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Act2-48 シリウスの想い

本日二話目です。

初のシリウス視点です。

 いやな夢を見た。


 ぱぱ上とノゾミままが死んじゃう夢だ。


 誰かが死んじゃうのは、ちち上とはは上だけで十分だよ。


 なによりもいやなのは、ぱぱ上とノゾミままを殺しちゃうのが、まま上ってこと。


 まま上の目は真っ赤になっていた。


 まるで血みたいだ。


 血はちち上の首が飛んでいったときに見た。


 ちち上の首が飛んだのは、ぱぱ上がちち上を殺したから。


 でも、シリウスはぱぱ上を恨んではいないよ。


 ちち上とぱぱ上は決闘をした。お互いにお互いを殺そうとしていた。


 ふたりは正々堂々に戦っていた。卑怯なことはせず、自分たちの力だけで戦っていた。


 結果はちち上の負け。


 負けたら死ぬ。それが野生の掟。


 シリウスはちち上にそう教えてもらい、ちち上はちち上のちち上、じーさまに教えてもらったと言っていた。じーさまはじーさまのちち上に教わったみたい。


 ちち上が言うには親が子供に教え、子供はそのまた子供に伝えていく。それもまた掟だとちち上は言っていた。


 掟はシリウスにはよくわからないことだったけど、大切なことだと言うのはわかっている。


 その掟に従い、ちち上はぱぱ上の手に掛かった。


 ぱぱ上はちち上の仇が取りたいなら、いつでもいいと言っていた。


 ぱぱ上はシリウスがぱぱ上を恨んでいると思っていたみたい。


 ぱぱ上はすごい人だけど、おバカさんだとも思う。


 どうしてシリウスがぱぱ上を恨んでいると思えるのか。


 シリウスにはよくわからないよ。


 だってちち上は死ぬとき笑っていたもの。


 笑いながらぱぱ上に首を飛ばされた。


 ちち上は生きているときによく言っていたもの。


 笑って死ぬことができたとき、それが最高の最期だってちち上は言っていた。


 言われたときはよくわからなかった。


 でもちち上の死にざまを見て、シリウスはわかったよ。


 ああ、ちち上の言っていたことはこういうことだったんだって。


 ちち上はちち上にとっての最高の最期を迎えられたんだ。


 ちち上にそうさせてくれたのはぱぱ上のおかげ。


 ぱぱ上がいたから、ちち上は笑って死ぬことができた。


 そのことに感謝はするけれど、恨むことなんてない。


 ちち上は正々堂々と戦い負けた。


 そこに後悔はないはず。そうじゃなかったら、ぱぱ上にシリウスを任せることなんてなかったと思う。


 ぱぱ上だからこそ、シリウスを任せられるってちち上は思ったんだ。


 シリウスもぱぱ上ならいいかなって思ったもの。


 ちち上と真正面から戦って勝ったぱぱ上のところにいたいって思ったもの。


 それにぱぱ上はとびっきりのお人よしだったから。


 シリウスは知っているよ。


 ぱぱ上はちち上とはは上の体をお金に換えちゃったけれど、ひとつだけお金にしていないものがあることを。


 ふたりの牙だけは取っておいてくれているってことを、シリウスは知っているよ。


 時々夜中にちち上の牙を取り出して、ちち上にシリウスのことを伝えてくれていることを、シリウスは知っているよ。


 そんなお人よしなぱぱ上がシリウスは大好きだ。


 同じくらいにまま上も大好き。


 ゴンさんもばぁばも好き。


 エレーンは変な臭いがするから嫌い。


 そしてノゾミままもシリウスは大好きだ。


 まま上とどっちが好きって言われたら、よくわからない。


 昨日までは同じくらいに好きだった。


 でもいまは違う。


 だってまま上はノゾミままを虐めているんだもの。


「シリウス、ちゃん」


 まま上が目を真っ赤にしている。


 ぱぱ上が言うきゅーけつきモードになっているみたい。


 きゅーけつきもーどになったまま上は話し方が変わっちゃう。


 でもシリウスを呼ぶときだけは、いつものまま上だった。


 それはいまも同じ。同じだけど、いまのまま上、シリウスは嫌いだよ。


 だってノゾミままを虐めて殺そうとしているんだもの。


 ノゾミままは首を絞められて苦しそうにしている。


 ぱぱ上は壁際で蹲っている。


 まま上に壁にまで振り飛ばされちゃったから。


 きゅーけつきって力が強いんだね。


 でもいまはそんなことを言っている場合じゃないよ。


「まま上、ノゾミままを離して」


 まま上をじっと見つめる。


 まま上は困ったように笑っている。



 まるでシリウスが言っていることがわからないみたい。


 シリウスもいまのまま上がなんでこんなことをしているのか、ぜんぜんわからないよ。


 だけどいまのまま上を放っておいたら、ノゾミままが死んじゃうことはわかっている。


 シリウスはノゾミままのことが大好きだ。


 昨日会ったばかりだけど、ノゾミままははは上と同じくらいに温かくて優しくて、いい匂いがするんだもの。


 そんなノゾミままが死んじゃうなんて、シリウスは我慢できないよ。


「……なんで? だってこの女はぱぱ上を誑かして、まま上からシリウスちゃんまで奪い取ろうとしているんだよ? そんな女は殺されて当然じゃないかな? ああ、そうか。シリウスちゃん、この女に操られちゃっているんだね? 安心していいよ。いますぐまま上がこの女を殺して正気に戻してあげるからね」


 まま上は笑っている。


 笑いながらノゾミままの首を絞めていく。


 ノゾミままが苦しそうな顔をしているのに、まま上は笑っている。


 笑ってシリウスを見つめている。


 気持ち悪い。


 まま上のはずなのに、まま上じゃないみたい。


 まま上の顏で、まま上の声、まま上と同じ話し方なのにまま上とは別人みたいに感じられる。


 それでもいま目の前にいるのはまま上だった。


 シリウスが大好きなまま上。


 でも大好きなまま上をシリウスはどんどんと嫌いになりそうだよ。


 まま上はこんなことをする人じゃないもの。


 シリウスが大好きなまま上はこんなひどいことを笑ってできる人じゃないもん。


「気安く呼ばないで」


 だからシリウスははっきりと言ってあげた。


 いまのまま上に、いつもみたいに呼ばれたくない。


 だからそう言った。


 まま上は言われた言葉がわからなかったのか、首を傾げていた。


 だからシリウスはもう一度同じ言葉を言ってあげるんだ。


 いつものまま上に戻ってもらうために。


「気安く呼ぶなって言ったの。いまのまま上に、いまのあなたにシリウスは名前を呼ばれたくない」


 言い切ると、まま上はノゾミままの首から手を離した。


 手を離して、シリウスに向かってくる。


「な、なにを言っているの? まま上だよ? シリウスちゃんの大好きなまま上だよ?」


 まま上は混乱していた。


 混乱しながらシリウスに向かってくる。


 いつもとはまるで違うまま上はすごく怖い。


 体が震えてしまいそうになるけれど、シリウスはちち上の娘だ。


 首を落とされても立ち続けたちち上の娘なんだ。


 いまのまま上が怖いからって、逃げるわけにはいかない。


 それに逃げたってまま上はノゾミままを虐め続けるだけだもの。


 ノゾミままを守るためには、シリウスは逃げるわけにはいかないんだ。


「シリウスはまま上が大好きだよ。でも同じくらいにノゾミままも大好きだもの」


「なんで? だってあの女とは昨日会ったばかりじゃない。私は一か月以上シリウスちゃんと一緒にいる。たった一晩一緒に寝ただけの女と私が同じなんてあるわけが」


 まま上はシリウスの肩を掴んでいた。


 とても強い力ですごく痛い。


 けれど我慢するんだ。


 ノゾミままを助けるためには、シリウスが我慢しないといけないから。


「時間は関係ないもん。ノゾミままはすごく優しかったもん。まま上と同じくらいに優しくて、温かくていい匂いがしたもん。そんなノゾミままがシリウスは大好きだもん」


「し、シリウスちゃんはどっちの味方なの? まま上は私で、あの女は」


「ノゾミままも「まま」だもん。シリウスはノゾミままにもままになってほしい。だからままって言っているの。ノゾミままもままになってくれると言ってくれた。だからままって呼んでいるの」


「そんなのまま上は許さないよ!? シリウスちゃんのままは」


「まま上に許してもらわなくてもいい。シリウスは勝手に呼ぶだけだもん」


「わ、わがままを言わないの!」


 まま上が右手をあげた。


 そのままシリウスを殴るんだと思う。


 まま上に殴られたことはない。


 けれど殴られたっていい。


 いまのまま上はシリウスの知っているまま上じゃない。


 だから殴られてでも、シリウスの知っているまま上に戻ってもらう。


 そのために殴られなきゃいけないのなら、シリウスはいくらでも殴られるよ。


 それでもまま上に殴られるのは怖い。


 シリウスはぎゅっとまぶたを閉じたんだ。


「シリウスちゃん!」


 ノゾミままの声が聞こえた。


 そしてぱしんって高い音がした。


 目を開けるとノゾミままがまま上に殴られていたんだ。

本日はこれにて終了です。

続きは日付かわってすぐになります。

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