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2002/2052

Sal2-28 情報収集

 ずいぶんと高い塔だった。


 なんのために存在しているかもわからない高すぎる塔。


 そんな塔が街中に鎮座している。


 かつての「エルシディア」には存在していなかったものであり、十日前に潜入したときにはわからなかったもの。


 そんな塔がいま目の前に屹立していた。


「あれはいったいなんでしょうね」


 王城の真南にある広場。その中央に謎の塔は存在していた。


 エレーンさんから、臨時休暇をいただくことになり、手前とサラさんは店の調理器具当のメンテナンス用の道具などの買い出しを行うことにした。


 普段手前とサラさんは、店の奥に引きこもっているので、「エルシディア」の街中を歩くのは、潜入してから初めてのことだった。


 もっとも、手前たち以外でもいまの「エルシディア」を歩くのが初めてな面々は多いはず。


 反面、買い出し班になっている面々にしてみれば、十日もあればいまの「エルシディア」には慣れていることでしょう。


 だけど、手前は少なくともこの十日間で、この塔についての話を誰から聞いた覚えはなかった。


 サラさんもこの塔については見聞きしたこともなかったようで、最初見たときは手前同様に驚かれていた。


 手前たちにとっては、件の塔はいきなり目の前に現れたようにさえ感じられた。


 実際はそんなことはありえないが、この塔を見つけたときは本当に驚いた。


 潜入時はもちろん、北の岩山に潜伏していたときでさえも、この塔の存在には気づけなかった。


 それは手前だけではなく、サラさんもまた同じだったようだ。


 いくら夜に潜入したからと言え、それでもこれほどの高い塔であればわからないわけがない。


 が、実際に手前もサラさんもこの塔を今日初めて認識した。


 かと言って、十日間ほどでこれほどの塔を建設できるかと言われたら、答えは否。


 仮にできたとしても、もっとこの塔の麓に人だかりができそうなものだった。


 だが、少なくとも手前たち以外では、この塔の麓にいる人は見かけられなかった。


 それどころか、塔を見ても平然としている人々が多いこと。


 考えられるとすれば、この塔は建設されたばかりではないということ。


 それこそ、日々の生活に溶け込むほどに、ここにあって当たり前と思えるほどの時間が経っているということだった。


 だというのに、手前もサラさんもこの塔を十日前に見つけられなかった。


 どれほど夜闇に紛れたとしても、これほどの高さの塔であれば、「あそこになにかがある」と気付きそうなもの。


 でも、少なくともあのとき、誰もこの塔について口にしてはいなかった。


 これがひとりやふたりであれば。


 手前とサラさんだけが潜入したというのであれば、まだわからなくはない。


 が、十数名もの人間で潜入し、その際に誰もこの塔の存在を口にしなかった。いや、この塔の存在に気付けなかったというのは、さすがにありえない。


 可能性があるとすれば、この塔にはなにかしらの魔法が掛けられているということ。

 

 レア姉様がおられれば、見破られたことだろうけれど、あいにくと手前は魔法に関しては門外漢に近い。


 この塔が普通の建築物ではないことはわかるのだけど、これがどういうものなのかまではまるでわからなかった。


 サラさんも同じ意見なようで、いつものような間延びをした口調ではなく、真剣味を帯びた口調になっていた。


 その言葉に頷きながら、手前は別のことにも気が向いていた。


 手前が気になっていたのは、街並みだった。


 もっと言えば、当時といまの街並みの違いに驚いていた。


 行き交う人々はみな笑っていた。


 汚れた服でも、襤褸同然の服でもない。真新しい清潔な服を着て、皆が同じように笑っている。


 手前の知る「エルシディア」ではありえなかったことだ。


 いま目の前を通った子供を連れた夫婦なんていい例だ。


 手前の知るかつての「エルシディア」では、子供連れの夫婦なんて街中を出歩いてはいなかった。


 特にこのような広場であればなおさらだ。


 もちろん、中には子供連れの夫婦だって当時もいた。


 でも、そういう人たちは、護衛を連れた上流階級の人々たちだった。


 決していま通った夫婦のように、見るからに庶民という風貌ではなかったのだ。


 では、庶民たちはどこにいたのかと言うと、庶民は皆裏路地かスラムが居場所だった。


 いや、正確に言えば、当時の「エルシディア」には庶民という存在はいなかった。


 当時の「エルシディア」は、上流階級か浮浪者しかいなかったのだ。


 上位か底辺の両極端。それが当時の「エルシディア」だった。


 だから、街中を歩く人々の数もいまよりもずっと少なかった。


 いまのように溢れかえりそうなほどの数の人々が、平然と歩けるような平和な街ではなかった。


 手前の知るかつての姿といまの姿は、あまりにもかけ離れていた。


 かけ離れすぎていて、別の街ではないかと思えるほどだ。


 いまの「エルシディア」は手前の知る「エルシディア」とは違いすぎていた。こんな主都らしい主都ではなかったはずだった。


「ティアリカさん?」


「あ、いえ、すみません。以前とはまるで違っていましたのでね」


 サラさんの声でようやく自分が没入していたことに気づけた。


 あまりにも当時とは違いすぎる光景だったので、致し方がない。


 とはいえ、手前の知る当時は、もう千年以上も前のことになる。


 千年もあれば、街並みが変わるのもわからなくはない。


 わからなくはないが、それでもやはり変わりすぎだろうとしか思えなかった。


「なにかあったんですか?」


「……あまりにも当時と街並みが違っていて、面を喰らったというところですか」


「そんなに違うのですか?」


「ええ。もはや真逆と言ってもいいほどですよ。いったいなにがあったら、こんなに変わるのやら」


 十年もあれば街は変わるもの。十年を百回も繰り返したのであれば、元の形から大幅に変わるというのもわからなくはない。


 だが、それでもどうにも頷けないものがある。


 加えて、ずっと疑問に思っていたこともあった。


『レジスタンス組織とやらは、いまのところ一度も接触できていませんし。果たしてこの街にそんな組織が本当にいるのでしょうか?』


 どこに人の目があるかもわからなかったため、念話でサラさんに語りかけると、サラさんは神妙そうな顔で「そうですね」と頷かれた。


『私がレジスタンスの長であれば、協力者である「ドラグニア軍」とはもっと連絡を取ります。まぁ、定期連絡が一か月ごとという可能性もありますけれど』


『たしかに、その可能性もありますね』


 サラさんの言う通り、レジスタンス組織とのやりとりが一か月ごとであれば、私たちが到着したときにはもうすでに定期連絡を終えていたというのであれば、この十日間一切の接触がなかったというのも頷けなくはない。


 エレーンさんと再会して十日が経った。短いとも長いとも言えない期間ではあるが、レジスタンス関係の最重要機密を話すにはまだ足りないとエレーンさんは考えておられるのかもしれない。


 なににせよ、情報がなさすぎている。


 塔のことやレジスタンスなども含めて、手前たちの持つ情報はあまりにも少なかった。


「サラさん、今日は一通り街をぶらついてみませんか?」


「そうですね。いろいろと変わったものが見られそうですからね」


「ええ。一通り見て歩きましょう」


「そうですねぇ」


 念話をやめて、街の中をぶらついてみようと手前が言うと、サラさんは手前の言いたいことを理解してくださった。


 情報がなさすぎるいま、情報を手に入れるために一番手っ取り早いのは、街中をとにかく練り歩くこと。


 練り歩いているうちに、なにかしらの手がかりを得られるかもしれない。無駄足に終わることもありえるけれど、少なくともこの街の地理は得られる。


 それが役に立つかどうかはわからないが、いまは少しでも情報が欲しい。


 そのために、街中を練り歩くのは悪い手段ではなかった。


「では、行きましょうか」


「そうですねぇ」


 いつもの間延びな口調になりながら、サラさんは頷いてくれた。


 でも、その目はやはり真剣なものだった。


 さすがだと思いながらも、手前はサラさんと隣り合って、ずいぶんと様変わりした「エルシディア」の中を練り歩いていった。

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