表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1907/2052

rev5-73 復讐への誓い

「──私は香恋。あなたのパパの姉の香恋よ」


 見た目だけで言えば、パパだった。


 そう、見た目はパパのまま。


 でも、中身はパパじゃない。


 パパじゃないことは、すぐにわかった。


 わかりたくなかったけれど、わかってしまった。


 見目はなにも変わっていない。


 黒と紅のオッドアイも、整った顔立ちも、私より少しだけ大きな体も、すべてが私の知るパパだ


 でも、中身はまるで違う。


 悲しいほどに違ってしまっていた。


「『……お姉様上』」


 香恋という名前は知っている。


 パパの本当の名前であると同時に、パパの中にいるお姉様上の名前でもある。


 パパとお姉様上はそれぞれに「カレン」と「香恋」でお互いを呼び合っていた。


 イリアさんやルリ様が言うには、元はそんな親しげな関係ではなかったみたい。


 でも、「巨獣殿」での戦い以降、パパはお姉様上と和解して、いまの関係になった。


 和解したものの、お互いに散々な呼び名をすることもある。


 パパはお姉様上を「ドウテイ」とか言っていたし、お姉様上はパパを「スケコマシ」とか言っていた。


 どういう意味かは知らなかったから、ママたちに尋ねたことがあった。


 ママは困ったように笑っていたし、ルクレさんは笑顔のままで固まっていた。


 イリアさんやルリ様は無言になり、サラママやティアリカさんは恨めしそうにパパたちを睨み付けていた。


「巨獣殿」の地下書庫でも、「ドウテイ」と「スケコマシ」に書かれた本はなかった。


 なら、ばぁばやおばあちゃん陛下に聞いてみようと、実際に聞いてみたら、ふたり揃って泣いてしまった。


 曰く「そんな言葉を知る必要はないし、お願いだから知らないで」ということだった。


 だから、すこし前まで「ドウテイ」と「スケコマシ」の意味はわからなかった。


 でも、いまは知っている。


 フブキに聞いたから。


 フブキは私と同じくらいの年齢に見えるけど、実年齢は私よりもだいぶ年上らしい。


 ただ、妖狐族にとっては、フブキの実年齢はまだ子供の範疇らしい。


 他の種族で言う十歳かそこらくらいの年齢がフブキの実年齢ということだった。


 だから、試しにフブキに聞いてみたら、フブキは顔を真っ赤にしてしまった。


 顔を真っ赤にしながらばぁばたちみたいに「そんなことは知らなくていい」と言われてしまった。


 でも、何度もお願いをしたら話してくれた。


 曰くその言葉はどちらも「えっちな意味」だということだった。


「ドウテイ」も「スケコマシ」もえっちな意味なのはわかった。


 けれど、その「えっち」ということが私にはわからなかった。


「えっちってなに?」と聞いたら、フブキは「堪忍してぇ」と涙目になった。


 それでも、たくさんお願いをしたら、最終的には答えてくれた。


「えっち」というのは子供を作ることらしい。


 そして「ドウテイ」は子供を作ることをしたことがない人を差す言葉で、「スケコマシ」は子供を作ることをたくさんした人のことを差す言葉ということも教えてくれた。


 だけど、フブキは教えてくれた後は、顔を真っ赤にして蹲っていた。どうしてそんなことをしていたのかはいまもわからない。


 でも、フブキのおかげで知りたいことが知れたことはよかったし、パパとお姉様上がそんな言い合いをするくらいにやっぱり仲がいいことを改めて知ることができた。


 パパとお姉様上はすぐに口喧嘩するけれど、「喧嘩するほど仲がいい」という言葉もある。


 すぐに喧嘩をしてしまうのも、仲良しさんな証拠という意味の言葉で、まさにパパとお姉様上を差す言葉としてなによりも相応しいものだった。


 そう、パパとお姉様上はとても仲良しさんだ。


 そう思っていたのだけど──。


「『……どうしてパパの体を使っているの?』」


 ──どうやら私の勘違いだったみたいだ。


 だって、本当に仲良しさんなら、パパの体を勝手に使うわけがない。


 ううん、本当に仲良しであれば、パパを助けてくれるはず。


 でも、お姉様上はパパを助けてくれなかった。


 それどころか、お姉様上はパパを見殺しにした。


 パパはお姉様上を信頼していた。


 なのに、お姉様上はその信頼を裏切った。


 だって、パパの体を勝手に使っているってことは、そういうことでしょう?


 パパから体を奪い取るつもりだったってことでしょう?


 そうじゃなかったら、パパを助けてくれたはずだもの。


 でも、お姉様上はそうしなかった。


 パパを見捨てて、パパの体を奪い取った。


 それはつまり──。


「『パパを最初から騙すつもりだったの? パパの体を最初から奪い取るつもりだったの?』」


 ──最初からパパを騙すつもりだったということ。パパと仲がいい振りをしていただけだということ。


 そう考えないとあきらかにおかしい。


 だって、パパは心臓を貫かれた。


 私を守るために心臓を貫かれてしまった。


 でも、お姉様上は心臓を貫かれたパパの体を動かしている。


 きっと、パパの残った力で心臓を修復したんだ。


 パパを見殺しにしたのはいいけれど、そのままだとお姉様上にも致命傷だった。


 だからこそ、見殺しにしたパパの残った力で心臓を修復して、パパを体から追い出し、パパの体を奪い取ったんだ。


 そうなると、この白い女ともお姉様上はグルなんだろう。


 そう考えるのが妥当だ。


 じゃなければ、パパの仇でしかないこの女をどうしてお姉様上が守ろうとするのか。


 どうして私にパパの仇を取らせてくれないのか。理由に説明がつかない。


 けれど、この女と元々グルだったら、とたんに説明がついてしまう。


 すべてはこの女とお姉様上が仕掛けた罠だったんだ。


 パパを嵌めて、亡き者にするための策略だったんだ。


 その策略にパパは嵌まって、殺されてしまった。


「『答えて、お姉様上。なんで、パパの体を使っているの? どうして、パパを助けてくれなかったの? なぜ、パパを見殺しにしたの?』」


 淡々とお姉様上に尋ねる。お姉様上は「なにを言っているの? プロキオン」とあ然としている。


 あ然としているけれど、否定をしてくれない。


 否定をしないということは、そういうことなんだ。


 ……本当にパパを騙していたんだ。


「『……許さない』」


「え?」


「『よくも、よくも、よくも! パパを殺したな! 私はおまえを絶対に許さない!』」


「なにを、なにを言っているの!? どうして私がカレンを殺さないといけないのよ!?」


「『じゃあ、なんで、おまえはパパの体を使っているんだ!? なんで、パパの心臓の傷がふさがっていくんだ!? すべておまえとこの女の策略だからだろう!?』」


 牙を剥きながら叫ぶ。お姉様上、いや、裏切り者は理解できていない素振りを見せる。


 騙されるものか。


 パパを騙し通しても、私は騙されない。絶対に騙されてなるものか。


「違うの。話を、話を聞いてちょうだい、プロキオン! 私は、私はただカレンに──」


「『おまえがパパの名前を口にするな! 裏切り者!』」


 裏切り者の手を払う。


 穢らわしい。


 パパの体を勝手に使う穢らわしい裏切り者に触れて欲しくなんかない。


 いますぐに裏切り者からパパの体を取り戻したい。


 でも、まだダメだ。


 そうするための力がいまの私にはない。


 力を蓄えないといけない。


 ここではそれができない。


 腹が立って仕方がないけれど、力が足らないことには変わりなかった。


「『おやつくらいにしかならないけれど』」


 いまは退くしかない。


 が、少しでも足しが欲しい。


 真っ先に目に付いたのは、氷王様の体内に巣くうぶよぶよだった。


 不思議なことに私の目にはそれがはっきりと見えた。


 氷王様とは距離があるけれど、いまの私には距離なんて大した問題にもならない。


 手を伸ばし、氷王様の体内にあるそれを掴み取った。


「ぬぅ! こ、これは!?」


「氷結王!?」


 ぶよぶよを摘出すると、氷王様と風王様がそれぞれの反応を示す。


 が、私は気にすることなく、ぶよぶよを食らいつく。


 ぐじゅぐじゅと気持ち悪い音と相変わらずの味がするけれど、いまは少しでも栄養が欲しい。力を蓄えたかった。


 そうしてぶよぶよを平らげてから、私は改めて宣言する。


「『私はおまえを絶対に許さない。パパを騙したおまえだけは絶対に許さんぞ、裏切り者め!』」


「……違う。違うの、プロキオン。お願いだから、話を聞いて」


「『おまえと話すことなんて、なにもない!』」


 裏切り者の話を遮り、魔法陣を展開する。


 裏切り者も白い女もいますぐに殺してやりたいけれど、いまはそのための力を蓄えるべきだ。


 そのためにはここから離れる必要がある。


 ママたちと離れるのは心配だし。不安しかない。

 でも、きっと大丈夫だ。


 私でも見破れたんだ。


 ママたちならこの裏切り者の真意をすぐに勘付いてくれるはず。


「『おまえたちの好き勝手にはさせない。絶対にパパの仇を取ってやる! それまでせいぜい首を洗って待っていろ!』」


「プロキオン、待って。待ってちょうだい! 私の話を」


 裏切り者が叫ぶ。


 けれど、私は無視して魔法陣を展開し、転移の魔法を唱えた。


 見えるものすべてが変わっていく。


 それでも。


 それでも、私は憎い仇たちを睨み付けた。


 睨み付けながら、私はパパを喪った場所から苦渋の想いで転移をしたんだ。必ず復讐をするという誓いを立てながら。

https://kakuyomu.jp/works/16818093080456940494

15話まで更新中です。よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ