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Sal2-69 折檻されるプロキオン

 懐かしい香りがした。


 大好きな香り。


 ママの匂いだった。


 ママの匂いに包まれている。


 いや、ママのぬくもりに包まれているからこそ、ママの香りがしている。


 まぶたをゆっくりと開いていくと、すぐ目の前にママの顔があった。


 静かに眠っているママ。


 私の大好きなママだった。


 夢かなと最初は思った。


 でも、夢の中では感じられない香りがあって、ぬくもりに包まれていた。


 だから、「夢じゃない」と気付いたときには、私の意識は一気に覚醒していった。


 周囲を見渡すと、見覚えのない部屋の中にいた。


 意識が覚醒しても、いまがどういう状況なのかを理解するまでには少しだけ時間が掛かった。


「……あぁ、そっか」


 帰ってきたんだ。


 私はママたちのところに帰ってきたんだ。


 そのことを数分掛けてようやく思い出せた。


 思い出すとすぐに胸の奥が熱くなった。


 目頭もひどく熱い。


 いまにも泣いてしまいそうなほどに。


「……がぅ」


 でも、泣きそうになるのを必死に堪えて、私は大きく深呼吸をしつつ、ママの腕の中で、ママを起こさないように寝返りを打ち、仰向けになった──。


「「あ」」


「……ぁ?」


 ──仰向けになったところで、空中になぜか愚妹ふたりがいた。


 愚妹どもはなぜか「あ、やべ」って顔していた。


 愚妹どもを見つけてすぐ、私の口からは想像以上に低い声が漏れ出ていた。


 なにしてんだ、こいつらと思っている間にも、愚妹どもの高度は徐々に下がっていった。


 その軌跡から察するに、どうやら私の上に着地したいようだ。


 どうやら私とママが起きないから、私を無理矢理起こして、ママも起こそうとしているようだね。


 無理矢理とはいえ、寝ている相手の上に飛び乗って起こすのはどう考えてもダメだろう。


 っていうか、これはどう見てもぴょんしてドォンじゃないか。


 やるなって前に言ったはずなのだけど、どうやらベティは私の言いつけを破ったようだね。


 本当に参った愚妹だこと。


 そんな困った愚妹にカティも乗っかったみたいだ。


 うん、やっぱりこのふたりは名前だけではなく、中身もそっくりだよ。


 それこそ双子みたいにね。


 そんな双子の愚妹どもの高度は見る見るうちに下がっていく。


 その様を眺めながら、私は瞬く間に指をかき鳴らした。


 同時に、ふたりの体はぴたりと硬直する。


「……やる相手を間違えたね、愚妹どもよ」


 ニコニコと笑いながら、私はママを抱っこしながら、ベッドの上から離れた。


 ついでに、ふたりが着地するであろうベッドをあえて横に動かし、ふたりの着地先を床にしてあげた。


 そこまでお膳立てを整えてから、私は笑顔で指を再び鳴らした。


 ふたりは一瞬で状況が変わったことに驚いた顔をしていた。


 驚いた顔をしながら、ふたりはそのまま膝から床と激突しました。


 ゴスって音がしたよ、ゴスって。


 それだけの音がしたからなのか、ふたりは膝を抱えながらその場で転がっていました。


 うん、実にいい気味だ。


「ばぅぅぅぅぅ、プロキオンおねーちゃん、ひどいのぉぉぉぉぉ!」


「膝が、膝が割れるぅぅぅぅぅ!」


 ベティとカティが揃って悲鳴を上げている。


 そんなふたりを私は見下ろしながら嗤った。


 愚妹どもが痛みにのたうち回る姿ってどうしてこんなにも面白おかしいのだろうね。不思議だなぁ。


『……やりすぎではないか、プロキオン?』


 私の中にいるおばあちゃんが、私の愉悦する様をみて、ドン引きしてしまった。


 とはいえ、今回のことは愚妹どもが悪いのであって、私には非はありません。


 そもそも、やるなって言ったことをやったふたりが悪いのです。


 だからこそ、お仕置きも過激にならざるを得ないのであって、私は悪くなんかないのですよ。


「……さすがにやりすぎだよ、プロキオン?」


 私は悪くない。そう思っていたら、ママの声が、私を諫めようとするママの声が聞こえてきました。


 腕の中を見れば、ママは困ったように笑っていたよ。


「おはよう、ママ」


「うん、おはよう、プロキオン。……朝からいろいろとかっ飛ばしているね?」


 ママは苦笑いしながら、いまだに床の上で転げ回る愚妹どもを見やっていた。


「ま、ままぁ~。プロキオンおねーちゃんがいじめるのぉ~」


「あ、アンジュママ、た、助けて。この姉ひどすぎるんだぁ~」


 ふたりは両ひざを押さえながら、ママに助けを求めました。それも私を悪者にしてね。


 ママに助けを求めるのはいい。


 だけど、私を悪者にするってのどういう了見だっての。


 私がなにをしたって言うのさ。


「……ベティ? お姉様上相手にも「ぴょんしてドン」して、少しだけ怒られていたよね?」


 ママは私と愚妹どもを交互に見やってから、溜め息交じりでベティに注意を促してくれた。


 ベティはわずかに声を詰まらせてから、「でも、おねーさまうえは」と言い訳をしようとしていたけれど──。


「でもじゃないでしょう? 「ぴょんして」はドォンじゃなくても危ないから、やっちゃダメだよ?」


 ──ママはベティの言い訳を完全にシャットアウトしてくれました。


 さすがはママだなぁと思ったよ。


 それにはベティも「……ばぅ」と頬を膨らましながら、静かに頷いていたね。


 ベティを注意した後、ママはベティの隣にいるカティを見やった。


「カティちゃん」


「な、なに?」


「ベティのお姉ちゃんなんだから、悪ノリに乗っちゃダメだよ? ちゃんとベティを止めてくれないと」


「だ、だけどさぁ」


「だけどもなにもありません」


「……わふぅ」


 カティに対してもママはきっちりと言い聞かせてくれていた。


 さすがはママだよ。うんうん、愚妹どももこれに懲りたら、今後は悪戯なんて──。


「さて、次はプロキオンだね」


「……うん?」


 ──聞き間違いかな? ママはなぜか次は私だと言ったみたいだけど、たぶん聞き間違いだね。もしくは幻聴かな?


「幻聴でも聞き間違いでもないよ。次はプロキオンの番だよ」


「な、なんで私も」


「妹たちがやんちゃしたお仕置きだからと言って、やりすぎなんだよ。もしかしたら、膝の皿部分が割れたり、靱帯まで行っていた大事になっていたんだから、プロキオンはふたりとは違って、お仕置きが必要です」


「な、なんで私だけ」


「問答無用、だよ?」


 ママはまさかの私だけをお仕置きすると言い出したんだ。


 いくらママでもそんな無法は肯んずることはできない。


 というか、お仕置きをされるほどのことなんてしていないもん!

 

 私はママの魔の手から逃げようと「刻の世界」を発動させたのだけど──。


「「凍える刻」」


 ──私が「刻の世界」を発動させてすぐ、ママが指を鳴らした。


 なんだろうと思っていると、私の体が硬直したんだ。


「え、な、なに、これ!?」


「刻の世界」に発動させた私が、なぜか身動きを取れなくなってしまっていた。


 困惑する私を見て、ママはとてもきれいな笑顔を浮かべて言いました。


「「刻の世界」で逃げようとしているのはわかっていたからね。神専用の刻の魔法で「刻の世界」を上書きさせてもらったよ」


「な、なにそれぇ!?」


 まさかの力業だった。


 っていうか、刻の魔法ってなに? 刻属性となにが違うの!?


「まぁ、詳しいことはいいとして。プロキオン、お仕置きだよ?」


 ママはとってもきれいな笑顔を浮かべてました。


 その笑顔に私が恐怖したのは言うまでもない。


 恐怖した私をママはにこりと笑いながら、抱え込まれると、右手を高々に掲げると──。


「てい」


「がぅ!?」


「そりゃ」


「が、がぅぅっ!?」


 ──ばっちーん、と甲高い音を奏でながら私のお尻を何度も何度も叩き始めたんだ。


「プロキオンが反省するまで、叩くのをやめないからね? 覚悟してね」


「わ、私悪いことなんて」


「まだ言うの?」


「が、がぅぅぅ!?」


「反省するまで」とママは言うけれど、私は反省しなければならないような悪いことをしていない。


 そう言おうとしたら、ママがまた私のお尻をたたいたんだ。


 しかも、それまで以上の強さで。


「ほら、プロキオン、反省は?」


「わ、悪い事なんて」


「じゃあ、続けるね」


「がぅぅぅぅぅ!?」


 ママがバチン、バチンとお尻をたたいていく。


 そのたびに私は悲鳴をあげるのだけど、ママは止まってくれなかった。


 そんな私とママの姿を見て、ベティとカティが抱き合って震えていた。


 愚妹たちが震え上がっているというのに、ママは笑いながらお尻をたたいていく。


 そんなママを止めてくれる人は誰もいない。


 絶望感に打ちひしがれながら、私はママが許してくれるまで延々とお尻をたたかれ続けることになったんだ。

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