Sal2-67 徹底抗戦のカティ
おばあちゃんによる折檻を受けました。
とっても痛かったです。
きっとこれが幼児虐待なのです。
そんな最低なことをおばあちゃんがするとは思っていませんでした。
これは徹底抗議、いや、裁判です。
裁判沙汰になったら、ほぼ私の勝訴は確定だと思います。
正義は必ず勝つのだと──。
「なぁに、寝ぼけたこと抜かしておるのだ、カティ」
「あ、痛ぁっ!?」
──スパーンと小気味いい音とともに私の頭部が叩かれました。
むぅ、またしても虐待か!
どうして、おばあちゃんはこうも私を虐待するのか!
これはやはり、裁判。裁判しかないと思うのです!
そう、正義は悪に屈しないということを知らしめるためにも、ここは裁判まで持ち込まねばなりません。
言うなれば、次は法廷で──。
「だから、おかしなことを言うでない」
「あうっ!?」
──再びスパーンと小気味いい音が私の頭部から鳴り響いた。
そんな蛮行、いや、凶行をしてくださったのは、他ならぬおばあちゃんでした。
私は二度も叩かれた頭をさすりながら、涙目になっておばあちゃんを睨み付けました。
「おばあちゃん! どうしてそうもスパン、スパンと私の頭を殴るの!? 私の思考がおかしくなったらどうしてくれるわけ!?」
「いや、もうとっくにおかしいからなぁ。子は親に似るとは言うが、ここまでそっくりになる必要はないと思うんだが」
はぁ、とおばあちゃんが溜め息を吐いた。
親に似るという言葉に、私の頬は朱に染まりました。
「やだ、おばあちゃんったら口が上手いなぁ。ふふふ、まぁ、私はとっても素直な美少女だからね。それこそママたちの要素を受け継いでいると言っても過言ではないくらいに」
そう、おばあちゃんの言う「親に似る」というのは、きっとママたちのうちの誰かに似ているということなのです。
私としてはそうだなぁ。さすがにティアリカママほどにクール系な美人さんとは宣えない。
となると、考えられるのはわりかし素直なプーレママやカルディアママあたりかも。あ、もしかしたらアンジュママという可能性も捨てきれない。
もちろん、大人の雰囲気をかもち出すレアママや、優しいサラママの可能性も十分にあるわけで。
むふぅ、まったく美少女は辛いねぇ! 参ったもんだぜ。
「……あのぉ、カティちゃん?」
「ん? なぁに、サラママ? 私がママたちの誰に似ているのかを見定めてくれるの?」
サラママはなんだか言いづらそうに、おずおずと話しかけてくれたけれど、いったいなんだろう?
あぁ、もしかして自分に似ていると、サラママ自身が思ったからこそ、言いづらいのカナ?
ふふふ、まぁ、それは仕方ないよね。
サラママは奥ゆかしい女性であるから、自分に似ているなんて早々言えるわけがないもんね。
うんうん、仕方がない、仕方がない。
「……カティ。先ほど名前が出たと思うんですが?」
「……何のことかな、ティアリカママ?」
おかしいな、ティアリカママがヘンなことを言い出した。
いまままでの会話でママたちの名前が出たことはなかったはず。
だというのに、なんでティアリカママは「すでに名前は出ている」と言っているのやら。
ちょっとおかしくない?
いや、ちょっとどころか、めちゃくちゃにおかしいと思います。
というか、それだったらおばあちゃんの言う「親に似る」って誰のことを言ってんの、って話で──。
「我は「カレンにそっくりじゃ」と言ったつもりなのだがな」
──まさかの名前が登場しました。
瞬間、私は絶叫した。
「どういうことぉぉぉぉぉ!? 私はあんなおっぱい大好き星人じゃないもん! むしろ、パパそっくりなのはシリウスお姉ちゃんでしょぉ!?」
絶叫しながら断固抗議を行う私。だけど、悲しいかな。ママもおばあちゃんもまるっと私の意見は無視してくれました。
「だから、言ったであろうが。そなた成長したら、カレンにそっくりだと」
「ええ。まるで旦那様と話をしているような感覚になりましたよ、カティ」
ティアリカママとおばあちゃんは私の抗議を否定するような一言をぶちまけてくれた。
まさかすぎる言葉に、私は目の前が真っ暗になっていく。
だけど。
まだだ。
まだサラママがいる。
薄情なおばあちゃんとティアリカママとは違い、優しいサラママであれば、きっと私の望む答えをくれるはずなんだよ! そうじゃないとおかしいよ!
「さ、サラママ。サラママは違うよね? こんな薄情なふたりとは違って、サラママであれば」
私は縋るような想いでサラママを見つめた。
サラママなら、きっと!
そう思ったのだけど──。
「……そ、そうですねぇ」
「おや? サラママ? なんで顔を逸らすのでしょーか? 「そうですね」と肯定してくれるのであれば、ちゃんと相手の顔を、この場合は私の顔を見て頷くべきですよ? 決して顔を逸らしながら「どうしたら納得させられるかなぁ」みたいな態度を取るべきではないのですよ?」
「……」
「あははは、おかしいなぁ? なんでサラママは今度は無言になるの? ほら、言えばいいんだよ。この薄情なママと暴力おばあちゃんは戯れ言を言っている、と! っていうか、そう言ってください、お願いします!」
無言になったサラママに私がその場で頭を下げるも、サラママからの返答はとても短いものでした。
「……ごめんなさい」
「……ねぇ、ごめんなさい、ってなに? なに、ごめんなさいって? なにに対して謝っているの? え、それはなんです? もしかして、「擁護できなくてごめんなさい」ってことですか? あはははは、まさか、そんな、ね? サラママは優しいもん。きっとそんな非情なセリフを言うわけが」
「……そういうところが」
「うん?」
「そういうところが旦那様そっくりだなぁと」
ぽつりとサラママが告げてくれた一言に、私は崩れ落ちました。
「……我が娘ながら哀れな子ですね」
「まったく、元気に育ってくれたのはいいんだが、ここまでかっ飛んでほしくはなかったんだがなぁ」
ティアリカママとおばあちゃんが揃って「はぁ」と溜め息を吐いてくれました。
なに、この心苦しさ? 私はなにか悪いことをしましたかって話ですよ。
っていうか、そんなにパパそっくりだとは思わないんだけど?
むしろ、どの辺がパパそっくりだと言うのでしょーか?
「「「そういうところ」」」
「どういうことだよぉ!?」
ママたちとおばあちゃんは簡潔な一言を以て答えてくれた。
だけど、その返答は決して肯んずることのできないものです。
というか、納得いかねぇ!
「……目が見えるようになって、元気いっぱいに育ってくれたのはいいんだがなぁ」
「ええ、育て方、いや、育ち方を間違えてしまったたのでしょうか?」
「まぁ、子供は黙っていても親に似ますからねぇ~」
「「あぁ、なるほど」」
「どういうことぉ!?」
抗議です。徹底抗議します! まったくと言っていいほどに納得できないもん! だから抗議だ。いや、裁判だ、裁判! 当方は徹底抗戦の構えですよ! 私が勝訴するまで訴え続けて──。
「いや、誰がどう見てもそっくりだから、敗訴確定であろうよ」
「それも圧倒的な敗訴ですね」
「……ごめんなさいねぇ、カティちゃん。こればかりは擁護できませんよぉ~」
「そんなバカな!」
意味がわからない!
ママたちとおばあちゃんの言っている意味が真面目に理解できません!
だけど、どんなに口酸っぱく言っても、三人は私の抗議を聞き受けてくれないと来ている。
私がなにをしたって言うんだよぉ!
「まぁ、とりあえず、賑やかし程度に話を聞いてやろうではないか」
「そうですねぇ」
「まぁ、話題にはなりますか」
「ねぇ、なに、それ? なに、その「面倒だから聞いてやるだけ聞いてやる」って態度? ちょっと意味がわからないんですけど?」
ママたちとおばあちゃんの言い分に腹を立てる私。
だけど、三人ともやっぱり話をまともに聞いてくれません。
いいでしょう。
そっちがその気なら徹底抗戦だ!
絶対に認めさせてあげるんだから!
かくして私は闘志を燃やしながら、ママたちとおばあちゃんと一晩中話を続けることになったのでした。




