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Sal1-7 まさかの名前

 無数の魔物の姿が見えていた。


 それぞれの種族で分隊を構築し、その分隊毎に纏まって整列している。


 整列する分隊の前には、土轟王様とヨルムさんがおられた。


 土轟王様は以前見たままの軍服姿で、ヨルムさんは相変わらずの執事スタイルで土轟王様の後ろに控えられていた。


 ガリオンさんが降り立ったのは、ちょうど中央の広場だった。


 以前は全軍で迎えてくれた場所。そこにガリオンさんはまっすぐに降り立った。


 広場には以前と同じで全軍が集まっていた。ただ、前回とは違い、驚きの声が聞こえていた。


 驚いている理由はガリオンさんが空を飛んできたから。


 幽霊船部隊の隊長であったガリオンさんが、任務から戻ってきたら、空を飛ぶ幽霊船となって帰ってきたのだから、驚いてしまうのも無理からぬことだった。


 でも、土轟王様とヨルムさんは驚くこともなく、迎え入れてくださった。


「やぁ、帰ってきたね。どうだったと聞くのは野暮だね」


 土轟王様は両腕を広げながら笑われていた。笑いながらも、私たちのそばにおられる氷結王様と聖風王様を見つめられていた。


「……お久しぶりですね、氷結王殿。まさか聖風王殿もご一緒とは考えていませんでしたよ」


「うむ。久しいな。そなたは相変わらず若々しくて羨ましいものだ」


「ははは、これはこれで嘗められる要因にもなりますので、いいことばかりではありませんよ」


「たしかに考えてみればそうであるのぅ」


「とはいえ、その程度のことなら、すぐに実力行使でわからせればよいことではないか。我らを嘗めようなどする無礼者にはきっちりと実力の差を教えるべきであって」


「……聖風王殿は相変わらず過激ですねぇ」


 氷結王様と聖風王様に土轟王様はそれぞれ話し掛けられていく。


 氷結王様に対しては、とても親しげにだったのだけど、聖風王様には大いに呆れられているみたい。


 とはいえ、呆れられるのも仕方がなかった。聖風王様は私から見ても過激すぎる内容を言われていたし。


 土轟王様は「四竜王」陛下方の中では、穏健な方だから聖風王様の過激な言葉には食傷気味みたいね。


「しかし、ガリオンからの報告を受けてはいましたが、まさか聖風王殿も御山で眠っておいでとは考えてもいませんでしたよ」


「かかか、まだまだじゃのう、土轟王や。これは我が輩の深謀遠慮があってこそで──」


「なぁにが深謀遠慮じゃ? どうせ貴様のことじゃ、我が君が指示された場所を手違いかなにかで壊滅同然の被害を与えてしまい、眠る場所がなくなったというところであろう?」


「な、なにを言うか、クソ爺! そんなことがあるわけが」


「あー、なるほど。だから聖風王殿がおられるはずの地域がやけに荒廃しているわけですか」


「ど、土轟王、貴様までなにを知ったかぶりを」


「いやいや、知ったかぶりではありませんよ? うちの軍で聖風王様がおられるはずの地域出身の者もいますし、僕自身窺ったこともあるのですが、まぁ、ひどい壊滅具合で」


「こ、これ! 余計なことを」


「ははは、とはいえ、彼らが言うにははるか昔に起きた天変地異によってという話でしたからね。さすがに聖風王殿がやらかしたというわけではないでしょうが」


 土轟王様は聖風王様がおられるはずの地域についてを語っていた。


 相当、危険というか、とんでもない地域みたいね。ひどい壊滅具合って、いったいどんな地域で眠られるおつもりだったのかしら?


「まぁ、風光明媚なところもなくはないですが、大抵は砂漠の海でしたからねぇ。もともとは砂漠ではなかったはずだと記憶していたので驚きましたが、まぁ、時の流れで草原地域が砂漠化するというのもありえない話ではありませんからね」


 しみじみと頷く土轟王様とその言葉に徐々に実を縮ませてられていく聖風王様。


 砂漠の海と言われていたから、砂漠地帯の国ということなのだろうけれど、聖風王様の様子を見る限り、砂漠化に繋がるなにかを知っている可能性がありそうね。


「ふむ、様子を見る限り、砂漠化の原因ないし遠因は貴様じゃな?」


 じとっと氷結王様が聖風王様を覗き見る。聖風王様はすっと顔を逸らされたけれど、そこには土轟王様がニコニコと笑われて立たれていた。


 逃げ場なしという状況をここまで明確に現している状況もそうそうないわねぇ。


「風王様が原因を作ったみたいだね?」


「そうみたいねぇ」


 やれやれと私とアンジュは呆れながら、聖風王様を見やる。そこにトドメとばかりに純粋な一対の視線が注がれていく。


「ばぅ? おうさま、わるいことをしたの?」


 こてんとベティが首を傾げると、聖風王様はとたんに慌てられてしまう。


「ち、違うのじゃ、ベティや! あれには理由があってじゃのぅ」


「あれじゃと?」


「ということは、やはり聖風王殿が原因ですか」


「はっ!?」


 ベティの無垢な視線を浴びて、聖風王様はぼろを出されてしまう。氷結王様と土轟王様がそれを見逃すわけもなく、追撃をされると聖風王様は胃の腑を突かれたかのように硬直されてしまった。


 でも、それでおふたりが許してくれるわけもなく──。


「さぁ、きりきりと話さんかい。なにをしでかしたのじゃ、貴様は?」


「まぁ、聖風王殿のことですから、相応のやらかしでしょうねぇ。たとえば、国の地形を変えるくらいのことは平然とされるでしょうし」


「あぁ、その可能性は高いのぅ。爆弾のような存在じゃからな、こやつ」


「言えていますねぇ」


 はははと氷結王様と土轟王様は笑われていた。笑っておられるけれど、その目はまるで笑ってはおられなかった。


「おまえ、なにをしやがった」とその顔にははっきりと書かれており、その顔に聖風王様はより縮まられていく。


 ……本当に、聖風王様ったらなにをしでかされたのかしらね。


「おうさま、わるいことをしたら、メなの」


 最終的にはベティにも怒られてしまう聖風王様。その一言で聖風王様は折れてしまわれたようで──。


「し、仕方がなかったのじゃよぉ。だってのぅ、頼まれてしまったのじゃし」


「頼まれた?」


「どなたにです?」


「女子にじゃよ。それはそれは美しい女子でのぅ。まるで海を想わせるような美しい女子であった。それこそ、そこにいるアンジュ殿にも負けずとも劣らぬほどに美しかったのぅ」


 惚れ惚れとしたように聖風王様は語られていく。


 でも、その内容に、いや、話に出ていた女性の特徴を聞いて私はある人物を連想していた。それは私だけではなく、イリアやルリ、サラにティアリカ、そしてルクレティアも同じようだった。


「海を想わせる美しい女性、ですか」


「可能性があるとすれば」


「ひとりだけですねぇ」


「……」


 イリア、ルリ、サラはやはり私と同じ人物を連想していたみたい。ティアリカも連想しているのだろうけれど、無言を通していた。その顔には「まさか」と書かれているようだった。


「あの、風王様。その女性はもしかして、蛇王陛下では?」


 ルクレティアは恐る恐ると聖風王様に私たちが連想していた女性を、レヴィアの名前を告げていた。


「蛇王?」


「はい。魔大陸の支配者の「七王」のおひとりであられる方です。リヴァイアサン様もご存知で、とても、とても美しい女性です」


 そう言ってルクレティアはリヴァイアサン様を見やる。そのリヴァイアサン様にと聖風王様方の視線が集まっていく。


『あ、主。そこで僕を矢面に出さないでよ』


「ですが、リヴァイアサン様は私よりも蛇王様とはお付き合いが長いので」


『それはそうだけど。でも、レヴィアではないはずだぜ?』


「と言いますと?」


『そもそも、風王様が眠られる前ということはだ。レヴィアが産まれるよりもはるかに前ということだよ。レヴィアも神代の産まれではあるが、終わり頃の神代だからね。風王様が眠られる頃は、それこそ神代の始まり、創世時代となる。いくらなんでも年代が合わないよ』


「では、それよりも前の蛇王様ということでしょうか?」


『いや、創世時代には「七王」という存在はいなかったはずだ。「七王」という存在が現れたのは、神代の中期頃からになる。ゆえに風王様に畏れ多くも依頼をしたという女性は、蛇王とは関わりはないと思うぜ?』


「そう、ですか」


 ルクレティアは少し残念そうに肩を落としている。なんだか意外な姿だなぁと思っていると、聖風王様が「おお、そうじゃった」と手を叩かれた。


「女子の名前を思い出したぞ! たしか、エンヴィー。そう、エンヴィーと名乗っておったわい!」


「エンヴィーって、たしか」


 アンジュが呆気にとられた顔で、ルクレティアを見やる。ルクレティアは驚いた様子で頷いた。


「蛇王様が代々受け継ぐお名前のこと、だね。当代様はレヴィア=エンヴィー様だから」


 ルクレティアは本当に驚いているようだったけれど、それは私たちだって一緒だった。


『……ありえないことが起こるものだね』


 ははは、と力なく笑うリヴァイアサン様。リヴァイアサン様でさえも想定外の出来事のようだった。


 それくらいの衝撃的なまさかの事実に、私たちは言葉を失ってしまったのだった。

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