表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/2073

Act0-22 蛇王さまの愛の鞭

 エンヴィーさん、もとい、レアさんの指示通りに馬車を動かすと、こじんまりとした門があった。


 さっきの門を正門とすれば、裏門というところだろうか。が、さっきの門とは違い、少し小さめだった。だが、さっきの門にはなかった装飾が施されているし、妙に警備している兵士さんの数が多く、厳重だった。


「なんか、えらくきれいな門ですね。それに兵士さん方も多いし」


「それはそうでしょうね。この門は王族専用の門ですもの」


 さらり、とレアさんは言い切った。たしかに王族専用の門であれば、その分警備も厳重になるだろうし、門自体に装飾も施されるというものだ。それに王族専用の門であれば、並ぶ必要もない。うん、王さまであるレアさんがこっちに誘導するのもわかるというものではあるが、職権乱用という言葉がここまで相応しい状況もそうそうないだろうな。


「レアさん、これって職権乱用って奴じゃないですか?」


「いえいえ、そんなことはありませんよ。そもそもいまの私は蛇王エンヴィーではありません。町娘のレアですもの。職権乱用なんてできるわけがありません」


「え? でも、この門は王族専用の門であって、ただの町娘のレアさんじゃ」


「ああ、それは大丈夫です。なにせ「聖大陸」の勇者さまご一行をお待たせするわけにはいきませんので、特別に王族専用の門を使用するようにと、蛇王さまからの命がございますから。なのですんなりと通れますよ? ねぇ、そうですよね? 護衛隊長さん?」


 にっこりと門を警備していた、一番上質そうな鎧を身に着けていた、水色の髪をした女性兵士さんに声をかけるレアさん。どうやら護衛隊長さんらしいけれど、実に困った顔をしていた。急なアドリブには対応できないようだ。アドリブと書いて、無茶ぶりとも読めなくもない行為ではあるが、ここは護衛隊長さんの対応力に期待するとしよう。


「え、えっと、陛下の仰るとおりですので、問題なく」


「は? 「陛下」?」


「し、失礼しました。レアさまの」


「ねぇ、護衛隊長さん? 私は「ただの町娘」ですよ? その町娘を様付するのはどうかと思われますが?」


 薄く目を開き、護衛隊長さんを見やるレアさん。それ以上はやめてあげてください、しんでしまいますよ、と言いたくなるような、あからさまな威圧感を放つレアさん。護衛隊長さんは涙目だった。蛇に睨まれた蛙。現状はまさにそう言わざるをえない状況だった。どっちが蛇で蛙なのかは、言うまでもない。蛇王だけに。


「あ、あの、その、れ、レア殿の仰るとおりでありますので、どうかお進みください。どうかお早めに」


 最終的に護衛隊長さんは、土下座していた。この世界でも土下座ってあるんだなと思うと、感慨深いものがある。土下座をする護衛隊長さんの哀愁はあえて見ないことにする。勇ちゃんたちも気の毒そうに護衛隊長さんを見つめていた。こっちで言うかどうかはしらないけれど、王宮仕えっていうのも大変なんだな、としみじみと思う。


「……まぁ、そんなところですかね。いいですよ、護衛隊長さん。顔を上げてください」


「よ、よろしいので?」


「顔を上げろ、と言いましたが?」


「も、申し訳ございませぬ! ただちに!」


 一瞬で土下座から背筋を伸ばしての敬礼をする護衛隊長さん。それはほかの兵士さん方も同じだった。いや、どこかほっとしたような顔をしているようだった。ようやく針の筵から抜け出せる。そんな顔をしていた。どうやらこの人たちにとって、レアさんは恐怖の象徴のようだ。まぁ、雲の上の存在と言ってもいい人だから無理もないのだろうけれど、それにしては恐れすぎているような気がする。


「ああ、そうだ、護衛隊長さん」


「な、なんでしょうか?」


「陛下からの言伝です」


「へ、陛下からですか?」


「ええ。「今日の晩、門番と巡邏を除いた護衛隊の兵士は、みな訓練場に集合せよ」とのことですよ。なにやら「いつも」のお話があるそうですよ」


「……りょ、了解いたしました」


 護衛隊長さんから表情が消えた。見ればほかの兵士さん方も悟ったような顔をしていた。


「では、失礼しますね。……今日の晩は、少し張り切りますので、頑張ってくださいね」


 レアさんがかすかに口角を上げて笑った。同時に護衛隊長さん他兵士さん方は、一斉に敬礼をした。いまにも「Sir,Yes,Sir」という言葉が聞こえてきそうだ。


「じゃあ、カレンちゃん。勇ちゃんさんたちもいきましょうか」


 いつものようにレアさんは笑う。いままであれば、穏やかな笑顔だなぁと思っていたけれど、いまはもうそんな風には思えない。というか、ちょっとはっちゃけすぎじゃないかな、と思う。もしくはこれがレアさんの本当の姿なのかもしれない。蛇王としては、自分を律しているけれど、レアと名乗っているときは、ありのままの自分でいようとしているのかもしれない。王さまであるのだから、当然束縛はされる。でもそれは仕方がないことで、受け入れるしかない。


 でも、どんなに受け入れようとしても、すべてを受けとめられるわけではないから、こうしてガス抜きをしているのかもしれない。巻き込まれている兵士さん方は気の毒で仕方がないけれど。


「……あ、あのレアさん」


「なんです?」


「つかぬことをお伺いしますが、護衛隊の兵士さん方にいったいなにを」


「さぁ? 蛇王さまのお考えは私などには忖度できるものではございませぬので」


「そ、そうですか」


「ただ、そうですね。以前蛇王さまが「「魔大陸」の玄関口とされる国の、しかも王城のある首都に詰める兵士は、もっと精強かつ柔軟に行動できなくてはならない」と仰っておりましたので、六属性のうちの何種類かの魔法を乱れ撃ちし、その対処の方法を学ばせるというところでしょうかね?」


 さらり、ととんでもないことをレアさんは言った。それは一種のしごきと言わないだろうか。いやしごきという言葉すら生ぬるいことだった。まだ魔法使いであれば、可能性はあるかもしれないけれど、護衛隊の兵士さんってみんな前衛系の人ばかりだから、魔法は使えたとしても、魔法使いのようには使えないと思う。そんな人たちを相手に、乱れ撃ちとは。鬼教官という言葉が脳裏に浮かんだ。


「……そもそも「蛇の王国」の兵士ってそんなに質が悪いわけじゃないんだけどね。むしろ質の良しあしを言うのであれば、「エルヴァニア」の兵士の方がはるかにヤバいから」


 ぼそり、と勇ちゃんが呟いた。まぁ、レアさんの話を聞く限り、定期的に今夜するようなことをしているだろうから、それで精強にならない方がおかしいだろう。しかしレアさんでこれなのだから、ほかの「魔大陸」の国の兵士さんたちはみんな大変な想いをしているのかもしれない。やっぱり王宮仕えっていうのは、大変なんだなと思いながら、俺たちは首都「エンヴィー」に踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ