Act0-28 「蛇王」の片鱗
PV1500突破&初評価いただきました。
いつもありがとうございます。
P.S.19:45に1600到達しました。ありがとうございます。
一週間前、あの宴が終わったあと、俺はエンヴィーさんに連れられて、あの舞台に戻っていた。口利きをするまえに、いろいろと試しをしておきたいということだった。それは宴の最中に言われて、俺自身が望んでいたことでもあった。
異世界に転移、いや召喚された当初は、これと言ったチートスキルや装備、身体能力向上など、目に見えたなにかがなかった。が、急に英雄の素質と言われる「天」の力が使えるようになった。
だが、それだけでは、この世界で生き抜いていけるとは思えなかった。まぁ、「天」の力がどれくらいのものなのかもわからなかったので、その確認がしたかった。
「「天」の力が使えるだけでも、相当な戦力ではありますが、それがただ使えるだけなのか。それとも使いこなせるかの確認もしないといけませんから。それに多分ですが、他の属性も使える可能性がありますし」
「他の属性ですか?」
「ええ。「天」の力は、光属性の最上位と言われています。つまり「天」の力が使えるのであれば、光系統の属性は使えて当然となります。加えて、魔族であろうと人間であろうと、この世界に住まう者は、たいていひとつの属性だけではなく、他の属性にも適性があります。とはいえ、よほどのことがない限りは、せいぜいふたつかみっつ。多い者でも四つが限界ですね」
「ちなみに、エンヴィーさんは?」
「私は六属性すべてに適性がありますね」
「……マジっすか」
あっさりとエンヴィーさんは言ってくれたが、説明を聞く前では、すごいなぁと思う程度だっただろうけれど、説明を多少でも聞いた後では、規格外という言葉しか思い当たらなかった。
「とはいえ、私は「天」の力が扱えないので、「天」の力の使い方を教えることはできません」
「そうなんですか?」
「ええ、魔族なので使うことができないのですよ」
「魔族だから?」
エンヴィーさんが言う意味が、いまいちわからなかった。魔族だから使えないというのは、どういうことなのだろうか。
「そうですね。この際です。もう少し踏み込んで教えてあげます。属性は、基本となる火、水、風、土、光、闇の六つがあります。これを六属性と言います。この世界に住まう者は、たいていこのうちの複数の適性があります。が、適性とひと口で言っても、その適性には力の強弱があるのです。まぁ、体質と同じと考えてもらって構いません」
エンヴィーさんが言うには、種族によっては、どんなに適性があろうとも、一定以上にはならないということもあるらしい。特に顕著なのが、光と闇。人間は基本的に光の適性が強く、闇の適性が弱い。魔族はその逆で、闇の適性が強く、光の適性が弱い。なので、魔族であるエンヴィーさんは、光の適性はあるけれど、最上位である「天」の力が使えるほどではない。せいぜい光の魔法がだいたい使える程度らしい。適性が弱いはずなのに、光の魔法であれば、だいたい使えるというだけでも、十分に規格外ではあった。言ったところで、意味はなさそうだから、あえてなにも言わなかったけれど。
「なので、私には「天」の力の使い方を教えることはできません。が、それ以外の属性であれば、だいたいは教えられますし、適性があるかどうも判断できます。では、早速試していきましょう」
「試すと言っても」
どうすれば、魔法が使えるのかなんて全然わからない。「天」の力だって、なんとなく使えるだけで、どうやって自分で使っているのかもさっぱりだった。
「そう身構えなくてもいいですよ。最初はイメージするだけでいいのです」
「イメージ?」
「ええ。こういう魔法を使ってください、といきなり言われても、その魔法がどういう魔法であるのかもわからないでしょう? 魔法というものは、元来その人のイメージ次第なのです。たとえば、火の魔法を使うにしても、「火の魔法を使うぞぉ」と考えるよりも、「火を球状に丸めて放ちたい」と考えた方が具体的ですし、イメージしやすいですよね?」
「そう、ですね」
火の魔法ってだけでは、たしかに大雑把だし、一口に火の魔法と言っても、火球とか火の壁とか、いろいろとあるので、具体的に火の魔法でどれを使いたいのか。それがまるでわからないし、イメージもしづらい。仮に大雑把にイメージして、たまたまそういう魔法が使えたとしても、魔力の次第では、暴発してしまうような、思いもしなかった高位の魔法になってしまう可能性は十分にありえた。そういう意味では、具体的にどういう魔法を使いたいのか、とイメージすることは重要なのかもしれない。いや重要だと思う。
「だからこそ、重要なのは、イメージする力なのです。世間で広まっている魔法というものは、だいたいがその人のオリジナルですから。中には、師から教えてもらったとか、一族のみに伝わる門外不出というのもあるでしょうが、基本的には魔法はその人のイメージ。つまりはインスピレーションの強さで形が変わるものです。具体的には」
エンヴィーさんが指を鳴らす。すると無数の火球が現れた。ひとつひとつの大きさはそこまでではないだろうけれど、色が普通の火とは違い、白かった。たしか白っていうのは、かなりの高温だったような。勉強というか、理系は苦手なので、ちょっとうろ覚えではあるが、エンヴィーさんの火の珠はかなりの高温だろうな、というのは窺えた。
「すごいですね。こんなに火の球が」
「まだですよ、カレンちゃん」
エンヴィーさんがウインクをしながら、もう一度指を鳴らすと、ひとつの火球が数メートルほど上空にまで浮かび上がった。それを皮切りにほかの火球も同じように浮かび上がっていく。いや同じじゃない。ほかの火球は最初に浮かび上がった火球に向かって突撃していく。それが何度も繰り広げられていく。なにをしているんだろうと思ったけれど、エンヴィーさんは、にこにこと笑っているだけだった。なんの意味がと思ったときに気付いた。火球の大きさが、最初に浮かび上がった火球の大きさが変わっていることに。そのときにはすでにほかの火球よりも十倍くらいの大きさになっていた。ほかの火球を取り込んで大きくなっているようだった。その大きさはどんどんと増していき、やがて火球は、火球とはいえない姿になった。最初は球状だったものが、細長く、かつ幅広い大きさになっていた。それはまるで火の体を持った蛇のような姿だった。
「これは私の火の魔法のひとつで、炎蛇と言います。まぁ、火球をいくつも重ねて、それを少々細長くしただけなんですが、普通の火球よりかは強力ですよ」
その強力な魔法をエンヴィーさんは、手を握りしめることで消してしまった。まさに魔法だった。ファンタシーの中の概念をはっきりと目にした。少し、いや、かなりテンションがあがっていくのが自分でもわかった。




