Sal1-2 朝食とふたりっきり
美しい朝食だった。
色合い的にもきれいだったし、見た目という意味でもきれいだった。
色はまさかの七食。白から始まり、黒で終わる七食のお粥がテーブルには置かれていて、各人ごとに好きな分だけよそって食べる形式だった。
お粥はすべてがご飯ではなく、パンや穀物など、それぞれの色に合ったものをお粥にしてあった。
たとえば、白のお粥はミルク粥で、中は一口大に切られたパンで、ミルクとともに煮込まれたパンは口に入れるとほろほろと崩れていた。
黒のお粥はごまや醤油で香ばしさを出したお粥で、中は普通のご飯。個人的にはこれが一番好きな味だった。
中身がご飯なのは、赤と緑も同じだった。
赤はその名の通り真っ赤な色をしたスープをベースにご飯とお肉、豆苗などと一緒に煮込まれていて、ユッケジャンクッパに近い感じだった。
緑色は青菜がメインに入った体に良さそうなスープでご飯を煮込んだお粥で、とても落ち着く味がした。……ベティは「おやさいなの」と若干尻尾を下げていたけれど。
他はかき玉スープで穀物を炊いた黄色の粥、赤ワインベースにチーズとパンの紫の粥、そして最後はカレンが好きそうなお肉をたっぷり使った茶色の粥だった。
最後の茶色の粥は、もはや粥というよりかはすき焼きの方が近い見た目をしていた。
そのすき焼き状のスープの中にはご飯ではなく、餅米が入っており、すき焼きスープで甘辛く煮られていて、朝食でなければ最高の味だった。
メインは七食の粥だったけれど、副菜として玉子焼きやら野菜のおひたしだったりと様々なものが用意されていた。
用意されていた副菜はだいたい和食のものが多かったけれど、中にはベティ用であろうプクレなどのスイーツも置かれていた。
そんな多種多様な朝食を私たちは、ガリオンさんの中でいただいた。
「ばぅばぅ、おいしーの!」
ベティは特にミルク粥をとても美味しそうに食べていた。
お粥というには、かなり甘めの味であり、食事というよりかはスイーツに近い。
タマモ曰く、ミルクをベースにココナッツや蜂蜜などを隠し味に入れてあるらしい。
甘いミルクベースのスープに一口大のパンを入れて煮込んだとのこと。
うん、そりゃ甘いわなと素直に思ったわね。
でも、その甘いミルク粥を、ベティはとても気に入って何杯もおかわりしていたわね。
そして意外なことにトワさんとカナタもミルク粥をお代わりしていた。
考えてみれば、ふたりとも蝶の魔物である「エンシェントバタフライ」なのだから、甘い物が大好きなのは当然よね。
それにいままでの道中でも、トワさんもカナタも揃って甘いものばかり口にしていたし。
とはいえ、ベティのように甘いものだけを食べていたわけではなく、甘いものの比率が高いだけ。
その証拠にふたりは一通りの粥を食べていた。ベティがミルク粥一択なのは言うまでもないけれど。
他の皆もそれぞれ好きなお粥を見つけて、食べていたわね。
イリアは紫の粥を中心に食べていた。紫はルリがメインかなと思っていただけに、ちょっと意外だったわね。
もっとも、そのルリが言うには「煮込んだ際に酒が飛んでいるから」ということだったけれど。……当たり前でしょうとつい口を滑らしてしまったわ。
その当のルリは、ティアリさんとメアさんと一緒に茶色の粥を美味しそうに食べていたわね。さすがは狼だなぁと思ったのは言うまでもないわ。
緑の粥はルクレティアとフブキちゃんがよく食べていた。
ふたりとも菜食主義というわけではないのだけど、ルクレティアは「最近お腹周りが気になって」ということだった。
フブキちゃんは「昔から慣れ親しんだ味なので」と笑っていたわね。……プロキオンがいたときと同じ顔で笑ってくれたわ。
赤の粥はサラとシュトロームさんがメインに食べていたわね。
曰く、ピリ辛で美味しいとのこと。……私が食べたときは、ピリ辛どころか、脳天まで突き抜けてくれたのだけど、あのふたりにとってはピリ辛で済むレベルだったみたい。
調理担当のタマモたちが、信じられないものを見るような目でふたりを見ていたのがとても印象的だったわね。
黄色の粥はアンジュとティアリカがよく食べていたわ。
お腹に優しい味だからと美味しそうに食べていたわね。……アンジュの食べる姿を見て、ちょっとドキッとしたのは秘密。
黒の粥は私とタマモで消費したわ。香ばしくて美味しいのだけど、どうにも醤油の独特の風味が他のみんなはどうにも受け入れられなかったみたい。
ちなみに聖風王様と氷結王様はすべての粥をローテーションしながら食べられていたわ。それもまたもや競争しながら、ね。
あのおふたりはなんでもかんでも張り合わないといられないのかしらね。
タマモが大きなため息を吐いていて、大変そうだったわ。
とにかく、そうして私たちは全員揃っての朝食を終えたの。
ちなみにお粥となったのは、私がベティの「ドォン」の被害を受けたから。
「ドォン」の衝撃は、あまりにも強すぎてお腹が、ね。
ベティはアンジュとルクレティアから「ドォン」は金輪際禁止であることを告げられて、ふて腐れていたけどね。
とにかく、そうして朝食はタマモ考案の七色の粥となったわけ。
その七色粥の朝食はとても美味しかった。
全員が満足して朝食を終えると、ガリオンさんの中のお手伝いさんたちが食器を片づけてくれた。
そう、見目麗しいメイドさんたちが、無表情で食器を片づけてくれたの。
お手伝いさんたちもずいぶんと様変わりしたものよ。
最初は、カタカタとしていたのに、いまやすっかりときれいなメイドさんだもの。最初見たときはびっくりしたわ。
当初のガリオンさんの中にいるお手伝いさんたちは、みんな骨だったわね。具体的に言えば、理科室とかにある骨格標本と言えばいいかしらね。
もしくは異世界的に言えば、スケルトンかしらね。
そんな骨格標本ならびスケルトンなお手伝いさんたちばかりだったのに、私とカレンの配下となったことで、いろいろとバージョンアップされたみたい。
おかげでいまは元スケルトンなメイドさんたちになったのよね。
もっとも、表情筋はみんな死んでいるから、スケルトン時代よりも、不気味っちゃ不気味だけどね。
そんな若干不気味なメイドさんたちの片付けをぼんやりと眺めていると──。
「香恋さん、ちょっといい?」
──アンジュが私に声を掛けてきたの。
朝食を終えて、いまいる御山から出立して、土轟王様の元へと戻ることは確定している。
でも、その後のことをまだなにも決まっていない。
プロキオンを追いかけるのか、それともカレンが目覚める方法を探すか。はたまたすべての元凶であるスカイディアを止めるべく奔走するのか。
私たちの中だけでも、意見を纏める必要があった。
その会議をこれからする予定だったのだけど、その前にいきなりアンジュから声を掛けられてしまった。
「なにかしら?」
美しさという意味であれば、いまいるメンバーの中でも頭一つ以上抜けているアンジュ。反面スタイルは一番スレンダーではあるけれど、不思議な色気があった。
その色気を私はなぜか感じていて、気付けばアンジュを目で追っていた。
それはいまも同じで、だいぶ近い距離にいるアンジュに、胸がやけに高鳴ってしまっている。
落ち着けと自分に言い聞かせながら、できるだけ平静を装った。
そんな私を嘲笑うようにして、アンジュはにこやかに笑いかけると、私の手をなぜか取ったのだ。
「ちょっと話があるんだけど」
「話?」
「ええ。だから少し抜けたいのだけど、いいかな? タマモさん」
「ええ、構いませんけど、時間掛かりますか?」
「ん~。小一時間ほど欲しいかな?」
「ふむ。まぁ、でしたら先に会議を始めておきますので、そちらの用事が終わったら参加ないし、議事録に目を通してください」
「うん、ありがとう。じゃあ、行こうか、香恋さん」
「え、ええ」
手を引っ張られる私と私の手を引っ張りながら、いまいる大部屋を出ていくアンジュ。
その際、アンジュはルクレティアたちをちらりと見ていた。ルクレティアはアンジュの目配せを見て、静かに頷いていた。
頷いていたのはルクレティアだけではなく、サラとティアリカも同じだった。
なんで彼女たちがと思いつつも、私は手を引かれながらガリオンさんの中を進んでいった。
「アンジュ、どこまで行くの?」
大部屋から離れること数分。大部屋のある区画からだいぶ離れた場所まで来たというのに、アンジュの足取りは止まらなかった。
いったいどこまで行くつもりなのだろうと思っていると、アンジュは「そろそろいいかな」と言うと、近くにある部屋の扉を無造作に開いた。
その部屋は誰も使っていない空き部屋で、若干こじんまりとしていた。
あるのはサイドテーブルとダブルベッドと小さな冷蔵庫。なんというか、ビジネスホテルの一室みたいな部屋だった。
「ここでいいか」
アンジュはそう言って、部屋の中に入っていく。手を引かれている私も当然部屋の中に入っていった。
いったいどういうことだろうと思っていると、ベッドの真横に来たとき、いきなりアンジュが私をベッドへと突き飛ばした。
いきなりのことで私は即座に反応ができず、仰向けにベッドの上に転がってしまう。
「ちょっと、いきなりなにを──」
文句を言ってやろうと口を開こうとしたとき、顔に布が覆い被さった。
ほんのりと汗の臭いと、アンジュ自身の香りがする布だった。
同時に、なにやらしゅるしゅると、あまり聞き馴染みのない音が聞こえていた。
何の音だろうと顔を覆った布をずらして私は絶句した。
「あ、ちょっと早かったね」
布をずらして私が見たのは、下着姿になったアンジュだった。
「あ、アンジュ? なにをして」
いきなりの状況に、私は気が動転していた。
でも、アンジュは私の動転を無視して、最後の下着を脱ぎ捨てた。
ベッドの上に転がる私と産まれたままの姿になったアンジュのふたりだけの部屋。
これからどうなるのかなんて、考えるまでもなくて。
でも、昨日の今日でそんなことはありえないと自分に言い聞かせながら、どもりながら「なんのつもり」と尋ねると、アンジュは私のいるベッドに乗ると、私の顔の両側に手を突いた。
「なんのつもりって決まっているよ? 私を──」
「──抱いてほしいんだ」とアンジュはにこやかに笑いながら言い切った。




