ささめる星
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
今回は大晦日更新の続きになる、のかな?
フブキちゃんの一方通行かと思わせて、という内容です。
「『……んぅ』」
まぶたを開くと、ここ最近で見慣れた岩の天井が見えた。
ここ最近の寝床として使っている洞窟。その洞窟の天井。
ごつごつとした岩肌は、入り口から差し込んでくる日の光にほのかに照らされていた。
照らされた岩肌の天井を私はぼんやりと見上げていた。
「『……お腹、空いた』」
ぐぅとお腹が鳴る。
ママたちの元から離れて、どれだけ時間が経っただろう?
そもそも、いま私がどこにいるのかもいまいちわかっていない。
寒くもなければ、暑すぎるわけでもない。
過ごすにはちょうどいい気候だった。
そんな気候だからなのかな?
ここら周辺の魔物たちは、大抵強い連中が多かった。
おかげで贄には困らない。
反面、贄にするには少しばかり手間が掛かる。
贄はできる限り強い方がいい。
けれど、下手に強いと贄にするまでに時間が掛かってしまう。
昨日の贄も、その下手に強い魔物だった。
大きな鳥の魔物で、大きな声で鳴くうるさい奴だった。
しかも、いやらしいことに大声にはいろいろと効果があったんだ。
中には、手足に付与した魔法を消し飛ばすなんて、ふざけたものもあったね。
おかげで贄にするまでにいくらか時間が掛かってしまったし。
そのうえ、大声であるからなのか、周囲にいる魔物たちも呼び寄せてもくれた。
魔物本体の強さもそれなりにあるうえに、呼び寄せた魔物たちに合わせて攻撃を仕掛けてくるので、本当に厄介な存在だった。
いや、厄介というよりか、面倒くさい相手だった。
でも、得てして面倒だったり、厄介な奴は意外と強い。
むしろ強くなる過程で、面倒だったり、厄介だったりする能力を得るのかもしれない。
単純な膂力という意味合いだけであれば、いままで贄にしてきた魔物たちの中でも、最弱と言ってもいい。
だけど、総合的な強さで言えば、呼び寄せた魔物たちを利用したり、付与魔法をかき消したりなどの能力も含めた総合力で言えば、いままで贄にした魔物たちの中で最強の存在だった。
とはいえ、その最強もすでに喰らっている。呼び呼びせた魔物たちもついでに喰らえる分は喰らっている。
朝ご飯として持ち帰った分もあるので、今日の朝ご飯は持ち帰った分に手を加える予定だった。
手を加えると言っても、本格的な調理というわけじゃない。
あくまでも焼いたり、煮込んだりする程度。
ママたちやタマモさんたちのように、本格的な調理ができるわけじゃない。
いわゆる野戦料理って奴だね。
もしくは、ずぼら飯ってことになるのかな?
「『……よし、作ろう』」
寝床の水晶から起き上がり、洞窟の外へと向かう。
洞窟の外には、昨日の贄だった鳥の魔物の死体の一部とお供になった魔物たちの死体がいくらか転がっている。
その魔物たちのお肉は、昨日の夜に張っておいた結界内で閉じこめてある。
でも、ただ閉じ込めてあるだけじゃなく、結界の上の方に魔力の板のようなものを作って、そこにお肉を置いて、予め結界の下部に用意しておいた焚き火の煙を一晩中当てていた。
タマモさんが教えてくれた燻製っていう方法だった。
おばあちゃん陛下がくれた本の中にも燻製したお肉を使ったご飯についてを書かれたものがあって、いつか食べてみたいなと思っていたのだけど、まさか自分で作ることになるとは思っていなかったよ。
一度ママに燻製したお肉が食べたいってお願いしたことがあるけれど、時間が掛かるうえに、準備も大変だからということで断られてしまったんだ。
ママは申し訳なさそうにしていたけれど、準備が大変って意味を昨日の夜、嫌というほどに痛感したよ。
何度か失敗して、燻製にするはずのお肉が、焚き火に落ちちゃうこともあったし、どのくらいの距離が適切なのかもわからなかったせいで、燻製ではなく、直火になってお肉を焦がしてしまったし。
それに結界で閉じ込めておかないと、周辺の魔物が寄ってきて燻製肉を奪おうとしてきたもの。
その退治も結構大変だった。
まぁ、退治した連中も、いまや燻製肉の一部となっているのだけどね。
でも、どうにかこうにかして無事に燻製肉を作ることができた。
私が最後に見たのは、煙にいぶられて、元の赤身から徐々に色が変わっていたお肉たち。そこで私は眠りに就いたんだ。
眠りに就く前に焚き火に、桜の木片を大量に放り込んでおいた。桜の木片を放り込むのは、タマモさんが教えてくれたやり方だった。
曰く、最後の一手間らしい。
そうすると桜の香りがするお肉になるって話だった。
「『どうなったかなぁ』」
わくわくしながら、結界を解いて魔力の板からお肉を取ると、こんがりと焼けた、いい匂いのするお肉になっていた。
「『わぁ。いい匂い』」
すんすんと鼻を鳴らすと、焼けたお肉と煙、そしてほのかな桜の香りがした。
「『ちょっとだけ食べてみよう』」
タマモさんにはここから調理する方法も聞いていた。
お肉を一口大に刻んでお野菜と一緒に炒めるって方法だった。
本当はそれを作るつもりだったのだけど、ここまでいい匂いを起き抜けに嗅いだら、堪らなくなってしまった。
「『いただきます』」
食前の挨拶をしてから、燻製肉にかじりつくと、口の中にほどよい脂が広がった。
昨日の晩に食べたときは、口いっぱいに脂が広がっていたのだけど、燻製してほどよく脂が抜けているのか、わりとしっとりした舌触りになっていた。
「『もぐもぐ、美味しい』」
最近は贄を得ても翌日にご飯として調理することにしている。
まぁ、大抵は失敗しているのだけど。
でも、今回のお肉は大成功だ。
ひとりで食べるご飯は、とても味気ない。
でも、味気なくても、これだけ美味しければ大満足だ。
……それでも、ちょっぴり寂しいことは事実なのだけど。
「『……一緒にご飯食べてくれる人がいたら、な』」
美味しいものは、ひとりで食べても美味しいけれど、やっぱり誰かと一緒に食べた方が美味しい。
でも、いま私のそばには誰もいない。
私ひとりしかいない。
「『……がぅ』」
お肉を囓る。
だけど、少しだけ味がぼやけてしまった。
いや、ぼやけたのは味だけじゃなく、視界も少しぼやけてしまった。
「『寂しい、なぁ』」
誰かと一緒であればいいのに。
でも、いまの私と一緒にいてくれる人なんているわけがない。
それが堪らなく悲しかった。
少し前まではみんながいた。
だから寂しくなんかなかった。
でも、いまは誰もいない。
それが悲しかった。
「『……フブキも、こうだったのかな』」
ふと以前のことを思い出した。
ガリオンおじいちゃんの背に乗って、地下水脈の旅をしていたときのこと。
フブキに抱きしめてもらったことがあった。
どうしてそうなったのかは、いまいちわからなかった。
だけど、あのとき、フブキは「人肌が恋しくなった」って言っていた。
当時の私は「そういうこともあるのかな」と思って黙って抱きしめられていたけれど、あのときのフブキはどうして私を抱きしめてくれたんだろう?
本当に人肌が恋しかったからなのかな?
よくわからない。
でも、あのときのフブキはとても温かかった。
あのぬくもりが、いまはとても恋しい。
「『……フブキなら、私を抱きしめてくれるかな?』」
いまの私でも、フブキは変わらずに抱きしめてくれるかな?
それとも抱きしめてくれないだろうか?
やっぱりよくわからない。
わからないけれど、試してみたいって気持ちが沸き起こった。
「『……会いに行こう、かな』」
フブキがいまどこにいるのかはわからない。
でも、どうしてもフブキに会いたいって思えた。
どうしてフブキなのかはわからない。
抱きしめて貰うのであれば、どうせならママがいい。
でも、真っ先に思い浮かんだのは、ママじゃなくフブキだった。
どうしてフブキを思い浮かべたのかは私にもわからない。
それでも、フブキならと思ってしまった。
「『……まぁ、いつになるかはわからないけれど』」
そもそも、私がいまどこにいるのかもさっぱりとわからない。
そんな状況でフブキに会いに行けるわけもない。
「『……でも、いつかは会いたいな、フブキに』」
フブキに会いに行く。
そんな勝手な目標を定めながら、私はご飯の続きを堪能した。
少し前までぼやけていたはずのご飯が、いまは不思議とまた美味しく感じられた。
どうしてなのかはやっぱりわからない。
わからないけれど、いまはそれでいいかな。
「『でも、本当にここどこなんだろう?』」
とりあえず、いまがどこにいるのか確認をしないとだった。
私の行き先はやっぱり不安だよ。
それでも、私は私がするべきことを為すために、今日も強くなるための一歩を踏み締める。
パパを取りもどす。
一番の目標を叶えるための日々は、今日も始まったんだ。
改めまして、今年もよろしくお願いします。




