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Act2-4 浮気じゃないです

本日は更新祭りです。

まずは一本目です。


「わぅ~!」


 シリウスが嬉しそうに声をあげている。


 周囲には無残な姿になったビッククラブさんたちが鎮座されている。


 ビッククラブさんたちはみんな顔を一撃で潰されていた。まるでサルカニ合戦のカニの親のようだ。


 まぁ、あれは投げつけられた柿だったけれど、シリウスも猿同様に物理的な攻撃ではあるが、より直接的な拳やら脚やらで叩き潰していた。


 戦闘方法が俺と同じで手足に属性を纏わせるというものだったせいなのだろうけれど、こうして間近で見ると俺の戦い方ってわりとひどい。


 シリウスがそっくりな戦い方をしてくれたから、第三者視点で見ると、自分の所業がどんなものなのかがわかってしまった。


 なにせ躊躇なく急所を一点集中するわ、相手の攻撃を受け流して同士討ちをさせるわ、同士討ちさせているところを攻撃するわ。まぁ、やりたい放題。


 すべて俺もやったことがあることなので、自身の所業を改めて確認させられた気分になっていたよ。


「シリウスくん、笑いながらえぐいことをしますねぇ~」


 ゴンさんはシリウスの行動に引いていた。俺は笑いながらはしないけれど、シリウスは笑っていた。その違いもあるとは思うけれど、どのみち俺のいつもの戦い方ってわりとえぐいようだ。


「「旦那さま」の戦いをずっと見ていたからでしょうね。まるでためらいがないです」


 シリウスの戦いを見て、アルトリアがため息を吐いてくれた。


 ため息を吐きたくなるのもわかるよ。娘がえぐいことをしているのだから、そりゃあため息も吐きたくなるってものですよ。そしてその原因は俺です。本当にありがとうございます


「わぅわぅわぅ~!」


 そんな俺たちの感想をよそに、当のシリウスは俺の技をいくつか使っていた。とても楽しそうにだ。


 よく使っていたのは風円脚だった。もっとも風円脚と言うには属性が違っていた。


 光属性と闇属性。それぞれを纏わせた回し蹴りをよく使っていた。


 そしてナイトメアウルフを、シリウスの本当の父親を倒した天斬脚の光属性版も使っていた。


 ほかの技は楽しそうに使っていたけれど、それだけは辛そうな顔をしていた。


「いまの技だけ、なにか違うような?」


 アルトリアは首を傾げていた。


 いままでとは明らかに表情が違うのだから、そういう感想を抱くのも無理もない。


 ちなみに天斬脚の光版を受けたビッククラブさんは、とてもひどい状態になっていたのは言うまでもない。


 ほかのビッククラブさんたちは顔を潰された程度だったのだけど、そのビッククラブさんだけは全身が潰れていたもの。まぁカニみそがいきわたりそうだから、かえってよかったのかもしれないが。


 とにかくそんなこんなでシリウスの狩りは終わった。狩りというよりも一方的な遊びのようにも思えたが、シリウスは遊びで殺したわけではなく、食べるために殺していた。正しい命の奪い方だ。


 命は遊びで奪うものじゃない。必要に応じられたからこそ奪うもの。人間はそれを遊びでやってしまうことがある。


 だが野性の生物は必要以上の殺しはしない。生きるために必要な命しか奪わない。それはシリウスの狩りでも同じだった。うん、食べるために狩ったのだから間違いではない。そう間違いではないのだが──。


「……多すぎじゃね、これ?」


 シリウスが狩ったビッククラブさんたちは、最初に出てきた奴ら全員だった。


 つまりはこの浜辺中のビッククラブをすべて狩った。それも息切れも怪我もなく、笑いながらだ。


 いまさらながらにグレーウルフの戦闘力の高さがわかる。さすがは特殊進化個体だ。


 ただ狩ったビッククラブの数はいくらか多すぎる。


 シリウスが最初に狩ったキングクラブだってまだ食い尽くしていないんだ。


 そのキングクラブが率いていたであろうビッククラブすべてが追加されてしまった。


 明らかに食べきれるものじゃない。


 あ、でもゴンさんならばひと口で一杯は食べられるだろうから、問題はないのかな。


「ビッククラブ一杯ならひと口で食べられるよね、ゴンさん」


「……それは私に後始末をしろと? レアさんと似たようなことを言いますねぇ、カレンちゃんさんは」


「まぁ、お世話になった人だからね」


「蛇の王国」で下積みをしていた頃はよく世話になったものだ。


 まぁ半分くらいは余計なお世話というか、からかわれてしまっていたけどね。


 でもエンヴィーさんか。あ、この場ではレアさんの方がいいか。ゴンさんもレアさんって言っているし。って、あれ? なんでゴンさんもレアさんって偽名を知っているんだろう。もしかしたらよく使う偽名なのかな。


 どっちにしろレアさんか、懐かしいな。


 まだ一か月くらいだっていうのに、ずいぶんと前のように感じられる。


 クーさんやほかの先輩冒険者さんたちやククルさんは元気だろうか。


「双竜島」でのバカンスを終えたら、「エンヴィー」に寄るのもありかもしれない。


 今回は「ラース」からまっすぐに「双竜島」へと来てしまったから、エンヴィーさんたちには当然会っていなかった。


「ねぇ、ゴンさん。帰りは寄り道してもらってもいいかな?」


「構いませんよぉ~。そろそろコアルスから救援要請が届くころですからぁ~」


「救援って?」


「マバのことですよぉ~。あれが大量に水揚げされるので、定期的にコアルスから救援要請を受けるのですよぉ~。キーやんたちもたぶん呼ばれるでしょうねぇ~。マバはそれくらいすさまじいですしぃ~」


「どれだけなのさ?」


 ゴンさんだけじゃなく、キーやんたちにも救援要請が飛ぶってどれくらいマバって魚は水揚げされるのだろうか。ちょっと怖いけれど見てみたい気がするね。まぁ、マバのことよりもまずは。


「とりあえずこいつらの後始末を、お願いするねゴンさん」


「……やっぱり鬼ですねぇ、カレンちゃんさん。あきらかに百杯はいますよぉ~?」


「俺の持っているアイテムボックスは容量ほぼ無限だけど、鮮度は保てるかわからないし」


 容量ほぼ無限なので、ビッククラブ百杯くらいは軽々と収納できるだろうけれど、鮮度まで保てるかはわからない。


 もし保てなかったら、アイテムボックスの中で腐っていくなんて、ちょっとごめんだ。そもそも「ビッククラブの身(腐)」なんて見たくないよ。


 シリウスには全部倒せるのであれば、全部食べていいとは言ったけれど、本当に全部倒すとは思っていなかった。ちょっと考えが甘すぎたようだ。


「でしたら水の魔法で凍らせればいいと思いますよぉ~?」


「え? でも解けるじゃん」


「いえいえ~。普通に凍らせたら解けますが水の魔法で凍らせれば、火の魔法を使わない限りは解けないのですよぉ~」


「そうなの? じゃあ、マバもそうすれば」


「一日トン単位水揚げされますからねぇ。追い付かないし、そもそもコストがかかりすぎるんですよねぇ~」


 ゴンさんがため息を吐いた。毎日トン単位。それをコアルスさんだけで消費するのは、さすがに無茶があるだろうに。


 それでもエンヴィーさんなら、さらりとコアルスさんの意見をスルーしてしまいそうだ。うん、さすがはエンヴィーさんだ。


「さぁて、とりあえずビッククラブを全部凍らせますかぁ。カレンちゃんさんは、アルトリアちゃんさんをどうにかしてくださいねぇ」


 ゴンさんが人化の術を使い人型になると、そそくさと離れてしまった。


 いったいなんの話をと思っていたら、なぜか背中が冷たいよ。


 振り返るとそこにはにっこりと笑ったアルトリアがいた。なぜか目が笑っていない。


「……えっと自分なにかしましたかね? アルトリアさん」


「正座」


「……ハイ」


 わけを聞こうと思ったけれど、正座のひと言を聞いたら体が勝手に動いていたよ。


 ……うん、嘘です。みずからの意思で正座をしました。


 だって怖いんだもん。明らかに怒っているもんよ、アルトリア。


 いったいなにをしただろうか。そんなことを考えていると、アルトリアが近づいてくる。すでに吸血鬼モードになっておられます。


「レアって誰のことかなぁ~? それもお世話になったって「どういう」お世話をしてもらったのかなぁ~?」


 血の色の瞳をすわらせるアルトリア。


 なにやら危険な雰囲気です。そして完全な勘違いです。


 俺は別にエンヴィーさんにいかがわしいことをしたわけじゃない。


 一緒に風呂に入ったら、豊満な胸部装甲をいきなり押し付けられたりとか、一緒にご飯を食べていたら「あーん」で食べさせてらもったりとか、朝起きたらほぼ全裸なエンヴィーさんに抱きしめられていたりとかをされていただけであり、別にいいかがわしいことはしていない。


 ……若干、そう言われても仕方がないかなと思うことはあるけれど、当時はまだアルトリアとは出会っていないのだから、ノーカンのはずだ。


「そういうのはよくないと思うなぁ~」


「そ、そういうのってなんでしょう?」


「わかっているのに言うんだ? そんなにレアって女を気に入っているんだねぇ~?」


「レアさんは、別に浮気相手ってわけじゃ」


「浮気?」


 血の瞳を細めながら、アルトリアが口を開く。きらりと鋭い犬歯が輝いた。あ、地雷踏んだ。やっちまったぜ。


「アルトリアはぁ~、浮気なんて言っていないけどなぁ~?」


 アルトリアが首を傾げる。だが目がとても冷ややかです。


 冷や汗が背筋を伝った。たしかに言われていない。


 アルトリアが詰問してくるときは浮気を疑っているときが大半だから、つい言ってしまった。


 いまのなしと言おうとしたが、それよりも早くアルトリアは行動に出てくれた。


「「旦那さま」の浮気者ぉぉぉ~!」


 アルトリアが叫びながら、俺の首筋に顔を埋めた。その後俺がどういう目に遭ったのかは言うまでもない。

続きは三時になります。

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