Act0-21 到着
あれから数日が経ち、勇ちゃんのベルセリオス様フィーバーもようやく終わってくれた。その対価として、俺は昨日までげっそりとさせられていたわけなのだけど、護衛をしてくれている代金と考えれば安いだろう。それに勇ちゃんのパーティーの一時的なメンバーとして参加できたことは、考えようによっては、値千金と言ってもいい。
なにせ「聖大陸」における本物の勇者のパーティーなんだ。旅における基本的なやり方、魔物の対処の仕方やその知識。本来であれば、何年もかけて、それこそ失敗を重ねて知っていくことを、短期間で詰め込むことができたのだから。生兵法は怪我の元とは言うので、過信しすぎるのは危険だけど、知識がまるでないのと、多少でもあるのとではまるで違ってくる。それらは本来お金を出しても知ることができないもの。いわば非常に価値のある知識だった。
その知識を詰め込める分だけ、詰め込むことができた。あとはそれを自分のものとして、昇華することができればよし。そのためには、まだだいぶ時間はいるだろうけれど、急いては事を仕損じるともいうし、焦らず、けれど迅速に行っていきたいと思う。たしか、フェスティナ・レンテの精神だったかな。まぁ、意味合いはちょっと違うかもしれないけれど。
とにかく、そうして俺は必要最低限の知識を、勇ちゃんたちに教えてもらいながら、この一週間を過ごした。そうしていま俺は──。
「お久しぶりですね、カレンちゃん」
「蛇の王国」の首都「エンヴィー」の城門、入国待ちの待機列近くにて、エンヴィーさんと再会することになった。
「エンヴィーさん?」
こっちから城へ向かうというのに、エンヴィーさんはいつものセクシーなドレスではなく、地味な服を、一般人が着るような服を身にまとっていた。上半身は白い襟のあるシャツ。片方の袖には茶色のアクセントがあった。普通ああいうものであれば、両方の袖口にありそうだけど、でもエンヴィーさんが身に着けているのであれば、自然に見えてしまうのが不思議だ。下は水色のロングスカートだった。こっちには茶色のアクセントはなく、普通のロングスカートだった。いつもは下している髪は、うなじのあたりで束ねられていた。髪形ひとつで女性はだいぶ変わるという話だけど、うん、いつもはおしとやかな人だけど、今日はどこか活発的な雰囲気を感じられた。下手な変装よりかは、気づかないだろうけれど、城門の兵士さんには気づかれているみたいで兵士さん方は、緊張した面持ちで、周囲に目を配っているようだった。が、あからさまというわけではなく、時折エンヴィーさんに目を向けるようにして、周囲を見ているという体だった。
見ようによっては、城門の前にいる美女に見とれているという図式になっている。ある意味巧妙だった。だが、その当のエンヴィーさんは、兵士さん方の緊張などどこ吹く風という体で、城門前で待っていてくれた。まさか城門前で佇む美女を見て、その美女がこの国の王さまだとは誰も思わないだろう。
「カレンちゃん。ここではその名では呼ばないでください。お忍びで来ていますので」
人差し指を口に当てつつ、にこやかに笑うエンヴィーさん。なんで美人というのは、なにをしても絵になるのだろうか。この世の不条理を感じつつも、エンヴィーさんの言葉に一応頷いておいた。兵士さん方にはバレバレだったとしても、他の人には一切気づかれていないんだ。下手に名前を呼ぶのはやめておいた方が無難だろう。
「では、なんて呼べば?」
「そうですね。レア、とでも呼んでください」
「レアさんですか?」
「ええ。レアさんですよ。カレンちゃん」
適当な名前を口にしただけなのだろうけれど、その名前はなにかしらの思い入れがあるようだった。エンヴィーさんの頬がほんのりと赤く染まっているのが、その証拠だろう。まぁ、聞くにしても、この場ではない方が無難だろうな。
「まぁ、積もる話は後にして、いまは中に入りましょう」
「え? でもこれ待機列ですよね?」
「そこは、まぁ、大丈夫ですよ」
ウインクひとつして、エンヴィーさん、もといレアさんは、俺たちの馬車に乗りこみ、御者をしていたアルゴさんに指示を出していた。どうやら待機列を無視して入る方法があるようだった。アルゴさんは言われた方へと向かって、馬を走らせていく。
通りすぎていく風景を見つめつつ、俺は今後の生活に思いを寄せていた。
これからの一か月で今後の俺の、このスカイストでの人生が決まる。張り切ってやってやろうじゃないか。俺は溢れんばかりの闘志を抱きつつ、目標達成への意欲を燃やすのだった。




