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Act2‐12 人の嫁に手を出そうとしたんだから、覚悟はできているんでしょう?(Byカレン

本日九話目です。

制裁シーンはカットしました。

いやだって、誰得ですからね。

 海=ナンパ。


 それは二次元だけではなく、現実世界でも起こり得ることではあった。


 女性側もそういうことを意識しているパターンがある。いわゆるアバンチュールのためにだろうね。


 たださ、俺の中ではそういうのは、二次元限定だと思っていたんだよね。


 いや現実でも起こり得るとは思うよ? 


 だけど俺は実際にナンパしてくる軽薄そうなお兄さんたちをあまり見たことはなかった。


 現実でも起こり得ることとはわかっているけれど、実際には見たことがなかった。


 だから二次元限定だと思っていたのだけど──。


「──で? 俺の嫁になんの用ですか? お兄さん方」


 まさか現実に起こってしまうとはね。


 もっともそれもすでに終わったことだけど。


 なにせ俺の目の前には、軽薄そうなお兄さん方が正座されています。


 勘違いしないでほしいのだけど、俺はなにもしていないよ。


 ただちょっと「お話」を聞いてもらっただけ。


 そうそれだけさ。だからお兄さん方の顏が腫れ上がっていることは、俺には関係がない。


 お兄さん方が体をがたがたと震わせているのも関係ない。


 俺を見る目が恐怖に染まっていることも関係がない。


「えっと、その、ですね」


 お兄さん方のひとりが身体を震わせながら口を開く。


 だが言葉になっていない。言いたいことはきちんと、はっきりと言うっていうのは、社会人としての常識だろうに。


 明らかに俺よりも年上のお兄さんたちがそんなことさえもできないといのは、いささかどころではなく、相当に恥ずかしいよね。


「言いたいことはきちんと言ってくれませんか?」


「ひぃ! す、すいません!」


 そう言って口を開いたお兄さんが土下座をした。


 倣うようにしてほかのお兄さん方も土下座をしてくれる。


 土下座をしたくらいで人の嫁にちょっかい出そうとした罪がなくなるとお思いなのだろうか。


 いくらか浅はかすぎると思うのは俺だけかな。


 いやそんなことはないよね。これは大いなる世界の意思です。


 きっと世界中の人たちがみんな同意してくれるはずだと思うんだよね。


「誰が謝れと?」


 にこりと笑い掛けると、なぜかお兄さん方が再び悲鳴をあげた。


 笑い掛けただけなのに、失礼な人だなぁ。


 カレンちゃんがぷんぷんしちゃいますよ。


「もう、その辺でいいんじゃないですか? 「旦那さま」」


 アルトリアが憐れみに満ちた視線をお兄さん方に向ける。


 どうやら同情してあげているみたいだ。


 本当にアルトリアは優しい子だ。


 こんな軽薄なナンパお兄さん方にも優しいんだから。


 本当に俺にはもったいない嫁だよね。


 だがいくらアルトリアからのお願いとはいえ、俺の怒りはまだ治まらない。


「いいや、アルトリアがなんと言おうとも、まだやめないよ。だってさ、もしアルトリアだけだったら、どうなっていたことやら」


 そう、この場には俺とゴンさん、そしてシリウスもいる。


 アルトリアを守れるのが三人もいたからよかったものの、もしアルトリア単独であれば、あのスキンヘッドのときみたく、セクハラをされていた可能性が高い。


 いやセクハラだけで済むならいい。


 だがもしこの連中が調子に乗って、アルトリアを自分たちの部屋に連れ込んだり、人の気のないところへと無理やり連れて行ったりしていたら。


 そう考えるだけで吐き気がする。加えて怒りが沸き上がる。


 男数人がかりで嫌がるアルトリアを無理やり組み伏す光景が思い浮かんでしまう。


 嫌がるアルトリアを無視して、下ひた笑顔を浮かべながら、アルトリアの水着を引きちぎり──。


『助けて、「旦那さま」』


 光を失った瞳で、アルトリアがぽつりと呟く。


 そんなアルトリアに向かってこの連中が高笑いをしている。


 そんな胸糞悪い光景がありありと浮かんでしまったよ。


 うん、やっぱり処そうか。というか処すべきだよね。むしろ処させろ。


「とりあえず去勢でいいですよね?」


「なんでそうなるんですか!?」


 お兄さんのひとりが叫ぶ。


 うるさいなぁ。もう日が暮れているんだから静かにしてほしいものだよ。


 こういうところで常識がないというのは困るよね。


「なんで? うちの嫁を手籠めにしようとしたくせになんで? いい度胸ですね?」


「手籠めにするなんて俺たち言っていないですよ!?」


「一緒にご飯でもって誘っただけじゃないですか!?」


 お兄さん方が抗議の声をあげる。


 たしかにアルトリアに向かって、この連中は一緒にご飯食べないとか言っていたね。


 でもそれがナンパの常套句であることは、カレンちゃんはよぉく知っているよ。


 幼馴染の子がよくそういう常套句で声をかけられるって言っていたもん。


 実際にその場面を見たことがあるから知っているもん。


 ちなみにそのときも俺が追い払いましたがなにか? 


 地球でもこの世界でもナンパするお兄さんってあんまり強くないのは、共通しているみたいだね。


 あのときもこうして道端で数時間ほど正座させたまま、お説教をしてあげたのは、いい思い出だよ。


 あのときのお兄さんも泣きながら震えていたね。


 もうナンパしませんから、許してくださいって言っていたもの。


 あのときはそれで許してあげた。


 だって相手は幼なじみであり、俺の嫁でもなんでもなかった。


 まぁ、あのときは冗談というか、幼なじみが俺の嫁という扱いにして撃退したから、便宜上は嫁扱いをしたけどね。


 あのときの幼なじみは、希望は顔を真っ赤にしていたなぁ。


 あのときはノンケだと言い張っていた頃だったけれど、それでもかわいいなと思ったのは秘密。じゃないとアルトリアに殺される。


 まぁ、それはそれとしてだ。


 希望のときは、希望と俺はただの幼なじみだったから、言質を取ったことで許してあげたけれど、今回ばかりはその程度で許す気はない。


 だってこのお兄さんたちさ、アルトリアの肩に腕を回してくれたんだよ? 


 俺だけができることをやってくれたんですよ? 


 許せるわけがないよね。むしろ許していいわけがないよね。


 だから去勢は決定だ。なにがあろうとも去勢してやろう。


「とりあえず去勢する順番を決めましょうか?」


「とりあえずってなんですか!?」


「とりあえずで人生を変えないでくださいよ!?」


「横暴にもほどがありますからね!?」


 お兄さんたちがヒートアップをしている。


 うるさいなぁ。それぞれに喋るんじゃないよ。順番に言えってのに。


 まぁお兄さんたちにとっては、元男になるかどうかの瀬戸際だから致し方がないのだろうけれど、そんなことは俺にはどうでもいいことだ。


 人の嫁に手を出そうとしたことに対する贖罪にはこれでもまだ不十分だというのに。


「あ、あの「旦那さま」」


「なぁに?」


「もうその辺で」


「……アルトリアは優しいね。でもダメだよ。こういう輩は徹底的にしないと、自分たちのしたことを弁えようとしないんだ。だから徹底的にやるしかないんだよ」


「それはそうかもしれないですが、そろそろシリウスちゃんがつまらそうにしていますので」


 言われて気づいた。


 俺がお兄さんたちとお話をしている間、シリウスはずっとゴンさんと手を繋いで待ってくれいていた。


 だが、徐々に頬を膨らましていじけているような顔をし始めていた。


 これ以上こいつらにかかわっている場合じゃないか。


「……シリウスのためにもこの辺にしておくべきかな?」


「そうですよ。この人たちとシリウスちゃんのどちらを選ぶのかなんて、考えるまでもないですし」


 さらりとアルトリアはひどいことを言った。


 お兄さんたちを憐れんではいるが、お兄さんたちよりもシリウスの方が大事だと言い放ったんだ。


 まぁ、まま上とはしては正しい判断だね。となれば俺もぱぱ上として正しい判断をするべきだろう。


「はぁ、仕方がないか。とりあえず許してあげます」


 ため息混じりに言うと、お兄さん方は泣きながら喜んだ。


 だけどこういう輩はきちんと釘を刺しておかないとまたやらかす可能性が高い。


 ならばちゃんと釘は刺しておくべきだろうね。


「今回は許しますが、次うちの嫁に手を出そうとしたら」


 砂浜に落ちていた適当な石を、できるだけ丸そうな石をふたつ拾い上げて、笑いながら握りつぶした。


 お兄さん方が股を押さえたのは言うまでもない。


「こうしますから、気を付けてくださいね?」


 最後ににこりと笑い掛けるとお兄さん方はごめんなさいと叫びながら、我先にと逃げ出していく。


 全員しっかりと内股になりながらなのが面白かった。


「待たせたな、シリウス。遅くなったけれど、遊ぼうか?」


「わぅ!」


 シリウスは不満そうな顔から一転して笑顔になって飛びついてきた。今回はちゃんと抱きしめることができた。


 すでに日が落ちてしまっていたけれど、わずかな間の浜辺での遊びを俺たちはしっかりと楽しんだ。

ボコられるシーンさえも省かれてしまう軽薄なお兄さん方がいとあはれ。

ちなみにカレンの幼なじみの名前は「希望のぞみ」です。

希だと某スクールアイドルになっちゃうから、望を足しました。

続きは二十一時になります。

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