Act2-2 お金? そんなものよりも家族サービスですよ
あー、すっかりと遅くなってしまった←汗
いやいつも通りに更新する予定だったんですけどねぇ。
寝ていたら十六時超えていた←苦笑
なわけで、早速更新します。
「双竜島」へ向かうことになったのは、ジョンじいさんの言葉がきっかけだった。
「しかし開業して一月たらずで、いろいろ起こるのぅ」
イロコィの葬儀が終わった数日後、エリキサの販路についての話し合いに来たジョンじいさんが、開口一番に言った。
「よく言うぜ。いろいろしてくれたのは、どこの商会だよ?」
開業していろいろとやらかしてくれた一番の相手がなにを言ってくれるのやら。
「あれの大半はイロコィの独断じゃよ」
「大半ってことは、少なからずあんたの判断もあるんだろう?」
「ほっほっほっ、どうだったかのぅ?」
「本当に食えないね、あんた」
笑うジョンじいさん。悪気が一切見えないのが、ジョンじいさんの厄介なところだ。こういうのを狸って言うんだろうね。
「終わったことは置いておくとして。こうもいろいろとあると、神獣さまへのお祈りが足らんのじゃないのかぅ?」
「お祈りねぇ」
「半信半疑もわからなくはないが、神獣さまのご尊顔を拝見できれば、その年は安泰となったも同然じゃからな」
「ご尊顔って?」
なんでお祈りをするだけで、神獣と会うことになるのやら。
そんな俺の疑問にジョンじいさんは驚いた顔をした。
「まさか、神獣さまの社殿に行っておらぬのか?」
「そのうち回ろうとは思っているけれど」
「いかん! だから苦労するのじゃよ!」
ジョンじいさんは、いままでになく興奮していた。
なにがジョンじいさんの琴線に触れたのかもわからないまま、ジョンじいさんは続けた。
「よいか! 神獣さまへのお祈りがあってこその商売じゃ! それなくして成功はありえぬ!」
「そこまで言うの?」
「言うわい! わしとて年が明けたら、毎年欠かさず、お祈りに向かっておる! だからいまがあるのじゃ!」
ジョンじいさんが言うには、年明けに神獣の社殿でのお祈りをすると、その年は安泰に商売ができるそうだ。
逆に行かなかった年は、不思議と経営不振になったそうだ。
経営不振になってすぐにお祈りに行くと好転し、事なきを得たそうだが、あのまま行かなかったら、ドルーサ商会はすでになくなっていたと豪語していた。
「だというのに、お祈りしに行っておらんとは! 罰当たりすぎるぞ、カレン殿!」
「いや罰当たりって。そんなジンクスなんて知らないし」
「ジンクスではない! れっきとした事実じゃ!」
ジョンじいさんが叫んでいる。どうやら俺の行動はジョンじいさんにとってはまずいことのようだった。
だが苦労しているということは、あながち間違いではない。実際このひと月足らずで俺はかなり苦労させられていた。
開業する前に人員が半減するわ、開業したらしたで一週間毎日決闘させられるわ、魔物の卸し値の価格が半額以下にされるわ、とよくもまぁ一か月足らずでここまで苦労させられたものだ。
ジョンじいさん曰く、それらはすべて俺がお祈りに行かなかったせいらしいけれど、そんなことを言われても、そんなことができるとは知らなかったし、神獣のことを知ったのも「ラース」に戻ってきてからだから、行く余裕なんてなかった。そもそも行く理由もなかった。
「商売人としてはありえないことじゃな。ゆえにじゃ、行って来い」
「えっと、どちらにでしょう?」
「むろん、神獣さまの社殿にじゃよ。これからも苦労したくなければ行ってくることじゃな」
ジョンじいさんは真剣な表情で言っていた。面倒だからパスとは言えない雰囲気だった。
だけど言われたことはある意味もっともなことかもしれない。
どんなに努力をしたところで、最終的には運があるかどうかで決まることは多い。
人智を尽くして天命を待つと言われるのだって、最終的には運があるかないかで物事が決まると昔から脈々と受け継がれていることなのだろう。
赤壁の戦いだって、強風が吹いたからこそ曹操は大敗することになった。
もし強風がなければ劉備と孫権の連合軍は物量の差で押し切られていた可能性が高かった。
つまりは天が劉備と孫権の味方をしたってことだ。
その観点から言えば、俺がいままで苦労してきたのも運がなかったからなのかもしれない。
もっとも最終的には帳尻が合ってくれたけれど、それが最初からであれば苦労なんてしなかったかもしれない。
あくまでも机上の空論でしかないけれど、最初から運に恵まれていれば、もっと楽にいままで過ごせてきたかもしれない。
つまり俺に足りないのは運。その運を補う方法として、神頼みをするというのはあながち間違ってはいない。
まぁあくまでも「神獣」であって神さまではないから、神頼みと言えるかどうはわからない。
けれど恵まれていない運を補う方法としては悪くない。
「でも社殿に行くとしても、どこの社殿に行けばいいんだ?」
問題は五つの社殿のうちのどこに向かえばいいかってことだ。
「聖大陸」のふたつは論外としても、残りは三つ。「魔大陸」にあるふたつの社殿が有力かと思っていたのだけど、ジョンじいさんが推したのは群島諸国にある社殿。すなわち「双竜殿」だった。
「「炎翼殿」と「清風殿」がある「獅子の王国」と「蠅の王国」はいまいろいろとややこしい状況にあるようじゃからな。行くことはできても帰ってくるのにはかなり時間がかかってしまう。ならば「魔大陸」から離れてしまうが、「双竜殿」がよかろう。それに「双竜殿」であれば、「バハムートさま」と「ファフニールさま」のどちらかには会えるじゃろう。運がよければどちらにも会えるかもしれぬし、神獣のお二方に会えれば、おぬしのいままでの運のなさが一気に好転するかもしれんしな」
ジョンじいさんが言うには、「獅子の王国」は「蒼炎の獅子」が暴れていて入国は問題ないが、出国にはかなり時間がかかるそうだ。
「蠅の王国」の情報はほとんど入ってこないのでわからないが、いま食糧やら武器やらを大量に輸入していてかなりきな臭いらしい。
その二国に行くくらいであれば「魔大陸」を離れてしまうが、「双竜殿」に向かうのが最も安全で確実らしい。
それに「双竜殿」であれば神獣が二柱もいる。六神獣のうちの三分の一に一気に会えるとなれば、「双竜殿」を選ばない理由はない。加えてジョンじいさんはあることを教えてくれた。
「それにじゃ。いま「双竜島」は海開きのシーズンじゃしのぅ。青い海に白い砂浜をまえにすれば、誰しも開放的になるものじゃよ。たとえば最近かわいい娘の教育で忙しくて、ろくにスキンシップも取れなくなった嫁が、母親ではなく「女」としていてくれるようになる、とかのぅ。あくまでもたとえばの話じゃがな」
にやりとジョンじいさんが笑った。
それだけでじいさんが言いたいことを理解してしまった。
そう、理解できてしまったのだ。
「この一か月大変な目に遭ってきたのじゃし、少しくらい羽根を伸ばすのもありじゃなかろうか?」
アルトリアに聞こえないように耳打ちしてくるジョンじいさん。
白髪のじいさんに顔を近づけられても嬉しくもないけれど、言っていることは間違いではなかった。
この一か月俺は大変な目に遭い続けてきた。
もう心身ともにくたびれてしまっている。
しかしまだ先は長い。というか始めたばかりだ。
始めたばかりなのに、この状況はさすがにまずい。
一度休暇がてら英気を養うのはありだろう。
むしろ英気を養うべきだろう。
「都合のいいことにここに「双竜島」における最高級ホテルのデラックススイートの宿泊券がある。家族ワンセット二週間分があることじゃしのぅ」
懐から高級感あふれる封筒を取り出すジョンじいさん。
だがジョンじいさんほどの商売人がただでそんなものをくれるわけがなかった。
なにかしらの対価を要求されるはずだ。
たとえばエリキサの儲けの割合を幾分か経られされるという可能性が高い。
さすがにそんな要求なんてのめるわけがない。
だから俺は言ってやったのさ。
「……詳しく話を聞かせていただきましょうか、ジョン殿」
ジョンじいさんが口角を上げて笑った。
その後の話し合いは、まぁ、言うまでもない。俺の手にはその宿泊券があるとだけ言っておこうか。
代りにエリキサの代金が五分五分から六分四分になってしまったが、なにも問題はない。
話し合いの内容がついにはアルトリアに聞かれてしまい、呆れられてしまったが、なんの問題もない。そうなんの問題もない。
「……カレンちゃんさん、顔がだらしないですよぉ~? スケベ親父みたいですぅ~」
ゴンさんが十五歳の乙女に対して相応しくない表現を口にしてくれたが、それも問題はない。あるわけがなかった。
「……ダメですねぇ、この旦那さん。本当にどうにかとしないですよぉ~」
ゴンさんの呆れた声を聞きつつ、徐々に近づいてくる「双竜島」での日々を俺は思わずにはいられなかった。
ゴンさん)アルトリアちゃんさんは、大変ですねぇ~。こんな旦那さんだとぉ~。
アルトリア)言わないでください。でも普段はもっとカッコよくて、素敵なんですよ?
シリウス)ぱぱ上、カッコいいよ?
ゴンさん)ふふふ~、私もよくわかっていますよぉ~。ただいまのカレンちゃんさんは、ちょっと見るに堪えないといいますかぁ~。
カレン)(にへら)
ゴンさん)ねぇ~?
シリウス)ぱぱ上、へんな顔している。
アルトリア)見ちゃダメだよ、シリウスちゃん。
シリウス)なんで?
アルトリア)いまのぱぱ上は、ケダモノさんだからね。
シリウス)そーなの?
アルトリア)……うん。
シリウス)そーなのかぁ。ぱぱ上、ケダモノ~。
ゴンさん)……憐れですねぇ、カレンちゃんさん
的な会話が交わされていたとかいないとか(爆




