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Sal1-18 おいたはダメだよ?

 静かな湖畔で、鼻歌が響いていた。


 すっかりと高くなった日は、とても眩しくて、目が眩みそうになる。


 でも、日が高くなったことで、湖面がより一層輝きを増している。


 輝く湖面の中から、ベティがお気に入りの魚が時折飛び跳ねていた。


 飛び跳ねた魚は、ちゃぽんという小さな音ともに再び湖面へと沈んでいく。


 湖面に沈んだ魚は、そのまま湖底へと向かって潜行していった。


 湖の中は、底が見えるくらいに透き通っている。透き通っているのだけど、その分とんでもないものが棲息しているのも見えた。


「リヴァイアクス」までの海路で、何度か見たシャークという生物とそのシャークを捕食することもあるというオルカという生物。本来なら海の中にいるはずのそれらがなぜか湖底近くで棲息していた。


 どう考えても、この湖における食物連鎖の頂点種はあれら。


 その捕食者たちは、湖底から湖をぼんやりと眺めている私を見つけたのか、潜行していた魚をスルーしてまっすぐに私へと近付いてくる。


 どうやら私を得物と定めたみたい。


 それもシャークとオルカの両方がだった。


 まるで競い合うようにして距離を詰め合いながら、私へと向かってくる二頭。


 その二頭をあくびを搔きつつ、ぼんやりと眺めていると、二頭は水面近くになると、一気に私へと向かって飛び掛かってきて──。


「はい、お疲れさま~」


「「っ!?」」


 ──二頭の顔を掴んで、その勢いを利用して二頭の頭をぶつけてあげた。


 それぞれに恐ろしい顔をしていた二頭だったけれど、脳天をぶつけてあげたからなのか、即座に二頭も目を回して気絶してしまう。


 でも、本当に気絶したかどうかは妖しいところだけど。ただ脳天をぶつけただけで、気絶するとかさすがに、ね?


 脳天をぶつけたときに、ゴシャァッって音はしたけれど、それだけで気絶するほど頂点捕食者たちは甘くないと思うんだよね。


 となれば、より確実に仕留めるべきだと思うんだ。


「よいしょ、よいしょ」


 気絶した二頭の頭を掴んで、そのまま湖畔へと引きずり出すことにしたんだ。


 二頭とも魚に近い存在らしいから、地上へと出せば呼吸ができなくなるか、身動きがまともに取れなくなるはずだからね。


 ただ、二頭ともそれなりに巨体であるから、少し離れた場所だと、必死に暴れたら湖の中にと逃げしてしまう可能性も否めない。


 となれば、どうあっても湖の中へと戻れない位置まで引きずり出してしまえば、あとは息の根が止まるのを待つだけと言えるよね。


 そうして私は気絶したはずの二頭を湖から引きずり出した。


 その際、お仲間のシャークやオルカが私を捕捉していたようだけど、笑いかけると一斉に逃げ出してしまったよ。


 ……私はただ笑いかけただけったというのに、なんとも失礼な話だよね。


 あとで逃げた子たちも引きずり出してあげようかなとちょっと思いました。


 とにかく、二頭を私は地上へと引きずり出すと、森の始まり近くまで引きずっていった。


 その際、気絶から目覚めたのか、オルカもシャークも必死に体をばたつかせて暴れていた。


 だけど、どれほど暴れられようとも手を離すなつもりなんてないわけで、二頭の必死の抵抗を無視して、森の始まり近くまで引きずってあげたんだ。


 森の入り口近くに達したときには、二頭とも抵抗は弱々しくなっていた。


 いや、弱々しいというよりかは、びくびくと痙攣していたね。


 二頭ともなかなかに凶悪な顔立ちをしているのに、か弱い私に引きずれられた程度で痙攣するとか、ずいぶんと弱っちいなぁと思うよ。


『……いや、あの、アンジュ様? その子たちも相応に強力な魔物でして』


「そうなの? 頭ごっつんってしただけで、気絶しちゃったけれど?」


『……いや、そりゃ気絶しますよ。アンジュ様のお力で脳天をぶつけられれば、誰だって気絶しますよ』


 リヴァイアサンちゃんが明らかに引いた声で言う。


 そんな酷いことをしたつもりはないのだけど、リヴァイアサンちゃんにとっては私の行動はなかなかに酷いみたいだね。


 心外だなぁと思うけれど、まぁ、いいや。


「とりあえず、天日干ししてみようかな?」


『そのまま、するんですか?』


「うん。詳しい方法あんまり知らないし」


『……左様、ですか』


 リヴァイアサンちゃんは、なんだか諦めたような声で頷いてくれた。


 いったいどうしたんだろうと思いつつ、私は痙攣する二頭を近くの枝にぶら下げるように天日干しをした。


 天日干しをする頃には、二頭ともでろんと力なく無抵抗にとなっていた。


 でも、念には念を入れて、もう少し天日干ししようかなとしばらく二頭を放置していると、二頭の痙攣が収まった。


 二頭とも目に光がなくなり、口をぽっかりと大きく開けて硬直していたんだ。


「これで仕留められたかな?」


 シャークとオルカをそれぞれ拾った棒で突っつくも、二頭ともこれと言って動きを見せることはなかった。


 完全に息の根が止まったみたいだね。


「……ええ、仕留められました、ね」


「……想定外の方法で、でしたけども」


 メアさんとティアリちゃんが若干引いたように言う。そんなに酷い方法をしたつもりはないのだけど、どうにもふたりにとっては私がした方法はなかなかに規格外すぎたみたいだね。


「普通はどうやって捕まえているの?」


「そう、ですね。特製の網を用いて捕まえていますね。間違っても飛び掛かってきたところを逆に捕獲して、脳天をぶつけるなんて豪快な方法は取りません。というか、できません」


「そう?」


「そうです。奥方様は、いえ、奥方様の方法は規格外すぎます」


 メアさんとティアリちゃんがそれぞれに言いたいことを言ってくれた。そこまで言われることかなぁと思わなくもない。


 でも、「前の私」の感覚で言えば、いま私がやった漁は、あまりにも脳筋というか、力業にもほどがある方法だった。


 その観点から言えば、なるほど。たしかに規格外すぎたかもしれないね。


「ところで、この子たちって美味しいの?」


「そうですね。レイクシャークとレイクオルカも、軍勢内でも人気の食材となる魔物ですね。処理が多少難しくはありますが、ちゃんと処理されたシャークとオルカは絶品ですね」


「特にオサシミは最高ですよ、奥方様!」


 メアさんは淡々と説明してくれていたけれど、ティアリちゃんが興奮気味に「オサシミが美味しい」と言ってくれた。


「オサシミかぁ。たしか、生の魚を食べる方法だっけ?」


「そうです! ちゃんと処理をされたオルカとシャークの盛りあわせは最高です」


「なるほど。ちょっと興味あるなぁ。ってことで、ほいっと」


 ティアリちゃんが目を輝かせながら力説してくれたので、私も興味が出てきた。


 ふたりはさっきからオルカとシャークをきちんと処理をと言っていたので、ちゃんと処理をしないと味わい等に問題が出るタイプの食材みたいだね。


 となれば、話は簡単だ。


 私はオルカとシャークに向かって指を鳴らした。するとぶら下がっていたオルカとシャークの巨体が瞬く間に三枚に下ろされたうえに、最適な状態へと処理されていく。


 あっというまに行われた下処理にメアさんとティアリちゃんがぽかんと口を大きく開けていた。


「ん~。こんなものかな?」


 目を凝らして様々な角度で見やるも、問題はなさそうだった。


「とりあえず、これでベティ以外のご飯を作ろうか」


「あ、はい」


「わかり、ました」


 呆然と頷くふたりを視界から外し、私は元いた場所の近くを、シートの上ですっかりと眠ってしまっているルクレとベティを見やる。


 少し前までは大騒ぎしていたルクレも、そのルクレに抱っこされた虚無の表情を浮かべていたベティもいまやすっかりと夢の中の住人となっている。


「ふたりを起こさないように、気をつけてやろうか」


「「はい、わかりました」」


 口の前に人差し指を当てて、「静かに」というジェスチャーを取ると、ふたりは揃って小声で頷いてくれた。


 ずいぶんとおかしな昼食になってしまったけれど、まぁ、これはこれでいいかなぁと思いつつ、オルカとシャークのお肉を使った四人分の調理を始めようかと思った、そのとき。


「……ばぅ、まま?」


 ルクレの腕の中から抜けだしたベティが、目を細めながら私を呼んでくれたんだ。


「おはよう、ベティ。少し待っていてね、ご飯作るから」


「……ばぅ」


 こくんと首を縦に振って頷くベティ。どうにもまだ夢の中の住人さんみたいだね。


 かわいいなぁと思うも、湖面の上をオルカかシャークの背びれが音もなくベティへと迫っているのが見えた。


「おいたは、ダメだよ?」


 湖面に向かって指を鳴らすと同時に、オルカとシャークが氷漬けになって湖面の上をぷかぷかと浮かんでいく。


「ばぅ?」


 氷漬けになったオルカとシャークに気付いたみたいで、ベティは眠たげな顔で振り返ると──。


「まま、すごいの」


 目の前にある氷漬けのオルカとシャークを見てびっくりとしてくれた。


 まま冥利に尽きる反面、娘を守れてよかったと私は安堵していた。


「ベティ、しばらくはおかーさんを見ていてね? ご飯作ったら呼ぶまでの間でいいから」


「はーいなの」


 普段とは違い、元気いっぱいとまではいかないけれど、それなりに元気よく返事をしてくれるベティ。


「よろしい」と返事をしながら、私はメアさんとティアリちゃんに手伝って貰って昼食作りを始めたんだ。

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