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Act0-27 素質はあるのに、魔法が使えません

PVが1300突破しました。

いつもありがとうございます。

「……聞きまして? コアルスさん」


「ええ、聞きましたよ、クリスティナさま。若さゆえの過ちですね」


「そうね。どうせ、カレンさんもなんの手入れもしていなかったことを後悔することになるし」


「そうですね。若いうちなんて、あっという間ですよ。若いうちだけですよ。髪がきれいねぇ、とか肌がきれいねぇ、って言われて、なにもしていないんですよぉ~、なんて抜かせるのは」


「そうよねぇ。若いうちは、なにをしても、健康な状態を保てるけど、ね」


「ええ、一定の年齢をすぎると、注意していないとひどい目に」


「そうそう、お手入れをサボると、すぐに、ね」


「若さというのが、どれほどの高価な宝物であるのかを理解していないんでしょうね」


「そうね。若さは本当に宝物よねぇ。それこそ星金貨一千枚なんて目じゃないくらいに」


「ええ。星金貨一千枚程度で、若さを得られるのであれば、誰もが殺到するでしょうね」


「そうよねぇ」


「ええ、まったくです」


 コアルスさんとクリスティナさんの視線が鋭くなった。睨み付けられているとまでは言わない。が、すごく怖かった。女の人って本当に怖いなぁと思う。


「……カレンちゃんも性別は女じゃなかったかな?」


 勇ちゃんが苦笑いしつつ、コアルスさんの淹れた紅茶を啜っていた。たしかに俺も女ではあるけれど、中身が男みたいなものだから、普通の女の子というものがどういうものなのかをいまいち理解しきれていなかった。まぁ、おばあちゃんがいたころはさておき、ほとんど男所帯みたいなものだったからなぁ。義姉さんたちもいるけれど、おばあちゃんがいなくなったうえに、義姉さんたちがいなかった頃がそれなりに長かったので、いまのようになってしまったということなのだろう。


「まぁ、周りが男だけって環境が長かったっていうのが影響しているのかもね」


「あー、なるほどなぁ。じゃあ、俺とは逆か」


「逆ってことは、勇ちゃんの家は女だらけだったの?」


「まぁ、シスターは女性だし、兄ちゃんたちもいたけれど、基本的には姉ちゃんたちの方が多かったからなぁ。いまも弟たちよりも、妹たちの方がなんか多いしな」


「シスター?」


「ああ、そう言えば言っていなかったね。俺、捨て子なんだよ。生まれてすぐに、エルヴァニアの小さな村にある教会の前に捨てられていたんだって。俺のほかにも十数人くらいの子供がいたな。そのひとりがアスラだよ。いわば、兄弟みたいなもんだよ」


 さらりと勇ちゃんは言う。が、それはさらりと語る内容じゃない。少なくとも俺にはそう思える。


「そんなあっさりと語ることじゃ」


「いいの、いいの。もう昔の話だしな」


 あははは、と勇ちゃんは笑った。屈託はない。ただいくらかの諦観を感じられる、そんな笑い声だった。


「そっか。勇ちゃんは帰る家があるんだね」


「ん~、いまは違うところに家があるけどね」


「違うところ?」


「うん。エルヴァニアじゃない国に、弟妹達全員とシスターを連れて引っ越ししたから。エルヴァニアは、王さまが王さまだから、過ごしづらいんだよね」


「あー、まぁ、そうだろうね。でもよく引っ越しできたよね。あのおっさんじゃ」


「ああ、体の良い人質にしそうだよね。俺も冒険者になるときに、それは考えた。まぁそこまで有名にはなれないという可能性が高かったけれど、ある程度稼げるようになったら、家族全員を連れて移住することは最初から決めていたんだ。エルヴァニアの属国じゃなければ、ある程度の暮らしはできるだろうからさ。ただ、まさか「英傑の国」に住めるとは思っていなかったけど」


「「英傑の国」って?」


「ああ、それは」


 勇ちゃんが説明しようとしてくれたとき、部屋の扉が開いた。いつものセクシーなドレスを身にまとったレアさん、じゃなく、エンヴィーさんが入ってきた。


「お待たせしました、カレンちゃん。いま終わりましたよ」


 エンヴィーさんは、嬉しそうに笑っていた。でもどこか疲れたような顔もしていたので、相当に頑張ったんだなぁと思う。そう思うと、なんだか悪いことをしてしまったように思えるから、不思議なものだった。


「お疲れさまです。エンヴィーさん」


「いえいえ、カレンちゃんのためですから」


 笑いながら、エンヴィーさんは部屋の中央、ちょうど俺たちがいる大きな机の前にまで歩いてきた。そして俺の隣の席に腰掛ける。同時にコアルスさんがエンヴィーさんの前に紅茶を置いた。


「どうぞ、エンヴィーさま」


「ありがとう、コアルス」


 お礼を言い、エンヴィーさんは、紅茶を口にした。それだけを見ると、深層の令嬢という言葉がぴったりな光景だった。だけど、この人は魔族の王。「七王」のひとり。つまりは規格外な力を持つひとりだった。


 でもその規格外な力を持っているとわかっていても、こうして見ているだけでは、とてもではないけれど、そんな大それた力などあるようには思えない。ただの一般人にしか見えない。魔族の王だなんて思えない。だってエンヴィーさんは普通の人間となにも変わらない。耳が尖っているわけでもなく、尻尾や翼があるわけでもない。本当に見た目だけであれば、人を引き付ける容姿はあるけれど、それ以外はただの人間としか思えなかった。


「ふふふ、カレンちゃんから熱い視線を感じますね。カレンちゃんと比べたら、おばあちゃんではすまないくらいに、年上なのでお姉さんが気になる、みたいなことは言えませんけど」


 加えて、茶目っ気のある人だった。あざといとも言えるけれど、人によってはそれがいいのかもしれない。あざといと普通は同性からは、あんまり好かれないけれど、この人を俺はどうしてか嫌いにはなれない。むしろ知れば知るほど、好ましく思えてくる。


「ちょっと年上のお姉さんくらいにしか思えないです」


「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいですよ」


 エンヴィーさんは、頬をほんのりと染めながら笑ってくれた。なんというか、初々しい。というか、かわいい。年上の人をかわいいと言うのはどうかと思うのだけど、かわいいものはかわいいんだから、どうしようもない。


「なんか、かわいいですね、エンヴィーさんって」


「か、かわいいですか? そんなの、初めて言われました」


 あははは、と笑いつつ、エンヴィーさんは耳まで真っ赤になると、手と足をこすらせる。いわゆる「もじもじ」とし始めた。あざとい。あざといが、やっぱりかわいい。俺と同意見なのか、クリスティナさんを除いた男子陣が口元を押さえて、顔を背けていた。結構なお歳のクラウディウスさんまでもが同じ反応だった。高位の神官をも魅了するとは。この人の種族は、サキュバスなのだろうか。うん、ありえそうで怖い。それほどまでにエンヴィーさんは異性を見惚れさせるほどに魅力的だった。


 とはいえ、アルゴさん。あなたは魅了されちゃダメでしょうよ。クリスティナさんが、すごくいい笑顔であなたを見つめておられますよ。まぁ、気づいたところで、時すでに遅しだけど。


「ま、まぁ、私のことはいいとして。では、さっそく話をしましょうか、カレンちゃん」


「あ、はい、そうですね。では、ご教授お願いします」


「はい。わかりました。では、そうですね。まずは確認からにしましょうか」


「確認、ですか?」


「カレンちゃん、六属性はちゃんと使い分けられていますか?」


「まぁ、それなりには、ですね。一応戦闘にも出させてもらっていますが、拳は火で、脚は風って感じで纏わせて戦っています」


「なるほど。では、魔法はどうです?」


「そっちはさっぱりです。エンヴィーさんに教えてもらった初級の魔法でも、うんともすんとも言いません。クリスティナさんにも見てもらったんですが、魔力はちゃんと体の隅々にまで行き届いているのに、魔法を使うとなると、急に滞ってしまうみたいです」


「では、一週間前と変わらないということですか」


「……魔法に関しては、ですね」


 口元を押さえつつ、エンヴィーさんはなにやら思案し始めた。まぁ、無理もない。なにせ属性付与はできるのに、魔法自体は扱えないという、とんでもない体質なのだそうだから。


「どうせなら、魔法をバンバン使ってみたかったなぁ」


 こればかりはどうしようもないことだけど、異世界に来て素質はあるというのに、これという魔法をほぼ使えないというのは、悲しすぎた。本当になんで俺はいつも決定的なところで、運が悪いんだろうか。


「神さまがいたら、ひと言言ってやりたいなぁ」


 窓の外を眺めながら、俺は深すぎるため息を吐いた。

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