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Act2-16 「双竜」の優しさ

本日二話目です。

今回は無事に更新できました。

 ジョンじいさんに勧められて、「魔大陸」を出て群島諸国までやってきたというのに、「双竜」の加護を受けられるのは竜系の種族だけ。


 つまりはジョンじいさんのような竜人までは加護を受けられるということだった。


 でも残念ながら俺は竜系の種族ではなく、普通の人間です。なので加護は受けられませんでした。


 なんのコメディかな、これ。


 いやここまで来るのにめちゃくちゃ苦労して、結果がこれでは諦めきれないだろうし、もう泣くしかない状況だろうが、幸いなことにここまで来たのはゴンさんの背中に乗ってだから苦労はしていない。


 強いて言えば「双竜殿」の内部を進むのに苦労したくらいかな。


 それでもあの長い道のりを歩いた結果がこれか。この報われなさ感、プライスレス。


「ティア、なんでその子はそんなへこんでいるんだ?」


「どうやらお二方の加護が欲しかったそうですねぇ」


「そうなのか。なら悪いことをしたかな?」


「とはいえ、竜系の種族以外には意味がないからなぁ」


「双竜」たちはなんだか申し訳なさそうというか、俺を気遣ってくれているようだ。


 パリピではあるけれど、値は優しい人たちみたい。


 トカゲどもと心の中で呼んでしまってごめんなさい。


 これからはちゃんと様づけで呼びます。


「ならバハムート。この子にあれをやったらどうだ?」


「ああ、あれか。だがこの前来た勇者にもやっていないんだが」


「いいじゃないか。あの勇者はそこそこやりそうではあったが、この子の方が見どころがありそうだぞ?」


「ふむ。まぁちゃんと言葉を交わし合ったわけではないが、この子の方が見どころはあるな」


「だろう?」


「しかしいいのかな? 一応あれは試練を乗り越えてだな」


「いいじゃないか。ティアに連れてきてもらったとはいえ、あの回廊を抜けてきたんだ。試練を乗り越えてきたと言ってもいいとは思うが」


「ふむ。物は言いようだが、まぁ間違いではないかな」


「それに、このままなにもなしでは、さすがにかわいそうだ。おまえのを授けてやってくれ。こちらは時間もないことだしな」


 ファフニールさまとバハムートさまがなにかを言い合っていた。


 言い争いというわけではなく、話し合いだった。


 ファフニールさまは肯定派でバハムートさまが否定派ってところか。


 ただ否定とはいっても、露骨にしているわけではなく、規則に外れていないかどうかが気になるって程度のようだ。


 性格はチャラいけれど、ふたりとも優しい人のようだ。


 この世界の魔物ってわりと優しい性格なのが多くないかな。


 まぁ、このふたりは神獣だからというのもあるだろうけれど。


 それを踏まえても優しい気がする。


 神獣ってもっとこうドンと構えているというか、我さま的な態度を崩さないというイメージがあるのだけど、どうにもこのふたりを見ていると神獣は優しい人たちなのかもしれないと思えてくるね。


「あいわかった。少女よ、名は?」


「カレンです。カレン・ズッキーです」


「いやこちらで名乗っている名前ではなく、本当の名を教えてくれまいか?」


「え?」


 バハムートさまの言葉は思わぬ内容だった。


 というか、なんで俺が偽名を使っているのがわかったんだろう。


 少なくともこの島に来てからは本名を名乗っていない。


 なのになんで「カレン・ズッキー」が偽名だとわかったんだろうか。


「なんで偽名だと?」


「そなたの魂の色だよ」


「魂の色?」


「ああ。そなたの魂の色はこの世界の者とは明らかに違う。おそらくは異世界からの旅人であろう?」


 バハムートさまが目を細めていた。


 目を細めることで俺の魂の色を見ているってことなのかな。


 しかし魂の色ね。この世界の人の魂と俺の魂って一目でわかるくらいに色が違うのかな。


 そもそも俺の魂ってどんな色をしているのかな。


「それで名前を教えてくれるのかな? 異世界からの旅人よ」


 バハムートさまは笑っていた。


 ゴンさんがうちのギルドで生活をするようになってから、徐々にだがドラゴンの表情の変化がわかるようになってきた。


 あくまでも基準がゴンさんだから的外れな可能性もあるけれど、少なくともいまのバハムートさまは笑っているようだ。口調も穏やかだし、目も優しげだった。


「……スズキカレンです。カレン・ズッキーという名前は、「蛇王」エンヴィーさまに授けていただいたものです」


「ほう、「蛇王」にか。よく名前をつけてやろうと思ったものよな」


「え?」


「いや、こちらの話だ。ふむ、「蛇王」とは知り合いということは、「竜王」とも知り合いかね?」


「はい。お二方にはよくしてもらっています。ティア殿のホテルでいま滞在しておりますが、それが終わったら「蛇の王国」で「蛇王」さまとお目通りをしようと考えています」


「そうか。「蛇王」のことは好きかね?」


「僭越ながら、姉のように思っております」


「ほう、あのお転婆娘を姉のようにか」


「まぁ、「蛇王」がお転婆であったのは、もう数千年も昔の話だからな。もっともそれは「竜王」とて同じ。なにせあやつも昔は「聖大陸」で悪さをしておったからなぁ」


「だがそれでも性根が善良であることには変わらなんだ。だからこそ」


「「双竜」さま方、そろそろお時間ですよぉ?」


「双竜」さま方が昔語りを始めてしまった。


 ファフニールさまは時間がないはずなのにと思ったけれど、エンヴィーさんやラースさんの昔の話は気になっていたことだ。


 特にエンヴィーさんがお転婆娘と言われたことには驚いたね。


 俺の知っているエンヴィーさんは清楚で大人っぽい雰囲気なのに、悪戯が大好きという困ったお姉さんだ。


 それでいて仕事をすぐにサボってしまって、ってあれ、これ俺にブーメランだよな。


 地味に胸に痛いよ。胸にふくらみはないけれどね!


 とにかく俺の知っているエンヴィーさんはお転婆娘と言われるような人ではなかった。


 そんなエンヴィーさんがお転婆だったなんて言われたら、聞きたいと思うのは無理もないことだ。


 加えてあのラースさんもなにやらグレていた時期があったようだ。


 いまはわりと真面目な人なのにな。


 あれかな。真面目な人ほど昔やんちゃをしていたっていう奴かな。


 いまのラースさんからは、とてもではないけれど想像できないけどね。


 だから「双竜」さま方の話はとても気になったのだけど、ティアさんが強制的に切り上げさせてしまう。


 もっと話を聞きたいと思ったけれど、実際ファフニールさまには時間がない。引き止めるわけにはいかない。


「おっと、そうだった。ではまたな、カレン。いずれまただ」


 ファフニールさまはそう言って笑うと、玉座から立ち上がると、部屋から出て行ってしまう。


 俺たちが入ってきた扉とは違う扉が、ちょうど玉座の裏側にあった扉を潜ってしまう。


 その場に残されたのは俺とティアさん、そしてバハムートさまだけになった。


 ファフニールさまがいなくなっただけで急に静かになってしまった。


 それだけファフニールさまが賑やかな方だってことなのだけど、ひとつ気になっていることがある。


「あの、バハムートさま」


「なんだ?」


「なんだか口調が変わって来ていませんか? バハムートさまもですが、ファフニールさまは特に」


 そうパリピのようなノリだったのが、急に威厳たっぷりな雰囲気になっていった。


 口調も雰囲気に見合うものに変わっていた。


 特にファフニールさまの変化には驚いてしまった。


 まぁ、いきなりではなく、徐々にだったから、実際はそこまでではないのだけど、振り返ってみると差があまりにも著しかった。


「まぁ、ファフニールもなんだかんだとは言っても、根は真面目だからなぁ。説法を説くとあれば、少しは真面目になる。まぁ、そながた不思議がるのも無理もないがね」


 バハムートさまは笑っていた。


 いまいち納得しきれないものはあるけれど、「双竜」さま方が俺を騙す意味もない。


 納得はできないけれど、そういうところなんだと思う。


「さて、ファフニールに言われたとおり、そなたにひとつ贈り物を授けようか」


 バハムートさまが笑顔を消し、真剣な表情でそう言った。

明日は十六時になります。

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