Act2-6 お金持ちって怖いです
本日三話目です。
「ここがデラックススイートですねぇ」
ティアさんの案内のもと、俺たちはジョンじいさんの宿泊券で利用する予定のデラックススイートに訪れていた。
デラックススイートはその名に恥じぬ、とても広い部屋だった。
具体的に言えば、ワンフロアが丸ごと部屋になっているし、調度品も質や品のいいものが選ばれていた。
窓の外には一面の海が広がっていて、とてもきれいだ。
部屋の数もホテルの一室であるはずなのに、数室ほど存在しているようだ。
具体的には三つのベッドルームといまいるリビングルーム。
大きめのバスルームと簡単な調理ができるキッチン。
ホテルというよりかは分譲マンションのような一室だった。
その一室を二週間借りて、お値段タダである。
ジョンじいさんがくれた宿泊券+ゴンさんの口利きのおかげでそうなった。
最初は悪いかと思ったのだけど、ティアさんが構わないと言うので言葉に甘えることにしたんだ。
ちなみになんでティアさんに案内してもらっているうえに、ティアさんがタダにしてくれたのかと言うと、ティアさんがここのホテルの総支配人だからだ。どうりでアルトリアへの気持ちを叫んだときに出てきたわけだよ。
しかしティアさんの見た目は俺や勇ちゃん、それにアルトリアとそう変わらないくらいなのに、最高級ホテルの総支配人とか、どういう人生を歩めばそんな勝ち組になれるんだろうか。
「カレンさんもわりと勝ち組だと思いますよぉ? 冒険者ギルドのギルドマスターですし、ご自分のランクはBランク。加えて美人でスタイルのいいお嫁さんとかわいい娘さんがいるんですからぁ。誰がどう見ても勝ち組ですよぉ?」
ティアさんはおかしそうに笑っていた。たしかにそう言われてみると、俺も勝ち組の一員なのだろうね。
ただ自分ではまったく思っていないけどね。そしてまた心の声を口にしてしまっていた俺。本当にどうして俺はいつもこうなんだろうね。不思議でならないよ。
「ちなみにここの部屋は、完全防音になっていますので、「昨日はお楽しみでしたね」なんてことはまず言われないので、安心してくださいねぇ」
そう言ってベッドルームを指差すティアさん。それはあれか。俺とアルトリアが今日からここで寝ることを知ってでの発言かな。
というか、なぜそのネタを知っている。そのネタは某国民的RPGの一作目の迷台詞だというのに。
ドラゴンのところに幽閉されているお姫さまを抱っこしたまま宿屋で泊まると、翌日に言われてしまうんだよね。
まだお付き合いもしていないというのに、よくまぁそんな大それたことができるなぁと思うよ。
相手は一国のお姫さまですよ。城に戻ると愛情という名の役に立たないうえに、捨てることもできないアイテムをくれるお姫さまだけどさ。
「こういうお仕事をしているとですねぇ。よくそういう物音を聞きましてねぇ。ときにはうるさいからどうにかしろぉ~って言われることもあるんですよねぇ。そんなことを言われてもうちでどうしろと言うんでしょうねぇ。従業員が仕事をサボってしているのであれば注意もしますけどぉ、お客さまがされていることですから文句なんて言えるわけがないでしょうにぃ」
やれやれと肩を竦めるティアさん。まぁ、たしかに言われていることは正論だった。ホテル側もそんなことを言われても対処のしようなんてない。
なにせ相手は同じお客さまなのだから。クレームを言われても、そういうことをしないでくださいとは言えないよね。
きちんと金を払ったうえで、ホテル側にこれといった不利益を与えているわけじゃないんだ。
不利益が生じていれば、ホテル側も多少は言えるだろうけれど、旅先かつこういうホテルの夜景を見ていると、自然とまぁ高ぶってしまうだろうから、そういうことを致したとしても仕方がないとは思う。
人間にしろ、魔族にしろ、こういうことには素直に従ってしまうだろうからね。
しかしそういう文句を言ってくる客って本当にいるんだね。
まぁ気持ちはわからなくもないけど。高い金を払ってのんびりとしているところに、そんな真っ最中な物音が聞こえてくれば、文句のひとつやふたつは言いたくなってしまうかな。
特に小さいお子さんがいる家族だったらより言うだろうね。子供の教育に悪いってさ。
ただ、うん。ジョンじいさんにけしかけられたとき、俺はアルトリアとそういうことをする想像をしてしまっていたのは内緒だ。
俺も子持ちだというのにも関わらず。いや血の繋がりはないし、そもそもシリウスは魔物だけどね。
それでもシリウスが俺とアルトリアの娘であることには変わりないから、その娘がいるのにそういうことを致そうとするのはなかなかにまずいよね。
「デラックススイートにはいくつかのベッドルームがありますのでぇ、お好きに使ってくださいねぇ。個人的にはこの夜景が見られるベッドルームがおすすめですねぇ。実際ここで頑張ったら子供ができましたぁって言うお手紙を貰うことがわりと多いのでぇ」
にやりと笑いながら、ティアさんが言い放つ。
子供ができる、ね。いわば子宝祈願ができる寝室ってことかな。
地球では絶対にありえないことだけど、この世界であればありえそうだから怖いよね。
たださ、なぜいまそれを言うのかな。
うん、わかるよ。そういう話もありますよぉって紹介したい気持ちは重々わかっていますよ。
だけどさ、なんでそれをいま言うのよ。
そしてなんで俺とアルトリアを見つめながら言ってくださいますかね。
子供を作れるものなんて、俺は装備していないから。
そもそも女同士でどうやって子供ができるつーのさ。
なんでこの世界の人は、そんな常識を誰もが置いてけぼりにしているかな。不思議でならないよ。
「お客さまがお望みであれば、子供ができるようになる「おまじない」をお教えしますがぁ?」
なんだ「おまじない」って。そもそもそんなものあるのかよ。
そっちの方がびっくりだよ。なにこの世界。
なんで同性での恋に寛容というか、確実に同性でのカップル以外には用途がない魔法を作り出しているんだよ。
びっくりだよ。その柔軟性にカレンちゃんびっくりだよ。
「まぁ、冗談──」
「ですよねぇ」
「──だといいですよねぇ」
「どっちだよ!?」
なんでそこで意味不明な変化を見せるよ。そもそもなんで変化をさせるのよ。意味がわからんわ。
「さて、あまりからかいすぎると蹴られてしまいそうなので、この辺にするとしますかねぇ。ウェルカムドリンクが冷蔵庫に入れてありますので、ご自由にどうぞぉ」
ティアさんが指さした場所には小さめな冷蔵庫が置かれていた。
地球で売っているような冷蔵庫とさほど変わらない見た目だ。
変なところで高性能だなぁと思いつつも、冷蔵庫を開けると、そこには様々なドリンクが入っていた。
ジュースもあれば酒も入っていた。しかもあきらかに冷蔵庫に入りきるような量ではないのがだ。
「なんでこの量が入っているのさ?」
「魔道具ですからねぇ」
くすくすと笑うティアさん。そんなティアさんの言動をさくっと無視するようにして、シリウスが冷蔵庫を覗き込んだ。
「わぅ! いっぱいある! 飲んでいいの?」
「はい。お好きにどうぞぉ」
「わぅわぅ! ありがとう、ティア!」
シリウスが嬉しそうに笑って、適当なジュースを取りだした。
リンゴっぽい味のするジュースだった。
ただ市販されているものとは明らかに値段の差がありそうな外見をしていた。
これをウェルカムドリンクで入れておくとか。どれだけ儲かっているんだろう。かなり怖い。
「さてさてぇ、そろそろ神獣さまのことをお話しますかねぇ」
ティアさんがとても真剣な顔をしてそう言った。
続きは九時になります。




