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Sal1-6 帰還

  おい、このポン菓子クマ野郎、なにドアホなミスしてやがる、と自ら思いながらこんばんは←

  昨日は更新作業を忘れるという盛大なポンを行ってしまいました←ため息

  そんなわけで本来なら昨日の更新分となる3部の六話目です。

『──皆様、おはようございます。あと数時間ほどで土轟王陛下の居城へと到着いたします。ご朝食に関しましては、あと一時間ほどでご用意できますゆえ、しばしお待ちくださいませ』


 朝のアナウンスが聞こえてきた。


 窓の外を見れば、すでに日が顔を覗かせていた。


 真っ暗だった空に一筋の光が灯り、世界が徐々に眩く照らされていく。


「……朝、ね」


「うん。朝だねぇ」


 くすくすと体の下から笑い声が聞こえていた。汗だくになったアンジュが、おかしそうに私を見上げている。


 汗だくなのは彼女だけじゃなく、私も同じ。加えて、私は息切れを起こしているのだけど、彼女は平然としている。


 ただ、平然としているけれど、真っ白な肌にはいくつもの汗が珠のように浮かんでいて、かなり体力を消耗しているみたい。


 でも、体力は消耗しているけれど、余裕をはっきりと感じられた。


 対して私には余裕なんてものは皆無だ。


 いまも息切れしながら、アンジュを見下ろし、その肌に私が搔いた汗を垂れ流している。


 アンジュは「ふふふ」とおかしそうに笑いながら、至って平常通りのまま、私を見上げていた。


 その様子を見て、カレンとの差を痛感させられてしまう。


 カレン相手であれば、彼女はこんなにも余裕はない。


 汗だくなのは同じだけど、目はとろんと蕩けていたし、途中からはカレンにしがみついて喘ぐことしかできなくなっていた。


 でも、いまのところ、私はアンジュをそこまで満足させることはできていない。


 ……いや、もうこの際、はっきりと言うわ。


 そこまで満足させられないとは言ったけれど、見栄です。


 はい、見栄を張りました。


 実際は、まったく満足させられません。それどころか、うん。ご教授していただいている立場ですね、はい。


 でも、アンジュは「少しずつよくなっているから、大丈夫だよ」と優しく慰めてくれますが、かえってそれが辛い。辛くて堪らない。


 ……ぶっちゃけ、泣きたい。


 いまもこうしてアンジュを見下ろしているけれど、実態はアンジュから見下されているようなもの。


 まぁ、アンジュは優しいから、見下しはしないけれど、傍からみれば見下されているようなものよねぇ。


 ……間男という人たちは、お邪魔虫扱いされるけれど、同じ立場に立つと、こんなにも血反吐が出そうな立場だったのかと痛感させられたわ。


 いや、まぁ、だからと言って、同情はしないけれど、あの立場って案外大変なんだなぁと思っただけなのだけどね。


「さぁて、そろそろ終わろうか」


「……そう、ね」


「うん、お疲れ様、香恋さん」


 ニコニコと笑いながら、アンジュはするりと私の体の下から抜けだした。


 窓から差し込む朝日が、汗に濡れた彼女を照らしていく。


 汗に濡れる彼女は、やはり美しかった。


 最中の肩を上気させながら、私を見上げる様もやはり美しかったけれど、いまの姿も同じくらいに美しい。


 アンジュという女性は、なにからなにまでもが美しい。そのことを改めて確認できた。


「どうしたの? 香恋さん?」


 アンジュがベッドサイドに置いてあった服を手にして首を傾げていく。


 アンジュはいつのまにか、バスタオルを巻いていた。


 そのバスタオルは、昨日の夜、備え付けのシャワーを一緒に浴びたときに、アンジュが巻いていたものだった。


 巻きはしたけれど、すぐにお役御免になったものだったのだけど、どうやら一晩の間で乾いてくれたみたい。


 そのバスタオルをいつ彼女は巻いたのやら。


 じっと見つめていたはずだったのに、バスタオルを巻いていたのに気づけなかった。


 なんだか、無性に気恥ずかしくて、まともにアンジュの顔を見られなくて、視線をアンジュの持つ服へと向けていた。


 アンジュの服はだいたい同じ。まぁ、いつも同じ服を着ているわけではなく、いつもギルドの制服を身につけている。


 いま手にしている服もやはりギルドの制服だった。


 アンジュは色違いの制服を、ブラウスとフレアスカートの制服をローテーションで着ていた。その制服の上からギルドの紋章が入った外套を身につけるというのが彼女のいつもの出で立ち。


 昨日であれば、黒地の制服だったし、その前は青地の制服。そして今日は真っ白な制服を手に取っていた。


「……いや、今日は白い制服なんだなぁと思っただけ」


「そうだね。今日は白を選んでみたの」


 手に取った制服をまじまじと眺めながら、アンジュは穏やかに笑っていた。


 その笑顔は見惚れてしまうほどにきれいで、思わず胸が高鳴っていく。


「……色の違いってなにかあるの?」


 胸の高鳴りをどうかに抑え込みながら、視線を逸らして尋ねると、アンジュは「地位の差かな?」と教えてくれた。


「地位の差?」


「うん。冒険者ギルドだと最高位は黒地の制服を身につけることになっているんだ。逆に入ったばかりの新人は白地の制服を支給されることになっているの」


「ってことは、それ新人時代の制服なわけ?」


「そうだね。いまのルクレよりも少し年下くらいの頃のものだったかな?」


「結構な年代ものなのね。でも、その割りには傷みが見えないわね」


 アンジュの新人時代の制服は、あまり傷みは見えなかった。


 まぁ、折りたたまれているというのもあるんでしょうけど、少なくともいまのところ、これという傷みがあるようには見えなかった。


「貧乏性だったからかな? 支給されたものは、きれいにかつ、長持ちするように大切に使っていたからねぇ」


「お嬢様なのに?」


「そうだね。お嬢様なのにね」


 くすくすとおかしそうに笑うアンジュ。その笑顔にも私はやられそうになってしまったが、どうにか自分を抑え込もうとしていた。


「……香恋さんって、本当にヘタレさんなんだね?」


「は? ちょっと、どういうことよ」


 だけど、そんな私をアンジュは呆れるように吐き捨ていた。


 その言葉に、カチンと来て、アンジュを見返し、私は息を呑むことになった。


 だって、アンジュは巻いていたはずのバスタオルの結び目を解き、その肢体を露わにしていた。


 窓の外から差し込む光がバスタオルを透過して、彼女の白い肌を強調させていく。


 まるで花のようだった。


 プロキオンたちが空気溜まりで集めていたリコリスの花のような、儚げで、でも目を奪われてしまうほどに美しい一輪の花がそこにはいた。


 その美しい花の喉元や胸元には紅い痕が刻みつけられていた。


 元々はカレンがつけていたものの上から、私が刻みつけたもの。


 アンジュ自身が「刻んでいい」と言ったので、試しに刻んだもの。


 白と赤。ふたつの色合いがより彼女の美しさを際立たせるかのようだった。


 どくんと胸が大きく高鳴ったと思ったときには、いつのまかに、アンジュは私の体の下にいた。


 ルビーやガーネットを思わせる紅い瞳が、私をじっと見上げている。


 そんなアンジュを私は荒い呼吸をくり返しながら見下ろしていた。


「……我慢しなくていいよ?」


 アンジュは囁くような声で言った。その声に理性が飛ぶ音がはっきりと聞こえ、私はアンジュの唇を奪っていた。


 それからいまいち記憶ははっきりとしていない。


 次に気付いたときは、ガリオンさんの船内放送が流れていた。


『あと三十分ほどで、土轟王様の居城へと到着致します。下船の準備をお願い致します』


 ガリオンさんの声で、ようやく私は自分を取り戻していた。


 慌てて、備え付けられた時計を見やると、たしかにあれから数時間は経っていた。


「いつのまに」


「……それだけ、夢中だったからね」


 ふふふ、と体の下からアンジュの笑う声が聞こえた。


 数時間前よりも汗だくになったアンジュが私を見上げていた。


 ただ、数時間前よりも、その顔には余裕がなくなっていた。


「あ、そ、その」


「……少しだけよかったよ。あの人にはまだ及ばないけど」


「そ、そう」


「……シャワー浴びよう?」


「そう、ね」


「連れて行って貰える?」


「あ、うん」


 アンジュが両腕を広げて、首を傾げていた。少しだけ子供っぽく見えるのに、それがやけに眩しく見えた。


 私は胸を再び高鳴らせながら、アンジュを抱えてシャワールームへと向かった。


 シャワーを浴びて、大急ぎで準備を整えたとき、再び船内アナウンスが流れた。


『お待たせいたしました。土轟王様の居城に到着致しました』

 

 空の上を進んでいたガリオンさんが、ゆっくりと降下を始める。


「行きましょう、アンジュ」


「うん、行こうか」


 準備を整えた私たちは、先に下船しているであろう皆の元へと向かった。


 そうして私たちは土轟王様の居城へと戻ってきたのだった。

  明日は正午くらいにおたまを更新したいです。無理だったら、いつもと同じ時間になると思います

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