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Sal2-70 折檻再び

 窓の外から日の光が差し込んでいた。


 差し込んでくる光が、あまりにも眩しくてまぶたを閉じてしまいそうになる。


 掌をかざすようにして、日の光を遮ったと同時に、ずきんとお尻が痛み始めた。


「あいたたた」


 痛み始めたお尻を、私は押さえるようにして撫でていた。


 朝からずいぶんとひどい目に遭ってしまった影響だった。


 私はなにも悪いことをしていないっていうのに、まさかのお仕置きをされてしまったのだから。


 いや、あれはお仕置きじゃないね。


 あれは誰がどう見ても虐待だよ。


 まさか、大好きなママが娘を虐待して楽しむような人だったなんて思ってもいなかった。


 私の大好きなママは変わってしまったのかな。


 少なくとも、私の知っている頃のママであれば、そんな虐待なんてしなかったはず。


 それでも私はママが大好きだ。大好きなママだからこそ私はやらねばならないことがある。


 そう、裁判だ。


 民事裁判が必要不可欠だと私は思うの。


 今回ばかりはママと法廷で会わないといけない案件になってしまっているんだ。


 まぁ、法廷では私が勝訴するのは目に見えているけれども。


 だって、私は悪いことはなにもしていない。


 悪いのは、そもそも私が「するな」と口を酸っぱくして言い聞かせていたはずのことをやらかした愚妹どもがいけないんだ。


 その愚妹どもへのお仕置きをしただけなのに、なんで私がお仕置きを受けなきゃいけないのか。


 どう考えてもおかしいよ!


 しかも、ママったら延々と私のお尻を叩くという辱めをしてくれたもんだから、お尻がすごく痛いです。


 それこそ椅子にも座れないほどにお尻が痛いです。


 それもすべてはママが、私が「ごめんなさい」と泣きじゃくりながら謝るまでお尻を叩き続けるからだよ。


 重ねて言うけれど、私がなにをしたって言うのさ?


 私はなにも悪いことなんてしていないっていうのにね!


 うん、やっぱりこれは訴訟だよ。起訴しよう、起訴!


 起訴すれば、いや、敗訴すればママもママがなにをしたのかを理解してくれるはず。


 裁判を通して、ママがママのしたことを理解してくれれば、今後は私がこんな不当な扱いを受けることはないし、ママだってわかってくれるはずなのです。


 だから、ここは起訴。起訴しかないんだ。そうと決まれば、ここはいますぐにでも起訴するための準備を──。


「朝からなにを言っているの」


 ──スパーンという、とってもステキな音が鳴り響きました。


 同時に、私はその場で蹲ることになった。


 頭が、頭が割れそうに痛いデス。


 なにが起きたのかと後ろを振り返ると、ママが、メイド服を身につけたママが呆れた顔で腰に手を当てていた。その目は若干冷たい。


 いつもの温かくて優しいママはどこに行ったんでしょうか? 


 お散歩?


 お散歩でもしているの、ママ?


 なら、いま目の前にいるママはなに?


 私という非の打ち所のない、かわいい愛娘に手をあげる非道を行うママはいったいなんなの?


「……かわいい愛娘なのはいいとして、非の打ち所がないのは違うかなぁ? むしろ、ちょっと困ったところがあるのが玉に瑕かな? ママとしては興味があること以外にも、ちゃんと目を向けたり、頭が良いのにすぐに感情的になって、暴走じみた行動をするのはやめてほしいかな?」


「が、がぅ」


 ママは淡々とした口調で、ダメ出しをしてくれました。


 すごく、すごく胸が痛い。


 というか、身に憶えしかないよ。


「そりゃそうだよ。だって、ママから見たらプロキオンのダメなところだもの。興味のあることには凄いんだけどねぇ。他がなぁっていつも思っていたし」


 はぁとママは深い溜め息を吐いてくれた。


 そのため息に私は居たたまれなくなりました。


 反論できないんだもん。


 正論ってこんなにも胸を抉ることだったんだね、初めて知ったよ。


 だけど、正論だけでは人は動かないのです。


 なぜなら正論はときに暴力となるからなのです。


 そう、それはまるで今朝ママが私にしたことと同じ。


 今朝のママは罪もない私に対して、虐待という名の暴力を振るっていた。


 いや、今朝だけじゃない。


 いまだって、起訴の準備を進めようと思っていた私の後頭部をスパーンと叩いてくれたもの。


 いつからママはこんなにバイオレンスな人になったんだろう?


 私の知っているママは、こんなバイオレンスなことをするような人じゃない。


 それでも、目の前にいるのはママ。


 私の大好きなママだった。


 たとえどんなに変わってしまっても、私はママが大好きだ。


 大好きなママを受け入れられないなんてことはありえないのです。


 そう、たとえママが愛娘に対して、いわれもない罪を押し付けて虐待するのが好きになってしまっても、それでも私はママが大好きであって──。


「……そっか。プロキオンは今朝「反省しています」って泣いて謝っていたから、すっかりと反省してくれていたとママは思っていたのに、デマカセを口にしてママを騙していたんだね?」


 ──ぞくっと背筋が震えた。


 顔を恐る恐るとあげると、そこにはとってもきれいな笑顔を浮かべたママが、影が掛かった笑顔を浮かべるママが立っていました。


 あ、ヤベぇ。


 私の危険察知能力が盛大に警報を打ち鳴らすも、時すでに遅し。


 私は気付いたら、ママに抱え込まれていました。


 私を抱え込んだママは、右手を緩やかに、でも高らかに掲げると──。


「プロキオンはイケない子だね」


 ──とってもサディスティックな笑みとともに、私のお尻にと右手を振り下ろしてくれたのです。


「がぅぅぅん!?」


 私は叫びました。


 だけど、ママの右手はすぐさま再び掲げられました。


「ま、ママ、や、やめ!」


「だぁめ」


「がぅぅぅっ!?」


 全身を貫くような衝撃が体を駈け巡る。


 一振りごとに私は気絶しそうなほどの激痛に襲われていた。


 だけど、ママはそれでもお尻を叩くのをやめてくれません。


 むしろ、私が叫ぶとより一層鋭くお尻を叩くのです。


 わ、私がなにをしたと。


「お仕事中に余計なことを考えていたこと、ちゃんと反省しなかったこと、ママを悪者扱いしていたことの三つかな? あぁ、あとベティたちを虐めたことも含めると四つだね」


 ママが淡々と私の罪状を読み上げていく。


 ママの言う通り、いま私はお仕事の真っ最中だった。


 お仕事というのも、エレーンさんが経営するメイド喫茶で、メイドさんとしていまは働いているんだ。


 だけど、その仕事中に私は、仕事に関係ないことを考えてしまっていた。


 でも、お仕事中だからって、常に仕事のことを考えないといけないわけじゃないはず。


 それに私であれば、並列して考え事をすることもできるから、少しくらい別のことを考えても問題ない。


 でも、ママにとってはアウトみたいだった。


 いや、ママにとってアウト判定になることを私は他に三つもやらかしたみたい。


 たしかに、ちゃんと反省しなかったこととママを悪者扱いしたっていうママの話は否定できないかもしれない。


 だけど、ベティたちに関しては、私はなにも悪くないんだ。


「あ、あれは愚妹たちが」


「かわいい妹を愚妹なんて言わないの」


「がぅん!?」


 バチィンといままで以上の高い音が私のお尻から奏でられた。


 その一撃に私の意識は飛びそうになった。


 でも、私の意識を刈り取るほどの一撃を放ってもママは止まらない。


 そんな私とママのやりとりを、おじさんたちは、お店の常連のおじさんたちはニコニコと笑って楽しんでいた。


 本当はご主人様と言わなきゃいけないみたいなんだけど、ついと「おじさん」って言ったら、みんな「おじさんでいいです。むしろ、おじさん呼びにしてください、お願いします」って言われてから、ずっと「おじさん」にしているんだ。


 本当にいいのかなと思うんだけど、当のおじさんたちが嬉しそうにしているから問題はないんだろうね、たぶん。


 そのおじさんたちは、私とママのやりとりを見て笑っていた。……若干気持ち悪いなぁと思える笑顔だったよ。


「ほう、アンジュ様はお尻ペンペン派ですから。これははかどりますな」


「たしかに。プロキオンちゃんの泣き顔は大変愛らしく素晴らしい。国宝級ものかと」


「ははは、国宝どころか、世界の宝でしょう」


「たしかに言えてますねぇ」


 ははは、とおじさんたちは笑っていた。その笑顔はやっぱり気持ち悪いなぁと思えるものでした。


 そもそも、おじさんたちはなにが面白いのかが、まるでわからないよ。


 そもそも、笑っている暇があったら、助けてください。お願いします!


 でも、悲しいかな。


 私が助けを求めるよりも早く、ママによる折檻は勢いを増していく。


 そのたびに、私は悲鳴しかあげられなかった。


「さぁ、プロキオンが本当に反省するまで、今日はやめないからね? 覚悟しなさい?」


 目をすっと細めるママ。そんなママに私はいままでにない恐怖を覚えながら、されるがままになってお尻を叩かれ続けることになったのでした。

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