Act2-58 シリウスの成長
本日十話目です。
十月の更新祭りの最後です。
シリウス視点です。
まま上がシリウスを見つめている。
いまにも泣きだしそうな顔でシリウスを見つめている。
ううん、泣いていた。
シリウスがひどいことを言ったから、まま上は泣いていた。
シリウスは言っちゃいけないことを言ってしまった。
胸がずきんとする。
ノゾミままの言う通りだ。
シリウスはまま上とシリウスを傷付けることをしちゃったんだ。
あのときはまま上を見ていたくなかった。
いつものまま上じゃないまま上を見たくなかった。
いつものまま上に戻ってほしくて、シリウスは思ってもいないことを言った。
まま上がもとのまま上に戻ってくれるって信じたから。
だけどシリウスのしたことはまま上をいたずらに傷つけるだけだった。
ノゾミままに叩かれたときは、なんとなくでしかわかっていなかったけれど、いまははっきりと理解できるよ。
シリウスは悪い子だって。
まま上を傷付けることを言った悪い子だったんだって。
そんな悪い子のシリウスがまま上に謝っても、まま上は許してくれないかもしれない。
それでもシリウスは謝るべきだって思う。
ノゾミままも謝るべきだと言っていた。
でもゴンさんだけはそれじゃダメだって言っていた。
どうしてダメなのかはわからなかった。
ゴンさんはいろいろと言っていたけれど、シリウスには難しいことだったよ。
でもいまはわかるよ。
ううん、いまようやくわかったよ。
ゴンさんが言っていたのは、いまのまま上にただ謝るだけじゃダメだって言う理由がシリウスにもわかったよ。
まま上は心を閉ざしていたもの。
シリウスでもそれがわかった。
だからあのままいっぱい謝っても、まま上は耳を塞いでいただけだったと思う。
たぶんシリウスの声を聞きたくなかったんだと思う。
シリウスだってまま上に嫌いって言われたら、きっと耳を塞いでいたと思うから、まま上がしていたはずのことを悪く言うつもりはないよ。
でもそれじゃシリウスの気持ちはきっと伝わらなかった。
だからこそゴンさんはまず自分が話をするって言っていたんだ。
「いきなりシリウスくんに謝ってもらっても~、逆効果になるでしょうからねぇ~。ここはゴンさんが場を温めますのでぇ~、シリウスくんはそれからってことでぇ~」
ゴンさんはいつもの変な話し方をしながら言っていた。
でもいまは普通の話し方をしている。
どうして変な話し方をいつもしているのかな。普通の話し方の方がカッコいいのに、変なの。
でもいまはゴンさんのことよりもまま上のことだ。
ううん、まま上にシリウスのことを許してもらうことの方が大事だもの。
もしかしたら、あなたなんていらないって言われちゃうかもしれない。
シリウスだってまま上にそう言ってしまったんだもの。
まま上も同じことを言える資格はあるもんね。
でもシリウスは言われたくないなってわがままなことを思っている。
やっぱりシリウスは悪い子だ。
まま上にあんなにひどいことを言ったくせに、自分は言われたくないなんてわがままにもほどがあるよ。
いますぐに逃げたい。部屋に帰って布団の中に閉じこもりたい。
でも、ノゾミままは手を離してくれない。
ううん、逃げちゃだめだよってノゾミままの目が言っている。
どんなに怖くても、どんなに言われたくなくても、自分のしたことから逃げちゃダメだって言っていた。
ここに来るまでノゾミままはシリウスのことを抱っこしてくれていた。
抱っこしながら、戦わなきゃいけないってことを教えてくれた。
誰と戦うのかなって思っていたら、ノゾミままは言ったんだ。
戦うのは誰でもないシリウス自身となんだって。
「いい、シリウスちゃん。どんなに怖くて辛いことであっても、自分のしてきたことから逃げ出しちゃダメなんだ」
「どうして?」
「だってそれはずるいことだもの。自分のしてきたことをなかったことにしたり、知らんぷりすることは、いくらでもできるんだ。だけどそれはどこかで必ず思いもしなかった結果を生んでしまう。そのときになって、あんなことをしなければよかったって思っても、もう遅いんだ。だからそうならないためにも自分のしてしまったことにはちゃんと自分の手で結着をつけないといけないの。シリウスちゃんにはまだちょっと難しいことかもしれないけれど」
ノゾミままは困ったように笑っていた。
でもシリウスにはわかったよ。
だってそれはちち上がしたことだったもの。
ちち上はちち上の友達が殺されちゃったことで怒っていた。
怒ったまま、ぱぱ上とあの小さい人を襲えって群れのみんなに命令していた。
その結果、群れのみんなはシリウス以外は死んじゃったもの。
その責任を取るんだってぱぱ上は言っていた。
責任って言葉がどういう意味なのかはシリウスにはわからなかったけれど、たぶんノゾミままが言っていたことなんだと思う。
自分のしたことは自分の手で結着を着ける。それが責任って言葉の意味なんだと思う。
だからちち上はぱぱ上と戦って死んじゃった。
群れのみんなを死なせちゃった責任を、ちち上が死んじゃうことで果たしたんだ。
ちち上と同じことをシリウスはこれからするんだ。
だから逃げちゃいけない。逃げるのはずるいこと。ちち上はずるいことはしなかった。だってそれはちち上が一番嫌いなことだったもの。
シリウスにはぱぱ上とまま上、それにノゾミままもいる。
それでもシリウスがちち上とはは上の娘であることには変わらない。
これから先どんなに進化して強くなっても、それは絶対に変わることはない。
たとえちち上とはは上がいなくなっているとしても、変わることはないんだ。
だからシリウスは逃げないんだ。
ちち上とはは上の娘であるためにもこんなところで逃げ出すわけにはいかないもん。
それにこんなところで逃げだしたら、ちち上もはは上もシリウスを褒めてくれない。
だから逃げない。
ちち上とはは上に叱られるのは嫌だもん。
それにまま上を放っておくのは嫌だ。
まま上が傷ついているのを見て、平気でいられるわけがないもん。
シリウスはまま上が大好きだ。
ノゾミままと同じくらいに大好きだもん。
だから放ってはおけない。
まま上を慰めてあげるのがいまからシリウスがしないといけないこと。
それがシリウスが、ううん、「わたし」が果たすべき責任なんだ。
「シリウス、ちゃん」
まま上が怯えた目でわたしを見ている。
わたしがまま上を傷付けたから。
だからまま上は怖がっているんだ。
胸が痛いよ。
すごく痛い。
でも泣くわけにはいかないの。
だってまま上を傷付けたのはわたしだもん。
そのわたしが泣くわけにはいかない。
「ノゾミまま」
「……着いていこうか?」
ノゾミままはしゃがみ込んで、わたしと目の高さを合わせてくれている。
その目はとても穏やかで優しい。
まま上とは違うけれど、まま上と同じくらいに優しくて暖かい目をしている。
そんなノゾミままが大好きだよ。
ぱぱ上もそんなノゾミままが大好きなんだよね。
だって昨日の夜にいっぱいちゅーをしていたもんね。
ちゅーは好きな人にするもの。
特に口と口のちゅーは好きな人とだけだってまま上が教えてくれた。
だからぱぱ上はノゾミままのことが大好きなんだ。
たぶんまま上よりも。
たぶんまま上はノゾミままとぱぱ上を巡って戦って負けちゃったんだ。
わたしはまま上もノゾミままも大好きだから、本当は戦ってほしくないけれど、こればかりはぱぱ上が決めることだって思う。
たぶんノゾミままのしていることは、ぱぱ上をめぐっての戦いのうえでは、しなくてもいいことだと思う。
それでもノゾミままはしている。すごいことだと思う。
そんなノゾミままをわたしは、尊敬できるよ。
だからそんなノゾミままの前で情けない姿は見せられないんだ。
「大丈夫、わたしはひとりでできるよ」
「……うん。わかった。応援しているよ、シリウスちゃん」
そう言ってノゾミままはわたしのおでこにちゅーしてくれた。
すごく嬉しいけれど、なんだかまま上が怒っているようにも見える。
まま上って本当に怒りん坊さんなんだね。
でもなんで怒っているのかな?
よくわからないや。
「まま上、話があるの」
わたしはまま上に向かって声を掛けた。
実は知っていたシリウスでした。
さて、これにて更新祭りは終了です。
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
明日は通常更新になります。




