表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
215/2051

Act2-13 「双竜殿」へ

PV58000突破です。

いつもありがとうございます!


「双竜殿」はホテル「クロノス」からそう離れていない場所にあった。


 ただ離れてはいないが、徒歩では行けない距離なので、ホテルからは馬車で「双竜殿」に向かうことになった。その車中で俺はティアさんにいろいろと教えてもらった。


 たとえば「双竜殿」は「双竜島」の中央にあり、その周辺には人家やら商店が立ち並んでいるとかね。まるで浅草や柴又などの参道のようだと思った。


 そして「クロノス」はその「双竜殿」から一番近くにあるホテルだった。


 だからこそ「双竜島」における最高級のホテルの名を冠しているのかもしれない。


 なにせ「双竜島」における最大の目玉となる観光拠点は誰がどう考えても「双竜殿」だからね。


 なかには「六神獣」の二柱が座す社殿を観光拠点にするのかはどうかと言う人もいるだろうけれど、日本だって浅草の浅草寺やら柴又の帝釈天、成田の新勝寺など有名な寺社仏閣の周囲には人家や商店が立ち並び、下手な観光地よりも立派に観光拠点として名を馳せているんだ。


 なら「双竜殿」をそういう観光拠点にしてはいけないという決まりはないはずだ。


 そもそも地球とは違い、奉っている本人と直接会話ができる以上、本人が自身の社殿を観光拠点にされることを認めているのであれば、誰が文句を言えるって言うんだろうね。


 もっとも相手は神獣さまだから、やりすぎてしまったら怒られてしまいそうだけども。



 ただ少なくとも「双竜殿」の周囲にある人家ないし商店は結構な数があるけれど、あきらかにやりすぎているという風には見えない。


 あくまでもメインは「双竜殿」であり、その神聖な雰囲気を壊さないように配慮されている。


 具体的には人家はみんな同じ形をしていた。


 だいたいが同じ二階建ての家で、「ラース」や「エンヴィー」にあったような貴族が住んでいるだろうお屋敷のように大きな家はまるでなかった。


 すべてが同じ大きさ、同じ広さの間取りの家ばかりだ。


 まるで建て売り住宅のようだよ。誰もが「双竜」を敬い、その威光に守られて生きているというのがひしひしと感じられる。


 商店にもそれは同じことが言えた。


 さすがに人家のようなすべて同じ大きさかつ同じ間取りの店ばかりってわけじゃない。


 商売がうまい人もいれば下手な人もいるわけだから、当然店の大きさはそれぞれに異なっていた。


 しかしどの店みも言えることなのだけど、あまり目立っていなかった。


 商店というものは、基本的に目立ってナンボだ。つまりは人の目につくような外観ないし看板を用いることが多い。


 だけど「双竜殿」の周りの商店はまるで目立っていなかった。


 むしろ逆に目立たないように地味な外観をしている。


 せいぜい建て売り住宅のようななにもかもが同じな人家よりも、いくらか広めでかつ人が立ち入りやすいように門戸が開かれているということと、外から見ても明らかなほどに所せましに商品が置かれているということで、辛うじて商店だってことがわかる程度で、「ここは商店ですよ」という主張をしていない。


 なにせ観光地につきものの呼び込みさえないんだもの。


 お客さんを呼び込むための威勢のいい声さえも聞こえてはこない。


 よくこんなんで商売ができるなと逆に感心してしまうね。


「まるで京都だなぁ」


「双竜殿」周囲の街並みを眺めて俺はそう思った。正確にはある条例が敷かれた以後の京都だな。


 何年か前から京都では景観にそぐわないような看板などを取り外せという条例ができて、現地の商店等から反発を受けているという話があるそうだけど、「双竜殿」周囲の商店はそういう条例は関係なく、自分たちから進んで、目立つような看板や呼び込み等はしていないようだ。


 ジョンじいさんをはじめとした商人は儲けが第一だ。


 その儲けを度外視するようなことを、ここいらの商店は平然とやっているみたいだ。


 それもすべては「双竜」のたわものなんだろうな。もしくは「双竜」への感謝と敬愛、そして畏怖がなせる技なのかもしれない。


 俺にはこの世界での「六神獣」の立ち位置がいまいちわからないけれど、少なくとも恐れられているだけであれば、その根城の周囲に人家が立ち並ぶことはない。商店だってあるわけもない。


 かと言って親しみやすいだけであれば、もっと乱雑とした街並みになっているはずだ。


 ここのように一糸乱れないほどに似たような人家が立ち並んでいたり、目立ってナンボの商店がみずから目立たないようにしていることなんてありえない。


 すべては「双竜」、ひいては「六神獣」たちが恐れられつつも、この世界のすべての住人に愛され、そして感謝されているがゆえなんだと思う。


 神獣と謳われても、元を立たせば特別な魔物でしかない。そんな魔物が恐れられつつも、長年にわたって愛され、感謝されている。


 そう簡単にできることじゃない。そしてその簡単にはできないことを「六神獣」たちは長年に渡ってし続けてきている。そんな人々と神獣の在り方がなんとなくわかる。そんな街並みだった。


「そろそろですねぇ」


 ティアさんが窓の外を眺めて言った。


 その言葉の通り、少し先に大きな建物があった。社殿というか、神殿みたいな建物だ。


 やがて馬車はその建物の前で停まった。ティアさんが馬車を降りたので、俺も続いて降りた。


「ここが「双竜殿」か」


「双竜殿」はその名にふさわしい外観だった。


 見た目はギリシャのパルテノン神殿みたいな感じなのだけど、違いは神殿の柱の色が白と黒が交互になっている。


 あと壁に描かれている彫刻はすべて一対の竜が彫られていた。


 白い竜と黒い竜。見た目は同じだが、竜とは思えないほどに穏やかな顔で描かれていた。


 なんだか竜って生き物はみんな穏やかなんじゃないかって思えてくるね。


「もう夜なのに人が多いんですね」


「双竜殿」の前にはまだ多くの人がいた。すでに日は沈んでいるのにも関わらず、ごった返しに近いレベルの人ごみだった。


「ああ、ファフニールさまのお言葉を聞きに来た方々ですねぇ」


「ファフニールさまですか? というか言葉を聞けるって?」


「おやぁ、カレンさんは知らないのですかぁ?」


「ええ。神獣さまの社殿に来るのはここが初めてでして」


「なるほどぉ。でしたら道すがら話しておきましょうか」


 ティアさんは人ごみを避けて、社殿の裏側へと向かいながら、人ごみについて話してくれた。


 なんでも「双竜」たちとの面会自体はいつでもできるそうなのだけど、その場合はあくまでも大勢の中のひとりとしてみたい。


 個人で「双竜」たちと謁見することはそうそうできないそうだ。


 できるとすれば、「勇者」か「七王」じゃないと個人としては会ってもらえない。


「聖大陸」の王さまでさえ、大勢の中のひとりという扱いになると言われたのは驚いたよ。


 ここでも「聖大陸」は低く見られてしまっているのかと思ったのだけど、ティアさんが言うには少し違うみたいだ。


「「聖大陸」でも一部の国の王であれば、個人個人での謁見はしてもらえるのですけどぉ、エルヴァニア関係の国はまず無理ですねぇ」


「エルヴァニアはなにかしたんですか?」


「単純に「双竜」さま方が嫌っているのですよぉ」


 身もふたもない返事だった。


 俺がこの世界に来て初めて会ったのが、エルヴァニアの王さまだったけれど、あのおっさん神獣に嫌われるようなことをやらかしたんだな。


 いったいなにをやってしまったのやら。


「エルヴァニアは代々の王がろくでもないのでぇ、神獣さま方も愛想を尽かしているってところですねぇ」


「神獣さまに愛想を尽かすとか、よくまだ国が残っていますね」


「エルヴァニアは特殊な国ですからねぇ。おっと通用門に着きましたよぉ」


 ティアさんが足を止めた。そこは通用門と言うのもわかるほどにとても小さな門だった。


 いや門というか扉と言った方がいいかもしれない。それくらいに小さな入り口だった。


「では、ここから中に入って行きますよぉ。決して遅れないようにお願いしますねぇ」


 ティアさんが真面目な顔で言った。ここからはおふざけはなしみたい。


 わかりました、と頷きながら、俺はティアさんと一緒に通用門を通って、「双竜殿」の内部にと入って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ