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Act3-6 香恋が好きなのは○○だから!(By希望

 本日二話目です。

 エンヴィーさんが相変わらずの絶好調です。

「ふふふ~、カレンちゃん。カレンちゃん~」


 エンヴィーさんは鼻歌混じりに香恋を後ろから抱きしめていた。


  とても幸せそうな顔をしている。


 香恋は香恋で疲れ切った顔をしているけれど、嫌がっているようには見えない。


 やっぱりお姉さんって言う風にエンヴィーさんを見ているのは間違いなさそうだ。


 見た目は全然違うけれど、エンヴィーさんはどことなく久美さんに似ている。


 久美さんは普段クール系のお姉さまだけど、プライベートでは、私や香恋と言った素を出しても問題ない相手の前では、とたんに構いたがりのお姉さんになってしまう。


 それはたぶんエンヴィーさんも同じなんだろうね。


 久美さんが毅さんと結婚してからは、構いたがりが香恋に集中するようになっていったけれど、香恋は嫌がるそぶりは見せるけれど、本当に嫌がってはいない。


 あくまでも素振りだけだった。それをいま香恋はエンヴィーさんにもしている。


 つまり香恋にとってのエンヴィーさんは久美さんと同じなんだろう。


 久美さんとは違って、この世界の王さまのひとりみたいだけど。


 最初はどこの痴女だと思ったよ。


 だってさ、いきなりの人の旦那さんを「大人にした」とか言い出すし、なんかエロい仕草とかするし、服装だって清楚系なはずなのに体のラインがはっきりと出てしまっていて、やっぱりエロい。


 総合的に見たら、エンヴィーさんを痴女と思うのは当然のことだった。


 その痴女がまさかここ「蛇の王国」の王さまだとは誰も思わないよ。


 アルトリアもまさか王さまだとは思っていなかったみたいで、敵意むき出しにしていたけれど、王さまだとわかってからは佇まいを直していた。


 ただエンヴィーさんの過剰なスキンシップを見るたびに、敵意が溢れているみたいだけど。


 こうして隣から見ていてわかったけれど、やっぱりアルトリアって嫉妬深いよね。というかすぐにヤキモチを妬いちゃうよね。


 香恋がアルトリアはすぐに浮気認定して、オシオキに吸血してくるから困ったものだと言っていたのがなんとなくわかる。


 今回ばかりは私も最初は同じだった。


 でもいまは、久美さんとのやりとりを見ているみたいで、逆に微笑ましくなっている。


 香恋ってば、ああ見えて家族愛が凄いんだよね。


 基本的にはマザコンでありファザコンにブラコンが入り、止めとばかりに久美さんへのシスコンが加わる。


 はっきりと言って、異常。


 普通はどれかひとつなのだろうけど、あの子の場合はすべてが組み合わさっている。


 たぶん、母親である空美さんもといアミティーユさんと産まれてすぐに別れてしまったことと、十年前に暁子おばあちゃんを亡くしたことがきっかけだったんだと思う。


 あの子は家族を失うことを恐れている。


 だから偏執じみた愛情を家族に向ける。


 なにがあっても愛し続けるから、自分のそばから離れないでって叫ぶように。


 家族に対する執着心が人一倍強いんだ。そのことを香恋はわかっていない。


 自分自身の家族への愛情は普通だと思っている。


 ご家族がなにか言えば、香恋も異常だとわかったのだろうけど、香恋のご家族はみなさん優しい人ばかりで、香恋に事実を伝えようとはしていない。その優しさが私には罵声を浴びせて虐待するよりも残酷に思えるけど。


 でも私はなにも言わない。


 だって言っても香恋はわかってくれないだろうから。


 他人が異常だといくら言っても、当の本人がそう思わない限り、本人が自分を異常だと気づくことはないと思うから。


 だから私はなにも言わない。


 ただ寄り添うだけ。


 香恋が事実に気づくまで、寄り添い続ける。


 もし香恋が気づいても寄り添い続ける気ではいたよ。


 だってさ、私までいなくなったら香恋は、本当にひとりになっちゃうもの。


 だから私はそばに居続けるつもりだった。


 でも、それがどういう感情に由来するものなのかを私はわかっていなかった。


 でも、この世界に来てようやく理解した。


 私は香恋が好き。


 誰にも渡したくないくらいに香恋に恋をしている。


 香恋も同じ気持ちだと知ったときは、凄く嬉しかった。


 そういう意味では、エンヴィーさんが香恋にべったりなのは、個人的には面白くない。


 アルトリアみたいに敵意を抱きそうになる。


 けどさ、ふたりのやり取りを見ていると、久美さんとのやり取りを見ているみたいで、敵意は抱けそうにないよ。


 特にエンヴィーさんの目を見たら、敵意なんて抱けないよ。


 エンヴィーさんの目は、ひどく傷ついた人のものだった。


 最初はコアルスさんが言ったとおり、香恋に無視されてしまったことかと思っていたけど、あれはたぶん違う。


 たぶんもっと以前の、それこそ記憶が擦りきれてしまうくらいに昔のことが原因なんだと思う。


 どうしてそう思うのかはわからない。


 ただ、いまのエンヴィーさんが、香恋にすがっていることくらいはわかるよ。


 すがっていないと、壊れてしまうほどに傷ついていることは理解している。


 それくらいにいまのエンヴィーさんは、弱々しい。


 香恋から聞いた、この世界における人として最強の一角とは思えないくらいには。


 まるで傷ついて泣いている小さな女の子にしか見えないもの。


 だから敵意なんて抱けるわけがないよ。


 香恋も薄々はエンヴィーさんの違和感に気づいているんじゃないかな?


 いつもの香恋なら、あそこまでされたら少しは抵抗しそうなものだけど、香恋ったら受け入れてからはされるがままになっているし。


 たぶん、エンヴィーさんの気がすむまでされるがままになろうとしていると思う。


 本当に香恋らしいよ。私の大好きな香恋らしい。


 ただ、うん──。


「いまなら、カレンちゃんが飲みたいと言うのであれば母乳を出せそうな気がしますね。よし、出しましょう。妊娠したことはないですが、カレンちゃんのためならば──」


 エンヴィーさんがおもむろに、胸元をはだけさせていく。まるで躊躇がない。そんなエンヴィーさんに香恋は叫びました。


「エンヴィーさん、落ち着いてぇぇぇー!?」


 目元を隠しながら叫ぶ香恋。


 指の隙間から覗いていそうな仕草だけど、実際にはちゃんと全部隠していた。


 さすがは香恋だね。さすがのヘタレさんだ。


 しかしエンヴィーさん、いくらなんでも暴走しすぎじゃない?


 っていうか、香恋には母乳好きという性癖はないよ! 香恋はただ巨乳好きなだけだもん!


「エンヴィーさん! 香恋に余計な性癖を付け加えないでください! 香恋はただ巨乳が好きなだけです!」


「希望も落ち着いてよぉぉぉー!?」


 香恋が絶望に染まった顔で叫ぶけど、いま大事なのは、香恋の性癖をちゃんと伝えること。


 だからやめる気はありません!


「なるほど。だから香恋ちゃんは一緒にお風呂入ると胸を見つめてくるんですね」


「違う! 違いますよ!?」


 香恋が必死に否定するけど、事実だから否定はできないと思うけどなぁ。


「認めなよ、香恋。私の胸を大きくしたのだって、自分の趣味のためでしょう?」


「違うよ!? まさかそうなるとは思わなかったの!」


 香恋が戯れ言を言っているけれど、あえて無視。


 香恋ってば、いい加減認めればいいのにね。


 実際、香恋が大きな胸が好きなのは事実だよ。


 なにせ、私の胸を大きくしたのは香恋だもの。大きくなーれって言って毎日のように揉まれていたもの。


 なのに、私の胸がこんなに大きくなるとは思わなかったなんて、言い訳もいいところだよ。


「つまり、胸が大きくなれば「旦那さま」の一番に。エンヴィーさま! いや、お師匠さま! 胸を大きくする方法をご教授ください!」


 アルトリアが血走った目で叫んだ。


 えっと、さすがに必死すぎじゃないかな? 普通に怖いよ。


「美味しいご飯を食べて毎日しっかりとお昼寝すればいいかと」


 エンヴィーさんは首をかしげていた。


 あ~、これはフラグだね。


 どう考えても残念な結果に終わるフラグだね。


「わかりました! いまに見ていなさい、ノゾミ!」


 アルトリアが不適に笑うけど、どうもフラグを踏んだことに気がついていないみたいだね。


 でも私が言っても、アルトリアは聞いてくれそうにないし、どうしようかな?


「とりあえず、カレンちゃんに母乳をあげましょう」


「だから変な性癖を付け加えないでくださいってば。香恋は巨乳好きなだけなんですから!」


「だから、それをやめてってばぁぁぁ!」


 香恋の悲痛な叫び声がエンヴィーさんの私室の中で響いていったけれど、その叫びはまるっと無視されて、香恋の性癖についての話し合いは続いていったんだ。

 明日はちゃんと十六時に更新します。ほ、本当ダヨ?

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