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Act1-ex-1 ある冒険者の最期

PV53000突破しました。

いつもありがとうございます。

今日と明日は特別編になります。

内容は少々グロいので、お気をつけて。

 歩くたびに激痛が走る。


愛用の剣を杖の代わりにして、どうにか歩いていく。


夜の間にどうにか脱け出すことができたが、気づかれるのも時間の問題か。


それでも歩くしかない。「彼女」との約束の時間が迫っている。急がなければならない。


「こんばんは」


どうにか約束の時間までに待ち合わせ場所へたどり着けた。「ラース」中央の噴水前に「彼女」はいた。


「やぁ、アリア」


愛しいアリア。月明かりに照らされた真っ白な髪と真っ白な肌に「蒼い瞳」はいつもよりも美しい。


 アリアとは出会ったばかりではあるが、すでに男と女の関係になっている。


 こういうことはもっと時間をかけてと思っていたのだが、思いのほかアリアの推しが強く、肉体関係を持ってしまった。


 しかし関係を持ったことを別に気にはしていない。


 むしろいずれは関係を持つことになるのだから、遅いか早いかの違いでしかない。問題はなにもない。


 いやある意味では問題が生じてしまっていた。アリアからの頼みを叶えてあげることができなかった。


「あらあら、ずいぶんとやられてしまったね」


アリアは口元に手を当てて笑っていた。


 笑いごとではないが、そういうところは実に彼女らしい。


 アリアは少しずれたところがある子だった。


 だが、ずれたところがあっても「姉思い」のいい子だった。


 その優しさに惹かれた。たとえ人魔族であろうとも、アリアはアリアだった。


 自分が愛した女性であることには変わらない。だからこそ、アリアの姉を助けてあげたかった。


「姉さんが囚われているの」


アリアにはふたりの姉がいる。ふたりも人魔族だった。ただ種族は違う。


 父親は同じだが、母親が異なる。しかし姉妹の仲は良好のようだ。よく姉さんがと語ってくれる。


 姉のことを語るアリアは、年相応な表情を浮かべてくれる。そんなアリアを見るのが好きだ。


その姉のひとり。上の姉が最近開業した冒険者ギルドで、秘書をしているそうなのだが、実際はギルドマスターの少女の奴隷をしているそうだ。


「姉さんがひどい目に遭っているの」


アリアが渡してくれた手紙の内容は、ひどいものだった。


 夜な夜なギルドマスターに犯され、抵抗すれば制服で隠せる箇所を殴られる。ひどいときには、ナイフで肌を切りつけられてしまうし、時折職員の男性の性処理をさせられることもあるそうだ。


 アリアが渡してくれた手紙には、涙の痕があった。


 それがアリアのものなのか、それともアリアの姉が流したものなのかまではわからなかったが、その手紙に涙が刻まれていることはたしかだった。


アリアの姉はアリアと同じ十四歳の少女だ。そんないたいけな少女が惨い目に遭っている。許せることではなかった。


正義感をかざすつもりはない。


この世界では半端な正義などかざしても、死を早めるだけだ。


 死にたくなければ、半端な正義感など持たない方がいい。


 半端な正義感をかざして死んでしまったら、元も子もないのだから。


 そもそも赤の他人のために、なんの見返りもなしに行動するなんて馬鹿げた話だ。


だが相手が恋人の家族であれば話は別だ。


現金だとは思うが、大切な人の家族を守りたいと思うのは当然のことだ。


だからこそ、件の冒険者ギルドに乗り込んだのだが、たやすく返り討ちにされた。


 件のギルドマスターは、アリアと比べても見劣りはしないほどの美少女ではあった。


 しかし目付きがとても悪く、性格の悪さが滲み出ていた。


そのうえ、開業して七日間毎日決闘をしているようだった。


  どうやら自分の他にも、似たような事情を抱えた連中が押し寄せてきていたようだ。


だが押し寄せてきた連中をすべて返り討ちにしていた。その中には自分も含まれている。


ギルドマスターは、連日の決闘のせいで疲れているようだったが、まるで相手にならなかった。


なにをしても通用しないどころか、 手加減をされていた。


アリアの姉を凌辱する相手に情けをかけられる。


 とてつもない屈辱だったが、実力の差は覆ることはなく、たやすく気絶させられてしまった。


何度戦ったとしても勝てない。格の違いを痛感させられてしまった。


 勝てる可能性があるとすれば、寝込みを襲う程度だ。


 まともにやっていては、絶対に勝てない。そういう相手だった。


「すまない。相手が強すぎた。けれど待っていて欲しい。必ず俺が君の姉さんを」


「あぁ、やっぱりダメだったかぁ」


アリアがため息混じりに言った。


やっぱりとはどういうことだろうか。


 アリアはあなたならできると言っていた。そう、言ってくれていたはずだ。


 なのにやっぱりダメだったとは、どういうことだろう。それではまるで──。


「まぁ雑種で勝てるなんてありえないよね」


雑種。アリアが口にした言葉の意味がよくわからない。アリアはなにを言っているのだろうか。


「アリア? なにを言っているんだい?」


「なにってあなたのことを言っているんだけど。無能のノーマン」


「無能って、たしかに勝てはしなかったが、それでもまだ可能性は」


「勝てるわけがないでしょう? だってあなたは捨て駒だもの。もともと勝てるとは考えていないの。ただあの子の力を測る物差しのひとつになればいいかなって程度の存在だもの」


アリアが笑った。言っている意味を理解できない。


「期待通りの力の持ち主のようだね。姉さんが入れ込むのも無理はない。ただ残念。どうして捨て駒を生かしちゃうのかな? おかげで私が後始末しないといけなくなっちゃった」


面倒そうにアリアがため息を吐いた。


「なにを言っているんだよ、アリア。さっきからおかしいぞ?」


「おかしい? なにが?」


 アリアは理解できないという顔をしていた。だが理解できないのは、こちらのセリフだ。


「どうしたんだよ? 今日の君はおかしいぞ。俺のことを無能だの、捨て駒だのと言うだなんて。冗談にしてもさすがに笑えないよ。いったいどうしたんだ? なにかあったのか?」


 アリアの頬に向けて右腕を伸ばす。


 頬を撫でるとアリアは嬉しそうにしてくれる。


 なにがあったのかはわからないが、少なくともいまのアリアは正気ではないのだろう。


 正気を取り戻させるためにも頬をいつもよりも優しく撫でようとした。


「……触れるな、下郎」


 右手の手首から先が不意に消えた。


 アリアに向かって血が迸る。右手を押さえ蹲る。


 からんと愛用の剣が地面に転がる音が響く。


「数回抱かせてやった程度で、勘違いしないでくれる? 私にとってあなたはただの駒でしかないんだよ? そしてその駒としての役目はすでに終わっているの。つまりあなたはもう用なしだよ、ノーガン。あれ? ノーガンでいいんだったっけ? まぁ、どうでもいいか」


 アリアが口を動かしながら笑っている。とても楽しそうだ。


 だが自分はとてもではないが笑えない。血が止まらない。どんなに強く押さえても血が溢れ続けていく。


「捨て駒にしてはきれいな血だね。でもお肉は美味しくないよねぇ」


 アリアがなにかを吐き出した。


 目の前で転がったそれは骨だった。人の手の形をした骨。


 急に消えた右手の手首から先がどこに行ったのか、その骨を見て理解してしまった。


「これは」


「あなたの手の骨だよ? 全然美味しくないね。若いから柔らかいかと思っていたのだけど、やっぱり食べるのであれば、女の子の方がいいね。だけどあの子があなたを殺さなかったから、その後始末をしないといけないもんね」


 アリアが口を開いた。


 視界のすべてが、いや世界が黒に染まっていく。


 叫びさえもその黒に包まれた。


 なにもできないまま、すべてが黒に包まれていった。

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