Act2-19 神獣の心
遅れてしまった←汗
部屋でごろんとしていたら、あら不思議四時半近くという時間消失マジックが←汗
右手の甲に半ば埋め込まれる形で現れた白く透明な球の正体は、バハムートさまからの贈り物だったようだ。
しかしなぜに右手の甲に埋め込みますかね。
ガリ○ーボーイっぽい。
あ、でもあれ左手なうえにグローブかつディスクだしなぁ。
あ、でもグローブをつけたら、それっぽくなるかな。
「なんですか、これ?」
贈り物にしては、いくらか厨二っぽすぎる。
いや嫌いじゃないよ。嫌いじゃないけれど、こういうのは女性である俺ではなく、あのアホ勇者の方が似合う気がするんですよね。
むしろあのアホ勇者もこういうのはきっと好きだろうから喜ぶと思う。
もちろん俺も嫌いじゃないですよ。
むしろこういうおしゃれギミックは嫌いじゃないもの。
さすがに地球でやってしまうと、完全に痛い子を見る目を向けられてしまうからやる気はないけれど、この世界であればきっとそういう目を向けられることはないはず。
それでもやっぱりこれは目立つよねぇ。引っ込めることはできないのかな。
試しに引っ込めと念じてみると、不思議と球は体の内部に沈んでいった。
あ、本当にできちゃったよ。でもこれなら目立たないよね。
いざという時に出てこいと念じて「さぁ、勝負はこれからだ」とか言えちゃうよね。
うわぁ、厨二っぽい。でも嫌いじゃないぜ、そういうのも。
「カレンさん、なんでそんな気持ち悪い笑顔をしているんですかぁ?」
ティアさんが若干引き気味だった。どうやら相当に俺はやばい笑顔を浮かべていたみたいだね。
しかし気持ち悪いはないと思うな。カレンちゃん傷ついちゃうよ。
でも実際俺がティアさんの立場で、そういう笑顔を見ていたら、きっと気持ち悪いと思っていたことだろうね。
うん、今後自重しよう。じゃないとアルトリアに怒られてしまいそうだ。
シリウスちゃんの教育に悪いことは控えてください、って言われそうだしなぁ。
アルトリアはこういうことには厳しそうだしなぁ。
こういう遊び心はとても大事だというのにも関わらず。
そう、こういう遊び心はとても大事なのです。
遊び心のない大人になってほしくないという俺の気持ちがアルトリアには伝わっていないようだ。
決して趣味丸出しというわけではないんだ。そう決して俺の趣味全開というわけじゃない。
これはすべてシリウスが夢のある大人になってもらうために、俺は身を粉にしているというだけのことなんだ。それだけのことであり、それ以外の意図は決してない。なのにアルトリアと来たら──。
「……こうも清々しいほどの自己弁護はそうそう見られませんねぇ」
「たしかになぁ。だが、面白い娘よな」
「それはそうですねぇ」
ティアさんとバハムートさまがなにかを言ってくれている。
正直余計なお世話だと言いたいけれど、言われている内容は間違っていないのが、悲しいね。
いやいや俺は間違っていないよ。
間違っているのは、すぐに浮気だなんだと言って、人の血を吸いたがるどこかの嫁だもん。
アルトリアはすぐに血を吸いたがるから困ったものだよ。
「今度はお嫁さんへの批判ですねぇ。まるでダメ夫の言い分のようですねぇ」
「なんだ? カレンには嫁がいるのか?」
「ええ。人魔族の子なんですけどねぇ、とてもきれいでスタイルのいい子ですよぉ。それでいて娘さんもいるんですよぉ?」
「ほう、あの歳でやることはやっておるのか。なかなかに好き者だな」
「ですねぇ。ムッツリさんですよぉ」
ティアさんとバハムートさまからの風評被害がひどい。
俺はムッツリじゃないもん。ノーマルだもん。失礼な。
「ムッツリさんは、自分をムッツリさんだと認めないものですからぁ。むしろ否定するということは、ムッツリだと自称しているようなものだとティアさんは思うのですよぉ。実際ティアさんの胸をじろじろと見てくれましたからねぇ」
「それはもうムッツリ以外の何者でもないなぁ」
「ですよねぇ~」
風評被害が加速していく。
なんだって俺がムッツリになってしまうのやら。
意味がわからない。そもそもこの右手の球はなんだって言うのさ。まずはそれからだろうに。
「そんなことよりも、この球はいったいなんですか?」
「それが贈り物だと言ったはずだが?」
「それは聞きましたが、いったいこれはどういう用途があるんですか?」
ガリ○ーボーイごっこができるけれど、それだけじゃ子供の遊びにしかならない。
しかしこれはおもちゃではなく、バハムートさまからいただいたもの。
つまりは有用ななにかのはずなんだ。
そのなにかがなんであるのかは、いまのところさっぱりとわからないけれど。
「その球は「神獣の心」と呼ばれるものだ」
「「神獣の心」ですか」
「ああ。「六神獣」が認めた者のみに与える宝玉であり、それぞれの神獣の力の一端を結晶化したものだ。あくまでも力の一端にしかすぎないから、それを与えたからと言って我らに影響が出るわけではないから安心するといい」
力の結晶と言われたから、バハムートさまにもなにかしらの影響が出るかと思ったけれど、それを言うまえにバハムートさまが否定してくれた。
たぶん過去にも俺と同じようなことを思った人がいるのだろうね。
だからこそこうして先に言ってくれたのだと思う。
それにしても「神獣の心」か。なかなかに厨二っぽいネーミングです。
もしかしたらこれがあると各属性の能力が格段に上昇するとかかな。そうだったらすごく助かるのだけど。
「「神獣の心」の効果はあるのですか?」
「うむ。神獣に祝福された影響で、上位属性に目覚めやすくなる。あくまでもその神獣が司る属性ではという意味だがな」
「つまりバハムートさまだと「聖」属性に目覚めやすくなるってことですか?」
「そうだ。そなたは見たところ「天」属性を曲がりなりにも使えるようだが、それは紛い物にしかすぎん。紛い物の力だけでも十分強力ではあるが、ある一定以上の強者の前では、なんの意味もない」
それは痛感していることだった。
実際俺は「風の古竜」であるじじいに完敗してしまっている。
じじいクラスの相手とこれからも戦うことがあるかはわからないけれど、もしなにかの拍子で戦うことになった場合、いまの俺では確実に負けてしまう。
そうならないためには、本当の「天」属性の力を手に入れなければならない。
じじいが神獣さまたちに会えと言ったのは、こういうことだったのか。となるとだ。
「バハムートさまに祝福されたのであれば、俺にも本当の「天」属性の力を」
「まだ無理だな。「天」属性とは本来「英雄」のみが行使できる力。そなたはまだ「英雄」の資格を手に入れたわけではない。だから我に祝福されても、まだ本物の「天」には敵わぬ」
「そう、ですか」
さすがに虫がよすぎるか。
バハムートさまが光の神獣とはいえ、祝福されただけで本物の「天」属性が得られるわけもない。
「ただほかの神獣に祝福されれば、得ることもできよう」
「え?」
「ほかの神獣たちからも祝福を受けよ、カレン。さすればそなたは「英雄」への道を歩むことになろう」
ほかの神獣さまからの祝福を、残り五つの「神獣の心」を授かれれば俺も「英雄」になれる。
正直眉唾な話だけど、母さんに会うためにもほかの神獣さまから祝福を受けなければならないんだ。
同時に強くなれるって言うなら、やってやろうじゃないか。
「ある限りの力で」
「うむ。力を尽くすといい。それにそなたは「英雄」になるべきだ」
「そうですかね?」
「ああ。なにせ」
にやりとバハムートさまが笑った。
その笑顔はパリピ状態のそれととてもよく似ていた。
すごく嫌な予感がします。
「英雄は色を好むと言うしな。ムッツリであるそなたにはふさわしいであろうさ」
がははは、とバハムートさまが笑う。ティアさんもおかしそうに笑っている。
ああ、やっぱりこうなったか。
というかさ、どうしてこうもみんな俺に風評被害を押し付けますかね。
その筆頭はアルトリアだ。
俺は浮気なんてしてないって言っているのに、俺の話は完全に無視だもの。
まったくうちの嫁には困ったものだよ。そのうち本気で浮気をしてやったら──。
「浮気はダメって言っているよねぇ?」
背筋が震えあがった。
喉が急に張り付いてしまったかのように、声が出ない。全身が震えあがる。
なのに体だけが動かない。動いてくれない。
なんだ、なにがあった。俺の身にいったいなにがあったんだ。
「本当に「旦那さま」はダメだよねぉ。私には浮気をしないで~って言うくせに、自分は平然とするんだもの。まだレアって女とどういう関係なのかは教えてもらっていないしぃ~?」
声が聞こえる。聞こえるはずのない声。
そんなバカな。この場にアルトリアがいるわけがない。
そうさ、これはきっとティアさんが声真似でもしているんだよ。
ティアさんとアルトリアの声はまるで似ていなかったけれど、きっと頑張ってそれっぽい声を出しているに違いないよネ。いやそうであってください。お願いします。
「浮気しちゃう「旦那さま」には、オシオキだよねぇ?」
がしりと肩を掴まれる。振り返るなと心が叫ぶ。
けれど俺は振り返ってしまった。そうして振り返った先には吸血鬼モードになったアルトリアが笑っておいででした。
「な、なんで」
「問答無用なのぉ!」
アルトリアが叫ぶ。首筋に牙が穿たれると同時に、俺は意識を失った。
ある意味死亡フラグの正しいやり方←ヲイ
あ、カレンは死なないのでご安心をば。




