちくりんだった。そんな俺にいくら属性を付与させたところで、意味はない。そう、そのときは思っていた。
「もっと俺が強ければなぁ」
なんとなく、そう、なんとなく、俺は正拳突きを放ってみた。狙いは、とりあえず十メートルくらい先にある、それなりに大きな木だった。その木に向けての正拳突き。どう考えても当たるはずがなかった。
どうしてそんなことをしたのか。理由は本当になかった。あえて挙げるとすれば、これで衝撃破とか出せればなぁとそんなバカなことを考えたというところだ。ゲームやライトノベルであれば、これで木がへし折れるだろう。まぁ、これは現実なので、そんな都合のいいことが起きるわけがなかった。それでも、物の試しと思い、やや本気で、八割くらいの力で正拳突きを木に向かって放った、そのとき。轟音と暴風がいきなり生じた。




