Act2-61 やっぱりあんた気に食わない!(BY希望&アルトリア
この前台風でしたが、こっちでも嵐到来です。
まぁ、嵐と言ってもそこまで暴風というわけでもないですが。
アルトリアが顔を俯かせる。シリウスちゃんと対峙したのはいいんだけどさ。
そこはちゃんとシリウスちゃんを見ないとダメじゃん。
だからここは私が一肌脱がないといけないようだね。
とりあえず、シリウスちゃんを抱っこしてと──。
「情けないなぁ。そんなだからシリウスちゃんも香恋も取られちゃうんだよ、アルトリア」
アルトリアに声をかけると、アルトリアが顔をあげた。
ちょっと怖い顔をしていますね。だからと言ってやめる気はないけど。
「ノゾミまま?」
シリウスちゃんが抱っこされながら私を見上げる。
うん、すごくかわいいね。でもいまはそれどころじゃないのだよ。
「ごめんね。シリウスちゃんの大好きなまま上をちょっと挑発するね」
「挑発?」
「うん。要は怒らせて、言いたいことを言わせてあげるの。その際、シリウスちゃんにとっては聞きたくないことを言っちゃうかもしれない。ノゾミままのことを嫌いになっちゃうことを言っちゃうかもしれないけれど、許してくれるかな?」
都合のいいことを言っているっていう自覚はある。
それでもここは言わないといけない。
だってそうしないと私も思いっきりできないものね。
だからこそシリウスちゃんに許可してほしいのだけど、許してくれるかな?
すでにドキドキなんですけど。
「……必要なことなの?」
「うん。ノゾミままはそう思うよ」
「わかった。お願いするね、ノゾミまま」
意外なことにシリウスちゃんはあっさりと許可をくれた。
こういうときに肝が坐っているのは香恋の影響なのかな。
親子だなぁって思うよ。
となれば、ままとしては頑張らないといけないよね。
「うん、頑張るね。だからノゾミままのことを嫌わないでね。泣いちゃうから」
「大丈夫、ノゾミままを嫌わないって約束するもん」
シリウスちゃんが笑ってくれた。
あー、癒されるなぁ。
うん、この笑顔をこれからもずっと見ていくためにもここで嫌われるわけにはいきません。
というわけで、さっそく挑発開始ですよ。
「まぁ最初から見えていた勝負だったからね。だからアルトリアが逃げ出すのも仕方がないよね。うんうん、アルトリアは頑張ったよね。お疲れさま。これからは私が「旦那さま」とシリウスちゃんを支えて育てていくから、安心して国元に帰ってね」
えー、盛大にやってみました。正直あまり挑発とかしたくないんだよね。
だって挑発とかする相手ってわりと負けることが多いもんね。
いわば負けフラグ的な感じで。
負けフラグはアルトリアが盛大に踏んでいたから、これでイーブンなのかな。
ならちょうどいいよね。私も言いたいことを徹底的に言わせてもらおう。
とはいっても、せいぜいアルトリアを怒らせる程度だ。ただ怒らせるといっても、さっきみたく殺されかけるほどにはしない。
せいぜい怒らせる程度。保険としてシリウスちゃんを抱っこしているから、これでアルトリアもさっきみたく私を殺しに来るとかはないはず。
ただ吸血鬼の身体能力は高すぎるから、私の腕の中でシリウスちゃんをあっさりと奪い取って片手で私の首をへし折りにかかる可能性は捨てきれない。
まぁ、そうなったらそうなったでそれが私の運命みたいなものと思えばいいかな。
香恋に好きだって、社交辞令的な意味合いであっても好きだと言われただけで十分すぎるくらいに私は幸せだもの。
だから悔いはないとまでは言わないけれど、殺されたとしてもきっと文句はない。
いや、まぁ、死ぬ気はないよ?
ただ仮に死んだとしてもたぶん後悔はないんじゃないかなと思うのですよ。
……はい、嘘です。後悔めっちゃあります。
特に香恋を置いて行っちゃうことは後悔してもしきれないよね。
だからここでは死ねない。
ただ死ねないと思っても死ぬことはある。
なにせ相手は吸血鬼だもの。死なないように立ち回ろうとしても、身体能力に差がありすぎる。
どう考えてもたやすく殺されてしまうビジョンしか私には見えないよ。
殺されたとしても、シリウスちゃんのトラウマにならないように気をつけないといけないなぁ。
その辺はアルトリアがしっかりと考えるだろうから、私が気にすることでもないんだろうけれど。
さてさて、ここまで言われた以上だんまりはないよね?
どう出るのかな、アルトリアは。
アルトリアをじっと観察していると、アルトリアの眉間に青筋が浮かび上がった。
おーおー、怒っているねぇ。
怖い怖い。
でもこっちにはシリウスちゃんという名のイージスの盾があるんだ。
この盾を抜けるかな?
だからと言って奪っちゃダメだよ?
奪われたら希望さん、死んじゃうからね。
さてさてどう出ますかね?
「このアバズレさんは、よくまぁ舌が回りますねぇ」
「あ?」
誰がアバズレだ!
私は香恋以外に体を許す気はないよ!?
なのに人をアバズレだぁ!?
いい度胸しているじゃんか、この女!
「誰がアバズレだって? 微妙な胸のアルトリアちゃん?」
にっこりと笑って言ってあげた。
アルトリアの顏が引きつった。
どうやらご自慢のお胸さまみたいですけど、私と比べたら大したことないよね。
というか、むちゃくちゃ微妙じゃないかな?
「……少し大きいくらいで調子に乗らないでくれませんか? 「旦那さま」は私の胸が最高だと言ってくれましたが?」
「へぇ? でもその香恋はさ、昨日の夜散々私の胸を揉んでいたよ? 希望のが一番いいって。言ってくれていたなぁ。やっぱりアルトリアの手のひらサイズ、おっと、微妙とはいえ、そこまでではないかぁ。ごめんごめん、それくらいのサイズってどういえばいいのかわからなかったからさぁ」
あはははと笑うと、アルトリアの眉間の青筋が増えた。
「た、たかが脂肪の塊が少し大きいくらいで頭に乗るな!」
「はぁ? 聞こえませんねぇ? その脂肪の塊で自慢になって最高だったって褒められて調子に乗っていたのはどこのどなたでしたかな? ああ、微妙な胸のアルトリアちゃんでしたねぇ?」
「し、脂肪の塊ってことは、要は太っているってことでしょう!? 私はたしかにそこまでの大きさではありませんが、あなたのようにぽっちゃりしているわけではありません!」
「誰がぽっちゃりか! あんたの目は節穴!? 私のどこが太っているって言うのさ!?」
「胸が脂肪の塊なのは事実ですからねぇ? それが大きいということはそういうことなのでは?」
にやりとアルトリアが笑う。
ほ、ほほう、私をぽっちゃりと抜かすか。
私の体型のどこがぽっちゃりか!
普通にやせているわ!
香恋からはアニメキャラかよって突っ込まれているのは伊達じゃないんだよ!
「ん~、わたしはノゾミままの胸が好きだな。まま上の胸もいいけれど、胸はノゾミままが一番だ!」
シリウスちゃんが場の空気をまるっと無視するようなことを言ってくれました。
シリウスちゃん、嬉しいけれど、いまはそういうことじゃないんだよ。嬉しいけれどね。
ちなみに私以下と言われたことでアルトリアは傷ついた顔をしている。
でもいい気味だね。ご自慢の胸は大したことがないと言われたようなものだもんね。
今度はこっちからにやりと笑ってあげました。
するとアルトリアの額にまた青筋が増えました。
「……ひとつ確認よろしいですか?」
「なにかな?」
「もしかしなくてもですね」
「うん?」
「私にケンカをお売りになっているんですよね? アバズレ」
「やだなぁ。いまさら気が付いたの? 微妙胸」
ノーガードの殴り合いってこういうことを言うのかな。
まぁアルトリアも調子を取り戻せたみたいだからいいかな。
それを踏まえたうえであえて言おうか。
「「やっぱりあんた気に食わない!」」
やっぱりこの女は気に食わないわぁ。
アルトリアも同じ意見みたいで、声を合わせたかのように同時に言っていました。
シリウスちゃんが不思議そうに首を傾げ、ゴンさんは笑っていた。
私とアルトリアは笑っていられる状況ではなかったけど。
「「真似をするなぁ!」」
同じことを言い合いながら、私とアルトリアの舌戦が始まったんだ。
雨降って地固まる?




