Act2-39 正妻戦争勃発
本日は二話更新の日です。
まずは一話目です。
正妻戦争が完全に勃発ですね。
え~と、どうしようかな?
正直に言って、マジピンチです。
「離れてくれません?」
と右腕に抱きつくアルトリア。普段よりも薄着だからですかね。より一層感触がががが。
「そっちこそ。離れてよ」
と言うのは左腕に抱きつく希望。重量感たっぷりな感触は久しぶりだ。
なんというか、帰ってきたなって感じですね。
「あなたこそ離れなさい。この人は私の「旦那さま」です」
「「旦那さま」? ふざけないでくれる? 香恋とは十五年の付き合いなの。たかが数ヶ月くらいのあなたとは年季が違うの。馴れ馴れしくしないで」
「年月など関係ありません。どれだけの密度なのかが重要ですので」
「は、数ヶ月程度の密度なんてたかが知れているのにね。かわいそうな子」
「なんですって?」
「なにかな?」
笑うアルトリアと笑う希望。
ふたりとも言葉は通じていないはずなのに、なぜか言葉の応酬をしながらも威嚇し合っています。
たださ、威嚇し合うならば、俺を挟まずにしてくれませんかね?
なんで俺を挟むのよ。俺は関係なくない? 俺は関係ないよね?
なんで俺が渦中みたいなことになっているのさ。意味わからん。
「香恋」
「「旦那さま」」
「「その女にさっさと離れるように言って」」
日本語と異世界語で同時に話し掛けられるとかありえなくない?
そのありえないことを強制的に体験させられている俺です、こんにちは。
どうしてこんな状況になったのかは俺にもわからない。
①希望に抱きつかれました。
→②重量感たっぷりなそれに顔が緩みました。
→③アルトリアがやや切れて俺の右腕に抱きつきました。
→④薄着だからこその感触に頬が緩みました。
→⑤希望もやや切れて左腕に抱きつました。
→⑥お互いに言葉が通じないはずなのに言葉の応酬を始めました。
→⑦示し合わせたかのように俺にそっちを引き離すよう同時に言ってくれました←イマココ
……あれ? これって俺のせい?
いやいやいや、まさかそんな。
ちょっと顔がだらしなくなっただけじゃないですか。
そんなんで俺のせいとか、さすがにありえないでしょうに。
「ばぁば、ぱぱ上のせいか?」
「そうね。ぱぱ上さんのせいかしら」
「わぅわぅ、ぱぱ上はだらしがないな」
「ああいうところは参考にしちゃダメよ?」
「わぅ!」
サラさまとシリウスからの風評被害がひどい。
俺はなにもしていないよ。
いきなりアルトリアと希望が喧嘩をし始めただけなのに。
なんで俺のせいなのよ。意味がわからないね。
「いやいや、カレンちゃんさんのせいですよぉ~? いったいいつのまにあんなにきれいなお嬢さんをかどわかしたんですかぁ~?」
「かどわかしてなんていないよ! このふたりが勝手に騒いでいるだけで」
ゴンさんがこれまた風評被害を押し付けてくれましたよ。
なんなの、この痴女ドラゴン。
どうして俺を社会的に殺そうとするのさ。
そういうことをするのは、どこぞのアホ勇者だけで十分だっていうのに。
「勝手に?」
「騒いでいるだけ?」
希望とアルトリアがぎろりと俺を睨み付けてくれます。
おかしいな。少し前まで反発し合っていたよな、君たち。
なんでいきなり息を合わせてくれるのかな。
カレンちゃん、ちょっと理解できない。
「ねぇ、香恋?」
「は、はい」
「一言一句間違えずに答えなよ?」
希望がゆっくりと俺の頬にゆっくりと撫でてくれる。
薄茶色の瞳はとても剣呑な光が宿っております。
ああ、なんだってこういうところは一心さんにそっくりなんだろうね、この子。
一心さんの本気モードを彷彿させてくれるもの。マジ怖いっす。
「ひとついいかなぁ? 「旦那さま」」
「な、なんでしょう?」
「ちゃぁんと答えてねぇ?」
対してアルトリアは吸血鬼モードに突入してくれています。
血の瞳が俺をじっと見つめている。
希望とは違い、俺の首筋を撫でてくれる。
下手なことを言ったらどうなるのかは、身を以て知っています。
連日で致死量ギリギリは勘弁願いたいです。
「その子さぁ」
「その女さぁ」
「「いったい誰なわけ?」」
希望もアルトリアもお互いを睨み合っています。
うん、なにこれ。マジ胃が痛いよ。なんで俺挟まれているの?
スタイルのいい美少女に左右同時に挟まれる。
傍から見れば羨ましがられる状況かも知れない。
だけど当事者にとってみれば、一秒ごとに胃が痛みます。
俺このまま胃潰瘍にでもなっちゃうんじゃないかな。
吐血しそうなくらいに胃が痛いよ。
「香恋、黙っていちゃわからないよ?」
希望が剣呑なまなざしを向けながらより近づいてくれる。
ああ、重量感たっぷりなブツがより押し付けられます。
っていうかさ、また大きくなっていないかな、希望のこれ。
いったいなにを食ったらこんなにでかくなるんだろうね。
「「旦那さま」、浮気しちゃダメって言ったよ?」
アルトリアが鋭い犬歯を覗かせて笑っている。
ああ、笑っているはずなのに、とても怖いです。
もともと笑顔は攻撃的なものってことだけど、アルトリアの笑顔を見ているとそれがより顕著に感じられるね。これは知りたくなかった。
「えっとですね。とりあえず、おふたりとも落ち着いてくださると」
「「は?」」
「……ゴメンナサイ」
無理。無理です。このふたりを落ち着けさせることなんて、俺にはできないよ。
だって怖いもん。ふたりともマジに怖いもん。
なにこの戦争待ったなしな状況。聖杯戦争ならぬ正妻戦争ですか?
いやさ、たしかに俺は地球では希望を、この世界ではアルトリアを、それぞれに嫁と呼びましたよ?
希望とはネットゲームの中だけど、結婚しているし。
アルトリアとはシリウスという娘を一緒に育てる仲だし。
どっちも嫁だよ。
うん、自他ともに認めさせちゃっていますよ?
だけどさ、なんでふたりそろっちゃうかな?
いや現地妻を作る方が悪いというのはわかるよ。俺も他人事であればそう言うもん。
けどさ、自分の身に降りかかってみると、他人事には言えないよね。
冷や汗が次々に流れ落ちていくもの。
どうしたらこの窮地を乗り越えられるのか。
俺はいまそんなことばかり考えています。
と、とりあえずふたりはそれぞれ地球とこの世界の言葉を知らない。
そのことを逆手にとって、それぞれにそれっぽいことを言って信じさせるしかないかな。
いやそれ以外にこの修羅場を乗り切る方法はないはずだ。よし、そうと決まったら早速──。
「ねぇ? 香恋。その子に適当なことを言ったら、怒るよ?」
「「旦那さま」、嘘を言ったら、どうなるのかわかるよねぇ?」
……うん、退路を断たれました。
ふたりがそれぞれの言語を知らないことを利用したのに、先手を打たれました。
いや、まぁ、うん。普通に考えればわかるよね。
それぞれに使っている言葉を知らないのだから、そのことを逆手に取ろうなんて冷静になってみれば、誰だって思いつくよね。
なにせ完全に八方ふさがりな俺でも思いついたのだから、それぞれマジ切れモードではあるけれど、比較的に冷静さを保っているのだから、当然思いつくし、俺の退路を塞ぎに来るよね。
うん、わかっている。わかっているけれど、どうしたらいいのよ、これ。
退路を断たれた以上、俺にはもうどうしようもないのですけど。
「香恋、なにをしているの? ちゃんと言ってよ。その勘違いしている子に。現実をちゃんと教えてあげてね」
「「旦那さま」、なんで黙っているの? その身の程知らずの女に、さっさと真実を突きつけないとダメだよぉ?」
希望もアルトリアも、俺の精神力をごりごりと削ってくれます。胃の痛みが止まらないよ。
「……ダレカタスケテェ」
俺は力なくそう言うので精いっぱいになってしまった。
それでもふたりは止まらず、お互いを威嚇し合いながら、俺を左右から挟み続けてくれた。
続きは二十時になります。




