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Act2-1 神獣の座す島

本日から第二章の開始です

 空と海が広がっている。


 空も海も同じ青なのに、まるで違っている。グラデーションの違いなんだろうけど、その違いが面白く、そしてきれいだった。そんな空と海を眺めながら、俺たちはゴンさんの背中に乗って空を飛んでいた。


「ん~、いい風だなぁ」


 そよ風を浴びながら、水平線を見やる。まだ目的地は見えてこない。


 一時間ほど前に「エンヴィー」を越えたばかりだから、まだ当分着かないことはわかっている。わかっているが、早く着いてほしいなと思ってしまう。


 空と海の同じ光景ばかりで飽きてきたというわけではなく、単純に理性的な問題だった。


 だからわざといい風だと言って、ごまかしている。だって目の前の光景はそれだけ耐え難いものだ。


「やっぱり海は大きいなー」


 目の前の海を眺めながら、シリウスが嬉しそうに笑っていた。


 そんなシリウスを後ろから抱っこするようにアルトリアが座っている。


 そしてそのアルトリアを俺が抱きしめるようにして座っていた。


 傍から見ればほのぼのしそうな光景ではあるけれど、その実俺の心中は穏やかではない。


「シリウスちゃんは、海を見たことがあったんだね?」


「わぅ! ちち上とはは上がいた頃に見せてもらった!」


 シリウスはアルトリアが買ってきたお出かけ用の服を身に着けている。


 船乗りが着るセーラー服の子供用に仕立てたもの。シリウスはお転婆だから、下はスカートではなく半ズボンだ。それもちゃんと尻尾を出すための穴が空いている。色はセーラー服らしい白と水色。夏っぽい感じがしてとても涼しげだ。


 そんなシリウスを抱きかかえるアルトリアもまた夏っぽいいで立ちをしている。白いノースリーブのワンピースの上に水色のカーディガンを羽織っている。アルトリアの上品っぽい雰囲気と合わさって、いいところのお嬢様のように見える。ボーイミーツアガールの作品に出てきそうなヒロインっぽい。


 アルトリアは普段のギルドの制服姿もいいけれど、こういう私服姿もなかなかだ。


 ただ涼しげだからか、服の生地が若干薄めだ。そうなると自然と目立つわけでありますよ。その目立つ部分がね。


 いつもよりも近くに見えるわけだから、とても目に毒です。


 あといつもよりも距離が近いからか、アルトリアの香りが鼻腔をくすぐってくれて、理性をごりごりと削ってくれている。えっと、これは一種の罰ゲームかなにかなのかな。


「そっか。いい思い出があるんだね」


「わぅ! いまはぱぱ上とまま上も一緒だから、もっと思い出が増えた!」


「そっか」


 ひとり悶々としている俺をよそにシリウスとアルトリアが穏やかな会話を交わしていた。


 年齢だけを言えば、親子というよりかは姉妹と言った方が適切なのだけど、シリウスはアルトリアを育ての母として見ているし、アルトリアもシリウスを娘のようにかわいがっている。俺もシリウスを娘のように思っているけどね。ひとつ言いたいことがある。


「シリウス」


「なんだ? ぱぱ上」


「まま上にあまり寄りかからないようにな」


「わぅ?」


 意味がわからないというようにはシリウスが首を傾げている。意味がわからないわけがないだろうに。というかだな。


「まま上の胸は枕じゃないからな?」


 頬が自然と痙攣していた。俺だってしたことがないのに、なんでシリウスができているのかな。俺だってさせてもらったことがないのに!


「まま上の胸、シリウスは大好きだ! ふかふかで柔らかいもん!」


 頭の上の耳をぴこぴこと動かしながら、シリウスが笑っている。うん、それはいい。いやよくはないな。


「ぱ、ぱぱ上だって知っているもん! まま上の胸がすごいのは知っているよ!?」


「ぱぱ上もまま上の胸が好きなのか?」


「え? そ、それはだね」


「嫌いなのか?」


「す、好きだよ、まま上の胸はぱぱ上も大好きだよ!」


「そっかぁ。シリウスと同じだな!」


「そ、そうだね」


 しまった。つい本音が。いやいや、本音違う。俺本音言っていない。これは本音じゃないよ。ただの欲望だよ!


「……カレンちゃんさん。言い方が違うだけで、内容同じですよぉ~?」


 ゴンさんが呆れた顔をしている。どうやらまた声を出していたようだね。失敗したぜ。


「本当に「旦那さま」は」


 アルトリアがため息を吐いた。


 いやいや待とうよ。そこはため息を吐くところじゃないよ。


 そもそもため息を吐きたいのは俺の方だよ。


 なんでわざわざそんな目立つような恰好を選ぶかな。


「海に行くんですから、涼しげな恰好をするのはあたり前じゃないですか?」


 ぐうの音も出ないほどの正論だった。


 海に行くのに相応しい恰好というものはたしかに存在している。


 アルトリアが着ている服は、たしかに海に行くのには適したものだ。


 いくらか意味合いは違うけれど、シリウスの服もまた海には適している。正確には海上に適した格好だ。


「なのに私がいやらしい服を着ているみたいな言い方をされるのは心外ですね。「旦那さま」が変態さんなだけでしょうに」


「へ、変態じゃないよ!? 俺は普通だもん!」


「その割には、私の胸元をじっと凝視されていたように感じられたのですが?」


「……そんなことないし」


「いま一瞬、空いた間はなんですか?」

 

 凝視はしていない。ただ見えてしまうだけだ。


 ワンピースという構造上、どうしても胸元あたりが、ちょっと露出気味になる。


 そんなアルトリアを後ろから抱きしめるような形で座っているのだから、自然と目に入るってだけだ。凝視しているわけじゃなかった。 


 だがアルトリアにはそう思われてしまっているようだ。ひどく心外だ。ここは抗議するべきだろう。


「わぅ! まま上、魚がいる! 大きい!」


 抗議するべく口を開こうとしたが、それよりも早くシリウスがはしゃいで海を指差す。海面には大きな魚影が写っていた。大きさはぱっと見で、鯨くらいはありそうだ。


 なにせ雲の近くまで高度を上げているのに、はっきりと魚影が見えているんだ。相当な大きさだ。


「魚? ああ、あれはホエールだね」


「ホエール?」


「海に住む優しい魔物だよ。リヴァイアサンさまの加護を受けていて、長い航海をする船を守護しているんだ。ほら、小さいけどホエールの前に船があるでしょう?」


「あれ?」


 シリウスが指差す先には、豆粒くらいの大きさの物があった。


 ホエールとは等間隔を開けているが、スピードは同じくらい。たしかに護っているように見える。


「うん。あの船を護っているみたいだね。海にいる強い魔物と戦ってくれたり、船員さんが海に落ちたら助けてくれたりするんだよ」


「ホエール、いい奴だな」


「群島諸国にはホエールを守り神として敬っている国もあるみたいだからね」


「いまから行くところも?」


「いまから行くところには、双竜さま方の社殿があるから別かな」


「そーりゅーさま。トカゲじじいよりも偉い?」


「こぉらダメだよ? ちゃんと風さまとお呼びしなさい」


「でもぱぱ上も、トカゲじじいをじじいって言っているもん」


「……ぱぱ上にはまま上が注意しますから、シリウスちゃんもきちんと言うように」


「わぅ~、まま上が言うなら」


「うん、いい子だね」


 アルトリアがシリウスを撫でていく。撫でながら俺を睨んでくる。


 ただ表面上は笑顔さ。だけど目が笑っていないんだよね。


 教育に悪いことをするなって言っているみたいだ。


「あとでお話があります。いいですよね? 「旦那さま」」


「……ハイ」


 腕の中にいるのに睨まれる。これいかに。そんなこんなを考えていると、ゴンさんがなにかを見つけたのか、首だけで振り返った。


「みなさん、見えてきましたよぉ~」


 アルトリアから顔を逸らすと、まだだいぶ先だが、なにか島のようなものが見えた。


「あれが「双竜殿」がある通称「双竜島」ですねぇ」


「そのまんまな名前だね」


「ふふふ~、たしかにその通りですねぇ。でも、大事なのは島の名前ではなく、双竜さま方があそこにいらっしゃるということですからぁ~」


「それもそうか」


 神獣である双竜こと、「光のバハムート」と「闇のファフニール」が座す島。その島こそが俺たちの目的地だった。どうして俺たちが「双竜島」へと向かっているのか、それは一週間ほど前のことになる。

季節はややずれていますが、夏の旅行みたいな感じですね。

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