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Sal2-23 臨時休業

「Close」と書かれた札が店頭に掛けられた。


 まぁ、「Close」と言うのは、あくまでも私の視点から見たらなのだけど。


 実際のところは、「Close」ではなく、この世界特有の言語が書かれている。


 この世界の特有の言語だけど、内容は「Close」と同じで、「本日は閉店しました」という意味合いの言葉なの。


 そんな札が掛けられるのと同時に、店頭の灯りも消されると、それから閉店後の作業が始まる。


 閉店後作業と言うと、難しい内容なのかと思えるけれど、実際のところは清掃と翌日の準備くらいなのよね。


 あとはエレーンを始めとした経営陣が今日の売り上げの集計するというのもあるかしら。


 まぁ、私やアンジュたちにはなんら関係はない。


 というか、エレーンやルクレティアたちがそっちには関わっているから、私たちが関わる必要がないのよね。


 関わる必要がない残りの面々で、清掃及び明日の営業の準備を行えば、閉店後作業はスムーズに終わった。


 スムーズに作業が進むのは別に今日に限ったことじゃない。


 いつもあっさりと閉店後作業は終わるのよね。何分人手がいっぱいいるから。


 経営陣以外の面々全員で閉店後作業を役割分担するから、その分だけ作業は早く進行し、終了するのよ。


 今日もそれは変わらなかった。


 ちなみに、今日の役割分担は、清掃班が私とタマモとマドカちゃん。


 明日の準備班がアンジュにイリアとルリ、残っていた洗い物はメアさんとティアリちゃん。


 サラとティアリカは状況に応じて、手が足りていない班の手助けとなっていたわね。


 で、作業が終わった班は、まだ作業が終わっていない班の手助けをするというのがお決まりなの。


 ちなみに、以前までは清掃以外のすべてをひとりで行っていたそうよ。


「ドラグニア軍」の面々も他にいるけれど、その子らには別の任務を言い渡していたり、先に休ませたりしていたそうよ。


 清掃はともかく他の作業はどう考えても、ひとりで行えるものじゃないんだけどねぇ。


 でも、それらもいまは昔の話。いまや大人数で閉店後作業ができるから、仕事の終わりがずいぶんと早くなったみたい。


 いままでは日付が変わってもまだ終わらないというレベルだったそうだけど、いまは日付が変わる前にすべてが終わる。エレーンにとっては「夢のような状況」らしいわ。


 ちなみにだけど、ベティとフブキちゃんは閉店後作業は除外されているわ。


 ベティは年齢が。フブキちゃんはベティの相手をするためという理由で除外されているの。


 まぁ、普通に考えれば、ベティもフブキちゃんも本来ならまだ仕事をする年齢ではない。


 せいぜいが家の手伝いであればという理由であれば働いてもおかしくはないという年齢だから当然と言えば当然よね。


 ……実際はフブキちゃんの実年齢は、私たちの中でも結構上位なのだけど、その実年齢も人間換算にしたら見た目相応のものらしいので、年齢相応と言っても間違いではないでしょうね。


 そんなふたりを除いての閉店後作業も、今日もつつがなく終了した。


 あとはエレーンたちに先にあがることを伝えて、部屋に戻るだけだったのだけど──。


「あ、今日は残っていただけますか?」


 ──エレーンが閉店後作業を終えた私たちに、今日は先にあがらずに残っていて欲しいと言ったのよ。


 珍しいこともあるなぁと思ったけど、その顔はやけに真剣だったの。その顔を見て、「重要な話をするのだろう」と私たちは感じ取り、閉店後作業も終わった店内で全員が残ったのよ。


 エレーンたちの作業はトワさんとクーも含めた四人で行っていたこともあったのか、私たちの作業からそう時間を置かずに終わったの。


「今日もお疲れ様でした」


 エレーンは私たちが集う店内で、カウンターの前に陣取ると、全員を見渡しながら、まずは労いの言葉を掛けた。


 その言葉にそれぞれが返事をし、その返事を聞いてからエレーンはおもむろに口を開いたの。


「さて、急ではあるのですが、明日は臨時休業となります」


「臨時休業って」


「いきなりだね」


 エレーンがいきなり言い放った言葉に、私たちは全員が目を丸くしていた。


 というか、臨時休業するにしても、他の子たちには連絡が届いているのかなと思ったわね。


「あ、臨時休業については、「我々」とは関係のない子たちには、今日の出勤時にに予め伝えてありますので。今日出勤ではない子には、他の子に言伝をお願いしています」


「なら問題ありませんか」


「用意周到ですねぇ~」


「その割りには、我らにはいま伝えるのはどうかと思うが」


「……そこは、それ。事情というものがですね」


「……単純に言い忘れていただけでしょう、あんただったら」


「……」


「沈黙は是だね」


 懸念だった臨時休業に関しての連絡はすでに周知済みだったみたい。


 ちなみに「我々」と関係ないというのは、「ドラグニア軍」以外の喫茶店で働く子たちのこと。


 エレーンが経営するこのメイド喫茶には、「ドラグニア軍」以外の、もともと「エルシディア」に住んでいた一般人の子たちも働いているの。


 私たちが来るまで人数比はだいたい均等。若干「ドラグ二ア軍」の面々が多いくらいだったのだけど、いまや完全に「ドラグニア軍」ないし関係者が多くなっている。


 エレーンが連絡したのは、「エルシディア」在住だった子たち。


「ドラグニア軍」の面々に関しては、まだ話をしていないみたい。


 もっとも、「エルシディア」在住の子たちが、帰り際に「ドラグニア軍」の面々の子たちと話をして知っている可能性もあるだろうけど。


「ドラグニア軍」のメンバーに話していないのは、エレーン曰く「事情」ということだっただけど、単純に忘れていただけでしょうね。


 もっと言えば、「ドラグニア軍」のメンバーは、喫茶店の地下深くにある本拠地内で生活しているから、声を掛けるのはいつでもいいということも言い忘れの理由なんでしょうね。


 ……どういう理由があるにせよ、エレーンのポカが許容されることではないんだけども。


 今回の場合は、そこまで大きなミスというわけではないから、影響はないと言ってもいい。

 

 正直、それでよく部隊長ができるなぁと思わなくもないが、いまさらなことよね。


「それで? どうして臨時休業になったのよ?」


「そろそろ皆さんがここに来て十日ほどですが、いままで一度もお休みがありませんでしたからね」


「それは、そうだけど」


 エレーンが臨時休業を決めた理由は、私たちのオーバーワークにあったみたい。


 オーバーワークと言っても、そこまでひどいわけじゃない。


 ここに来てから「休日ってそういえばなかったなぁ」という程度なの。


「エルシディア」在住の子はもちろん、「ドラグニア軍」の面々もこの十日ほどで全員が一度は休日を作っていたわね。


 でも、私たちは誰もが休むことなく仕事をしていたのよね。


 言われるまでそのことにまるで気付いていなかったわ。


 エレーンが臨時休業を決めるのもわからなくはないわね。


「というわけで、明日は急な話ですが、臨時休業とすることにしました。「我々」の目的を踏まえますと、長丁場になることは間違いありませんので。ここら辺で一度リフレッシュしようかと」


「リフレッシュ、か」


「状況的には悪くないかもね」


「そうですね。ここら辺でリフレッシュして、明日以降、いつ「その日」が訪れても問題ないように備えておくのがいいでしょうね」


「……まぁ、その日が明後日に起きても困るけどね」


「それを言わないでください、姉様」


 私とアンジュが頷くのに続いて、マドカちゃんが「その日」がいつ訪れてもいいように備えておくべきだと言ったのよね。


 とはいえ、タマモが言うように明後日に「その日」が訪れても困ると言えば困る。


 っていうか、それじゃ即応できないし。


 そもそも、この十日間で「その日」についての話題は一切上がっていなかったのよね。


 いまもそれは同じ。


 表面化では着々と進んでいるのかもしれないけれど、少なくとも私たちの耳には入っていない。


 もしかしたら、今回の臨時休業も本当のところは、その表面化で進むことに関することなのかもしれないわね。


 でも、そういうことをあえて言わないってことは、ここで話をすることではないということなんでしょうね。


「……とりあえず、明日はお休みってことなんでしょう? なら、それでいいわ」


「ベティにも明日お休みだからって伝えないとね」


「姉様、明日ちょっとお買い物に付き合っていただいてもいいですか?」


「もちろん。どうせならフブキも連れていこうか? 着せ替え人形役をして貰おうか」


「わぁ、いいですね、それ」


「でしょう? かわいらしく着飾ってあげようか」


「はい、もちろん」


 マドカちゃんとタマモが、フブキちゃんにとって恐ろしいことを話し始めていた。


 フブキちゃんが知ったら絶句しそうだわ。


 だけど、困ったことにそんなふたりを止める人がこの場にはいないという事実。


 フブキちゃんには強く生きて欲しいものだわ、切実に。


「……とりあえず、明日はお休みですので、皆さん思い思いに過ごしてリフレッシュなさってください。では、解散!」


 エレーンは手を叩き、明日を目一杯楽しめと言ったの。


 もう決まったことであるし、反発する必要もない。なら、お言葉に甘えることにしましょう、と思いながら、明日はなにをしましょうかと明日のお休みについてを私はひとり考えていたの。


 ……自分を見つめるまなざしに気づくことなく、私はひとり明日の休みについてを考えていたのよ。

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