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Sal2-50 逆襲のるーちゃん

「──さて、それでは始めようか」


 ルクレティアによる三度にも渡る音波攻撃を受けることにはなったけれど、その後は特に問題なく過ごすことができたの。


 いまでも若干の耳鳴りはしているけれど、私以外に被害者はいないみたいだから、よしとしましょう。


 アンジュもベティも「大丈夫?」と心配をしてくれたので、私としては満足だわ。


 昨日までとはまるで心の有り様が異なっている。


 いまはとても穏やかに過ごすことができる。


 反面、私たちの対面側にいるエレーンには申し訳ないとは思う。


 あと、その近くでぐすぐすといまだに泣いているルクレティアに対してもね。


「う、う、ううぅ~。なんで、なんで誰も理解してくれないんですかぁ。私がなにをしたというんですかぁ」


 涙目になってぐずるルクレティア。


 傍から見れば、ひどい目に遭わされたように思えるわね。


 だけど、実態はただ単に「ベティをより抱っこできなくなるのは嫌だ」と発言し、全員に呆れ交じりの理解をされただけなのよねぇ。


 でも、当のルクレティアはそれが納得できないようで、いまだにぐずっているというわけなのよ。 


 すでに朝食も終わり、朝の定例会議を行おうとしているというのにも関わらずね。


 そろそろ落ち着いてほしいものなのだけど、私が言ったら、余計角が立ちそうな気がしてならないのよね。


 ルクレティアからしてみれば、私はベティを(抱っこする権利を)奪った憎い相手という認識でしょうし。


 でも、決して私が悪いわけではない。


 むしろ、これはベティ本人の意向であって、私がごり押ししたり、無理矢理認めさせたりしたわけではないの。


 ……いまのルクレティアに言っても理解しえもらえないのは目に見えているのだけども。


 それこそ下手に声を懸けたら、「ベティちゃんを奪ったくせに!」とか「ベティちゃんを抱っこできる権利を勝ち取った余裕ですか? 余裕ですよね?」とか言われそうなのよ。


 っていうか、すでに一度ずつ言われているのよね。


 対面側でぐずりながら朝食を取るルクレティアに、苦情というか、苦言を漏らして返ってきたのがそれらの一言だったわけよ。


 ……別に奪ったわけでも、権利があるわけでもないのだけど、ルクレティアは頑ななだったわ。


 話題の中心にいたベティでさえも、「……おかーさん」と呆れていたし。


 というか、ほぼ全員が呆れていたわね。


 唯一、ルクレティアを気遣っていたのは、ベティの使い魔であるデフォルメ白シャチのるーちゃんくらいだったわね。


「きゅ」とかわいらしく鳴きながら、鼻先でつんつんとルクレティアの肩を突いていたもの。


 さすがにるーちゃんの言葉までは私にはわからないものの、なんとなく「元気だしてください」とか「ご主人様が奪われたわけじゃないですよ」とか言ってくれていたと思うのよね。


 そんなるーちゃんの献身を受けて、ルクレティアは「慰めてくれるのですか?」と涙目になってるーちゃんを見つめていたわ。


 るーちゃんは「きゅ」と静かに頷くと、ルクレティアは「るーちゃん!」と感無量となってるーちゃんを抱きしめたの。


 ……うん、そこまでであればまだ感動的とも言えなくはなかったわ。


 相対的に私が悪者扱いされているような状況ではあったけれど、それでもルクレティアに笑顔が戻るのであれば、それでいいかと思っていたくらいだったわ。


 だけど、現実はとても厳しかったのよ。というか、うん。ルクレティアが再びやらかしたのよ。


 ルクレティアは感無量となってるーちゃんを全力でハグしたの。


 そのときのるーちゃんはちょうどぬいぐるみくらいのサイズとなっていて、ルクレティアが抱きしめるには若干小さめのサイズだったわ。


 抱きしめるというよりかは、胸に掻き抱くというのが正しいかしら。


 で、そうすると、当然、るーちゃんはルクレティアの胸に埋まるの。まぁ、そこまでは問題なかったの。


 るーちゃんは若干苦しそうに「きゅ、きゅ~」と鳴いていたけれど、るーちゃん本人は気にしていないように見えたの。


 だけど、続く一言が、ルクレティアの続く一言が大いに余計だったわ。


「……あ、ベティちゃんの匂いがしますね」


 るーちゃんを抱きしめたルクレティアはあろうことか、るーちゃんに残っていたベティの残り香を嗅ぎ始めたのよね。


 その一言に全員が「……え?」と引いたわ。


 でも、私たちが引いたのをルクレティアは気付くどころか、より奇行に走ったのよね。


「あぁ、ベティちゃん」


 恍惚顔でルクレティアはるーちゃんの背びれ辺りを嗅ぎ始めたの。


 同時に、るーちゃんが抵抗を始めたのよね。


「きゅー、きゅー!」と必死に体をばたつかせていたるーちゃん。


 明らかに「やめてくださいぃ!」と言っていたわね、るーちゃんは。


 だけど、ルクレティアはそのことに気づくことなく、より一層るーちゃんを抱きしめていたわね。


 ルクレティアの胸に顔を埋めていたるーちゃんだったけれど、わずかに見える目は涙目になっていたわね。


 普段からデフォルメ顔で若干表情が読みづらいるーちゃんだったけれど、そのときはデフォルメ顔でも、はっきりとわかるほどに泣いていたわね。


 胸びれを必死にバタバタと動かしながら、抵抗していたのだけど、その抵抗をルクレティアはあざ笑うようにしてるーちゃんを抱きしめながら、背びれに残るベティの香りを楽しんでいたわ。


 でも、いつまでその凶行が続くわけでもなく──。


「むぅ~。るーちゃん! おっきくなるの!」


「きゅ、きゅー!」


 ──ベティの一言ともにるーちゃんの体は一気に大きくなったわ。

 

 さすがに最大サイズというわけではなかったけれど、少なくともベティを乗せられる程度の大きさにはサイズアップしたのよ。


 さすがにそのサイズを抱きしめられるわけもなく、ルクレティアは弾かれるようにして、るーちゃんを手放し──。


「きゅ!」


「あぅ!?」


 ──るーちゃんの逆襲とも言うべ一撃を、胸びれによるビンタを喰らったのよね。


 まるで「変態!」とるーちゃんがルクレティアに言っているように私には思えたわね。


「「変態さん!」ってるーちゃんは言っていたね」


「……まぁ、無理もない、か」


「だね」


「なんで、そうなるんですか!?」


 るーちゃんにビンタを喰らったルクレティアは、涙目になっていたわ。


 だけど、ルクレティアの抗議に対して、誰も賛同はしてくれなかった。


 それどころか、るーちゃんを気遣うような目を向けていたわね。


 当のるーちゃんはベティの元に戻ると、ぬいぐるみサイズに可変すると、「きゅー!」と泣きながらベティに抱きついていたわ。


 ベティはるーちゃんを優しく抱き留めると──。

「るーちゃん。もうおかーさんのそばによっちゃダメなの。またひどいめにあわされちゃうからね」


「きゅ!」


 ──るーちゃんにもうルクレティアの側には寄らないようにと注意を促していたわ。


 るーちゃんはるーちゃんで胸びれで敬礼をしていたし。


 そんなふたりのやりとりにルクレティアは「そ、そんな!」とショックを受けていたけれど、まぁ、やはり賛同どころか、理解してくれる人さえおらず、ルクレティアは項垂れながら、「なんでなんですかぁ」とテーブルに顔を突っ伏すことになり、いまに至るってわけよ。


「う、うぅ~。なんで、なんでなんですかぁ」


 ルクレティアは涙を流しながら不満を呈していたけれど、「当たり前でしょう」と私たちが思ったのは言うまでもないわ。


 そんななんとも言えない空気の中、私たちの朝食は終わり、そしてその空気のまま、カナタが「勘弁してくれよ」と言わんばかりの顔で、定例会議の開始を口にしたのよ。

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